風来坊いろは唄 続き2

51: 名前:サスライ☆03/08(火) 21:47:37
 二人が動いた。暗殺課の銃弾が、上かつ対象を直視出来ない戦略を以て飛んできた。
 それでもハンプティに銃弾は当たらない。それは彼の武器が銃の引き金を引くよりも速い動きで放てる物で、威力が申し分無い物だから。
 彼の一撃は、暗殺課の身体に当たり、銃弾の軌道を反らしたからだ。

 暗殺課の攻撃のぶつかった箇所には傷跡がしっかりと残っていた。
「威力が、変わったね」
「ああ。この俺様の『無敵銃』は威力が変わるんだ、『マグナム』じゃ駄目だったから『ショットガン』だ。どんなもんじゃい

 嘲笑一つ、黒と赤の混ざった色が橋から落ちた様に降りた。落ちたと見なさないのは、着地の時も嘲笑しながら銃を構えていて隙が無いから。
 逆光の邪魔が入らない分はっきりと見えるのは、『ショットガン』の跡で、それは銃撃と言うよりも、何か鈍い刃物で斬られた鋭利さがあり、そこに赤い液体がベトリと付いていた。
 それを掌に付けた暗殺課は、ニヤリと笑った。
「成る程、君の武器の正体が解ったよ。成る程、君には本当に精霊が付いているのかも知れない。いやはや愉快だ。
『無敵銃』、つまり敵の居ない銃。しかし銃を携帯している以上敵意を消す事なんて不可能だ、ならば何か」
 先程の冷徹な顔が豹変とも呼べる程の一変した顔で、玩具を与えられた子供の様に弾む声で語る。
「超高速の拳から放たれる『風』。それが『無敵銃』の正体だよ。
恐らく、『マグナム』は風を含み易い掌底。『ショットガン』はピンポイントの握り拳では無いかな?」
 ハンプティは語らない。肯定だから、せめてもの彼なりの意地だ。




52: 名前:サスライ☆03/22(火) 18:49:01
 暗殺課が嬉々して手を振ると、パキンとガラスが割れる様な音がして、ハンプティの足元の石が砕けて、そこには小さなクレーターが出来る。
「私は驚かなかったよ。何故なら、ソレを私も出来るからだ」
「ふーん、『サイボーグ』か……」
 ソコを当てると何故か暗殺課の笑みは深く、より薄気味悪くなった。
 『マグナム』では金属音がして跳ね返されるのは体内に装甲を仕込んであるから。また、それはどの様な素材か解らないので、マオが奪った『蝙蝠七型』で後ろから奇襲を仕掛けるのも不可能だ。
「私以外にサイボーグが居るのは驚いたが、そこまでだ。最新型の私には勝てないよ」
「ヘーソウナノカー」
 ハンプティは面倒臭く、ダルい相槌を打つと更に暗殺課は舌を動かした。
「私には過去のあらゆる基本的なサイボーグの構造がインプットされており、相手をサーチする事で亜種を含むどの様な型式にも対応出来る!」
「ヘーソウナノカー」
 暗殺課の目が赤く光り、光はハンプティを包んで、ハンプティの構造を解析した。そこから得られたのは恐ろしい結論だ。
 暗殺課は耳まで青く目から笑みが消える等、表情が一変した。
 ハンプティはフウと肩の力を抜くと、光を放つ赤い目を魂の隠った黒い目で睨み付ける。
「成る程、お前がビックリドッキリメカってのは良く解った。
だけどな……」
 グッと拳を握り締めて言う。
「ゴチャゴチャうっせえ!」

 ハンプティのサーチ結果:無改造(生身)




53: 名前:サスライ☆03/23(水) 10:16:00
 例えば、貴方(もしくは貴女)が上官に竹槍を持たされたとしよう。そして空を飛ぶ戦闘機を指差して「アレをソレで撃墜してこい」と言われたら無茶だと思うだろう。何故なら実際に無謀だからだ。
 ハンプティが今やっているのは正に『ソレ』だ。相手は外見こそヒトなれど、その実像は兵器が服を着て歩いているだけだ。しかし兵器を使うのは人間で、故に脳は生身だ。
 だから暗殺課は戸惑っていた。前例が無い。彼は戦車もロボットも相手にして来たが、自分がサイボーグと知りながら殴りにかかる人間には会った事が無い。
 さて、先程の竹槍の例だが、実はある伝説がある。ベトナム戦争の話だ。
 戦闘機の弾が切れたからと手元の竹槍を取りハッチを開けた状態で突撃し、すれ違いの瞬間、敵戦闘機のハッチに飛び掛かりガラスを突き破って本当に撃墜したと言う伝説だ。
「WOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」
 バーンと冗談にも近い様なドラ音。車が人を跳ねた様な音がする。
 そこにあるのは、ハンプティの拳によって2メートル程吹き飛ぶ暗殺課が居た。それは人間サイズの金属の塊の筈なのに。
 解せない面持ちで地面に叩き付けられる暗殺課に向かって、ハンプティは一言吐き捨てる。
「人間舐めんな」




54: 名前:サスライ☆03/23(水) 11:01:02
 古代に発達したアニミズムと言う思想がある。万物には精霊が宿り、それが世界を作ると言う、後の神道に繋がる考えだ。
 ハンプティの技はその精霊を『流れ』に例えている。この世は様々な流れが組み合わさり方向性を持つと言う考えで、古代の人は思想を深める過程で体内の循環系等の『流れ』に行き着いた。
 それを操作しリミッターを外して人間の持つ力を最大まで引き出す。反動は循環させて副作用を極限まで抑える。そんな技だ。
 また、大気の流れ(振動)のズレを察知して遠くの声を聴いたり、声を超音波状に凝縮して遠くに声を行き届ける事も応用がある。

 暗殺課は顔を引き締め、空気の弾を放ったが、食らわない。避けられた訳でも無い。大気の流れを読まれて、拳で撃ち落とされていた。
 更に顔を引き締め、暗殺課の全身が文字通り開いた。大量の小型ミサイルが顔を出して、煙で軌跡を描いて放たれる。
 命中を確認して爆発音の後、煙が上がる。表情を少し緩めた暗殺課は、その瞬間に目を見開いた。目の前にポケットに手を突っ込んでニカリと笑うハンプティが、二本の足で立っている。
 剛体(特殊な引き締めや訓練で身体を堅くする技法。古流空手等に見られる)で受け止めた後、筋肉を振動させて衝撃を受け流し、血流を操作して残った力を受け流していた。
 暗殺課は舌を回らせる。
「嘘だ、人間がミサイルに勝てる訳が無い。絶対何か仕込んでいるだろう。もしくは、実は人間じゃ無いだろ!」
「いや、俺は人間だ」
 暗殺課は再び空気弾を放つ程のスピードのパンチを放つが、技その物が型に嵌められた上に流れを読む見切りの達人はそれを軽く避けて、ポケットに手を突っ込んだまま顔面に足でカウンターを叩き込んだ。
「面倒くせえなあ。自分の常識でしか理解しようとしない人間は。
良いか?夢もロマンも無くしたポンコツ野郎……」
 右上段蹴りから右正拳と、かなりデタラメな繋ぎをして、吹き飛ばし石橋の柱に叩き付け言う。
「ヒーローってのは無敵なんだよ!」




55: 名前:サスライ☆03/23(水) 17:11:17
 叩き付けられ起き上がった暗殺課は再びサーチアイを使った。衝撃の為か点滅している。
「やっぱり……生身……オカシイ。誤作動としか……あれ?」
 ふと彼は周りを見た。ハンプティが居る。ローブの一部を破って包帯代わりにしているマオが居て、隣に庇う様にメイが居て、そして悶絶しているメイを狙った工作員。
「まさか、貴様は何の関係もないのか?」
「やーっと、気付いたかポンコツ」
 言い捨てられた途端に暗殺課はブランと手を下に落として顎を上に向けて、高笑いし出した。
「なんだ、只の『勘違い』だったのか。アハ、アハハハハハハハハハ!」
 笑う。天に向かって、虚空に向かって、感情の行く当ても無くして只笑う。目は笑っていない、しかし人間としての彼は笑う事しか出来ない。

 今まで無敵の身体で、蟻を潰す様に任務をこなしてきた彼には大失敗の経験が無い。もしかしたら、失敗だったのかも知れない任務も力でねじ伏せて来た。
 だから、現在の様に自分にとってどうしようも無い失敗に対するストレスが激しいのだ。

 突然笑い止む。そして不気味に笑った顔をマオに向けた。目を文字通り光らせるそれはまるで、亡霊にも見える。
「任務、果タサナクチャ」
 憑き物よろしく両腕広げてマオに襲い掛かる。




56: 名前:サスライ☆03/23(水) 17:45:41
「んなっ、待ちやがれ!」
 ハンプティは暗殺課の背中に向かって『ショットガン』を放つ。しかし、幾ら傷付いても止まろうとしない。

 マオ。彼女は何時だって従ってばかりだった。従わなければ、痛い事をされるから。
 だから何も考えていなくて、突然自由を与えられて戸惑い、メイの様な『普通の同世代の女の子』と何を喋れば良いか解らなかった。

 ハンプティに会ってから彼女は変わった。ハンプティの様な自由な生き方が羨ましく、そうなりたいと言う気持ちが出来上がっていた。
 それは流されている訳でも従っている訳でも無い。だって強制はされていないのだから。

「雄々々々々々々々!」
 叫び、無我夢中で庇うメイを押し退け、今度こそ何の力も無い人間が兵器に立ち向かう。
 先ず右腕による薙ぎ払いがあった。それを予想し、しゃがむ事で回避。次に下段突きが地面に向かって放たれる。それを突きと同時に上に持ち上がる右腕にしがみつき、回避。
 だが、暗殺課は相変わらず笑っている。その三日月型の口がめくれ上がり、内側から小型のガトリング銃が伸びてきた。
「終ワリダ」

 人は、強い者に憧れて強くなる。それは弱い自分に打ち勝つ為かも知れない、強さへの憧れかも知れない。取り敢えず、マオにとってのハンプティがそうだった様に、その情景を人は『ヒーロー』と呼ぶ。

「覇!」
 マオが駆けた。飛び出して来たガトリングの銃身を掴み、右腕を蹴り空中ブランコの様な曲芸を見せて素早い回避を見せた。そして、蝙蝠七型を『ショットガン』で傷つき血の出ている少なくとも生身の箇所に照射した。
 暗殺課の腕が爆ぜて、バランスを崩す。体勢を持ち直そうとするが、現れた影にムンズと髪を掴まれた。
「何、逃げてんだよ。そんな馬鹿にゃー……
(威力が)ロケットパーンチ!」

 暗殺課はぶっ飛び、川に落ちた。水しぶきが舞って、虹を作った。


58: 名前:サスライ☆03/26(土) 03:33:30
 ポカンと口を開くメイは、状況に着いて来れていなかった。何故なら謎解きの時点で立ち止まり、今何をやるべきかが見えていなかったから。
 守ろうとしたマオは、何時の間にか自立している。結局自分の立場は何なのだろうと思った。

 そこまで考えた所で一つの事を思い出す。『マオは本来自分を殺す可能性があるからジュウザはハンプティを当てた』と言うことだ。
 しかし、それはハンプティにホテルで否定された。ハッとする。ジュウザは『色々面倒な事が起こるから』と言っていなかったか。

 と、言うことはジュウザは自分がこの工作員に狙われる事を知っていたのか。そこで謎の枝が伸びる。
 では、何故一般人であるメイを狙うのかと。
 そこで思い至ったのがジュウザの台詞『コイツラは戦争したがっている』だ。しかし、マオに『何が狙い』だと聞いた。と、言うことはマオは
『戦争の切っ掛けを作る役割を持っているが、その内容は聞かされていない』と、考えても良いと思う。

 その切っ掛けとは、一般人の殺害では無いか。市民が殺されたとなれば国として動かざるを得ない。
 だが、それは穴だらけの推理だ。何故なら、マオとメイが出会ったのは全くの偶然で、尚且つマオの必要性が無い。
 そこで悩んでいる時に、脳内から聞き慣れたササヤキの笑い声がした。

「クックック……。
悩んでいる、悩んでいるねえ。しかしこう言うのも考えられるよね?
あの警察が実は……」


60: 名前:サスライ☆03/28(月) 16:13:15
「……って事なんだけど、どうだろ?」
「成る程、確かに自然だわ。それならマオに『接触しろ』の命令を与えれば何とかなる」
 ササヤキの論を聞いて、メイは納得した。勿論これは推測に過ぎない、しかし事実の裏付けが生々しかった。
 元々伏せている目だが、メイは更に伏せる。顎に指を当てながら。

「クックック、流石に疑問に感じて来たね。
本当にササヤキとは自分なのかと」
「ああ、だってアンタは私の知らない事を少しだけ知っていたし、頭の使い方も狂気とはまた別の物だ」
 瞬間、メイの脳裏にほくそ笑みを浮かべる自分の顔が浮かび上がった。これはササヤキの見せる像だろう、故に自分ではない。
 少し自我を強く持った。すると像が霧散して、霧が自分の中に僅かに吸収されてササヤキの知識が入ってきた。

 ササヤキの知識は断片的な物しか無く、そこに繋がりは無い。つまりササヤキ本人も自分自身がよく解っていないのだろう。
 意外に、人格が見せる狂気の様な物は見当たらなかった。変わりに見付かったのは誰かを守ろうとする強い意志の記憶。朧気だが。
 そして最後には一つの名前が出てきた。それがササヤキの本名かは解らない、何故ならササヤキの知識内にもそれに関する知識の繋ぎ目が見付からなかったから。

 その名前を、『サーパ』と言った。




61: 名前:サスライ☆04/05(火) 03:19:40  

†††第二章・完†††




62: 名前:サスライ☆04/09(土) 17:11:42
 第三章 メイ

 あれから、工作員はハンプティが暗殺課を説得と言う名の脅迫をして身柄預かりと言う事に。暗殺課その物は『存在しない筈の課』と言う事なので、ハンプティは、殴ろうがカツアゲしようが傘泥棒しようが罪にはならなかった。
 そしてマオは、少しだけ人と接する様になった。

「ちょ、陸ガン地上ダッシュ早すぎでしょ!」
「……玄人気取りでシャアザク使う方が悪い。三倍使って特攻とか無いわあ」
 今はハンプティの持っていた携帯ゲームでメイと遊ぶ程の仲だ。只、当のハンプティはと言えば渋い気を放っていた。
 マオの身柄はハンプティが預かる事になり、メイは頻繁に通う様になった。その為、ハンプティの部屋は大所帯になっていたのだ。
 しかも女二人に男一人と、一見羨ましい状況に見えるが、異性に対して女性は本能的に線引きをしているので話に入る事が出来なくて渋い気を放ちながら新聞を読む位しか出来ない。

「クックック……頑張れよ」
 ふと、ハンプティにメイの声が響いた。しかし肝心のメイは携帯ゲームにふけっている。そこで彼は一つの結論を下して小声で呟く。
「『サーパ』か、今はメイに憑いてるのか」
「さあ、私にはよく解らないよ。まあどうでも良いんだけどさ」
「そうだな、じゃあ昔話もよそうか。それよりも今回の件、やっぱりジュウザにやられたって言う警察さ……」
 お互いに一息置いて、少し思考を手繰り、やはり同じ結論に至る。
「隣国に亡命する気だったヤツだよな」
「あ、君もそう思った?クックック……」
 新聞には、どうでも良い罪で、かなり小さく、その警察が有罪と出ていた。




63: 名前:サスライ☆04/09(土) 17:42:25
 マオが殺されれば国際問題になり、戦争の引き金になる。マオがどの様な人物だったかなんて幾らでも作れるのだから。
 もしも警察が『マオを殺せ』と指令を受けていたとしよう。行うには自分の身柄が保証される必要がある。
 そこで隣国が破格の条件で亡命されれば『マオが殺された』と言う問題は国に擦り付けられる。
 ハンプティは元気なマオに目線を少しだけよこすと、彼女は少しだけ反応し、しかしゲームに意識を戻した。
「あー、もー!ライフル連射利きすぎ、量産機だろお前」
「……量産機だからこそ、無駄が無いのさ。くらえジムキック!」
 マオは、何だかんだ言いつつ実戦を積んだ兵士の様な物だ。それが果たして平和ボケした警察にやられるだろうか、いや、無い。
 そして警察を返り討ちにしたマオは逃げようとするが、暗殺課に掴まり秘密裏に処分。
 『自国民は殺され、隣国民は殺された』の事実は隠される筈だったが、マオの後をつけていた工作員によって公開。
 その後隣国と自国による外圧内圧から戦争に発展。これが隣国の描いていた計画と、二人は仮定した。
 そして、警察殺しが成されなかった為に殺しのターゲットをメイに変更。そして暗殺課は『隣国の工作員』を秘密裏に処理する筈だったが……
「馬鹿なヤツだったなあ、アイツ」
「クックック。
まあ、マオと君が並んでいたら、ねえ……」
 暗殺課の冷酷なドヤ顔を思いだし、薄ら苦笑いを浮かべた。




65: 名前:サスライ☆04/09(土) 18:22:27
「そう言えば、マオは何時まで此処に居るの?」
 ゲームも脳細胞が焼き切れる位にトランス状態を越えて冷却された状態。一段落ついた状態で、メイは何気無く問うた。
 するとマオは目をやや反らす。自分でもよく解らないからだ、そこでハンプティに聞いてみれば今度はジュウザに聞かなきゃ解らないとの事。
 そこまで不確かに言って、『しかし』を付ける。
「まあ、そんなモン形式に過ぎねえや。そんな約束された覚えもねーし、守る義務も無い」
 随分薄情な話だ。抑制力として働いていたハンプティが居なくなればこの国はどうなると言うのか。
「クックック、たかが旅人に頼らなければ支えられない国は、国としてどうかな」
 ササヤキに言われて、メイは言葉を返せなくなる。新聞から意識を外し、ハンプティはメイとマオを広い視野で二人同時に見ると、語る。
「ま、この先のマオは新しい故郷を見付けるまで俺と一緒に旅ってトコかな」
「んなっ!」
 途端にマオの顔が赤くなって、ハンプティに食らい付きそうになる。するとハンプティは『じゃあ止めるか?』とニタリ笑い、マオは『いや、そうじゃなくて、その……』と、モジモジと身を縮こませた。
「あーあ、マオに先越されちゃったね」
 余計なお世話だこの野郎。メイはササヤキを心の中でぶん殴った。




66: 名前:サスライ☆04/16(土) 12:59:28
 渋味を通り越した、いぶし銀を通り越した、何かの境地とかの心境のハンプティは、実はジュウザの事が気になっていた。
 勿論惚れ要素とかそう言うBL的な物では一切無い。これをウザいと思うなら負けだと思う。
 さて、ジュウザはマオをメイに差し出した後にあっさり引き上げたが、何故ハンプティに預ける必要があったのか。人が物を任せる時は、成すべき事がある時と相場が決まっている。
 ジュウザは一体何を成そうとしていたのか?

 マオの話ではマオが警察(スパイ)に会ったとき急に痛みが走り塀に叩き付けられた。その後、かすかに逃げる警察が見えたとの事。
 メイの話では警察は靴底の染みにされた事から話は繋がる。繋がるが、『起点』が無い。
 一体何を以てジュウザは警察とマオを敵と見なしたのか。いや、そもそも何故偶々立ち寄っただけのハンプティを『居る』と知っていたのか。
 詰まる所、ジュウザは今、『何者』なのかが全く掴めない状態だ。

「あいつは昔からよく分からねー性格だからなあ」
 呟くと、一つの記事が目に入る。隣国にこの国がついつい無償で財布を開いてしまう話、その記事の下にとある集まり(何の集まりかは載っていない)が、皆殺しされたと小さく載っていた。
 全員、鋭い刃物の様な物で斬られていたらしい。




67: 名前:サスライ☆04/22(金) 01:16:57
 この記事に関しておかしい所がある。大事件だと言うのに大して取り上げられていない事、何の集団か取り上げられていない事。
 更にこの事件の凶器は刃物だ。顔をグシャグシャに潰さない限り身元が解る可能性は高い。
 となれば、『口封じ』の可能性がある。新聞に上から何らかの修正が入っている。これは、フィクションを制限出来るならば十分可能だ。
 フィクション制限は基準が曖昧だ。だからこそ、気に入らなければ如何様にも制限出来る。

 と言う事は、この集団は公になれば『上』にとって何らかの損があると言う事だ。
 そして『皆殺し』と言う事は、その集団に対して敵対しているモノがある可能性が高い。

「……やれやれ、また疲れる事になりそーだ」
 ハンプティは新聞から目を放して首を鳴らして腕を伸ばした。
 それを聞いて、さっきまで某ロボットアクションゲーム(この国ではR18)をしていた二人は、ハンプティを同じ表情でポカンと見た。二つ並ぶと中々シュールだ。
「ハンプティが……」
「……『疲れ』た!?」
「よーし、お前等そこに並べブン殴る」




68: 名前:サスライ☆04/22(金) 01:36:21
 推理の結果を二人に話すと今度は対称的な顔をした。解と悩だ。マオはすんなり理解出来たら、メイは納得がいかないらしく頭を捻って眉間に皺を寄せた。
「う~ん、何となく解るけどフィクションの制限とは関係無いんじゃない?」
「いや大有り」
 新聞を片手でクルリと丸め、もう片手でポンと叩く。
「フィクションって、何だと思う?」
「え、そりゃ創作じゃないの?」
「ふうん、本当にそう思うか?」
 ハンプティは、かなり真剣な目で言った。その眼力は冷やした針金が身体の芯まで突き刺さり貫通する様な感覚を与え、思わず自分に疑問を持つ。
「え、違うの?」
「いや、本当だ」
「よし歯を喰い縛れブン殴る」

 怨み増し々々で、脳天をメイにポコンと殴られた後、説明を続けた。
「でだ、創作が何で制限されるんだろうな。高が脳ミソで作った事で現実じゃねーよな」
「それは、悪影響のある物が『出版物』として出回る可能性があるからだよ」
 そこら辺はスンナリ通る。学校で習ったから。
「そうだよな。
つまり、それがまかり通るならば、『悪影響のある出版物』と『上』が『判断』したなら幾らでも処分が可能って事だなあ」
 だから、ハンプティはこれを『上』が関与した記事だと感じた。
 そしてメイは、どこか薄気味悪い感触を与えられた。




69: 名前:サスライ☆04/24(日) 14:34:17
 ハンプティに向かって、今まで黙っていたマオは言う。
「……ねえ、暗殺課の人に連絡取れるかな」
「取れるけど何で」
「……なあに今新聞をちょこっと読んで考えたんだけど、もしかしてその新聞の集まりって、隣国関係者の集まりなんじゃないかって」

 マオの考えはこうだ。ジュウザはマオと警察の邪魔をした。マオと警察の共通点は『隣国関係者』と言う事だ。
 だとすればジュウザは隣国への敵対組織に所属している可能性が高く、暗殺課ならばその集まりが何かを知る可能性が高い。
 数秒ハンプティは考えたが、茶色の革製の財布から硬貨を取り出すと指で弾いて空中で掴む。
「成る程ね、まあ、やるだけやってみるか」

 この国に公衆電話は少ない。何故なら、小学生に至るまで殆どが携帯電話を持っているからだ。フィクションを取り締まる法令はある癖に携帯は取り締まらないのはおかしな話だ。
 そう思いながらホテルに付いてる公衆電話に硬貨を入れて、無理矢理聞き出した番号に電話した。
「マオの仮説が正しけりゃ、この新聞で殺されたのは隣国へ友好的な人間って事になる」
 しかし、それは電話の結果NOになる。




70: 名前:サスライ☆04/26(火) 09:40:35
 暗殺課の男は、普段は良い役職なのか最初はかなり偉そうな態度で電話に応答したが、ハンプティだと解ると梅干しの様に態度も口も縮こまってしまった。
 要件だけ伝えろと低い腰で言われたので、伝えたら寧ろ新聞で殺された集団は反隣国派だと言う。
 最近調子付いている隣国への対策を練るための集会を狙われたとの事だ。
 益々解らなくなったので、ジュウザの存在を伝えると意外な答えが帰ってきた。僅かながら、知っているらしい。

 この国の政界は、隣国派と反隣国派に分かれていて、その両方を過激かつ秘密裏な手段で妨害する連中が居るらしい。
 暗殺課もその行方を追う為に活動費が増え活発化し、今回ハンプティを襲ったのはその情報もあっての事。

「成る程なあ、つまり隣国派と反隣国派。更に第三勢力の三竦みの状態な訳だ」
「そうなのですが……ふむ、どうした。何、少し席を外しても宜しいでしょうか?」
「うん、良いけどどうした」
「少し目を放した隙に、捕らえた工作員と捕らえたスパイが……」
 窓の外をカラスが飛んだ。おまけに道路を黒猫が横切り、ついでに通行人の履いてた下駄の鼻緒が切れる。そんな不吉のトリプルコンボで、放たれたのはやはり不吉な言葉だった。
「殺されました。鋭い刃物で斬られていたそうです」




71: 名前:サスライ☆04/27(水) 09:20:19
 ハンプティは電話を少し外して、これからコンビニ行かないか宜しく軽い口調で重い事実を告げた。
 メイは動揺を隠したくても隠せなくて、自分だけ驚いているのが馬鹿みたいにも思える。でも、人が死んだ。ある時には確かに自分の人生に関わっていた人間が死んだ。
 今、世界中で戦争が起きている。今、新聞で人が死んでいる。今、道路の電光掲示板が交通事故死亡者を一人追加している。
 それは当たり前の事で、一々動揺していなかった。決して死に慣れている訳では無い。
 死と言う事実が単なる情報として軽く扱われている事に麻痺しているだけだ。まるで雷の原理を説明出来る癖に天災としての恐怖に敬意を祓わない様に。
 故に、彼女はその『未知の存在』を受け止めず恐れとしてはね除けるしか無かった。

 ワカっていたのにどうすれば良いか解らない。思うと、ササヤキが口を挟む。
「クックック。それは本当に解っていたのかな。いや、ないだろうね。
君は何時だって何も感じて知ろうとしない、少なくとも記憶ではそうなっている。
だから、君は誰も自分を解ってくれないと勘違いしているんだ。知ろうとしていないなら中身が何も無いに決まっているじゃないか。
それなのに『私を解って』なんて何様だい」




72: 名前:サスライ☆04/29(金) 02:10:40
 しかしジュウザの事を何も解らないのに、犯人と決めつけるのは何事かと思う。
「クックック。
でも、インパクトを抜きにしてもジュウザ以外に犯人だと考えられるかい」
 グルグルと考え、様々なパターンの枝を生やしてみる。しかし、どうしても途中で詰む事に気付いた。
 そして自分自身認めつつある。人を疑うなんて前の自分なら何も思わなかったのに、此処に居る総ての人を信じたいと言う想いが自己嫌悪を催していた。
 人を信じれなくなったら、人間は終わりだから。
「クックック。それでもジュウザを確保して損は無い、彼は言い訳はしない人間だろう」
 ササヤキに言われ、メイ自身そう思う。確かに罪を犯した疑いをかけられるのはあるだろう。だが、本人に直に関わって事実と判断し、納得して固まった人格に疑いは無い。
 百聞は一見に如かず。百見は一納得に如かずだ。

 それに、まだジュウザが犯人と決まった訳じゃ無い。確保する事で彼は無実と証明出来るかも知れない。兎に角、動かない事には始まらない。故に、先ずは口を動かして、始めた。
「ねえ、取り敢えず現場に言ってみようよ。痕跡からジュウザの居場所が解るかも知れないから」




73: 名前:サスライ☆05/02(月) 14:54:14
 ハンプティは革のマントを羽織って、カウボーイハットを被る。何してんのと聞けば、身だしなみと答えてメイには彼のセンスがよく解らなかった。
 しかし隣でマオは「格好良い」と目を光らせる。これは、もしかするとおかしいのは自分ではないか。そんな不安が大魔王の陰謀の様に渦巻き目をゴシゴシ擦って再確認。
 途端メイはガックリと肩を落として顔を覆った。やっぱりこんなのおかしいよ、何で人同士は解り合う事が出来ない。
 しかし解り合えない事に何が問題がある。そうだ、ある。解り合えないから人は争いを生むのだ。
 ならば自分は争いを生まざるを得ない。因果とは逆らうべき物では無いのだから。そう言うわけで両手を大きく広げてハンプティに飛びかかった。
「うきょー、覚悟!」
「!?」
 ペチンと叩き落とされる。床に顔を埋め、何だコイツと侮蔑の目で見られる事にどこか間違いを感じていた。
「くそう何がおかしい」
「主に君の思考回路が」
 ササヤキに突っ込みを入れられて納得する。こうしてメイはまた一つ成長したのだった。

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最終更新:2011年07月03日 14:26
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