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「雨が振っていますが、時化の心配はありません、安心して海の旅を」

艦内放送が、嫌に大きく聞こえる。
ファング達は、雨が降って気温が下がったというのに汗を流していた。冷や汗と言う名の。

「………」
黙りこくる四翼の顔は、呆れと怒りがミックスされ非常に渋い表情を見せていた。

「う……」
隣に座る四翼の重苦しい雰囲気に、人参が口の端から言葉を漏らす。
「わ、悪かったって……」
ファングが謝罪の言葉をかけるが、四翼はまるで何も聞こえないかの様に黙りこくっている。

「あー……俺飲み物買ってくる……」
あまりの居心地悪さに、たまらず太太郎がその場を離れようとする。

「おい!抜け駆け……じゃなくて飲み物は俺が持ってるぜ!」
「ずるいぞ……じゃなくてお菓子もちゃんとあるよ!」
人参とファングは一人でも多くこの空気を共有させる為に引き止めようとする。

「い、いや俺も酔っちゃってさ!風に当たりに行きたいんだよ!」
そう言うやいなやすぐに階段に向かって走り、追いかける暇も無く上がっていってしまった。

「ちょ、ちょっと……」「あ、オイ……」
呆然とその場に立ちつくす人参とファングを四翼がじっとりした目で見てこう言った。

「後1時間はかかるわよ、そこでずーっと立ってるつもりなら良いけど」
ファングと人参は、言われるがまま元いた席に座るしか無かった。



「はぁ~」
なんとか一階の外が見えるところに着き、気の抜けたため息をしながら太太郎は胸をなで下ろしていた。

「あのままいたら胃に穴どころか五臓六腑が蜂の巣みたいになっちゃうよ……」
柵にもたれかけながらそう呟き、またため息をつく。

顔を上げ、外を見てみると遠くの方にうっすらと影が見える。
「アレがマカッサシティか?……ガイドガイドっと」

鞄か乗船するときに取っていったガイドを取り出し、広げて読んでみる。
マカッサシティは島の東側にあり、ロドンと同じぐらいの街の広さの様だ。 
港が広く、漁港等と併合しているらしい。

「へー……島の西側は砂漠になってんのか、暑そうだな……」
そう呟いた時、上の甲板で声が聞こえた。

「………オイ……例の……は……大…夫だ……な…」
「は……ちゃ……保管……あ…ます…貨物……箱に……」
二人の男が上で話しているようだが、雨のせいで良く聞き取れない。
質問した方は、ナイフのようなキレのある声で、何かフィルターをかけられたように籠もっていた。

返答した方の声は聞いた事がある、艦内放送をした船員の声だった。

「……?」
好奇心に駆られた太太郎は耳を澄ます。

「……なら……ん…が……ヘマ………うな事……ったら…お前………ゃなく…俺の首…………」
「お任…下…い……全に…………産のアレ…送り…け…す」
質問した方は声を低く落としすごみを効かせているようだ、それに船員は対し落ち着き払った声になった。
どうやら何かを運ぶ話しをしている様だ。

(でも、これって貨物船じゃなくてフェリーだよな……?)
太太郎は疑問に思い、更に聞き耳をたてると、どうやら男がちょうど太太郎の真上に向かって歩きながら言う。
それにつれて聞こえる声も大きくなる。
「じゃ…俺は…報……基地へ戻る……何かあった……タダじゃおかねえからな!」
男がそう言った直後、黒い影が太太郎の目の前を縦に通り、海に落ちた。
激しい水しぶきが上がったが、雨の音とフェリーの駆動音の御陰で音はまったく出なかった。

「よし……行ったな、まったくビルス様も人使いが荒すぎるぜ……偉そうによぉ…」
男と話していた船員は男が海に消えたのを確認すると、足音を遠ざけながら別の方向へ行っていった。

(一体何を運んでいるんだ……?)
太太郎は抜き足差し足で来た道を戻りながら考える。
(フェリーで何かを運ぶなんて変だし……何とか産って言ってたな……)
そしてある考えに行き着いた。

「密輸だ……!」
急いで来た道を戻り、階段を駆け下りてファング達の前に戻ってきた。

「オ、オイオイ!いきなり戻ってきてどうしたんだよ!」
「大変な事が起こるかも知れないんだ……!」



「密輸?」
未だにじっとりした目で四翼が訝しげに聞き返す。
「そうなんだよ、何か甲板の方で誰かが話してたんだけど並々ならぬ様子で…」
太太郎は早口でまくしたてながら急いで説明する。
「ちょ、ちょっと待てよ…聞き違いじゃないのか?雨も降ってるしさ…」
ファングが怪しむ様な口調で言う。

「密輸じゃなくても、人が『基地へ戻る』って言って海に飛び込むなんて普通の状況じゃないだろ!」
「まずはこれ飲んで落ち着けよ……」
人参が野菜ジュースを差し出し、太太郎はそれを一気飲みする。

「まぁどう考えても何かあるけど、何を運ぶって聞いた?」
四翼が身を乗り出しながら聞く。
「何を運ぶかはまでは聞いてないけど……貨物室にあるって事は分かった」
しばし黙りこくる四人。

「調べて……みるか?」
「そうしましょう」



「ここが貨物室ね……」
船底にある貨物室の扉は、厳重にダイアル式の南京錠で閉められていた。
「鍵がかかってるな……」

「こんな物は当てずっぽうで何とかなる物なの」
四翼が南京錠を握り、一分もしないうちに鍵が開いた。
そして貨物室の扉を開けると、中には雑多に物が詰め込まれ、潮の匂いがする。

「どこから探し「ちょっと待った!」
四翼の口の前に手をかざしファングが自分口に人差し指を当てる。

するとどこからかガサガサと何かが動く音が聞こえる。
四人は黙りながら音のする方向へ向かっていくと、やや大きな鉄の箱が見つかった。
音はここから出ている様で、中で何かが暴れているのか小刻みに揺れている。

「開けるぞ……!」
太太郎がゆっくりと箱の蓋を開けると、そこには檻が入っていて、その檻の中にポケモンが数匹いた。
「ヒッコー!」
それは赤い炎の様な体毛をし、尻尾は燃えていて、指は長く器用そうだ。

「ヒコザルが入っていたんだ……!」
驚く四人、だが次の瞬間四翼が何かを聞きつけた様ですぐにドアの前まで行く。

四翼はこちらを振り返り深刻な顔をしながら言った。
「大変よ……!気づかれたみたい!」



9/21 弟者

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最終更新:2010年09月21日 21:40