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  • 第一話「第一の予告」

 午後5時。
「おいネジ」
「バイト見つかったさ」
「そうじゃない」
 バイトを見つけ軽やかな歩きで帰ると、星屑がアパートの前にいた。
 星屑は、手に持っていた緑色のスマートフォンをネジに渡した。
「これは?」
「連絡用に使ってくれ」
「エメラルドグリーン。良い色だな」
 ネジはいくらか鑑賞し、星屑の肩を叩いた。
「ありがとう」
 ネジは二階へ、星屑は無言で一軒家へ戻る。
「夏に向けてクーラーを買わないとな。勉強……どうしよう…独学で頑張らないと」
 ネジは呟きながらパソコンで適当にポケガイを閲覧する。
 ネジは死んでいる事になっている為、新しいハンドルネームを使わざるを得なかった。
 「ドライバー」と名乗り、何一つ変わらず書き込みをする。
 更新をする。
「!」
 ネジは目を若干大きく開き、画面に顔を寄せる。
 スレッドのタイトルには、こう書いてあった。

「今から沢山の人々を殺しちゃいたいと思います」

 恐る恐る開くと、更に詳しく書いてあった。

「まずは明日、正午に大阪府在住のポットンさんを殺しちゃいます。爆破です。TNT爆薬を使います」

 ハンドルネームは、「マスケーゼ」。

(マスケーゼ?マルケーゼをもじったのか…?)
 もう一度更新すると、レスの数は既に30近い。今だかつてないスピードで進行している。
 レスを見ると「通報した」「ここで殺人事件があったのにふざけてんの?」「バカ過ぎ」……批判の嵐。
 ネジ自身も書き込んだ。だが返ってきた返答は
「明日まで首を伸ばして待ってな」
と、反省の態度は見られない。
 その後も、「管理人対応しろ」「ポットンがかわいそう」とレスが断続的に投稿された。
 ネジは不安を覚え直ぐさま星屑に連絡を取る。
「星屑?」
「ああ予告だろ?大丈夫だ。本気でやるとは思えない」
 落ち着いた声で星屑はそう言った。
「これ以上犠牲者を増やしたくないんだ」
 ネジは声を張り上げる。
「じゃあどうしろと?」
「通報だ」
 星屑はその一言を聞き、溜息をついた。
「ポケガイの予告が真面目に扱われたことなんてないが?」
「わからないだろ。あんな残忍な事件が起きたんだから」
「じゃあやってみろ。ポットンを救え」
「勿論」
 ネジはその一言を最後に電話を即座に切り、ネットに繋げ、様々なサイトに通報する。

「俺が出来るのはこれくらいか…」
 ネジは何故か悔しかった。
 フクナガを救ったつもりでいたが、結局自分だけ生き残る。
 しかし、この命を大切にしたい。
「誰一人死なせない」
 そう心に決めていた。

 不安を拭えぬまま、一日が過ぎる。
 午前8時。
「やべ!遅刻……………って学校行けないんだった」
 飛び起きて外へ出ようとしたがすぐに気付いた。
 とりあえず、星屑から貰った、ちんけなアパートに全く似合わない40インチのテレビの電源をつける。
 CMだったので、合間を縫って歯ブラシを用意し、磨く。

 星屑が、必要最低限の道具を全て買ってくれていたので、不自由では無かった。
 しかし、調理器具や炊飯器、エアコンなどなど、欠けているものも多い。
 だからこそのバイトだ。
 今や誰ひとりいない淋しいアパートの電気代やガス代は星屑が負担してくれる。ネジ以外に入居者がいないから、特別に、ということだった。
 家賃は三万。バイトをしていれば、そこまで支障は無いはずだ。

 歯を磨きながらニュースを見ていると、あるテロップが現れた。
 ネジの背筋は凍ったように寒気を感じた。

「大阪府大阪市、民家が爆破、三人死亡」

最終更新:2014年01月06日 09:25