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「あれぇ? おかしいなあ、おかしいよなぁ? 銃声は聞こえなかったけどなぁ? 星屑、撃ったよな? 外したのか? それとも弾でも詰まってなかったかぁ? あっははははは!」

叫びながら右足を高く持ち上げ、むったは地面に倒れた【だだだ】の頭を踏みつけた。リアルにも、嫌な音が響く。

「あっはははははは!」
「おいおい、頭でもおかしくなったか、むったさん、むったさんよぉ?」

面白おかしい口調を、、風は真似しながら吐き捨てるように言った。おそらく、扉の向こうにいた一徹も……。
風は追い詰められていることに焦っていた。脱出手段としては、後方に窓がひとつあるが……一度に通れるのはひとり。それに、このままむったを放置しておくのは非常に危険だ。
……仕方ねえなあ。女の子を盾にするわけにもいかないしな。ここは俺のスーパーな頭脳で、なんとかするしかないな。そんな、状況に似つかわしくない前向きな考えと、どこか心躍るような感覚を胸に持ちながら、風は覚悟を決めた。

背後に回した手で、後ろにいるココにジェスチャーをしながら、むったから少しずつ距離を取るように後ろへと下がる。むったは特に、周りを気にしている様子は無かった。頭でも逝かれたのか、ナイフを振り上げたり、地面に倒れた【だだだ】の頭を再び踏み直したりしている。それとも、星屑が撃つのを待っているのか。
星屑が動くふたりに気づいて拳銃をふたりへと向け直すが、以前としてその引き金が引かれる気配はなかった。
言う必要はなかったが、そんな様子を見て、風は一言言わずにはいられなかった。

「腰抜け――」
「何……!」
「聞こえなかったのか? こ・し・ぬ・け! それで正義ぶってるつもりかよ。誰も救えねえよ、そんなんじゃ」
「どうせ誰も救われないんだ。そんな言葉、意味なんか無いだろ」
「いいや、あるね!」

風はとびっきり、自信たっぷりに言ってみせた。

「俺はこんな状況だろうが、ココを救って見せるさ。たとえ今だけであろうとも、それに意味が無いだなんて思わねえ。最後に死ぬか生きるかじゃない……俺は今、俺がやりたいことを、やれることをやるだけだ」
「厨二病が……」
「なんだろうと知らないな! 腰抜けのガキより、厨二病の方がよっぽど救われるぜ」

そのとき、とびきり大きな音がして、風と星屑はむったへと顔を向けた。むったはいつの間にか険しい顔をしてふたりを交互に睨み付けていた。ナイフは深々と、壁に突き刺されていた。
まるで諭すかのように、むったはゆっくりと口を動かした。

「おい、星屑、お前の獲物だ、さっさと、やれ、俺は、待ってる」
「くっ……」
「星屑、よく考えろよ。お前がやりたいことを。自分に素直になることをな」

風も星屑へと呼びかけながら、ついに最後の一歩まで下がりおえた。ココの後ろには、すぐ飛び出せるほど近くに窓がある。これならば……。
ココに、そこから飛び出すように合図をすると共に、風はポケットに手を突っ込んだ。動きを見たむったが、ナイフを引き抜き手に取って迫ってくる。

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最終更新:2014年01月26日 13:15