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  • 2日目 午前6時00分
「こっち来た! くっ……!」
「ど、どうしよう……!」
「逃げるに決まってんでしょ!」

様子をうかがっていた【英菜】が弾かれるようにその場を逃げ出したとき、みさきも同じくその場を後退し始めていた。
【英菜】は【みさき】と共に、遠くから迫ってくるSUVから逃げ始める。その音が聞こえたとき、助けが来たのではないかと一瞬期待したが、そんなことは万に一つもないのだ。ここはバーチャルであり、完全に隔離された場所。彼らに手を優しくさしのべる存在など、いない。

「【英菜】、待って!」
「うっさいわね! あんたが遅いのが悪いのよ!」

どうして、あんな鈍くさそうな子! 【英菜】は後方に迫る危険もさることながら、致命的な【みさき】というパートナーにも焦りを感じていた。状況判断が出来ない、すぐパニックになる、人に指示されると何も出来ない……そのくせ、男子には優しくされるなんて!
徐々に迫り来る音は、着実に彼女達との間を狭めつつある。林の中を抜けた場面で追っ手は諦めるかと予想していたが、いくら木が多いとは言え、車一台は余裕で通れるスペースはたくさんあった。

「こんなところで……死んでたまるもんですかっ!」

【英菜】は歯を食いしばって、【みさき】に合わせるようにスピードを下げた。もう少し先に行けば木の量も多くなる。そこに逃げ込めば、逃げ込めさえすれば! 何を、犠牲にしてでも!
彼女の顔が、わずかに笑みを浮かべた。

「【英菜】、ありが――きゃあ!」

後ろをふりかえると同時、【英菜】は、彼女の先に足を突き出していた。つんのめりかえって地面へと転がるみさき。しかし、【英菜】は走るのをやめなかった。
高く笑う【英菜】。

「あははははは! どんくさい子! 私が逃げるために死んでよね!」
「【英菜】、待って待ってええええ――!」

絶叫するみさきの声が遮られ、嫌な音が辺りへと響き渡る。――ごめんなさいね、私、あなたのこと昔から嫌いだから。
わずかにだが、SUVの進行速度が遅くなった。あと数メートルと差が縮まっていたが、これならぎりぎり逃げ込める! 負けてたまるものかと、【英菜】はスパートをかけた。
彼女が大木の裏へと飛びこむと同時、SUVはその大木へと正面から突っ込んでいた。激しい音と振動で、【英菜】は足を取られてその場に転げる。

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最終更新:2014年01月26日 13:05