114: 名前:(㍊゚д゚㌫) (HackerOF.g)☆09/11(土) 21:48:31
5 本名 三谷部 馴 (みやべ じゅん)
その頃、三谷部は、また大型トレーラーに乗せられ、4回戦会場へと向かっていた。ウォークマンからイヤホンを通して再生されている音楽。それは浜崎あゆみのYOU WERE…という曲。三谷部が一番気に入っている曲だった。
115: 名前:(㍊゚д゚㌫) (HackerOF.g)☆09/11(土) 21:52:30
この曲を聴いていると、思い出す人物。そもそも三谷部が3回戦を辞退しなかった理由。それは、その人物が関連していた。
三谷部は中学3年生の夏。同じクラスにいた元川 殊子(もとかわ ことね)に思いを寄せていた。
116: 名前:(㍊゚д゚㌫) (HackerOF.g)☆09/11(土) 22:00:25
好きになった理由。最初は外見だった。しかし、何か、他の人間とは違う何かが彼女にはあるような気がした。それが知りたかった。告白しようか迷っていたが、ダメ元で彼女に胸の奥に秘めた思いを打ち明けた。
117: 名前:(㍊゚д゚㌫) (HackerOF.g)☆09/11(土) 22:09:30
「あたし、そういうのよくわかんないけど、よろしくお願いします!!」
します、まで言い終えた時、彼女の唾が三谷部の顔にかかった。あ、可愛い。次の日からは、どこに行くにも、2人一緒だった。映画を観て、遊園地にも行った。
118: 名前:(㍊゚д゚㌫) (HackerOF.g)☆09/11(土) 23:15:35
とにかく毎日が楽しかった。
そんなこんなをしているうちに、冬になり、受験が迫っていた。「はぁ~あ。受験とか面倒くさい。親はグチグチうるせーしさ」
学校から帰る途中の公園で2人でブランコに座って無駄話をしながら、家に帰ったらしなければならないであろう勉強から逃げていた。
119: 名前:(㍊゚д゚㌫) (HackerOF.g)☆09/11(土) 23:21:07
「ガンバろ?どうせ来年の3月までのことじゃん。」
殊子はいつも前向きに物事を考えていた。結局、他人に無くて、殊子にあるもの。それが何なのかは、わからぬままだった。
120: 名前:(㍊゚д゚㌫) (HackerOF.g)☆09/12(日) 02:02:37
それでも、殊子が好きだった。三谷部は殊子と一緒に同じ高校に入学したが、残念ながらクラスは分かれてしまった。
「違うクラスになっちゃったな」
入学式、クラスの担任の自己紹介、教材の配布が終わり、今日入学したばかりの学校の廊下をそんなことを言いながら歩いていた。
「しょうがないよ。でもクラスが変わったからって、他の女のコに興味持ったりしないよね?」
121: 名前:(㍊゚д゚㌫) (HackerOF.g)☆09/12(日) 02:12:09
「当たり前だろ? 俺がどれだけお前のこと好きで告白したと思ってんだよ。俺には、お前だけだ。」
それを聞いて、殊子は新品の制服の長すぎる袖に隠れた手の甲を口に当てながら、クスッと笑った。「何だよ」と、少々笑いながらムキになって言い返すと、イタズラっ子のような笑顔をこちらに向けながら言った。
「だって臭すぎるよ。俺にはお前だけだって。」
「臭くたってなんだって、俺の嘘偽りない気持ちだよ。」
122: 名前:(㍊゚д゚㌫) (HackerOF.g)☆09/12(日) 02:35:59
俺はつい、ムキになってしまった。しかし殊子は相変わらず、イタズラっ子のような笑顔を崩さない。
「わかったよ、わかった。ねぇねぇ、それより屋上行かない?」
「屋上? 行って何すんだよ?」
「いいからいいから」
言われるがまま、俺は殊子に腕を引かれながら屋上に着いた。4回建ての校舎の屋上から見下ろすと、
「ねぇねぇ、写真撮りましょうよ」
「えぇ~いいよ~。面倒くさいな」なんてやりとりをしているのだろう親子と、友達と入学したのだろう男子2人、女子2人、自分たちと同じようなカップル等の人達がうじゃうじゃいた。
124: 名前:(㍊゚д゚㌫) (HackerOF.g)☆09/12(日) 14:36:52
三谷部は高所恐怖症なので、下を長くは見ていられなかった。
「いい景色だね」
三谷部が高所恐怖症だと言うことを知らないのだろう。殊子が言った。
「ああ、まあな」
そんなことより三谷部がきになったのは、どうしてここに連れて来られたかだ。「あたし、学校の屋上が好きなんだ。中学ん時から」
「ああ、よく居たもんな、屋上」
三谷部が殊子に告白したのも屋上だった。しかし、高所恐怖症の三谷部にとって、屋上が好き、というのは理解出来なかった。
125: 名前:(㍊゚д゚㌫) (HackerOF.g)☆09/12(日) 14:54:16
「ねぇ、写真撮ろうよ。初めて高校の屋上に来た記念」
やっと、屋上に連れて来られた意図がわかった三谷部だった。
2人でお互い肩を持ちながらピースをして撮った写真。2人とも、満面の笑顔だった。
「ねぇ、卒業式の日もさ、こうやって写真撮ろう? 今日のこと思い出しながら」
「何お前? すげーロマンチストじゃん」と言って茶化しながら、そんなのもいいかもな、と内心思う三谷部だった。
「うるさいな!こういうの好きなの」と、ムキになって言い返す殊子が、なんとも愛らしかった。
126: 名前:(㍊゚д゚㌫) (HackerOF.g)☆09/14(火) 23:23:08 そんな約束を殊子と交わしてから、凡そ3ヵ月程経っただろうか。帰り道はいつも一緒だが、学校では殊子は同じクラスの友達と話すことが多くなった。そうなると三谷部は、帰り道で殊子が仕方無く自分と一緒に帰ってくれてるような気がして、内心少し切なかった。
127: 名前:(㍊゚д゚㌫) (HackerOF.g)☆09/14(火) 23:30:48
その帰り道も、「百合子がね」「美奈がさぁ」なんて話ばかりになってきた。三谷部はそれを「うん」「ああ」なんて生返事しながら軽く聞き流しながら、内心「もう、俺は殊子の眼中にもないのかな」なんて思っていた。
そんなことを毎日続けていた時に、俺は同じクラスに、初めて友達をもった。
128: 名前:(㍊゚д゚㌫) (HackerOF.g)☆09/14(火) 23:41:01
東雲 惠埜(しののめ けいや)
クラスのムードメーカー的存在だった。
最初は、鬱陶しい、としか思わなかった。
「お前いつも本読んでるか寝てるだけだけど、そんなん楽しいの?」何なんだこいつ、と内心鬱陶しがりながら、言った。「ああ、楽しいよ? 毎日毎日今日は何しとけば良かった、なんて悔いは残らない」
「そうか。いや、お前絶対違う! 少なくとも俺からそんな風に見えない」
129: 名前:(㍊゚д゚㌫) (HackerOF.g)☆09/16(木) 01:52:30
「目に見える物が全部真実とは限らないだろ」
「それ、その本の何ページに書いてあんの?」
この野郎…と三谷部は内心思いながら、筆箱の中から消しゴムを取り出した。
「今な、すっげーいいところなんだよ。だ・か・ら! ちょっと消えてくれよ」
と言いつつ、その消しゴムを東雲の顔にこすりつける。
「わっ、ちょ、止めろって、 プッ プッ」
びちゃ、と三谷部の制服にかかった液体は、東雲の唾だった。「うわっ、きったね! 何すんだテメー」
「ぎゃははははは」
と馬鹿笑いしながら廊下へ駆けて行く東雲。それを追いかける三谷部。
131: 名前:(㍊゚д゚㌫)@J(ジェイ)J (HackerOF.g)☆09/19(日) 04:06:35
追いかけて追いかけて、たどり着いた場所。それは屋上だった。
「ゼェ、ゼェ」
「ハァ、ヒィー、ハァ」
東雲も三谷部も、床に手をつきながら息を切らしていた。
入学式の日、殊子と一緒にここで2人揃って馬鹿みたいに笑いながら写真を撮ったのは、今でも覚えている。
「てっ、テメ、こんにゃろ!」
三谷部はまだゼェ、ゼェと息を切らしながらもそう言うと、東雲はニカッと笑った。
「悪い悪い。」
「汚ぇーモンつけやがって」
「でもさ、今のお前、本読んでる時よりイキイキしてるっつーか、必死で頑張ってる顔なんじゃねーの? 俺は、その顔のが好きだ」
「好き? 気持ち悪いな」
好き、などと男から言われるとは、三谷部は思ってもいなかった。ただ、東雲からも何か、クラスにいる奴らとは違う何かが感じられた。ただしそれは、殊子とは違う感じの何かだ。
その日の帰りから、帰り道に東雲も加わり、3人で下校した。
134: 名前:(㍊゚д゚㌫)@J(ジェイ)J (HackerOF.g)☆09/19(日) 13:10:26
「良かった。馴にも友達できたんだね」
殊子が意外な事を言った。良かった、とはどういう事だろうか。
「何お前?かぁーいい彼女いんじゃねぇか! こんにゃろ!」と言いながら東雲は、三谷部の右肩を思い切り叩いた。
「痛っ! お前力強過ぎ」
「東雲君って面白い人だね」
俺達のそんなやり取りを見て、殊子はさっきからの笑顔を変えずにそうった。
「殊子ちゃんだっけ? 俺と付き合ったら、一生笑わせてあげるよ」
「どうしよっかなー?」
「ふざけんなよ! 殊子は俺のもんだ」
そんなやり取りに三谷部がムキになってそうツッコミを入れると、東雲と殊子は笑った。何だか2人を見ていると、ホントにカップルのように見えて仕方がなかった。あまりそれが好ましくなかったのか、三谷部は話題を変えた。
「それより殊子、どういうことだよ、さっきの良かったって」
「だって最近の馴はさ、何か元気なかったし、あたしの話まともに聞いてなかったじゃん。あたしの話がつまんないのかな? とか友達出来なくて悩んでんのかな? とか思ったよ」
まともに聞いてないのは、殊子にはお見通しだったらしい。
「俺はさ、お前がいつも友達のことばっか話すから、お前の眼中にもう俺はいないのかな? って思ってたんだよ」
「心配し過ぎ。あんたはいつだってあたしの眼中のド真ん中にいるよ」
そんなことを話していると、自宅が見えて来た。
その日、三谷部は塾があった。三谷部の通う塾は、東雲と同じ塾だったので、塾の帰り道が暇だったこともあり、東雲と一緒に帰っていた。
135: 名前:(㍊゚д゚㌫)@J(ジェイ)J (HackerOF.g)☆09/19(日) 16:23:26
ある日のこと。
いつも通り三谷部は東雲と一緒に塾からの帰り道を歩いていると、転倒したバイクがあった。それはタイヤは何か鋭利なもので刺されたのだろう穴があき、ミラーはヒビだらけ、鈍器で叩きつけられたような大きな凹みがあった。恐らく、暴走族がよく乗るバイクだろう。
「うわ、何だこれ」
「ひっでー」
口に手をあてながら三谷部が動揺していると、「俺、交番行ってくる! お前はここで待ってろ!!」
と言い残し、どこかへ走っていった。
しばらくそのバイクの横で体操座りをしていると、金髪、サングラス、加えタバコ、金属バッドを持った男達が5人やってきた。
「おい!! テメェ俺のバイクに何しやがる!」
三谷部は弁明しようとしたが、そんな暇もなく、右目を殴られた。
「痛っ…!」
すかさず、ミゾオチに蹴りを入れられる。その場にへたり込んだ三谷部は、袋叩きにあった。
「待って、話を…」
かろうじて言えた言葉に金髪の男は反応し、三谷部の前髪を鷲掴みにして顔を持ち上げた。
「来月までに50000000円持って来い」
「だから俺はやってないって…」
鼻血を垂らしながらも三谷部が弁明しようとすると、有り得ない名前が聞こえ、一瞬耳を疑った。
「元川 殊子」
「!!」
138: 名前:(㍊゚д゚㌫)@J(ジェイ)J (HackerOF.g)☆09/20(月) 18:14:47
「な、何で殊子のこと」
「俺達には親切な情報提供者がいてね、お前が殊子ちゃんとラブラブなのは知ってんだよ。来月までにさっき言った額持って来なかったら、次は殊子ちゃん、やっちゃうよ?」
「や、止めろ殊子は関係な…」関係ない、と言おうとしたが、金属バッドが背中に直撃し、あまりの激痛に悶絶した。
バイクの持ち主であろう金髪の男はバイクを持ち上げると、「あ~あ、ひでぇなこりゃ」とうつ伏せになっている三谷部を睨みつけながらそう吐き捨てた。気絶して目が覚めると、病院のベッドに寝ていた。
139: 名前:(㍊゚д゚㌫)@J(ジェイ)J (HackerOF.g)☆09/20(月) 20:12:03
「目ぇ覚めたか」ベッドの左横においてある椅子に座りながら腕を組んでいる、若干茶髪の男、東雲がそう言った。「ここは?」「練馬区立第三病院。骨折もないし、命に別状ないらしいけど、かなり酷いヤラれ方してたんだとさ。一週間は入院することになるらしいぜ」「そうか」
頭がぼやっとしている。徐々に、昨日の記憶が走馬灯のように、しかし一つ一つが鮮明に思い出された。「情報提供者……奴らが言ってた情報提供者って誰だ」
隣で椅子に座っている東雲が視線をこちらに向ける。「情報提供者?詳しく話してくれないか?」
140: 名前:(㍊゚д゚㌫)@J(ジェイ)J (HackerOF.g)☆09/21(火) 16:09:52 三谷部は東雲に全てを話した。
昨日の塾からの帰り道で東雲が走り去った後、持ち主も含め5人の男達に犯人だと間違われ、来月までに50000000円持って来なければ次は殊子を狙うと脅しを受けたこと。持ち主を含めた5人から聞いた情報提供者のこと。
それら全てを聞き、東雲がある疑問を口にした。「その情報提供者って誰なんだ?」「わからない。ただこれだけは言える。俺と殊子は小学校、中学校、オマケに幼稚園も一緒だけど、あんな奴らは記憶にない。だから、その情報提供者ってのは、確かにいるんだろう」
最終更新:2010年10月12日 19:54