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 数十分経っただろうか。予告まで一時間以上余っている。
「よし着いた。走れば間に合うだろ。行ってこい!待ってるぞ」
「おう」
 ネジはジェット機から飛び降り、颯爽と駆け抜けていった。

 GPSをアテにしばらく走ると、警察官や野次馬がうじゃうじゃいた。その人混みを突進するように掻き分けて行く。
 角を曲がると、人混みが少なくなってきた。裏山の頂上がちょっとだけ見えてきた。大して大きな山では無いようだ。

「なあ」
「ん」
「また、ポケガイで人殺しがあったらしいぜ」
「そうか」
「なんだ、関心が無いのか?」
「二年前の事は思い出したくないな」
 廃墟と化した倉庫の中で二人の男が会話していた。
「怖いのか?」
「当たり前だ」
「俺もだ。だが逆に現実味が無くてな」
「俺も夢だと思いたいな」
 そう言った男はため息をついた。

 ネジは裏山を登った。急な坂で足が痛むが、ポットンが見えるまでは走り続けた。もう位置は近い。
 坂を登りきると、平坦な地にたどり着いた。ふと右を見ると、茂みが微かに動いたのが確認できた。
 アイコンはこの先だ。
「ポットン?ポットンか!?」
 ネジはすぐさま茂みへと走っていった。

「ひえっ!?た、助けて………」
 目の前には涙目でこちらを見ながら怯える男がいた。
「ポットンか?」
 ネジは慌てて男に近寄ると、男は頷いた。
「俺はドライバーだ。最近来た新参者さ」
「ああ、あの……どうしてここに?」
「マスケーゼはポットンを殺すまで追いつづけるはずだ。少なくともその可能性はゼロではない」
 ネジは一旦ためてから続けて話す。
「今さっき初めて会った知り合いにジェット機を使える奴がいる。さ、俺と一緒に来い。荷物、持とうか」
 ポットンはネジに荷物を渡し、二人は裏山を降りて行った。

「くそがぁぁ……!」
 ぱしろへんだすは、自分のふがいなさに怒り、壁を殴ったり、髪の毛をめちゃくちゃに掻きむしった。

 その時だった。

 ゴトッ。

 何かの音がした。
 変だ。ここには俺しかいないはずだ。
 ぱしろへんだすは、社会人となり、既にマンションで一人暮らしをしていた。
 普通ならただの物音と考えて良い。
 だが、ぱしろへんだすは何故か汗でびっしょりになっていた。
 震える手で、ドアをゆっくりと開けた。

 誰もいない。

 ぱしろへんだすはホッと安心しきった表情で、胸を撫で下ろした。

 そして部屋へ戻る為に振り返った。
「…え…?」
 背筋が凍った。鳥肌が立ち、体中の皮膚の感覚がゾクゾクッと刺激された。

 では、ぱしろへんだすを怯えさせた物は何か。

 目の前に、30センチちょっとの日本人形が置いてあったのだ。
(何故?いつ?どうやって?)
 ぱしろへんだすは自分を納得させようと精一杯だったが、焦りに焦って後退りする。
 すると――

 ガサッ

「!」
 日本人形が、微かに動いた。
「あわわわわわわわ……」
 そして日本人形はカタカタカタカタ、と細かく音を刻みながらぱしろへんだすのほうへ歩きだした。
「ぎゃああああっ!!!!」
 何がどうなっている、夢だと信じたい、助けてほしい。
 ぱしろへんだすはパニックに歯止めが利かなくなり、壁に寄り掛かり家具をめちゃくちゃに弾きとばしながら必死に逃げた。
 まだあの小刻みに鳴る音は続く。
 それどころか、日本人形は確実にこちらに来ている。
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ」
 ぱしろへんだすは布団に潜り込み、歯をガチガチと鳴らしながら隠れた。
「………」
 しばらくすると、音が鳴らなくなった。
 恐る恐る布団を少し上げ、様子を見た。
 日本人形はない。

「え…?」
 ぱしろへんだすは涙目になった目を拭きながら布団からゆっくりと出た。
 辺りを見回すが、日本人形はいない。
「夢…?」
 ぱしろへんだすは、とてつもなく安心した。
「よかったぁぁぁぁ……あぅぅ……」
 ぱしろへんだすは寝転がり、息を落ち着かせた。
「もうポケガイなんか懲り懲りだ………気分直しに外にでよ゙っ゙」
 直後、ぱしろへんだすは後ろから何かで攻撃された。
 ぱしろへんだすは頭から腹部にかけて引き裂かれ、血を大量に吹き出しながら絶命した。
 ぱしろへんだすの後ろにいた男の手には、斧が握られていた。
「予告する暇は無かったが…まあいい。次はポットンだ」
 男は耳まで裂けるほど口を開き、ニヤリと笑った。

最終更新:2014年01月06日 09:31