8ページ目

  • 2日目 午前0時59分
「――三嶋先生、そろそろお休みになられては?」

ディスプレイを、もう数時間に渡ってじっと見続けていた三嶋に、ゲーム運行者のひとりが声をかけた。機械のごとく、一定の早さでゆっくりと顔を動かした三嶋は、今頃気づいたように腕時計に目を落とした。

「そうさせてもらおうかなあ……」
「おそらく、ゲームが動き始める早朝には、起こして差し上げますので」
「頼むよ」

三嶋は椅子から腰を上げる。ゲーム開始からずっとこのまま座っていただけあって、腰に痛みがあった。この痛みこそ、現実世界にいるのだという証でもあった。
教師という役職になり、仮想空間としてのBROPの制度が導入されてからというもの、それからの人生の7割は仮想空間で仕事をしていた。それだけいると、果たして自分がどちらで生きているのかという疑問すらわいてくる。そうやって、現実との区別が付かなくなる人間も決して少なくは無い。……ただ、区別が付かなくなったからといって、何か困ることも少ない。

……もう七人も死んでしまったのか。そのたびに、三嶋の心の中から、教師としての何かが抜けていく気がした。これが終わったら、三嶋は教師を辞めるつもりだった。
だが、彼らに協力してもらうしかないのだ。
三嶋はふらふらと廊下を歩き、隣接した一室に入った。そこには、生徒たちの『実体』があった。椅子に座り、眠ったように目を閉じた32人の生徒たち。教室の席のように、整然と並べられている。

「……しかし」

このまま、何もかもが言いなりになっても、良いことはない気がした。大人では未来は作れない。
教室の中を歩いていた三嶋は、ふと立ち止まる。立てかけられたノートパソコン……ひとりの生徒のものだろう。何気なく、三嶋は画面を立ち上げた。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2014年01月26日 12:59