1乙SS・スズナ
ここはキッサキシティ。
シンオウの最北端に位置する雪に覆われた街だ。
「まったく、なんでこんなところにジムがあるんだよ……」
【69】はここに来るや否や、ポケモンセンター内で暖をとっている。
正直な話、寒いのは全くダメだ。
何度も引き返そうと考えたが、ジムバッジを手に入れるためには必ず来なければならない。
『連絡船が動いてりゃ、簡単に来れるのにさ』
しかし、その連絡船はなぜか有名人しか乗せないらしい。
そんなので採算が取れるのか知ったことではないが、一般人からすれば迷惑な話である。
「あー、今日はもう寝よう」
こんな寒い日は布団にこもってテレビでも見てたほうがいい。
ジム挑戦はまた明日にしよう……
【69】はそそくさと宿泊施設に向かおうとした。
「あー、いたいた!ヤッホー」
あっけらかんとした声と共に、外からセンター内に寒風が吹き込んでくる。
入り口に立っているのは声の主である少女。
この気候なのにスカートから生足を晒け出している。
彼女はどうやら俺に声をかけたようだ。
なぜかは知らないがこちらを見ながらニコニコと笑っている。
82 : ◆xqjbtxNofI :2007/03/23(金) 21:15:08 ID:???
「あなた、今日この街に来たポケモントレーナーなんでしょ?」
「はい……」
少女は「うっし!」とか言いながらガッツポーズを取っている。
「じゃあさ、やっぱジムに挑戦するんだよね」
「ま、まあね……」
【69】がそう答えると、少女はピョンピョンと跳び跳ねながら「やりいっ、挑戦者ゲットォ!」などと叫んでいる。
と、不意に彼女が止まった。
「ねえ、名前は?」
自分が名乗る前に相手の名前を聞くのかよ……
【69】は一言そう言ってやりたかったが、それよりもまずしなければならない事があった。
【69】はズカズカと少女に近付くと、その手を取る。
「あっ」
思わぬ事態に彼女は小さく声を上げたが、すぐにリアクションを返してくる。
「あ、いや、そんな、いきなり手を掴むなんて……ほら、まずはお話して互いを良く知ったほうが……」
「いや、そうじゃなくて」
【69】は勢いよく彼女を引っ張る。
「ああっ、ダメ!まだ早いわっ、イヤーン!」
ウィーン
彼女がいなくなったことで、自動ドアが閉まる。
「俺、寒いの苦手なんだ……」
二人の間を気まずい沈黙が支配する。
だが彼女にもようやく事態が飲み込めたようだ。
「もしかして……寒いの苦手?」
「うん、苦手」
83 : ◆xqjbtxNofI :2007/03/23(金) 21:16:35 ID:???
とりあえず場所をかえ、事情を一から聞くことにした。
彼女はスズナ、キッサキジムのジムリーダーらしい。
キッサキシティはこんな辺境にあるため、ジム挑戦者が来ることはそんなに多くはないらしい。
「で、久々にトレーナーが来たっていうじゃない?しかもアタシ好m……とにかく!顔を見にきたってわけよ」
スズナは椅子から投げ出した足をプラプラと振りながらそう答えた。
「ということで、早速キッサキジムへ……」
「いや、今日はパス」
「いや、だって、ね!」
「寒いから、パス」
【69】の高速の返しに口をパクパクとさせるスズナ。
話はそれで終わりだった。
スズナは「じゃあ明日、明日は絶対ね!」と念を押すと、センターを後にした。
翌日━━━
「おーい、【69】!朝だよーーっ!」
ドンドンと扉を叩きながら叫ぶスズナの声で目を覚ます【69】。
『う、うるさいなぁ……』
その騒音に耐えきれなくなった【69】は仕方なく扉を開ける。
開いた扉の前には満面の笑みのスズナが立っている。
「さ、ジム戦いこ!」
よほどバトルしたいのだろう、スズナは今か今かとソワソワしながら返事を待っている。
だが、【69】の心は決まっていた。
「あ、寒いから今日もパス」
84 : ◆xqjbtxNofI :2007/03/23(金) 21:17:59 ID:???
そんなことが3日は続いただろうか。
4日目の朝━━
今日も朝から冷え込んでいた。
『あー、今日もここから出たくねぇ……』
今日もジム戦をパスすることに決めた【69】。
だが、今日はいつもと違っていた。
スズナがこない。
なんだかんだ言いながら、かわいい娘のモーニングコールで起きられる事に軽い満足を覚えていた【69】。
だが、さすがに4日目ともなると愛想をつかされてしまったようだ。
「あーあ、ジム戦の時はどんな顔して会えばいいんだろ……」
そんな事を考えながらも、布団からは出られない。
その夜━━
【69】は中々寝つけないでいた。
やはりスズナの事が気にかかる。
『さすがに、マズイよな』
【69】はこれでもかというほどの厚着をすると、ポケモンセンターから外に出た。
「さむ……」
夜なので気温も下がり、かなり寒い。
『さて、スズナに謝りにいくか』
だが、その足はすぐに止まった。
ポケモンセンターの壁にもたれかかって体を丸めているスズナが目に入ったからだ。
「や、ヤッホー……」
スズナはガタガタと体を震わせている。
「ま、まさか……朝から……」
スズナは白い息を吐きながら絶え絶えに答える。
「お、おそいぞ……」
85 : ◆xqjbtxNofI :2007/03/23(金) 21:22:26 ID:???
【69】は慌てて自分の防寒着をスズナに被せる。
「ば、バカ野郎!」
「野郎じゃない、アタシは女の子よ!」
震えながらも的確にツッコむスズナ。
だが、その強がりもすっかり弱々しくなってしまっている。
そんなスズナを、【69】は思わず抱き締めてしまう。
「あー、【69】あったかいねー」
「まったく……俺が出てこなかったらどうするつもりだったんだ!」
スズナは手を伸ばすと、【69】の耳をつまんで引っ張る。
「イテテ、何するん……っ!!」
顔を下げた【69】の唇に、スズナが冷たくなった唇を重ねた。
「ん……」
何秒たっただろうか、名残惜しそうにスズナが唇を離した。
「部屋から出てくるって信じてたから……」
そんなスズナの言葉に、【69】は照れ臭そうに頭をかく。
「ごめん。明日はジムに行くよ」
それを聞いたスズナは、これ以上ないくらいの笑顔を見せた。
「じゃあ、ジムに来てくれたらまたキスしてあげる!」
「えーと、先払いでお願いします」
二人はくすりと笑うと、降り頻る雪の中……再びゆっくりと唇を合わせた。
心地よい感触と暖かさの中、【69】は寒さに慣れようと努力することに決めた。
『でないと、スズナと一緒にいられないから……』
投下スレ
補足
- 【1】ではなく【69】なのは、氏が投げかけたお題に、最も気に入った答えを出した人へ送ったものだからである。(詳細はスレを参照の事)
最終更新:2007年03月29日 17:29