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そんなとき、【安藤】が素っ頓狂な声を上げた。

「うわっ! なんだこれっ!」
「なんだよ今度は」
「いきなり、せっ、接近してくる点が早くなったんだ!」
「ちょっとよこしてみろ」

【坂田】は奪い取るように【安藤】の端末を奪い取ると、その画面に集中した。確かに一点、明らかに歩きでは出来ないような速度で、東からこちらに向かってきていた。嫌な予感がして、3人は背後を振り返る。
砂浜の先に、目をこらした【坂田】が見たものは、爛々と光を輝かせながら迫り来る、一台の大型のSUV自動車だった。大きく、幅の広いタイヤが、足場の悪い砂浜に軽々と食らいつき、砂を巻き上げながらこちらへと迫ってきていた。

「ああ……やべえ……」
「と、とにかくまだ隠れればっ!」

三人は急ぎ、近くにあった背丈半分ほどの高さの岩陰に飛び込んだ。

SUVはまっすぐに【坂田】たちのところへと向かってきていた。ついに覚悟を決めるときが来たかと、【坂田】は担いでいたバッグを地面に下ろす。残りは閃光手榴弾……そしてまだ使わずにいたAK47。使い方は昔見た戦争映画の受け売りでしかないが、覚悟を決める。
【坂田】は生唾を飲み込み、静かに様子をうかがう。【安藤】と【白子】は頼りにならないとわかっている。いざとなれば、この二人は捨て置き……。
ついに、あと数十メートルという距離まで接近したとき、SUVがはじかれたように進路を変えた。【坂田】たちが隠れる砂浜の岩陰より、直角に、草原が広がる方へと速度を上げていく。
何事かと【坂田】は【安藤】の端末で確認すると、その先にはもうひとつのペアの存在が確認できた。
【安藤】がほんの少し、岩陰から顔をのぞかせる。

「あれは……乗ってるのは、ユウジだ。ペアもいたみたいだけど、誰だろう?」
「冗談だろ、あいつかよ……」
「向こうにいるのは女子だ、だれか逃げてる」
「ああ、こりゃ死んだな……」

【ユウジ】は危険だと、誰から見てもわかることだった。頭がいかれているように見えて、実際には頭も切れるし、容赦がない。地元では夜に出歩いていて、片っ端から暴れまくっているという噂もある。【坂田】にとって最もキライだと思うタイプだった。

「【安藤】、【白子】……お前たちは別の方に行け」
「き、君はどうするんだい?」
「お前らみたいなどんくさいのといたら、俺まで死にかねないだろ……。俺はひとりで行くよ。後少し時間は残されている。できる限りのことをしてみるつもりだ。こんなこと言うのもおかしいかもしれないが……死ぬなよ」

言うが否や、【坂田】は返答も聞かずに岩陰から飛び出す。目指す先は、あのSUVの跡だった。獲物が餌を狙うとき、そこが一番隙のあるチャンスだ。その獲物をまた上の存在が仕留める。上手く行けばいろいろなことが好転するだろう。それは【坂田】の覚悟次第だった。
砂場を抜けて林へと駆け込む。音はまだ近めだ。おそらく足場の悪さで、あの車もそうスピードは出ていない。動いているところを見ると、まだ彼女達はやられていないだろう。

「さあ、行くぞ……」

バッグからライフルを取り出して手に持つ。覚悟を決めるときだった。

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最終更新:2014年01月26日 13:04