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「お前ええぇぇぇ!」
「くっそおおぉぉ!」
むったと星屑が同時に叫んでいた。初めての拳銃の反動と、決まりきらなかった星屑の意思は、思い切り牽いた引き金からの弾丸を思わぬ方向へと向けさせた。その行く先は、むったが突き出したナイフだった。
砕け散るナイフの刃と、勢いよく吹き出す風が投げた煙幕球。星屑は思わず顔を覆う。辺りは視界が悪くなり、何も見ることができない。
「むった! 風!」
星屑は叫びながら、必死に目を懲らした。煙の向こう側から、ふたりの叫び声が聞こえてくる。
「うごおおおぉぉ! 離せええぇぇぇ!」
「残念だったな、むったぁ! きちんとした刃なら、一刺しで俺の体力は削れただろうさ! だがこれも、このゲームならではのルールだな!」
窓や壁の隙間から、徐々に煙が抜けていく。その先に見えた影に、星屑は動揺せずにはいられなかった。晴れた煙の先には、羽交い締めにされたむったと、腰にナイフを突き立てられたままの風が、必死にむったを押さえ込んでいた。あまりの状況展開に、星屑は拳銃を構えるも、再びその先を定められず……。
風の声が響く。
「星屑! 俺を撃ってみろ! 俺を殺してみろ! こいつに当たるかもしれないがな!」
それを打ち消すかのように、むったの声も響いた。
「やめろ! 撃つな! 俺に当たるだろ!」
「暴れんな!」
片手を離すと、風は自分の身体から先の折れたナイフを引き抜き、それをむったの横腹へと突き刺した。ほんのわずかにむったの力が弱まり、再び風はむったを抑え直す。
混乱しながら、星屑は歯ぎしりした。
「くそっ、どうしろってんだ!」
「腰抜け。また迷ってんのか? 笑っちまうぜ」
「くそ野郎! 状況考えろ! てめぇ、誰に銃を向けてるかわかってんのか!」
星屑は風に狙いを定めようと銃口を向けるが、むったが暴れるせいで、確実に捉えることができずにいた。
「……いいか星屑、もう一度言う。お前がやりたいこと、やれることを考えろ!」
「やれることを……」
徐々に、銃口は定まりつつあった。自分に言い聞かせるように、また、風に答えるように星屑は言う。
「俺は、きっと生き残ってみせる。そして誰も悲しませたくない」
「そうか。――がんばれよ」
「おい……なにやってんだ! 星屑うぅぅぅ!」
暴れるむったを、風はもう一度、しっかりと抑え込む。
星屑は一瞬顔を背けた後、しっかりと前を見据えて、引き金を引いた。
銃弾はむったの腹を抜け――そして星屑の身体にまで達した。倒れ込む直前、風は満面の笑みで、星屑に親指を突き上げて見せた。
倒れた二人は、どちらも身体を持ち上げることはなかった。
最終更新:2014年01月26日 13:17