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まだうっすらと空に光が戻り始めたばかりで、足下に注意をしなければならないのは、辛いことだった。さらさらとした砂浜の砂は、足を無造作に掴むように邪魔をしてくる。ただ、これだけ薄暗い状態の方が、誰かに見られる心配もかなり少ない分、気は少し楽だろう。
誰かの悲鳴や、銃声のような激しい音から逃れるように森の中を抜け、少し広い平地を慎重に歩んできた。たまたまにしろ、まったく誰にも出会わなかった【坂田】が、もし過激なペアにでも出会っていたら、今頃とっくにゲームオーバーになっていただろう。
しかし、【坂田】が出会ったのは、いかにも戦意の薄そうな【安藤】と【白子】のペアだった。開始地点から西に数キロ歩いたところ……丁度、半島の入り口になっている『J-15』地点にそのふたりと鉢合わせたのだった。
思わず坂田はふたりと鉢合わせしたとき、自分の武器のひとつである『閃光手榴弾』をその場で投げてしまった。体力ゲージを削ることはない武器だが、一定時間の目や耳の感覚を狂わせる強力な武器だ。……ただそれが、『相手に』だけであったのならば。
「頭がガンガンする……」
自分の過ちとは言え、馬鹿だろうと【坂田】は後悔していた。合計3つの閃光手榴弾のひとつを、こんな状況で使ってしまうとは。それこそ、こういうものはいかにも危なそうな【ユウジ】や【黒影】から逃げるためのものだ。
そう考えると、出会ったのが気弱なデブと女の子だった、というだけで幸運だったと【坂田銀時】はふたりの後ろを歩きながら、改めて思った。おかげで戦闘になることもなく、どうにかならないものかと一緒に行動している。……今は、だが。
「うわっ、またこっちきたみたいだ……」
くぐもった声で、【安藤】が手の中のタブレット端末を見ながらぼやいた。
【安藤】の武器は、参加しているペア全員の居場所を随時見ることの出来る、少し大きめのタブレット端末だった。だからこそ、こんなに弱っちいペアが今まで生き残れたのだろうと【坂田】は心の中で小馬鹿にした。
ただし、あくまで映し出されるのは『ペア』のみであって、【坂田】のようにシングル状態の参加者は映し出されない。【坂田】がふたりと鉢合わせたのも、そのためだ。
「誰が来たんだよ?」
「わ、わからない……な、名前は映し出されないし……」
「ちっ、使えないなあ」
はあ、と【坂田】は肩を落とす。
「残念だけど……坂田君の力にはなれないんだな、僕の武器じゃ……」
「期待してないよ」
パートナーを殺されるなりして、シングルになっている参加者が、【安藤】の端末に映し出されない以上、あまり【坂田】の役に立ちそうなものではなかった。
【坂田】は、最初に【太鼓侍】が三嶋先生に殺されてしまったせいで、シングルでずっとこのゲームを続けている。ただ、坂田の話では1日以内にペアを見つけなければならないらしい。ゲームが開始されてから、すでに11時間ほど……。PDAには、ペアを見つけるまで、残り3時間と数分という表示が出ている。そろそろ気持ち的にも焦り始めていたが、いまいち、誰かを殺したりする覚悟はしきれない部分があった。
「大丈夫ですよお、きっとペア、見つかりますよー」
「はいはい……」
こんな状況でも気が抜けるような会話が出来る【白子】に、【坂田】は気がそがれるように感じた。最悪のペアだった。
最終更新:2014年01月26日 13:44