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再び逃げだそうとする【英菜】。しかし……足をくじいたようで、立ち上がるのは困難だった。しかし、SUVの動きは止まっていた。何かがはじけるような音以外……静かだった。中から人が降りてくる様子もない。
「あはは、勝った……。あたしはいつでも勝つのよ、そう、誰にだって!」
SUVに向かって吐き捨てるように【英菜】は叫んだ。
直後――それに呼応するかのように激しく助手席のドアが開き、中から人が転げ落ちる。続いて、運転席からも人が降り立った。
「【るく】……! くうっ……!」
【英菜】は全身に鳥肌が立つのが分かった。男子の中でも、最もとりつく島もない存在……。常ににらみつけるような目は、例えほとんど関わったことがなくても、危険視するほどだった。
いえ、落ち着いて……落ち着いて対処すればいいのよ。私はいつでも勝つんだから。できるだけ【英菜】は笑顔になるように顔を作る。
「【るく】じゃない……。もっと怖い人かと思っちゃった」
「あん?」
拳銃、M92Fを彼女へと構えながら、【るく】は今気づいたかのように【英菜】へと目を向けた。しかしすぐに、興味が無いかのように目をそらし、助手席から転げ落ちて未だに起きない【福永】のそばへと歩いて行く。
【英菜】はこれ幸いと、言葉を並べた。
「ねえ、その人死んじゃった? ペアいなかったら困るよね? あたしも、さっきペア居なくなっちゃったんだ……。良かったら――」
「うっせえよ・少し黙ってろ、クズ」
【るく】のその言葉に、【英菜】は心の中で舌打ちした。もとより簡単に懐柔できるとは思っていなかった。だがまだ、これからだ。
しばらく【福永】の様子を見ていた【るく】だったが、ため息をつきながら首を横へと揺らしたかと思うと、ゆっくりと立ち上がって【英菜】の方へと歩み寄っていた。その手には未だに拳銃が握られてしっかりと彼女の方に向けられている。
これ幸いと、【英菜】は言葉を選びながら、首本のスカーフを何気なく取った。良い具合に豊満な胸付きが、これ見よがしにあらわになる。
「ま、待って。なんならあたしのこと好きにしていいよ? あたしも気に入られるように頑張るから。後悔はさせないし……きっと――」
「しゃべんねえと気がすまねえのかよ」
「ご、ごめん! 悪気はないの、ただ……」
すたすたと歩み寄った【るく】は、まだ地面から立ち上がれずにいる彼女のすぐ目の前へとしゃがみ込んで、その額に拳銃を突きつけた。
「俺が質問する、お前は答えるだけ。いいな? 他に仲間はいるか?」
「い……居ないわ。本当よ」
「お前の武器はなんだ?」
「……【みさき】に、運ぶのを任せちゃって。さっき一緒に」
疑うようにじっと【英菜】と目を合わせていた【るく】だが、またひとつため息をついて、ゆっくりと拳銃を額から外しながら、立ち上がろうとした。
最終更新:2014年01月26日 13:06