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 歯を磨く役割を得ていた手を止め、目を見開く。
 洗面所へ向かい、そそくさと歯ブラシを洗い、嗽をし、歯磨きを中断する。そして急いでテレビの音量を上げる。
「正午に爆破するんじゃなかったのか!?」
 ネジは思わず叫ぶ。窓は閉まっていたから、聞こえてはいないだろう。
「今朝未明、大阪市在住の大学生が住む民家で爆発が起き、近隣の住民や通行人、大学生を含んで三人が死亡しました」
 そのあと、ネジはテレビを消して、星屑の一軒家へ走る。
 玄関のドアを開け、靴を蹴散らしながらドタバタとなだれ込むと、星屑もニュースにくぎ付けになっていた。
「予告は本当だったのか!?」
「いやまだわからん………“マスケーゼ”は大阪市とは言ってなかった。それに時刻が違う」
 ネジは唇を噛み締め、壁を叩いた。
「…とにかく次の予告に備えよう」
 ネジは、星屑の異変に気付いた。
 目の下にくまができていた。
「星屑寝不足か?」
「いや、不安を紛らわそうとゲームをやってた」
 いかにも眠そうな表情で言う。

 とりあえずネジは部屋へ戻り、パソコンでポケガイの様子を確認する。

 ポケガイはとてつもない速さで、予告スレッドにレスが投稿される。
「正午じゃないのか?」
「まさか本当にやるとかないわ」
「ポットン大学行ってたのかwwwwwwwww」
 数々のレスが飛び交い、1000までたどり着くのに実に10分。
 ポケガイ史上最速クラスかもしれない。
 他にも「マスケーゼやめろ」「マジで通報した」というスレッドが立つ。星屑もスレッドを立てていた。

「こいつの住所割り出すしかない!」
 そう言い、マスケーゼのレスやスレッドから色々と情報を抜き出す。
 彼は、ポケガイで「ぱしろへんだす」と名乗っている。
 パソコンを社会人を圧倒させる速さでタイピングする。普通の人には理解不能な単語や、画面、データが次々とアップする。
「よし、これで特定完了だ…」
 ぱしろへんだすは、ゆっくりとエンターキーを押す。

しかし、予想外の事態が起きた。
「…………!?」
 ぱしろへんだすは驚き、画面を凝視した。
 画面が白黒に変わり、特定に使ったデータやソフトが削除され、保存していたデータやボックスさえ全てが削除される。
「………?……………???」
 ぱしろへんだすは全く理解できなかった。
 すると、真っ白になった画面に黒い文字が浮かび上がる。
「特定なんかさせません☆てへぺろ( ̄ω ̄)」
 それを見たぱしろへんだすは、口をあんぐりと開けたまま椅子の背もたれに寄り掛かり、放心状態となった。

 罠だ。
 ぱしろへんだすは罠にまんまと引っかかったのだ。
 必ず特定されると考えた“マスケーゼ”は、どうやったかは不明だが特定を終えた瞬間、そのパソコンの全てのデータを消すウイルスを仕込んであった。
 ぱしろへんだすは、その犠牲になったのだ。
 そして新しいスレッドがポケガイに立てられる。
「正午に再び爆破します」
 スレッドの内容はこうだ。
「今朝の爆発はポットンに恐怖を煽るため。死んだ三人は全く知らない人!ゴメンネ><正午に必ず爆破するね☆」

 ポケガイは再び恐慌へと陥ってしまう。警察もマスケーゼを特定できない。レスは次第に批判から「やめろ」「許してやってください」といった具合に変わっていく。
 ネジはパソコンでその様子を見ながら星屑へ電話をかける。
「マスケーゼは一体どこから爆薬を調達したんだ?」
「さあ……」
「だが俺はポットンに最低限の協力をする」
「?」
 星屑は眉をひそめた。
「こうするさ」
 ネジは電話を切り、パソコンへ向き合い、カキコミをした。
「ポットン逃げろ!」

 ポットンはそのレスを見、決心がついた。
「逃げなきゃ…!」
 一人暮らしの寂しさを和らげてくれるゲームや、食料などの有りったけの荷物を抱え、家を飛び出す。
 息を切らし、重い荷物を背負い、歩く。歩く。歩く。

「ポットン…!どこだ!」
 ネジはポットンの居場所を表示したスマートフォンの画面を見ながらひたすら走り、某所の滑走路へ着く。

最終更新:2014年01月06日 09:27