Prologue
豪華客席沈没事件から凡そ三年――――――ほとんどの事実が暴かれ、サーバーが落ちては落ちまくるほどユーザーが流れこんだサイトがあった。
人々はそのサイトを「ポケガイ」と呼ぶ。そう。掲示板だ。
それがつい去年の出来事。だが話題は新しいものへと変わり、再び廃れてゆくポケガイに、再び殺戮が訪れるのであった――――。
「具合はどうだ、ネジ」
「ああ、正常だ。“メンテナンス”もバッチリさ」
街に佇む一軒家。そこには、二人の男が住んでいた。
「本当にありがとう…本当に。星屑」
ネジと呼ばれる男は、もう一人の男、星屑の目を見ながら言う。
「お前の遺体だけ、不思議な事に海に浮かんでたよ。腐る前で良かった。お前だけでも蘇生できてよかった」
「女装だけじゃないんだな!」
「うっせ、ほっとけ!」
二人は笑いあった。
「辛いだろうが、両親には会うな。死んだことになってんだ。俺が戸籍から何から何まで、全て変えた」
星屑はコーヒーを炒れながら言う。
「サイボーグって、なんかカッコイイな。顔も向井理並にイケメンにしてくれたし」
ネジは壁に立てかけられた鏡を見ながら、ふふん、と笑う。
「ま、その調子だし平気か」
「…あれ、オカマと居候って緊張感MAXだよな…………?」
ネジは青ざめた顔で星屑に問う。
「俺、大家やってっから。向かいのアパート自由に使え。家賃は三万だ」
「安っ…大丈夫かよ」
「オカマと住むのならば?」
「わかりましたー」
荷物をまとめ、鼻歌を歌いながらネジは外へ出た。
2階の一室を借りることにしたネジ。思ったより部屋は綺麗だった。部屋の中央に荷物の入ったバッグを置き、中身を出す。
パソコンだけだ。
「バイトしなきゃな!」
まずはバイトだった。さっそくネジはバイトを探す為にパソコンを開いた。
ネジは、漁師になった星屑が事故現場へ出向かい、様子を見に来たときに死体で見つかった。
ネジの体内は80%が機械で出来ており、日頃からメンテナンス、電気供給をしなければならない状態となった。
サイボーグなのだ。
ネジはそんな環境の中で、逞しく生きることを決めた。
「今生きている事を感謝する」
ネジはパソコンを動かしながらそう呟いた。
「…む」
ネジは思わず声に出し、マウスを動かすのをやめた。
「ポケガイ、どうなってるんだろ」
彼の新たな戦いが、幕をあげた。
サイトを開いてみると、そこには、全く知らない住民が沢山いた。もちろん知っているコテも多かった。
――だが知っていたコテは、あまりにも少なかった。その現実に、唇を噛み締めて堪えた。
今はこの住民達が次のポケガイを担うのだろう。
「…ってなんだよそれ」
自分で考え、自分で笑ってしまう。
「…生きてるってのは、こういう事なんだな……」
畳に寝転び、天井の模様一つ一つをじっくりと見た。
しばらくして、ネジは飛び起きた。
「バイトだバイト!掲示板をエンジョイしてる暇は無い無い!!」
再びパソコンと向き合い、仕事探しを始める――――――。
最終更新:2014年01月06日 09:19