174: 名前:海☆08/31(火) 19:38:32
「……あ、雨じゃん」
雨のしずくが俺の頬を伝った。
ほんの少しだが雨がポツポツ降り始めていた。
「えー、お願いっ後ちょっと外にいたいー」
「えー」
桃子は小さい子みたいに駄々をこねた。
俺は、そんな可愛い桃子に勝てなくなり、ため息をついた。
「……じゃあ、俺病院から傘借りてくるわ」
「わーありがとっ」
桃子は小さくガッツポーズをした。
そんな桃子を置いて、俺一人病院に向かった。
今日の空は、あの日の空に似ている。
176: 名前:海☆08/31(火) 20:01:29
――――日風桃子
目の前が真っ暗な中、風の音と雨の小さな音だけが聞こえた。
優しい雨が次第に強まって、あたしに激しくあたった。
「佐野君……遅いな……」
さっきまで温かかった風が一気に冷たくなった。
身体が寒さを感じているのに気づいた。
あたしは身体を両手でさすり、寒いのを防いでいた。
「も、おっ遅すぎ……」
へらっと軽く笑った。
周りは人の声がしない、あたしにあたるのは冷たい雨。
雨は本降りになり、ピシャピシャと地面に雨が叩きつけられている音が聞こえた。
あたしはギュッと下唇を噛んだ。
178: 名前:海☆08/31(火) 20:18:35
「悪り」
そんな声と同時に、バチバチあたっていた雨があたしから離れた。
雨でぐしゃぐしゃになった顔をあげた。
「こんな濡らしちまって、悪かった」
濡れている頬を、シャツで拭われた感触があった。
この感じ……あれ?
「……どした? 桃子大丈夫か?」
この雨の感じ、この声、この瞬間を
あたしは前にも経験したことがある。
「佐野君……なんだよね?」
「ん? あぁ……」
知っている、ずっと前から、この人の声を知っている。
この感じ前にも、前にもあった。
知らないようで、どことなく懐かしい佐野君の声が響いてくる。
181: 名前:海☆09/01(水) 20:50:33
――
真っ暗の中、誰かがあたしの名前を呼んでいる。
ここはどこ? あたしの名前を呼ぶのは誰?
『桃子』
あたしの手を振り払って走り去る、あなたは誰?
「……っ!」
気がつくと、あたしは病室のベットの上で寝ていた。
いつもの、いごごちの悪い病院のベットにいた。
「夢……」
最近、同じ夢が再生され続けていた。
頭をよぎる記憶。
最近思う、あたしの記憶喪失の中で何か思いだしてない部分がある。
きっと、それは、とても大事なことな気がしていた。
182: 名前:海☆09/01(水) 21:11:39
――
あたしは朝も夕方も夜も皆同じ。
全部、真っ暗で記憶が無くなる前に見ていた空も、もう思い出せない。
あたしは起きたくないあまりベットの毛布に潜り込んだ。
「桃ー起きなきゃベットの中、入っちゃうぞ」
布団の中で寝ているふりをしていた、あたしに向かってそんな大地君の声がした。
その声に反応して、あたしは飛び起きた。
「だ、だ、だ、だめ!」
「ははっ、入んねぇよ」
飛び起きて損した、そう思った瞬間だった。
あたしが黙り込んでると、大地君はあたしの頭を撫でた。
「よしよし、いい子いい子」
大地君の口調から、きっと今大地君は笑ってると思った。
少しでも大地君があたしの傍にいてくれる、それだけで良かった。
でも、どうしても頭から抜けていかない、あたしに響く佐野君の声。
あたし、どうしちゃったんだろう。
183: 名前:海☆09/02(木) 18:18:48
「桃子! 起きてる?」
ドアが勢いよく開いたと思いきや、お母さんとお父さんの張り上げた声が聞こえ病室に入ってきた。
あたしが病院に搬送された時も、こんな感じだった。
「桃子っ落ち着いて……落ち着いて聞いてね?」
「え? う、うん」
完全に落ち着いてないのは、二人のほうだった。
お母さん達は荒れた息を整えてから、落ち着いてから あたしの方を真っ直ぐ見た。
そして、お母さんの方があたしに言葉を放った。
「あのね、実は……――」
184: 名前:海☆09/02(木) 18:50:51
――――佐野優太
コツコツと病院の廊下を歩いていた。
病院は全部が白すぎて、なんだか最近この景色にはあきてきた。
そして今日も、また桃子の病室の前に来ていた。
「失礼します」
「あ、その声! 佐野君?」
いつもよりも高いトーンの桃子の声が俺にとんだ。
その隣には大地の姿がありベットの横の椅子に座っていた。
桃子は、とても何か言いたそうでウズウズしていた。
「佐野君! どうしよう、どうしよう!」
俺が桃子のいるベットに近づくと桃子は俺の裾をつかんだ。
桃子の口元はゆるんと落ちていた。
少し大地の目をうかがいながらも俺は桃子の目線に顔を合わせた。
「……どした? 言ってみ?」
桃子は少し黙ってから、掴んでいた俺の裾を強く握った。
どこか様子がおかしいと俺は思った、その様子が
吉なのか凶なのか見当もつかない。
185: 名前:海☆09/02(木) 19:15:25
「あたし、目治るかもしんない」
桃子は下を向いたまま、下唇を噛んだ。
俺は桃子の言葉が頭の中で、何回も何回も再生され続けていた。
「で、でも桃子の目は失明したんじゃ……」
「まだ、完全に失明したわけじゃないんだって
新しく来た病院の先生が病気も治してくれるかもって」
桃子の目に少しの希望が見えた。
これ以上の幸せは今、考えられないくらいの幸せだった。
最終更新:2010年11月18日 05:54