番外編⑥
※コラボネタです。 文:かずい様 コラボ作品:「どうして 変態 なんですか」
《小5 愁目線》
「ねーねー、六年生にめちゃくちゃカッコいいけどめちゃくちゃ変な人がいるんだって!」
近頃の女子の間で話題となっていることだ。
「変ってどういう風に?」
僕はその人を知っている。
「何かねー、プール全裸で入ってたり男の子でも先生でもセクハラしたりするらしいよ」
「何それ! キモー」
…嫌というほど。
「もう、いい加減にしてポスター作ってよ!」
「愁が裸でオレの上にまたがっててくれたら3分で作り上げてやるよ」
中田慎也は僕の一つ上の先輩。で、同じ保健委員。
"手を洗いましょう"と生徒に呼びかけるポスターを製作するために教室に二人残っているわけだ。
が、実際作っているのは僕一人。
中田くんはというと、
「触らせろよ少しくらいー」
意味無く僕にセクハラもどきをしてくる。
「こーんなキレイな顔してるんだから、触んなきゃもったいないぜ」
「ワケわかんないこと言ってないで手伝ってってば。帰られなくなるよ?」
「愁となら学校にお泊りでもいいぞ?」
中田くんは常にこんな感じだ。
しかも僕だけにじゃない。誰にでも。
僕は仕方なく何されても中田くんを無視することを決め、ポスター製作に専念した。
「ちっ、つまんないなー。あ、そだ」
無視無視。いちいち取り合ってたら時間がどんどんなくなってしまう。
「オレも手伝う。そのかわり3分以内に終わればお前の身体のいたるところを触らせてもらうからな」
無視だ、無視! 聞こえないフリをしていればいい。
だが中田くんが色マジックを持ち、下書きの鉛筆をなぞり始めたのは視界に入り、無視できなかった。
キュッキュッと敏速に、だけど正確に色を塗っている。
器量が良いというのだろうか。動かす手は早いのだけど少しもはみ出さない。
それに五種しかない色を丁寧に使いこなしてポスターを色鮮やかに見せている。
僕は思わずただボーッと見とれてしまっていた。
「よし、終わった。約束どおり3分以内だ」
確かに…3分、掛かっていない。でもポスターは完璧だ。
「じゃ、愁。覚悟しろよな?」
「僕は了承してない!」
身の危機を感じて隣の机に置いてあったランドセルを背負う。
逃げる準備。
「はぁ」
思い出したくもない昔のことを突然思い出してしまって俺は溜め息をついた。
「しゅ…愁ちゃん、どうしたの?」
隣で俺が教えつつ算数の問題を解いていた直人が恐々と俺を見つめた。
「あぁ、何でもないよ。ナオのせいじゃないから大丈夫」と言って直人の頭を軽く撫でてやる。すると彼の幼顔に笑顔が戻った。
「ふふっ」
直人の笑顔につられてか俺も思わず笑っていた。
「え、何?」
「いや? ナオの顔見てると嫌なこと全部忘れるなぁ、って思ってさ」
俺のこの言葉に、直人は可愛らしい満面の笑みで返してくれた。
「オレだって愁ちゃんの顔見てたら嫌なことぜーんぶ忘れられるよ!」
番外編⑦
※質問お題に答えたときの物です。 お題提供:灰人様
1.先ずはそれぞれお名前をお願いします。
愁「南川愁です」
ナ「柊直人です」
2.受け攻めはどっち?
愁「……あ、これソッチ系の質問なんですか?」
ナ「ど、どうしよう愁ちゃん(動揺」
愁「もう呼び出された以上答えるしかないみたいだね(溜息」
ナ「うぅ……。愁ちゃんが攻めで……オレが受けです」
3.その位置で満足してる?
愁「俺はしてるけど……ナオはしてないんでしょ?」
ナ「え!? 何で!? してるよ!?」
愁「だって――」
4.逆とか…アリだったり?
愁「あ、ちょうど良いタイミングでこの質問来た(苦笑」
ナ「……あの時はオレ結局上になれなかったけどね」
愁「そうそう、頑張ってたけどね」
ナ「っ、次こそ絶対愁ちゃんを気持ちよくさせるもんっ!」
5.恋人さんとのエッチは気持ち良い?
ナ「なんか……内容がどんどん過激になってない?(怯」
愁「まだ5問目とか……。何問あるか知らないけど、この後が心配になってきた……」
ナ「もう早く終わらせよう、愁ちゃん! 気持ちいいですっ!」
愁「!?」←(突然の発言に驚
ナ「ハイ、愁ちゃんは!?」
愁「……気持ちいいです」
____________
(ああ、こいつら答えさせにくい~!!! あ、そうだ!!)
蝶々「はいはい、お二人さんこの辺で喉が渇いてきたでしょ? これでもお飲み」
愁・ナ「「あ、ありがとうございます(受け取ってゴクリと飲む」
愁「……っ!! これ、何!?」
蝶々「え、テキーラだけど(ニヤニヤ」
愁・ナ「「ちょ……!! …………ひぃっく」」
(以下、淫乱とSに性格豹変で)
__________________
6.ぶっちゃけエッチ好き?
ナ「……勿論好きらよねえ(愁の首に腕回し」
愁「好きに決まってるでしょ?(ナオの腰に腕回し」
7.お互いの良い場所は知り尽くしてたりする?
愁「勿論。たとえばこことか……(耳朶咬み」
ナ「ん…やぁ、オレも知ってるもん!」
愁「へえ、どこだっけ」
ナ「内腿のホクロでしょ? 後で舐めてあげるっ(悪戯っぽく笑」
8.プレイを全体的に考えてSM度は高い?
愁「別に普段はしてないよ、でも今日はしてあげてもいいかもね(冷たく微笑」
ナ「……痛くしなかったら良いよ?(挑発的な目」
愁「コッチとしては泣いたりした方が燃えるのに(プチプチと直人のシャツのボタンを外す」
9.攻めさんは調教とか開発とかしちゃってる?
愁「調教もなにも……俺が一から教えてあげたからね(首筋舐め」
ナ「ぁっ……んん、はぁん」
愁「これだけで感じてんの?」
ナ「もっとぉ……」
愁「……あ、俺達にはお構いなく質問どうぞ」
10.じゃあ受けさんが逆に教え込んだりした事とかってある?
愁「ホラ、聞かれてるよ(脇腹なぞる」
ナ「んぁ、ん……ないです」
11.今までに特殊なプレイをした経験は?(薬、コスプレ、緊縛、等)
愁「特殊プレイなんてしたっけ(愛撫止め」
ナ「あぅ……もうやめちゃうの?(物欲しげな目)
えっと……トラの格好とか着物姿ならしたことあるけど」
愁「今もしてんじゃん」
ナ「ふえ?」
愁「公開エッチでしょ(口の端上げて笑」
ナ「あ、そっか。ね、愁ちゃん答えたから続き……」
12.じゃあこれからヤってみたい、と思うプレイは?
愁「別にもうほとんどしたけどね」
ナ「愁ちゃ……早く」
愁「まだ」
ナ「今、焦らしプレイしてるでしょ……?」
愁「あ、バレた?」
13.相手がする仕草なんかで一番こう…ムラッ、とくる仕草は?
ナ「んー……髪の毛掻き上げる時かな」
愁「じゃあ、絶対今日はしないでおくね(微笑」
ナ「むぅ……。愁ちゃんは?(上目遣い」
愁「その上目遣い(愛撫再開」
14.受けさんから誘ったり襲ったりする事ってある?
ナ「んっ、はぁ、んん……もっと」
愁「この通りです」
15.最後に相手にこれだけは言っておきたい! 今の内にどうぞ。
愁「もう入れていい?」
ナ「んゃ、ぁっ、んん……!はや、く……きてえ!」
16.お疲れ様でした。何か一言あればどうぞ。
ナ「ああん! ああッ、あッ、や、んん!!」
愁「……いつまで見てるんですか? 邪魔なんですけど」
番外編⑧
※コラボネタです。 文:かずい様 コラボ作品:「護ってやります」
「ねぇ名前、何て読むの?」
入学式の時に一番最初に奈央に話しかけたのが亀依だった。
"桜井奈央"と決して読みに苦しない名前のはずなのに、きっかけ作りなのだろうか。
「あ、さくらいなおって読むよ。貴女は…せのお…」
生物の亀に、人偏に衣と書いての依。こちらは打って変わって変わった漢字を持っている。
「きい、だよ。よろしくね」
「うん、こっちこそよろしく。亀依ちゃんか~、可愛い名前だね!」
「ホント? ありがとっ! 奈央ちゃんも可愛いじゃん」
桜井と妹尾。出席番号が一つ違いの彼女らはすぐに仲良くなった。
日付変わって登校二日目。
亀依には既に他の友達が複数出来ていた。
「おはよー奈央ちゃん! こっち来て一緒に喋ろ」と教室に入ってきた奈央を手招く。
奈央が招かれたグループは、登校二日目というのに派手な格好で、いわゆるギャルっぽいグループだ。
「おはよう。あたし桜井奈央って言うの」
ニッコリと笑って挨拶をする奈央に帰ってきたのはひんやりとした視線だった。
一人ずつ名乗って簡単な自己紹介が終わると彼女達は奈央に見向かなくなった。
(…あれ? 何か気に障るようなこと言ったかな??)
非はないはずだが相手の態度を見ると自分が悪いのではと思ってしまう。
結局その時、はきはきした性格の奈央でさえ会話のタイミングがつかめない内に朝礼開始を告げるチャイムが鳴った。
まず、一時間目はオリエンテーションだ。
簡単に授業の説明をしたあと、各人の係りを決める。
「じゃ、学級委員やりたい人いるー?」
教壇の前で先生が生徒達にそう振った。
皆しーんと静まり返り、俯いたり頬杖つくだけで黒板を見ようとしない。
どこの学校でも、大体初めはこんなものである。
と、そこへ。
「はーーい、あたしがやります!!」
奈央の後ろで声と手が挙がった。
言われてもいないのに立ち上がって、ただにこにこと微笑んでいる。
「奈央ちゃんも一緒にやろうよ」
「え、あたし?」
突然指名されてシンとした教室内だと忘れて奈央はマヌケな声を出してしまった。
そんな奈央の腕をぐいと引き、亀依は無理矢理立たせようとしている。
「じゃあ妹尾さんと桜井さんでいいと思う人、手挙げてくれる?」
先生が前でそう言うと、満場一致で学級委員は二人に決定した。
「そんな…あたし何も言ってないよぅ」
入学式から約一ヶ月が過ぎようとしていた。
奈央と亀依は相変わらず仲良いが、奈央は亀依が馴れ合っているグループから無視に近いことを受けているのも相変わらずだった。
いや、というよりも奈央はクラスに溶け込めていない感を味わっていた。
話しかけても例のグループが取り合ってくれないのも勿論、他のクラスメートもどこか態度がよそよそしい。
唯一普通に喋りあえるのが亀依だが、その亀依は例のグループと仲がいいのだ。
しかも亀依が居る時の例のグループの奈央に対する態度は問題ない故、奈央が無視されているということに気付いていないようだった。
委員の話だが。
亀依によってほぼ強制的に決められてしまった学級委員とはいえ決められたものなのだからと奈央はきっちり業務をこなした。
「すまねぇ奈央ちゃん。あたしは今日、百合ちゃんたちと約束があるですので奈央ちゃんと一緒に帰ることができないであります」
制カバンを引っさげ、変える準備万端の亀依が奈央に告げた。
亀依は何故か変な喋り方をするときがある。
アニメのキャラの喋り方や方言などをミックスしたような喋り方だ。
ちなみに百合ちゃん、とは例のグループのリーダー的な存在の女の子だ。
「そっかーじゃあまた明日ね、バイバイ」
「さらばですよ」
お互いに手を振ると、二人は真逆の方向へ歩いていった。
"百合ちゃんたち"との約束とは、ショッピングモールでの買い物だったらしい。
「ねえねえ亀依ちゃん、これ良いよね?」
「これも可愛いよね~すっごい欲しー」
「あ、これ色良くない?」
彼女達は次から次へ、服やアクセサリーや化粧道具などを買い物かごに放り込む。
中には高価そうなブランド物もあった。
「亀依ちゃ~ん」
「あたしたち友達でしょ?」
「買ってくれない? 亀依ちゃん家お金持ちだからこれくらい楽勝っしょ?」
そう、亀依の父は食品会社を主体とするグループの総帥だった。
簡単に言えば財閥、もっと砕けて言えば超お金持ちってところだ。
「い…いいっすよ~」
外面は笑顔だが内心はヒヤヒヤしているに違いなかった。
元はといえば亀依が最初に彼女達に、奢ってあげると持ち出したのだ。
友達だし、ニ、三品ならまあ良いかと軽く考えていた。
しかしその額は日に日に増えていき、5万円を越すことももう珍しくなくなってしまった。
(別に良いよね? 百合ちゃんたちは友達だし、あたしの口座に入ってるお金だから自由に使えるし…)
彼女はそう思うしかなくなっていた。
ある日。奈央は学級委員の仕事を亀依と残って行っていた。
「じゃああたし、遠足のしおりコピーしてくるってばよ」
「はいはい、ナルトは良いからさっさと行っておいで」
意味無く敬礼もする亀依を軽く奈央は受け流す。
「奈央ちゃんはホッチキスとか用意しておいてね。ちゃちゃっと終わらせてすぐ戻って来るね!」
「わかった。行ってらっしゃい」
亀依に手を振ると奈央は自分達の教室に向かった。
教室の近くまで来ると、終礼は大分前に終わったのにまだ明かりが点いているのに気付いた。
(まだ誰か残ってたんだ)
終礼が終わるとすぐに自治会室に呼び出されたので、奈央はそのことを知らなかった。
「ってかさー」
今までの会話は聞こえなかったのに、その声だけ妙に大きく聞こえた。
百合の声だ。他の女子達も居て、携帯を弄りながら何か喋っている。
次に出た言葉に、奈央は驚いた。
「桜井ってうざーい」
ある程度わかっていたことなので驚いた、というよりショックを受けたという感じだろうか。
「わかるぅー。何かすげー優等生気取ってる感じするよね」
「そうそう、絶対先生とかに媚ってるんだって」
「うざー。そういうのって絶対クラスに一人はいるよね」
「うん! いいんちょ的な?」
「キモイキモイ」
数々の胸を突き刺すような言葉の後の嘲笑。
奈央はそれを目の当たりにしてしまって涙がこぼれそうになった。
(泣くことないじゃん。あたしは悪くないもん!)
そう思って自分を奮い立たせようとするけど、やっぱり弱い部分の方が強力になって涙があふれ出てきた。
拭えど拭えど容赦なく出てくる。
「あとさ、妹尾ってホントバカだよね~」
「友達だよね~? とか言ったらすぐお金出してくれるもんね」
「明日コーチのカバン買ってもらおうよ」
「あのマスコット可愛いよね~」
(亀依ちゃん…?)
亀依の話が出ると、奈央の涙は止まった。
(もしかして、岩瀬さんたちに利用されてるんじゃ…)
意を決し、もう一度目をこすって頬をぱちんと叩くと奈央は教室に入った。
「っちょ、桜井じゃん…」
百合たちは勢いよく扉を開けた向こうに立っていた奈央に驚く。
と同時に先ほどの悪口を聞かれたかもしれないとバツの悪そうな顔をした。
「あ、岩瀬さんたちまだ残ってたんだね」
無理して笑顔を作ってみるが、眉毛が八の字に曲がっていた。
百合グループは奈央に対しては何も言わず、仲間内でこそこそと話しながら教室を出て行った。
彼女達が出ていたのを確認すると、用具が入っているロッカーからホッチキスを出した。
更に二人で作業しやすいよう机の配置を変える。
「奈ー央ーちゃんっ、コピーできたですよ!」
教室の扉が開いて亀依が入ってきた。
「あーコピー後のこのあったかさは良いなぁ。プリントたちのぬくもりが感じられるんだぜ」
刷ってきたA4版の紙の束に亀依は頬をすり寄せる。
「亀依ちゃん、ありがと」
用紙を受け取ると机の上に置き、ホッチキスを隣に置いて奈央は静かに座った。
「ねえ、亀依ちゃん」
もくもくと作業を続ける中、奈央がふと声を漏らした。
「なぁに?」
「岩瀬さんたちと…ほ、本当に仲良いの?」
「うん、友達だよ。明日も一緒に買い物行くんだ。奈央ちゃんも一緒に行く?」
「行きたくない」
聞こえるか聞こえないかの小声で呟き、奈央はしおり作り作業を止める。
「もう岩瀬さんたちと仲良くしないでよ! それが嫌ならあたしになんか喋りかけないでっ!」
「何で? 皆で仲良くすればいいじゃない」
「皆で仲良く? 本当にそんなことできると思ってるのッ!? 亀依ちゃんだって…亀依ちゃんだって、岩瀬さんたちに利用されてるだけのくせに!
本当の友達なんていないくせに!」
と、次の瞬間には大声を上げた。
奈央はこんなことを言う人間ではない。何かが爆発したようだった。
すぐに自分の言った言葉に後悔する。
「ご、ごめんね。ホントにごめん、そんなこと言うつもりじゃ…」
「あははー。やっぱりねー、そうじゃないかと思ってたんだよね~」
困ったように笑いながら後頭部を掻きあげて亀依は言った。
「社長のムスメって言った途端にころっと態度変わったし、ショッピングしか遊びに行ったこと無いしぃ…。百合ちゃんたちはあたしじゃなくってあたしのお金が好きなんだって分かってたけど…。でも、認めるのはすごく嫌だったの。だって…本当に友達いないってことだもん…」
亀依の表情はみるみる泣き面に変わった。
「亀依ちゃん、ごめん。本当にごめんね」
「そんなの気にしてないよぅ。それより、本当にあたしは本当の友達がいないの? じゃあ奈央ちゃんは本当の友達じゃないの? そう言われたのが悲しいの…」
涙がニ、三滴スカートにこぼれ落ちた。
「亀依、ちゃん」
「あたしは本当の友達だと思ってるもん…」
奈央は微笑すると、泣いている彼女を抱きしめた。
「友達に決まってるじゃん! さっきのは間違えちゃったの」
「わあああん奈央ちゃん大好きーッ」
亀依も抱きしめ返したのは言うまでもない。
「いきなりの告白!! そんなことより早くしおり作って帰ろ? あ、そだ。帰りにクレープ食べて帰ろうよ」
「うん」
番外編⑨
※完結後の話です。
《直人目線》
――愁ちゃんとの再会から数週間。
現在オレは何をしているかというと、もっぱら語学勉強中。
一応伯父さんのツテで日本人スタッフが沢山いる事務所で働かせてもらっているから日常生活に支障はないものの本当に難しい。
英語が公用語じゃないって……中高6年ホント何のために勉強してたんだろう……。
バタバタと慌ただしく過ぎていた日々もようやく落ち着き始めた頃、愁ちゃんが折角こっちに来たんだし、と言うことで街の観光スポットを案内してくれた。
日本だと世界遺産って滅多に見ることが出来ないけど、さすがヨーロッパ。
至る所に名所があって、そのどれもが教科書とかで見たことあるような有名な場所ばかり。
一日中移動し続けてもまだ見終わらなくてヘトヘトになったオレの手を引っ張りながら、愁ちゃんが笑う。
「じゃあ、今日はここで最後にしようか」
「これ……教会? ここも有名なの?」
愁ちゃんに連れられ入り口の扉をゆっくりと押し開ける。
開けた途端内部からひんやりと独特の冷たい空気が流れ、厳かな雰囲気が肌で感じ取れる程。
足を進めると中は想像以上に広く、アーチ型の天井がいかにも西洋風らしい。
薄暗いのにそんなに暗く感じないのは辺りに灯された無数の蝋燭と、上部に見える多彩なステンドグラスから月灯りが入ってきているからだろう。
壁から天井へと一面に施された繊細な装飾に目を奪われながら中央へと進むと、赤い絨毯の上に置かれた小さな祭壇が目に入った。
「もう遅いから今は誰も居ないけど、街で一番有名な教会なんだよ」
「……すごい…・・綺麗だね」
周りに気を取られながら後ろに下がったため、愁ちゃんの胸に背中がトンと当たる。
振り向けばオレの顔のすぐ近くで愁ちゃんがニコリと微笑んだ。
優しく抱き寄せられ、促されるまま身を預ければ首元から愁ちゃんの香りがふわりと香る。
……うわ。ダメだ。
懐かし過ぎて何故か無性に泣きそうになる。
涙腺が弛んだ顔を見られたくなくて、オレは愁ちゃんの胸元にギュウと顔を押しつけた。
「最初にここに来た時、ナオに見せたら絶対喜ぶだろうなあって思った」
「うん……本当に……ほんと……会いたかったよ……」
「ナオ、こっち向いて?」
そう言って愁ちゃんはオレの両頬に手を添えると、目線が合うように上を向かせる。
愁ちゃんはいつも通り優しい表情だったけど、オレは必死で泣くのを堪えてたから多分変な顔だったと思う。
あ、キスされる。
愁ちゃんの顔が更に近くなった瞬間ギュッと目を瞑る。
…………。……あれ? ……され、ない?
しばらく時間が経っても何も反応がない事に不安になったオレは恐る恐る瞼を開く。
と、同時にチュと唇に温かい感覚。
「……ッ!?」
「好きだよ」
時間差でされて思わず照れてしまうと、愁ちゃんはやっぱり可愛い、と悪戯っぽく笑った。
く、悔しい……!
オレが泣きそうになってたからわざととは言え、またしても愁ちゃんに子供扱いされてしまうのはやっぱり悔しい。
そりゃ小学校の時は良く照れてたけど、一応今はもう立派に働いてるんですよ?
そんな事を思いながら、オレはすっかり泣く事も忘れてキッと愁ちゃんを睨む。
「あのねぇ! オレを可愛いとか言うの、もう愁ちゃんだけだよ」
「そう? 俺にとってナオはいつまでも可愛い恋人だよ」
……もう、顔から火が出そうです。
照れる様子もなくさらりと答える様子は昔から変わっていなくて。
火照った顔を誤魔化そうとオレは愁ちゃんから身体を離すと、床に置いてあった鞄に手に持っていたパンフレットや地図をおもむろに詰め始めた。
「え……えーと、そうだ、もう時間も遅いし帰ろっ! オレ、この後も勉強あるしっ!」
自分でも何でこんなに照れているのか判らない。
ただ、愁ちゃんと一日中二人で居るのはまだ過剰反応してしまうというか……。
嬉しいはずなのにその感情を上手く伝えられない自分がもどかしい。
不意にナオ、と呼ばれて顔を上げると流暢な口調で愁ちゃんが言葉を発した。
「――Wil jij met me trouwen?」
英語じゃない発音。
短かったためかろうじて聞き取れたものの、語彙力がないから意味が全く解らない。
きょとんとした表情で愁ちゃんを見詰める。
「へ……? 今……何て言ったの?」
「さあ……家に帰ってから辞書で調べてみたら?」
「…………?」
×
あー……今日はほんっと疲れたあ……。
もちろん足も疲れたけど、精神的にも何だか泣いたり照れたり忙しい一日だったな……。
ご飯を食べて、お風呂に入って、さあ寝る前にもうひと勉強、と言うところである事をハタと思い出す。
――そう言えば、あの時言われた言葉はどういう意味だったんだろう?
確か、ト……トラウエン? とか何とか……。
机の上に置いてある辞書を開き、勘を頼りに引き始める。
多分“tr”で始まるだろう、ぐらいの適当な考えのままパラパラと頁を捲っていく。
……愁ちゃんはすごいなー、なんであんなにペラペラ喋れるんだろうなー。
しかもこっちで医者って……凄すぎてとてもオレが追いつけるレベルじゃ…………あ、あった。
――――和訳を見た瞬間のオレの驚きと言ったら、もうここには表現できません。
リビングで本を読んでいた愁ちゃんがいきなり飛び込んできた余りのオレの慌てぶりに逆に動揺した程。
「ナオ? なっ……何? どうしたの?」
「しゅ、愁ちゃ!! 何で……っ!? アレ、あの! 辞書! ええっ!? ちょっ、意味がっ!?」
支離滅裂な言葉に愁ちゃんはやっと状況を理解したらしくクスクスと笑った。
多分、今、人生で一番顔が赤い自信がある。
後になって考えれば、なんでこんな大事なこと日本語で言ってくれないの、とか、もしオレが辞書で調べなかったらどうするつもりだったの、とか言いたいことは沢山あったはずなのに、もう頭がぐちゃぐちゃでただ愁ちゃんを見詰めて口をパクパクさせるのが精一杯。
「……で、答えは? 直人さん」
いつも“ナオ”って呼ぶくせに、こんな時だけ大人扱いしないで欲しい。
勿論そんな切り返しも思いつかなかったオレは、途切れ途切れにようやく喉から声を絞り出した。
「よ、よろしく……お願い、しま……す」
その言葉を聞くなり愁ちゃんはオレの腕を引いて抱きよせると、今度は深く唇を重ねられた。
――まさか、今日……プロポーズされるなんて本当に夢にも思わなかった。
× × ×
※後書き。
訳は「……俺と結婚してくれる?」ですね。
ちなみにオランダ語です。
番外編⑩
※コラボネタを私も書かせて頂いた時の物です。 コラボ作品:「どうして 変態 なんですか」
シーン1
――此処はとある高級ホテルの一室。
大きめの広間にはビュッフェ形式の豪勢な食事がずらりと並べられ、部屋の各所には読者より今宵の為に届けられた祝いの花束が飾られている。
その部屋へ扉を開けて入ってきたのは、差出人不明の招待状を手にした一組のカップル。
何故か正装着用と指定がされていた為どちらもスーツにネクタイ、胸にはチーフを差している。
広間の壁に取り付けられた垂れ幕を一目見るなりこのパーティーの趣旨を理解し小さく溜息を吐いたのは愁。そしてその横で小首を傾げるのは直人であった。
垂れ幕にはでかでかとこう書かれていた。
―コラボだよ! 4人で絡め!―……と。
「何これ……?」
すぐに愁に答えを聞こうとしたものの、先程自分達が入ってきた扉の反対側からボソボソと男性同士の話し声がして直人は訝しげに後ろを振り返る。
小さく聞こえる会話からしてどうやら彼等もこのパーティーの参加者であるようだった。
「部屋……ここだな」
「正装してまで参加しなきゃなんないこのパーティーって何なんだ? しかも絶対参加って……意味がわからん」
「まあ入ってみれば判るだろ。入るぞ」
「お、おい! 慎也ッ」
迷う様子もなく扉を開けた慎也の背中越しに旭がひょいと首を出すと思いがけない人物が目に入り旭は思わず目を瞬かせた。
慎也と言えば特に驚きもせず久しぶりに会った幼なじみに対して嬉しそうに笑いかける。
「愁。久しぶりだな」
「旭さん、お久しぶりです。この度はご結婚おめでとうございます」
話し掛けたのは慎也であるにもかかわらず、愁はまるで慎也など視界に入っていないように後ろの旭に向かってニコリと微笑みながら挨拶を行った。
「あ、ありがとう。……てかそっちも結婚したって慎也から……」
「しかも医者になったんだろ? お前毎日一体どんなプレ――げほっ!」
「急に日本に呼び出されて何事かと思いましたけど、こういう事だったんですね」
ちょっとした冗談であるのに愁には完全無視を続けられ、旭には背中を思い切り叩かれた慎也はやれやれと肩を竦める。
自分が黙った後も二人はまだ社交辞令的な挨拶を続けていて、それがいかにも日本人らしくて慎也は内心苦笑した。
手持ちぶさたになり周りを見渡せば愁の横でまだ状況が良く飲み込めてない直人と視線が重なる。
慎也がにっこりと微笑みかけると直人はぎこちなく頭を下げた。
「直人君、久しぶりー」
「えっと、中田さん……でしたよね。お久しぶりです」
「背伸びたねー。昔はもっと可愛らしかったのに……やっぱ従兄弟だけあってどことなく愁に似てきたよね」
「え!? そうですか?」
慎也としては特に褒めたつもりでは無かったのだが、直人にとっては最高の褒め言葉。
その一言で子供の頃慎也に“イタズラ”された事も忘れたようで直人は嬉しそうに照れ笑いをする。
――そんなこんなで半ば強制的に久しぶりの再会をした四人。
いつまでも立ち話をするわけにもいかず、しばらくしてから四人は中央にあった円卓に座ると、用意されていたグラスを片手に一斉に言葉を発した。
「カンパーイ」
「乾杯」
「かんぱい」
「カンパイ!」
×
シーン2 直人×旭
「これ美味しい!」
「え、どれどれ?」
「あっちに在ったローストビーフですよ」
「あー……ちょっとだけ食べたいけど……もういちいち席立つのが面倒くさくなってきた」
旭の言葉を受けて直人は自分の皿から少し切り分けて旭の皿へと乗せる。
「じゃあ、オレの一口あげます」
「ありがとう。……あ、旨い!」
ほのぼのとした雰囲気にお互い顔が弛む。
妹が居る旭にとって直人が話しやすいのは勿論、直人にとっても旭はどことなく拓也と似ていてあまり年の差を感じることなく話すことができ、二人の会話は先程から途切れることなく続いていた。
「直人君さ、勉強の方どう?」
「大分リスニングは出来るようになってきたんですけど、いざ自分が喋るとなるとやっぱりまだパッと単語が出てこなくて」
「そうそう! 買い物とかは良いんだけど難しい話になるとつい慎也に頼っちゃうんだよな」
「そうなんです! オレもすぐ愁ちゃんに……熱ッ」
二人の語学力が伸び悩んでいる一番の原因は、おそらくお互いの恋人の過保護過ぎる愛情の所為だろう。
現に今も話に夢中でスープを零してしまった直人に気付いて、横に座っていた愁がすぐに対処を行う。
水で濡らしたタオルでスーツを拭いながら愁は心配そうな表情を浮かべた。
「ナオ、火傷しなかった?」
「うん。大丈夫。……染みになっちゃうかな」
「これ位なら大丈夫だと思うよ」
「ほんと? 良かった……。スーツって着慣れないからなんか動き辛いよ」
見るからに仲が良さそうな二人を旭は微笑ましく眺める。
と、同時に少し羨ましくもあった。
慎也がもう少しだけまともだったら自分も直人君のように素直に反応できるのに……。
そんな旭の心境を知ってか知らずか、隣に座っていた慎也が徐ろに旭の顎にクイッと手をかける。
「旭、ソース付いてるぞ」
そのまま旭が反応するより速く顔を近づけると、慎也は旭の口元を舌で舐め取った。
旭の顔がカアッと一瞬で熱くなる。
人前でされた事に激しい羞恥を覚え、旭は慎也を突き放すと慌てて口元を手で拭った。
「……ばっ!! おまッ!? 人前でな、な、なんて事を!?」
「隙を見せたお前が悪い」
「し……死ね!!」
その仲睦まじい様子を見て、今度は愁と直人が顔を見合わせてクスクスと微笑み合った。
×
シーン3 慎也×愁
旭と直人が楽しそうに会話をしながらデザートを頬張っている中、慎也と愁はすでにテーブルを離れ、部屋にあったチェスをしながら暇を潰していた。
愁も慎也もどちらも飛び抜けて頭が良い。
慎也に「やらないか」と誘われた時、愁は断ろうかとも考えたが純粋にどちらが勝つだろうという興味もありこの勝負を受け入れたのである。
「そんな冷たくしなくてもいいだろ。お互いもう相手が居るんだし」
「……旭さんがどんなに心の広い人か想像つくよ」
愁の言葉の冷たさに比例するように動かした駒が慎也の駒を奪うと、慎也は楽しそうに頬杖を附いて少し考えてからまた一つ駒を進める。
「直人君さっき言ってたぞ。“愁ちゃんはいつもすごく優しいですよ”って。……裏の顔を知らないって恐ろしいもんだな」
「まあ確かにナオ以外に何て思われようと別にどうだっていいけど……慎也はまた特別嫌いだから」
「愁に特別扱いされて嬉しいよ」
ニッコリと微笑みながら嫌みを言う愁に向かって慎也もまた極上の笑顔で切り返す。
「愁って受けになると絶対クーデレタイプだよな」
「そうやって何でもかんでも変なジャンルに分けるのは止めてくれますか変態さん」
ギスギスした雰囲気の中、お互い一歩も引かず戦いは静かに続いている。
中盤まで来て、ふと慎也が思いついたように口を開いた。
「そうだ。この勝負、罰ゲームは何にしようか?」
「……慎也にとって恥ずかしい事なんてある訳?」
「無いな。でも俺が勝ったら愁にやって欲しい事は沢山あるぞ」
愁から奪った駒を揺らしながら慎也が意地悪く笑うと、愁の頭の中に小学校の時の苦い過去が蘇り、愁はギクリと肩を上げる。
慎也が言った事を絶対実行に移すタイプなのは嫌と言う程知っている。
……これは絶対に負けるわけにはいかない。
愁は軽い気持ちで勝負を受けた事を今更ながら後悔した。
数分後。
デザートを食べ終えご機嫌の旭と直人が二人の側まで近寄ってきた。
「二人とも何してるの?」
「……チェスとかお前らどんだけ格好つけてんだよ」
揶揄い半分の旭の言葉に慎也は顔を上げ、楽しそうな声を出す。
「今勝負してんだよ。で、負けた方が罰ゲーム」
「へー、罰ゲームって何するの?」
素直に反応した直人の横で、先程慎也にキスをされて疑心暗鬼になった旭が突如大きな声で驚いたように声を上げた。
「まっ……まさか……負けたペアが人前でヤるとかじゃねーだろーなッ!?」
旭以外誰一人、その時は慎也でさえもそんな事思っていなかった。
まさかの旭の発言にそれぞれの反応はバラバラだった。
直人は一瞬で顔を真っ赤にさせ、愁は驚いたように目を見開き、慎也は吹き出してケラケラと横を向いて笑っている。
自分がとんでも無いことを口走った事にようやく気付いた旭は慌てて手を振って弁明をし始めた。
「ち……違うッ! 垂れ幕があったから……!!! け、決して俺がヤリたいとかそう言う意味じゃ……!!」
「旭が良い罰ゲームを思いついてくれたんでこれで決定だな」
――まだ口に手を充てて笑っている慎也を見ながら、旭はその場に小さく丸まって自分の馬鹿さ加減を心底反省した。
×
シーン4
「……ステールメイトか。考えたな、愁」
「まあね。あー……疲れた」
愁は大きく息を吐くとソファに寄りかかって伸びをする。
たかが遊びのゲームに愁が今までこれほど頭を使った事があっただろうか。
この危機的状況を回避すべく愁が考えた事は一つだった。
――引き分けにすること。
本気で勝ちに来ている慎也に対して引き分けにするためには愁は何百という手を先読みして駒を動かさねばならず、終盤は隣の直人の声援も耳に入らない程だった。
「チェスのルール良く知らなかったけど……引き分けとかあったんだな」
「よ……良かったあ!」
安堵の表情で旭と直人が胸を撫で下ろす。
「じゃ、引き分けってことで仲良く4Pでも……」
「慎也。お前はもうホント黙れ。頼むから黙れ」
「愁ちゃん、4Pって何?」
「……ナオは全く知らなくて良い言葉だよ」
――久しぶりに会っても相変わらずの四人。
こうして、宴はまだまだ続いていくのであった。
最終更新:2010年05月16日 20:50