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一歩踏み出そうとした【るく】に、【坂田】は叫んだ。近づけばやられる、そんな気がしてならなかった。この余裕は、本当に何かこの状況で策があるのか、あるいはでたらめか……。とにかく油断してはいけない、一時たりとも。
本来ならさっきの場面で仕留めているはずだった。そうしなければまともに戦うのも危ない相手だと。
ふっ、と鼻を鳴らす【るく】
「さっきの一撃は見事だったな、賞賛に値する。……でも次も上手くいくかな?」
「問題ないさ……」
いますぐにやれば。ぐっと【坂田】は引き金を引いた。
同時に、強く地面を蹴って、【るく】は一気に【坂田】との距離を縮めた。数発が身体に打ち込まれるが、一瞬の痛みと共に消えていく。確実に体力は減っているが、まだ死ぬ段階ではなかった。バーチャルルールならではの特性を活かし、身体を削ってでも【るく】は【坂田】に近づいた。
距離を詰められれば、もはやライフルは使えなかった。迫る【るく】に、【坂田】はライフルの重みを活かして、たたきつけるように振るった。正面から来た【るく】は、それを両手で受け止めた。間違いなくダメージは通っているはずだったが、まだ彼は動き続けていた。
身体ごとぶつかり、【坂田】をはじき飛ばす。ライフルが手から離れて、【るく】の後方へと落ちた。……もしここで、【るく】がライフルを取るそぶりを見せたとしたら、【坂田】はその場から逃げ出すことが出来ていただろう。しかし【るく】はそれに目も振らず、【坂田】を押し倒してその上へと馬乗りになった。
ぐっと拳を握りしめ、まず一発。そしてもう一発。両拳を交互に【坂田】の顔面へとたたきつける。
「銃なんか必要ねえ、お前はこの拳だけでぶっ殺してやるよ! 光栄に思いな!」
「ふざけ、やがって……!」
「知ってるか、このゲームはなぁ! 拳でも殴り続けりゃ、相手を殺せるんだぜ!」
体力を削ること。重要なのはそれだけだった。現実では決して死なないような方法でも、このルールの中では体力を削るというルールさえ充たしてしまえばケリはつく。【るく】はよくそれを理解し、そして有効に活用していた。
【坂田】は一方的に殴られる中、この状況を打開できる方法を考えていた。そのとき、【るく】が激しく息を荒げているのが見えた。そして、【るく】が言ったルールを思い返す。……状況は、まだ終わっていなかった。
頃合いを見計らって、【るく】の拳を【坂田】は受け止めた。
「なっ……!」
「お前のおかげでルールを思い出したぜ……。いくらお前が拳を振るっても、それには限界がある。スタミナっていう限界がさ!」
SUVの事故によるダメージに加え、【坂田】に詰め寄るまでのダッシュ、そして連続した攻撃で、【るく】のスタミナゲージは減り、限界を迎えていた。その拳の威力は弱まり、また【坂田】を押さえつける力も残ってはいなかった。
ぐっと力を入れて、【坂田】は【るく】を押しのける。まだ息を荒げたままの【るく】に、今度は【坂田】が馬乗りになった。
最終更新:2014年01月26日 13:09