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人影が見えた小屋から数十メートルの位置までふたりは迫っていた。動きを止めて、じっと様子をうかがいながら、むったは星屑に耳打ちをする。星屑は正面から、むったは裏の方から小屋へと入って挟み撃ちにする。殺せるなら殺す、抵抗してきたらすぐに撤退する。あとはむったに任せればいい、と。
抵抗すらできない人間に興味は無い。そんなものを殺しても、無機物を壊しているのと一緒だ、大した感動は得られない。
むったは、強く抵抗を見せる人間を殺したかった。もう我慢できそうにない。さっきから心臓のあたりがむずかゆくて仕方ないのだ。早く、早くと欲求が止まらない。
「俺は先に裏へと回るからな。音が聞こえたら、お前も正面から……」
「わかった」
すぐに小屋の裏側へと向かうむったの後ろ姿を見て、星屑はどこか奇妙なものを感じていた。冷静さ、というのが少し欠けているようにも見える。先ほどまでと違って動きにむらが多いのだ。歩き方もふらふらしている……。大丈夫なのだろうか。
14発式の拳銃を構えて、星屑は小屋のドアのすぐ近くで待機する。中からは確かに何かが動いているような音が聞こえていた。相手も警戒しているのか、耳を澄まさなければ聞こえない程度の小さな音だ。
……出来るだろうか。いや、やるしかない。そう決めた。
ドアを蹴り破るような、激しい音が響いた。同時に、星屑も正面のドアを開いて中へと入る。
「動くな!」
拳銃を構えると同時に、動きを止めるふたつの影。風と、ココ……。
風は唖然とした表情をした。
「星屑じゃないか……」
「風……」
拳銃のトリガーにかけた指は、すぐには動かなかった。一日ほどしか経っていないというのに、まるで久しぶりに再会したかのような感覚に、星屑は改めて、自分が今、何をしようとしているのかを痛感する。
数秒間の沈黙の後、風は星屑を睨み付けるように目を細めて言った。
「撃てよ、打つなら今すぐ。じゃないと逃げちまうぞ」
「それでいいのかよ……」
「だったらお前が殺されるか? それが選択なら、俺は構わないけどね」
まるで星屑を啓発するかのような言葉を並べながら、ゆっくりと腰の後ろに手を回す風に、星屑は警戒して一歩後ずさった。
そのとき、風達の後方、ドアの向こう側から複数の悲鳴と、甲高い笑い声のようなものが響き渡った。
「あーっはははははははは! これだよな、これだよなぁ! お前らみたいな屑にはお似合いだーっての!」
警戒して風とココが飛び退いたとき、古びた扉がぶち破られ、何かが部屋の中へと転がり込んできた。埃が舞う中、風はしっかりと目を懲らすと……それを見て、一瞬だが気分が悪くなった。恨めしげにも風を見つめるその白目に、目を逸らさずにはいられない。
【だだだ】……くそっ! つい数十分前まで会話していたのが嘘であるかのように、それは中身の無い、ただの塊と化していた。
後を追うように、バタフライナイフを手に持ったむったが姿を現す。むったは初めに、拳銃を構えながらも驚きの表情で硬直した星屑と目を合わせた。
ゆっくりと、むったは頭を斜めに傾ける。
最終更新:2014年01月26日 13:14