273: 名前:サスライ☆10/16(金) 18:07:57
【BGM;迷宮のプリズナー】
不愉快だ。
私は、敵の腹に回し蹴りを放つ。しかし、手応えが無い。それは蹴りを入れたのが、いつのまにか脱ぎ捨てられた服だからだ。
そして、視界が傾く。重心がずれたから。
では何故?それは、足に引っ掛かった服の袖を、敵が掴み、回転させる事で転ばそうとしているからだ。
私は咄嗟に、足を服から力まかせに抜いた。服が破れ、私は部屋の壁に飛ぶ。
そして、壁を蹴り、また、他の壁を蹴り、翻弄して、最後に天井を蹴り、上から胴回転回し蹴りで挑む。リズムをとる為に自然と声が出る。
「あうあうああ~!」
「おっと、やらせないよ♪」
敵はまるで、この技を何度も見ていたかの様に、蹴りに合わせて体を回転させて受け流した。蹴りは自然石の床を砕く。
何故か、その回転を利用した裏拳が、後頭部を狙いそうな気がする。記憶と関係あるのだろうか。
私は首のみを動かす事で回避。驚く、避けた事にでは無くて、本当に来た事に。
不愉快だ。
「やれやれ、ブランド物のスーツが大変だよ。全く、乱暴なトコロがあるなぁ、君は」
手刀を放つが、避けられた。そして、敵はバックステップ。ならば追おう。
不愉快だ、これを愉快と感じている自分が!
「トコロで、さっきの台詞ってさ、なんか、エロいよね♪」
訂正しよう。不愉快だ。
274: 名前:サスライ☆10/16(金) 19:52:25
俺はバックステップを取ると、社博士が追って来るのが見えた。
うん、大切だねぇ、三度ネタはしないのは。天童…じゃなくて、天丼のお約束だ。
「あうあ~!」
拳を振りかざしてくる。これで天才なんだから、マジシュール。
そこで俺は、しゃがんで避ける道を選んだ。
しかし読まれていたのか、下蹴りが眼前に迫る。
「フ フフ…」
俺は笑っていた。絶望では無い理由で。
勝者は、深く大きく笑うものなんだ。
下蹴りは、俺の脳天スレスレを通過。何故なら、俺は床にうつ伏せになっていたからだ。
何となく、確信があった。もしも、この戦いのパターンが笑のモノを基にしているならば、当時の笑の思考もするのでは無いか。
何故なら、【強さ】と【心】に境界なんて無い。心は強さになる。それだけだ。
だから俺は、当時の俺は、やらない動きをしていた。
楽しむ動き。戦いで遊ぶ動きを。
さておき、うつ伏せの俺は、社博士の足を握り、思いっきり、上にぶん投げた。ちゃぶ台返しの動きで。
「こんの、馬鹿息子がぁ~!」
「いや、息子ちゃいますって」
雪のツッコミが懐かしいが、今は口惜しくもスルーの道しかないのは、本当に口惜しい。
そして、空中に浮かぶ社博士に、蹴りを放った。後ろは壁だ。逃げられんよ。
275: 名前:サスライ☆10/16(金) 20:20:58
【BGM;悪を断つ剣】
社博士は、壁に蹴りで叩きつけられる。
玄武咆哮を使っているとは言え、かなりの威力の筈だ。そこまでの力で、やる価値があるのか。
あるんだなぁ。
これは、只の喧嘩だ。しかし、だからこそ、尚更に敗けられない。
男の子は何時だって、好きな娘の前では強くありたいものさ。
雪が目の前に居る。それ以上、俺が敗けられない理由なんて無い!
しつこい様だが、二度言おう。心は、強さだと。
ところが、おかしい。
既に決着は付いていても良いのに、何故か社博士には、屈した様子は見られない。
見ると、壁が段々凹んでいる。つまり、身体を通して、蹴りの威力を壁に伝えているのだ。
そして社博士は小さな、薄皮の様に小さな声で言う。
「宗…厳……」
ああ、そうか。
コイツも条件は同じなのか…。
ならば、遠慮なんてしない。俺の持てる力総てをこの蹴りに収束させる!
「WOOOOOOO!!」
「……… あうあうあ~!!」
咆哮による合唱が、地下室に響き渡り、俺の蹴り足の膝から下が弾け飛ぶ。
蹴りの威力に耐えきれなくなったからだ。
鮮血は床に滴り、しかし、俺は確かに片足で立っていた。そして、社博士はベコベコになった壁を背もたれに、動こうにも動けなそうだった。
最後に立っていた奴が勝者。それが、喧嘩だ。
俺は拳を高々と挙げた。
276: 名前:サスライ☆10/17(土) 14:37:19
【BGM;ネジと歯車とプライド】
私は、終わるのだろうか。
壁を背もたれにして、私は腰を丸めた。途端に仮面が落ちる。
裏側にはベットリと、腹を蹴られた時の血が着いていた。
まだ、壊してない。
まだ、終われない。
ところが、目の前の男の笑顔を見ると、それすら馬鹿らしく思えてくる。
男は、軽い笑顔と手を差し伸べて来た。
「さ、手当てするから手に掴まりなさいな」
「……ウセロ!」
私は手を弾く。
私が壊そうとしても、コイツはまた、止めるだろう。
勝っても、負けても、
私は心が折れたから、敗けなんだ。負けたら敗け。勝ったら、片足のハンデで、私は納得出来ない。
永遠に勝てない欠陥品ならば、潔く、この場で終わってやる。
せめてもの、抵抗だ。
白髪や、メイド服の女も手を差し伸べて来たが、私は無視した。
痛みが無くなっていき、『過去』が再生される。走馬灯と言うヤツだ。
沢山の兵士達と、千鳥流で戦う私。
兵士を止めて、研究所を営む私。
何だ?何故、私は違う人間の記憶を持っている。何故、二人の私は、こんなにも一つの想いに囚われる。
「愛…」
ソコに至ると、一つの言葉が、再び漏れた。それの意味は解らない。
只、この言葉を聞くと、力が湧いてくる。
「宗厳……」
「お~い、居るか~?何か凄い音がしたが…」
その時、声がして、声の主は近付いて来た。それは、軍服にマントといった格好。
理由無く、思う。
まだ終われない。と。
278: 名前:サスライ☆10/18(日) 21:46:22
私は何時もの様に紅茶を作る。そして、何時もの様に、シェンフォニー様に紅茶を渡し、セクハラに対しては、カビたミルクパンで、引っ叩いた。
そんな何時ものツッコミを、入れる。
「あれから、結構経ったな」
「…そうですね」
シェンフォニー様は、チタン合金の棒でこしらえた義足で足を組み、顔にえぐれた十字傷跡を付けつつも、頭にカビたミルクパンを乗せながら喋る。
正直、シュールだと思う。優雅なオーラが余計に馬鹿らしい。
「自分からやっといてアレですが。
シェンフォニー様、取り敢えず頭のソレ、取りません?」
「ハッハッハ、雪。
男には、壊したく無い雰囲気と言う物が、あってだな。
ここで気にしたら負けだろう?」
いや、ソレのせいで雰囲気ぶち壊しだから。そんな胸張って、紅茶を飲む様な偉業じゃないから。
「社は、また山か…」
「ハイ。『宗厳に近い所に居たい。でも、隣には居たくない』との事です」
あの後、社(『博士』は本人の希望で取り去った)は、駆け付けた宗厳ちゃんの腕を取り、一命を取り留めたのであった。
てか、シェンフォニー様。なんか、そのパン動いてるんだけど…
直後、シェンフォニー様はミルクパンから出てきた、良く分からない大きな虫と戦う事になった。
どうでもいいけど。
280: 名前:サスライ☆10/21(水) 18:58:56
私は天童 宗厳。
「フフフ…!
来た、キタキタキターー!
作者のバカが一発ネタで作った筈の私に、
とうとうヒロインデビューが来たー!」
思わず指を組んで、クルクルと回りながら、器用に山を登る。これぞ、帝国の誇る人形兵の性能だ!
クルクル回るから、マントが翻る。
マントが木に絡まり、慣性の法則に従い、マントに引っ張られ、そして木に頭をぶつけた。
「キャッア!」
木が揺れて、重力に従い、木の葉の中に入っていた物が木の葉ごと私に落ちてくる。
目の前が緑に埋め尽くされ、木の実やら落てきて、首筋に何か生暖かい反応がある。
「ぁ、ぁ、 そこはダメ…」
頬を火照らせて、無意識に破廉恥な台詞を漏らす私。
い、いや。私はそんなキャラじゃないからな。誤解するなよ!?
「うわ、ワ~~…あれ?」
首を180°回して取ろうとしたら、反応は消えていた。
そして見れば、小柄な人物が虫を掴んでいる。
仮面とシルクハットを被り、中華服を身に付けるその姿は仮装にしか見えない。
「あ、社さん。ありがとうございま…」
「…」
何も言わずに、社さん(博士は止めろと言われた)は去る。
仮面で、表情なんて分からないが、今の社さんの動きから、社さんの感情は分かる。
あれは、研究に行き詰まった時の動きだ。
282: 名前:サスライ☆10/22(木) 18:55:21
私、宗厳は気付けばシェンフォニー宅に来ていた。
内容は勿論、社さんについてだ。彼は、答えに行き詰まっていた。
解放してあげたい。しかし、肝心の問題が分からない。近寄れば何時も拒絶されるだけだし。
「…と、言う訳なのだ。
何か良い案は無いものか、
雪よ」
因みに、シェンフォニーは何か虫と格闘していたが、どうでも良いのでスルーした。
「お~い、宗厳。無視しないで~
うわっ!なんか噛み付いてきた!」
特に、何も聞こえないな。
テーブルで待てと言われて待っていれば、雪に紅茶と、茶菓子にブリオッシュを出された。
そして私は、雪に相談して、現在に至る。
私は、ブリオッシュに手を付けようとすると、急に頭を掴まれ、そして抱かれた。薄い胸に、顔を埋められる。
「あ~、 宗厳ちゃんは可愛いな~、もう!」
「う、ウプ。急に何をする!?」
「俺の拳が当たらないだと!
この虫の、このスピードは一体!?」
最後のは雪も無視して、話を進める。見上げれば、笑顔でこちらを見てくる。
私に母親が居るなら、こういう人が良いな…。
「人と言うものは、馬鹿な生き物なんです」
「虫が残像だと!?くそぅ、ならば見せよう、千鳥流奥義~…」
「自分が気付いていないと言う事の自覚に時間がかかるから。
きっと社は、戸惑っているんですよ…」
「まだだ!まだ俺はあぁ~…」
「笑師範と混ざった自分は何者なのかを。
考えなくとも、人は変わっていくと言うのに」
何と無く背景を見る。
そこには元皇帝が、虫と激闘を繰り広げていた。
283: 名前:サスライ☆10/22(木) 19:16:18
山から景色を見れば、そこには町があって、足元には自然がある。
『私』はソレを見ると和んで、守りたいと思う。
これは、千鳥 笑の記憶だと知っている。
しかし、『私』は誰だ?千鳥 笑でもあり、向日葵 社でもある『私』は何だと言う。
向日葵 社は、自ら仮面を被った。しかし、『私』はコレの行き場に戸惑っている。
なら、私は、向日葵 社を否定している事にならないか?
そんな事を考えていると、後ろから誰かが来た。
それは、社の記憶にある。
「太 子…」
「ハズレ~、シェンフォニーでした~」
髭を生やし、スーツを羽織っただけの太子は、妙に空気が軽い。
「違 う。太子は、太子だ」
「ん、その理屈だと君だって社博士だろ?」
何かしら言い返したかったが、『私』は、彼に勝てないと言う確信があった。
決して、負ける確信では無く、勝てないと言う確信。
総てが受け流される感覚がある。
「…じゃあ、シェンフォニー。何をしに?」
「黄昏れに来たら偶然、君が黄昏ていたんだ♪」
もう、いい。
面倒になったから景色を見る。
仮面越しの景色は見え辛いが。
284: 名前:サスライ☆10/24(土) 14:48:55
山の大きな木の下で、ちょこんと、体育座りで座る…
黒スーツで十字傷の男と、白衣に無口仮面男。
「シュールだ」
「ホント、シュールだねぇ♪」
「…」
「おいおい、ノリが悪いなぁ」
肩に留まる雲吉、俺、しかし隣の社は何も言わない。
まあ、予想内だ。
と、言う訳でBプランに移る。格好良いから今、名前を付けてみた、だけなんだけね。
「社、好きな人は居るかな?」
「…」
む、ツンデレめ。
だが、ソコがいい。と、宗厳が言っていた。
フハハ。俺と社のカップリングを想像した淑女諸君は残念だったな!
「あ、 そういやさ、宗厳に好きな人が出来たそうなんだ」
「!?
…………そうか。どんな奴だ?」
一瞬だけ、電流を流された様に反応して、そして寂しそうに納得する。
おいおい、弱いなぁ~。
「その名は、レアメタル池沼!」
「だ、誰だ!?
誰なんだソイツ!?名前が珍奇過ぎるぞ!」
身を乗り出して追及して来る。お~、凄い力だ。愛の力ってヤツだな。
愛は絶対勝つんだよ♪ぜ~ったい♪
ん、なんだ雲吉、キモいって?良いんだ。言ってみたかっただけだから。
俺はクールに手を払い、言う。
「嘘 だよ~ん」
「…くたばれ」
「痛い!」
足の小指を踏み潰されるのは、キツいモノがある。
285: 名前:サスライ☆10/25(日) 12:00:38
俺は踏み潰された指を押さえつつ、更に反りながらも、義足で跳ねてみせた。
「ま、ま、まあまあ。
お、おおおおおおおおおおおお…落ち着け!」
「お前が落ち着け!」
「そうだな、茶でも飲むか。雪~、出番だよ~♪」
手を二回叩き、木陰から雪が出て来る。社はウワッと、予想通りに反応良好。
そして踏み潰された足から手を離して、紅茶を受け取った。
痛くないのか?本当は色々あるが、大雑把に言えばギャグキャラ補正と言うヤツだ。
「ま さか雪、最初から見てて…」
「さて、レアメタル池沼説が消えたが、実は別に居る!」
「…」
仮面の奥から、殺意の視線を感じるが気のせいだろう(棒読み)。
因みに、雪は始めから居たりする。
「本当は、ダイナミック宮原!
彼はスメルマン東条から、48の殺人技と52の間接技を受け継ぎ、二代目グルメマスター宮原として…」
「くたばって下さい、馬鹿主♪」
「形容し難く痛い!」
俺はスパナの様な物で、潰された指を更に潰された。
消えていない痛みが、二重の痛みのハーモニーを醸し出し…
と、今回はグルメ番組風味に言ってみたさ。
ともあれ、俺は後頭部をかきながら、社に一言。
「まあ、ぶっちゃけちゃうと、社。君なんだよね♪」
「ブハッ!」
「あ、やっぱ吹いたか~。
ハイ、お茶」
俺は茶を、社に差し出した。
286: 名前:サスライ☆10/25(日) 13:41:16
社は、仮面を取って茶を飲む。
童顔な上に、彼はプリティフェイスで、男らしさ気取りの宗厳ちゃんと、バランスピッタリと思う。
シェンフォニー様は問いかける。
社に、気持ちの居場所を。
「で、 ど~なん実際?
宗厳好きじゃないの?」
両手でティーカップを持ち、下を向く社は、
形容するなら、耳が垂れた子犬の様で、お持ち帰りしたくて、美味しそうで…
ハ!?いけない、ついヨダレが出てしまった。
「…宗厳は
……好きだ」
「ほぅ。 なら、良いじゃないか、告っちゃえよ♪」
シェンフォニー様は、親指を立ててウィンクして、形容するなら、目から星を出す。
それを無視して、社は続ける。
「でも、戸惑ってるんだ。『私』は、本当に、向日葵 社なのか。
千鳥 笑が加わる事で、イレギュラーが発生し、彼女を傷付けはしないかと」
「…成る程、それで宗厳から離れてたんだ」
「!?
誰だ!?」
「…井時だ。宗厳じゃなくて残念だったね」
木陰から出てきたのは、待機中に一緒に同人誌を読んでた晶ちゃん。
彼女はチョコンと体育座りをした。
「…あ、お茶ちょうだい」
「はい。今日はダージリンだよ」
晶ちゃんに、茶を渡す。
287: 名前:サスライ☆10/25(日) 14:25:23
ボクこと、井時 晶は、ズズッと茶を飲む。
ああ、良い香りで良い味だ。清々しい気分なので、言いたい事を言えた。
「…社、君は馬鹿だな」
「いきなりソレか。少しは捻れ」
「… 飾るの、嫌いなんだ。
そして、君は馬鹿だ」
重要な事なので、二回言う。素直な気持ちで二回、言う。
「…社は、イレギュラーとか言うけどさ、
社は、自分の何を知っている?
…自分を完全に理解出来る程、人は優しくないよ」
後ろで何やらガサガサ音がする。
「宴会の場所ここだっけ?」やら、
「そうですよ、珍しく当たりましたね、社長」やら、
「社長が当てるなんて、明日は雨かな」やら、
「テメェ等表出ろ」やら、「ヒャッハァ」やら、
そんなのが聞こえるが、ロックンロール宅配便のメンバーが、理由も無く宴会をするだけなので、流しておいた。
「…ボクは、世界が退屈と思ったから、カプセルで眠りについた。
でも、世界って思ったより愉しいんだ。
…だって、奧が深いから」
シェンフォニーと雪とのゴタゴタや、その他諸々。
予想外な事が多くて、そしつ愉しかった。
「…15世紀生きてるボクが言うんだ。
幾ら社が天才でも、それは自惚れだと思う」
後ろでは、社長のジャックが何かやらかしたらしく、アフロヘアーになっていた。
288: 名前:サスライ☆10/25(日) 14:58:08
『私』は、否!私は、紅茶を一気に飲んで、立ち上がる。
何か、目が醒めた気がする。何か、自分に気付けた気がする。
ああ、そうだ。
私は人間。只の人間である、向日葵 社だ!解らない事もある、普通の人間だ。
「おやおや、社。立ち上がって、何処に行くのかな?」
「トイレだ!」
「…うわぁ、下手くそな嘘だなぁ。やっぱり馬鹿だよ」
井時が雪に目を合わせ、アイコンタクトを取ったのか、雪が顔を崩して手を叩いた。
今気付いたんだが、雪よ。
良い顔で笑う様になったな。そして木陰から宗厳が出てきた。
もう驚かんよ。うん…。宗厳の後ろでは、宴会でアフロヘアーになってたヤツがリーゼントになっていた。
「ど、ど、どど、どうも!
この、しょうげ!」
「…落ち着きたまえ」
恐らく、『宗厳』と、言いたかったのだろう。
言わせる為に、茶を渡すが、むせてる。
そしてフゥと胸を撫で下ろし、宗厳は語る。
「こ の、宗厳。
もう、貴方を離しません!」
叫びながら、抱き着いて来た。いや、痛いから。
まあ、ソコが好きだけど、な。
しかし、そんな宗厳も、変化球をたまには使う。多分天然だが。
抱きながらの質問が来た。
「そう言えば、私と別れる時、何て言おうとしたんですか?」
「ああ、あれか…」
抱き返しながら、言い返す。たまには直球も悪く無いか…。
「も し、帰って来れたら、永遠に共にあれる道を探そう。
…かね」
私の胸の中、宗厳は耳まで赤くして、更に抱き着く。私も離さんさ、それに、冗談でも無いさ。
何故だか知らないが、桜が舞った気がした。
289: 名前:サスライ☆10/27(火) 16:52:17
この宴会集団のリーダー格だが、随分と小物っぽい男が、乾杯の合図を上げた。
「んじゃ、新たなカップルの成立に乾杯!」
「乾ぱ…って、ちょっと待ちたまえ!」
この様に、私、向日葵 社は抗議の声を上げたが、現実は非情なモノで、「乾杯」と言う大人数の声に、ソレは打ち消された。
俺を置いて、沸き上がる生気達。楽しさとは異なる、タノシさ。
ああ、もう!勝手にしろ。
「あ~。
社ひゃん、見っけ~♪」
「ん おっ
そ、宗厳!?君は酔っていないかね!?」
「むにゅあ~、酔ってまひぇんてば~
ちょっと、お酒(おひゃけ)飲んだだけで~」
それを酔っていると言うのだ。と、言ったトコロで聞かないだろうから、ここは激流に身を任せ同化しよう。
「と、言うか、シェンフォニーは、どうしたのかね?」
「あ、彼ならトイレに行きましたよ」
猫の様な雰囲気の女性に言われてホッとする。
シェンフォニーが、もしもこの場に居たならば更に掻き回すだろう。
「らめれす~
私以外見ちゃ、らめ~」
宗厳が更に絡んでくる。だが、不快でない。こんな状況は夢にも思わなかった。
そう言う点で、シェンフォニーには感謝しよう。
さて、突然だが、私はこの時気付いて無かった。
雪もこの場に居ない事に。
290: 名前:サスライ☆10/28(水) 19:13:03
山を見ると、迷惑な程に愉しげな笑い声や、奇声がこんな遠くからでも聞こえる。
あれを今度こそ守る。決意を胸に、辰凪館に向かった。
かつて、王剣だった物を取りに行く為に。
帝国は滅んだとされるが、皇帝は生きてると、裏の情報では語られている。
そして、「今何もしないのは、帝国を復活させる機を伺っている」とのガセネタさえある。
そう言った情報を悪化させない為には、皇帝を殺すのが一番だ。
正確には、「皇帝は死んだ」との情報を流すのが手っ取り早く、証拠としてコレを提出するのだ。
コレとは今、辰凪館から持って来た物。
かつて王剣だった物。
豪華絢爛な鞘に入れられた、俺自身に踏み潰される事で役目を失った只の鉄の塊。
これが提出されれば、皇帝が生きていたとしても、帝国復活の志は低いと見なされるだろうし、死んでいるとも、取られる。
レトロな雰囲気の、木製のドアを開ければ、極普通の喫茶店。
しかし、一言で空気は全く別のモノに変わる。
「カウンターの下で出来る仕事を持って来たよ」
店主兼、仲介屋兼、情報屋であり…
丈治をやっている影の薄い人は声を上げる。
「いや、逆だから、シェンフォニーよ」
心を読みおって…
全く五月蝿いなぁ、丈治。ネタにし辛いんだもん。
291: 名前:サスライ☆10/30(金) 00:32:10
「もし、興味があったら俺が行った後に、『ジョージ』に来ると良い。
ネタばらしをしよう」
酔ってるフリをしたシェンフォニー様に言われた事だ。それを私は呆れると同時に、嬉しく感じた。
隠し事をしているのだろう。しかし、それをアッサリと言ってしまっては面子が立たない。
そこで、こんな回りくどい事で言おうとしている。
ホント、格好付けだ。
格好良くない格好付けだ。
隠す事を格好良いと思っているのだから。
だから嬉しかった。シェンフォニー様が私を頼る様になってくれた事に。
今までは、隠し通すだけだったから。
それはシェンフォニー様が変わったか、私がシェンフォニー様と肩を並べられる程に成長出来たかは解らないが。
私は、シェンフォニー様が席を発った事を確認すると、私も席を外す。
山を下って向かうは、勿論『喫茶店ジョージ』。
良く言えばレトロな雰囲気、悪く言えばボロ臭い雰囲気の扉を開ければ、私にとってのレトロな雰囲気がある事に気付く。
緊張した空気だ。
シェンフォニー様の持ち物を見れば、王剣だった物。何となく理解出来て目を細める。
「雪、 か…。
やっぱり来たんだね」
敢えて何も言わない。
下手なツッコミは場の空気を壊すだけだし。
292: 名前:サスライ☆10/30(金) 00:55:14
既に喫茶店に来ていたシェンフォニー様に、私は、問う。
「シェ ンフォニー様、『ネタばらし』とは一体?」
「ああ、そうなんだよ。聞いてくれよ~」
啖呵を切ったように口早く、生き生きと話し出す。
それが愚痴か贖罪かは、解らない。しかし彼は世間話の様に話す。
言えるのは、そこに彼の生き様が詰まっていた事で、言葉はどうにも重かった。
シェンフォニー様の裏の仕事、『情報屋兼仲介屋ジョージ』、その他諸々…。
私は関心した様に頷いて見せる。何となく予想はついていたからだ。
「で、それを話してどうするんですか?」
「うん。
コレを、情報屋に渡して、皇帝が死んだ事にすれば今度こそ帝国は滅びる」
見ると丈治さんが居る。うわ、影薄いな。
まぁ、そんな解り切った事は兎も角、シェンフォニー様は私に微笑みを向けた。
「見ててくれないか?帝国の最期を。
俺だけじゃ流石に味気無いだろう?アンコの入っていないアンパンの様に」
「それって、只の生地ですよね。
まぁ、頼まれずとも見届けますとも。私の立会人としての役割はまだ、続いているのですから」
私も微笑みを浮かべる。
ところで、客観的に見れば「ウフフ、アハハ」な光景なのだろう。ほら、丈治さん砂吐いてるし。
293: 名前:サスライ☆10/30(金) 01:23:54
王剣だった物は、丈治に手渡し、俺達は山に向かっていた。
「え?出番これだけ!?」とか言う丈治の意見は、スルーさせて貰う。この世は甘く無いのよってね。
「…で、これからどうします?蓄えだけじゃ辰凪館の維持も出来ませんよ?
オヤツはブリオッシュから、イモケンピになっちゃいますよ?」
俺は裏の世界から身を引いた。雪も居たし、調度良いと感じたからだ。
しかし、確かにこのままじゃ、予算不足だ。
俺のオヤツはイモケンピになって、井時の食事はアンコの入っていないアンパンになってしまう。
ま、それも計算済みさ♪
「いやね。
この島の町長と、あるコネで知り合いになってさ、どーやら、役所を手伝って欲しいんだ」
「町長…確か、新木とか言う人でしたっけ」
この時、「あれ?学校に行った時、そんな感じの名字を持った珍獣に合った気が…」と、雪は思ったそうだ。
「後は、千鳥流の人体操作システムを利用した、薬とか作って、辰凪館に売り場を作って、井時にでも店員をやらせよーかなー…
とか考えてる」
「晶ちゃんに売り子が出来ますかねぇ…」
笑顔の井時か…。怖っ!まぁ、夕方辺りまで雪で、そこから井時って感じにしようと思ってるけどね。
「ま、何はともあれ、これからが、忙しくなるぞって事だ。雪、付いてきて来れるかな?」
「馬鹿にしないで下さい、勿論です!」
そして俺は駆けると雪も付いて来る。俺と雪は、二つで一つの存在だと思った。
嗚呼、俺が居る。雪が居る。そして、何かがあれば、何か起こる。
タイトルでもつけるか。
『銀 田一 雪さんとシェンフォニー様と後、なんかの話』
ってね。
…センスねぇなぁ、取り敢えず、山まで向かって走る事にした。
その後俺は、ズルズルと町長を任されてしまったり、井時の笑顔に、凄く怯えたり、ヒゲの形に悩んだり、雪にセクハラして鉄パイプで殴られたりするのだが…
それはまた、別の話と言う事で。
294: 名前:サスライ☆10/30(金) 01:26:35
fin
御愛読、ありがとうございました。
保管人りー:元スレのほうで、ときどき番外編を更新されているそうですよ
最終更新:2010年05月08日 18:00