1乙SS・カノン
76 :ドラーモン ◆Op1e.m5muw :2006/12/29(金) 19:32:27 ID:???
「あー、退屈な町だな」
【1】はこの町に来てから、ただ噴水を眺める生活が続いていた。
定期船のトラブルとかで次の目的地に向かうことすらできず、毎日を怠惰に過ごしている。
今の【1】の楽しみといえば、毎日この噴水をスケッチする美少女を眺めているだけだった。
今日も朝からベンチで転寝をしている【1】。
もう昼が近くなった頃、顔にかぶせていた日除け用の雑誌が不意に外される。
「んっ…まぶし」
太陽光を遮りながら目を開けると、そこにはいつもスケッチをしている少女がいた。
「君は……」
【1】の頭の中にいろいろと疑問が浮かぶ。
『なんで雑誌を取ったの?』
『今日は絵を書かないの?』
『彼氏いるのかな?』
いくつか候補を絞り込むが、結局一番スタンダードな質問を口にした。
「えーと…君の名前は?」
聞いた後、しまったと思った。
毎日眺めていたせいで顔見知りだと錯覚し、自分の名を切り出す前にこんな質問をしてしまった。
『やっちゃった、かな』
しかし少女はそんな事を意にも介さず、自らの顔を>>1の眼前に持ってきた。
顔と顔の間、わずか1cm。
彼女は至近距離で凝視している。
『な、なんだ、なんなんだ?』
眼前に迫る少女に【1】は鼓動が早鐘のようだ。
79 :ドラーモン ◆Op1e.m5muw :2006/12/29(金) 19:34:02 ID:???
澄んだ瞳と、時折かかる吐息が【1】の思考を狂わせる。
『こ、これはひょっとしてキキキキスキスキス……』
しかしそんな【1】の期待と裏腹に、少女は顔を離してしまった。
少女はそのまま通りの向こうに向かって歩いていく。
「ちょっと、君……」
【1】がベンチから体を持ち上げると、その胸から一枚の紙が落ちる。
「なんだ、これ」
怪訝そうにその紙に目をやる。
「……!!」
【1】はベンチから立ち上がると、少女が消えた通りに向かって走りだした。
「ない!ない!どこにもない!」
少女は石造りの道で目を皿のようにして何かを捜し回っていた。
『確かにスケッチブックに挟んでいたはずなのに!』
そう、それは決して他人には見られたくない秘密の品なのだ。
『アレを誰かに見られたら私どうすればいいの』
しかし、少女の願いは脆くも打ち砕かれることになる。
「はぁ、はぁ、カ、カノンちゃん……」
少女に声をかけてきたのは息を切らせた一人の男。
その手には見慣れた紙切れが握られている。
『!!!!!!!』
よりにもよって一番見られたくない人に見られてしまった。
恥ずかしさに耐え切れず、カノンと呼ばれた少女は思わずその場から
逃げ出そうと男…【1】に背を向けた。
80 :ドラーモン ◆Op1e.m5muw :2006/12/29(金) 19:35:52 ID:???
「あ……」
カノンが振り向いた先には自分とまったく同じ姿をした少女が立っていた。
「あれ……カノンちゃんが二人……」
衝撃の事態に【1】が声を上げる。
カノンの姿をした少女はゆっくりとカノンの横を通り抜け、そして事態を理解できない【1】の頬に両手を添える。
そしてゆっくりとその唇を合わせようとした。
「だ、ダメーーーーッッ!」
カノンは思わず駆け出すと自らの分身を押し退け、【1】の首に腕を巻き付けてその唇を重ねた。
「んっ……んんっ……」
突然のキスに驚いた【1】だが、それに応えるようにカノンを抱き締める。
十秒ほどの後、【1】とカノンはゆっくりと顔を離す。
紅潮しながら唇を押さえている目の前の少女から目を離すと、その時にはカノンそっくりの少女の姿は消えていた。
「いない……」
81 :ドラーモン ◆Op1e.m5muw :2006/12/29(金) 19:37:28 ID:???
噴水前。
「アレ、なんだったのかな」
噴水のそばのベンチで【1】とカノンは並んで座っている。
あのキスの直後【1】はカノンの愛の告白を受け、二人は恋人同士になった。
「あれは、勇気のない私のために現れたもう一人の私……」
カノンは毎日【1】へのラブレターをスケッチブックに潜ませて渡す機会を伺っていた。
しかし、最後の一歩を踏み出すことができなかった。
「ま、なんでもいいか。こんなに素敵な彼女も出来たし、あんなに情熱的なキスもされちゃったし」
【1】の言葉に赤面するカノン。
『勇気よ、勇気を出して!』
カノンはうつむきながら【1】に一世一代のお願いをする。
「あ、あの……今度は【1】さんから……キス、してくれませんかっ!」
爆弾発言の後、顔を上げたカノンが見たものは……
「ん……」
キューピット役だったはずのカノンの分身が【1】の唇を強引に奪っていた。
「ラ、ラティアスーーっ!」
二人のカノンが【1】を挟んでくんずほぐれつの大喧嘩だ。
「よくわからないが、喧嘩はやめようよ」
【1】の仲裁に二人のカノンが一斉にこちらを向く。
「そうね、喧嘩はよくないわね」
カノンとラティアスは同時に左右から【1】の頬にキスをした。
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最終更新:2007年01月05日 22:10