魔科学共存理論 ◆wd6lXpjSKY
魔術と科学が交差するとき、物語が始まるならば。
この物語は既に開幕済みである。
◆ ◆ ◆
意識を失ったマスターである
間桐雁夜を休ませる。
この事を遂行するために現在バーサーカーである
一方通行は行動していた。
理性無き狂戦士が他者のために動くなど理解出来ない行動だがマスターが死ねば彼も消える。
元より狂戦士は間桐雁夜に何か通ずるモノを感じているため、放っておけない可能性もあるが。
安息を取る上で一番効率が良いのは馴染みの場所だろう。
間桐邸……天戯弥勒によって構成されたと推測される架空世界でも間桐雁夜の居場所が存在する。
彼の拠点にもなっている間桐邸に戻り、休ませるのが一番だろう。
彼に必要なのは魔術的な回復ではなく、人間として根本的な体力の回復である。
PSI粒子によって影響を受けた魔術回路がどのようになっているかは不明だ。
確実に魔力の最大容量は上昇している。聞こえは良いだろう。
しかしとある一説が存在する。それはとある世界に存在する一種の共存理論。
此処で語るべき事ではない。
繰り返すが今、必要なのは間桐雁夜を休ませる事。
バーサーカーは彼を担ぎ間桐邸の近くにまで来ていた。
朝方、身体がゴムのように伸縮するライダーと交戦したため玄関の一部が崩壊している。
戦闘の影響で警察に通報され、間桐邸の周辺はテープによって立ち入り制限が設けられていた。
住んでいる雁夜が立ち入りを妨げられる事はないだろうが目立つのは危険である。
警察官が二名、当番なのか入り口を見張っていた。
魔力の放出を限界にまで薄めていた一方通行は少し、極僅かだが左腕に魔力を集中させる。
右腕にはしっかりと間桐雁夜を担ぎ、左腕を大地に置く。
地中の中に魔力を送り込み、力の方向性に圧力を加え少しだけ地盤に波を与える。
その結果、間桐邸入口付近にだけ地震を発生させたのだ。
その震度の見積もりは四後半と同一であり、警戒するには十分過ぎる揺れである。
警察官は地震発生により、一度無線を確認するためパトカーに向かった。
その瞬間を逃さず一方通行は間桐邸に気付かれること無く入り込む。
同じバーサーカーである
不動明も言っていたが狂戦士にしては芸達者なサーヴァントである。
間桐邸に入り込むと入り口はルフィとの交戦による余波のため崩れていた。
全部が全部、という訳でも無いため生活する分には何とかなるだろう。
隔離された聖杯戦争を行うためだけの住居だ。少しぐらい我慢すれば大丈夫だ。と思う。
間桐雁夜の部屋に踏み入り、彼をベッドに寝かせるとバーサーカーは霊体に戻る。
現界することで無理に魔力を消費する必要はない。
バーサーカーも戦闘を行った身であり、無傷な筈がないのだ。
魔力も消費しているため主従揃って回復に努めるのが一番理想的な展開である。
付近に潜伏している敵もいないため狂戦士もまたその血塗られた腕を休ませる。
「最初にPSI粒子の影響を濃く受けたのがアンタか」
一方通行が間桐雁夜を休ませてから何時間か経過した後、前触れもなく来訪者が現れた。
狂戦士は己を現界し戦闘態勢に入る。先制は仕掛けずあくまでマスターの防守に重点を置く。
突然現れた男の髪は橙色に染まっておりその声は参加者であれば誰でも知っている。
「身体が軽い……それにこの力は……?
場所も俺の部屋だ、バーサーカーが運んでくれたのか――ッ!?」
目を覚ました間桐雁夜の周りは気絶前とは大きく異なっていた。
戦闘を行っていた公園付近ではなく、見慣れた己の部屋。
身体に流れている魔術回路、刻印蟲の疼きが普段よりも弱々しくなっている。
それに加え確実に魔力の量が増えている。少ない時間で整えた魔術師の体裁を上回っていた。
全ての現象に理解と処理が追いつかない。そして目の前の存在が更に状況を混沌へと陥れる。
「天戯弥勒……お前が聖杯の――」
「初めまして、間桐雁夜」
天戯弥勒。
従来とは異なる異種の聖杯戦争を開催した男が目の前に存在していた。
間桐雁夜はベッドから立ち上がり何時でもバーサーカーに命令を下せる体勢に入る。
既に狂戦士は臨戦態勢、何時でも動ける状況になっていた。
何故始まりの男が間桐邸に居るかは不明だが良い話ではないだろう、断言出来る。
「俺は別に戦いに来た訳じゃないさ、アンタの、お前の身体が気になってな」
「……俺達にテレパシーみたいなモノを送った時と較べて大分柔らかいな」
「気取っただけさ」
天戯弥勒に対して平然を装い軽い言葉で対応する雁夜だが相手の方が軽く感じてしまう。
圧倒的情報不足の状況で間桐雁夜がこの場を回す事は不可能に近い。
受け身になるしか方法はなく、しかし後手に回れば確実に追い込まれるのが現実だ。
この状況を切り抜けるには一瞬も迷いが許されないだろう。
「俺の身体……溢れ出る魔力について知っているのか?」
「魔力か。そうだな、お前の身体はPSI粒子と本来の魔術回路が存在している」
「さ、PSI粒子? 聞いたことがないぞ」
PSI粒子。
間桐雁夜はこの言葉を聞いた記憶がない
そもそも存在している言葉だろうか。天戯弥勒の造語にしか聞こえない。
しかし身体に異変が起きているのは事実であり、本当かもしれない。
「科学の力と言った方が早いだろう」
「俺は他の魔術師と比べると……科学の知識や認識については広い方だ。
だけどそのPSI粒子って奴は一度も聞いたことがない、それは一体何なんだ?」
間桐雁夜は魔術師としは見習いである。
系譜がある間桐の家を飛び出し魔術とは関わりを持たずに生活していた。
魔術師の多くは科学に弱い。簡単な電化製品の扱いにも戸惑う程に感心を持っていない。
だが間桐雁夜は所謂表の世界で生きていたため一般教養は魔術師の其れを上回っているのだ。
しかし一人の少女を救うために聖杯戦争に臨む事になった彼は己の身体を酷使する事になっている。
「この世界のとあるエリアに溢れている力の結晶だ。
お前の身体は魔術回路とPSI粒子が共存し互いに助長している」
「なら、今の俺は強くなっている……?」
「魔力の容量は確実に増えている。だが、だ。
そんな上手い話が在る訳でもない。お前も経験があるんじゃないか?」
「なん……だと……?」
無条件で魔力が強まれば聖杯戦争における生存競争率は変動する。
全員が全員PSI粒子とやらを取り込めば平行線を辿るだろう。
しかし天戯弥勒の話を聞く限りでは間桐雁夜しかその影響を受けていない。
これは彼にとって大きなアドバンテージであり、未熟でありながらも正規の魔術師と対抗出来るのかもしれないのだ。
「魔術と科学が交差すれば新たな現象が発生する。お前の身体のように」
「……」
「だがその二つは本来交差することのない異文化だ。
互いに互いを認めず反発する――つまり、力を使えば使うほどお前の身体は崩壊する」
天戯弥勒から告げられた事実は己の崩壊。
魔力は増えたが行使すればその分己の身体が蝕まれる。
唯でさえ間桐雁夜の身体は刻印蟲の影響で満身創痍、それに加えての崩壊。
元々風前の灯である彼の生命は更に終着へと加速する事になる。
「……それを信じると思っているか?」
「声が震えているぞ、間桐雁夜。
気になるなら蟲を使ってみろ、何故そうしない? 確かめるんだろ?」
天戯弥勒に発破を掛けるが口論では彼の方が上手らしく間桐雁夜は言葉を詰まらせる。
現に蟲を使役しようと試みる――そう思っているが血管に謎の痛みが混入してくるのだ。
刻印蟲とは別の、新たに身体を崩壊させる信号が彼の体内を駆け巡っていた。
「心配するな。お前の身体はまだ染まりきっていない。
サーヴァントを戦闘させるだけなら問題は何一つ発生しない」
「対処法はあるのか、教えろ」
「普段通り蟲を使役するならば最終的にお前の魔術回路は焼き切れる事になるだろう。
それが嫌ならば今後、魔術の使用は控えるべきだな。それかゆっくり温泉にでも……冗談だ」
(魔術師としての生命は尽きた……くそ、ごめん桜ちゃん……ッ)
「もしくはお前が魔術と科学を共存させた新たな領域に踏み込めば話は別になるが、どうかな?
この空間にはお前が知らない魔法も溢れているからな――それはそうと、この家はそっくりだろう?」
次々と出てくる未知なる単語に処理が追いついていない間桐雁夜。
それを気にしているかどうかは不明だが、天戯弥勒は話題を変更した。
この世界は彼が用意した推測されており、間桐邸は本物と全ての造りが同一である。
「お前はさっきから何が言いたいんだ……?」
「そっくりだろう、そう言ったんだ。この造りはオリジナルと何一つ変わりない。
懐かしいだろう? またこの家に住めるんだからな。それともう知っていると思うがこの世界にはNPCが存在する。
NPCの中にはオリジナルが存在している奴もいる――この家はお前が知っているモノと何一つ、全てが同一なんだ」
天戯弥勒が言葉を吐き終える前に間桐雁夜は狂戦士に命令を下した。
吠える狂戦士、その標的は目の前に存在する始まりの男、天戯弥勒。
彼が言った言葉は間桐雁夜の願い、謂わば聖杯戦争に懸ける全ての思いに関係していた。
その存在は彼にとっては他人だ。血の関係など存在しない。
だが、それでも。彼にとっては守るべき存在であり日常の象徴でもある。
誰も彼女を守らないならば、己が守り再び笑顔を取り戻せばいい。だから彼は再び魔道の道に戻った。
「バァアサァアアカァァアアアッッ!!」
吠える、男は吠えた。
それに応え狂戦士も己が咆哮と共にその力を天戯弥勒に放つ。
圧縮された空気を弾丸のように放ち風穴を開けんとするが天戯弥勒は右腕を翳した。
翳された右腕の周囲に謎の光が展開され気付くと光は枝のように分かれていた。
分かれていても右腕には盾のように光の元が完成しており、狂戦士の一撃は防がれてしまう。
天戯弥勒は笑う。
解りやすい、この男は。間桐雁夜は実に解りやすいと。
まだ最後まで話し終えていないのにこの反応、この男に会いに来て正解だった。
溢れ出る感情は舞台を大きく賑やかすだろう。
台本など最初から存在しないように暴れてくれる一種の道化としてこの男は物語を創る。
「折角の家が壊れるぞ……まぁいい。お前はお前の身体に気をつけるべきだ。
忠告はしたからな――最後の一人になるまで思う存分暴れてくれ、間桐雁夜」
「逃すなッバーサーカーァ!!」
「■■、■■■■■■■■■■■!」
消え行く天戯弥勒に対し拳の鉄槌を卸す狂戦士だが空打ちに終わってしまう。
最初から存在しなかったように、まるで蜃気楼のように消えた天戯弥勒。
拳が卸され一部壊滅している床を見ながら間桐雁夜はまるで今までが夢、そう思ってしまう。
新たな聖杯戦争。
間桐臓硯からも聞いたことがない二度目の生、二度目の聖杯。
全てがまるで――「間桐臓硯……間桐ッ!!」
全ての思考を放り投げ間桐雁夜は扉を蹴破り部屋の外に出る。
天戯弥勒の言葉の中に一つだけ引っかかった事がある。
未知なる単語で溢れているが、混乱している状況でも一つだけ、一つだけだ。
この空間はオリジナルと同じ――つまり間桐雁夜が知っている物が存在する。
この間桐邸が証拠となり、天戯弥勒は何らかの力で冬木の街を一部再現しているのだ。
それに加え彼が言った言葉。
この街に生活している聖杯戦争参加者以外の存在はNPCであること。
そしてそれもまた、オリジナルを元に造られているとするならば。
荒げた呼吸を整え、間桐雁夜は大きく目を開く。
此処が間桐邸を模した空間ならば。構成物質が全て同一ならば。何もかもが一緒ならば。
一度死んだ彼に与えられた新たな生命。二度目の生命に興味はない――いや、存在する。
どれだけ汚くなろうと、泥を被ろうと、叶えたい願いがある、救いたい存在がいる。
「……帰っていたんですね」
この声だ。
この声をもう一度聞けた。己の総てを投げ出すに値する存在が目の前に居る。
NPCだろうが関係なく、その声、容姿総てが彼の記憶と一致していた。
「泣いている……の?」
「そうだよ……おじさんは弱いんだ……ごめん、でももう悲しませないから……っ」
間桐桜。
彼が聖杯戦争に参加する動機となった悲劇の少女が確かに存在していた。
抱きしめるその少女は何一つ変わらず、再び会えた奇跡に彼は涙を流していた。
例え彼女が天戯弥勒で言うところのNPCだろうが構わない。
目の前の間桐桜は間桐桜だ。オリジナルやNPCの枠組みがあろうと間桐桜としての存在に変わりはない。
薄れて行く意識の中、蟲蔵に埋もれる中で最後に伸ばした一つの奇跡。
握り締めた二度目の聖杯戦争に彼は不安を感じていた。もう一度地獄を体験するのかと。
知らないサーヴァント。知らない力。崩壊を告げられる科学の力――だが今はどうでもいい。
目の前に希望の光が存在しているだけで今は――それだけでいい。
【D-4・間桐邸/一日目・夕方】
【間桐雁夜@Fate/zero】
[状態]肉体的消耗(中)、精神的消耗(小)、魔力消費(小)、PSIに覚醒
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を取り、間桐臓硯から間桐桜を救う。
1.間桐桜(NPCと想われる)を守り、救う。
2.蟲の使役に注意する。
[備考]
※ライダー(ルフィ)、
鹿目まどかの姿を確認しました。
※バーサーカー(一方通行)の能力を確認しました。
※セイバー(
纒流子)の存在を目視しました。パラメータやクラスは把握していません。
※バーサーカー(不動明)、
美樹さやかを確認しました。
※PSI粒子の影響と一方通行の処置により魔力量が増大しました。
※お茶は戦闘を行ったD-4の公園に放置してきました。
※PSI粒子の影響により身体能力が一般レベルまで回復しています。
※生活に不便はありませんが、魔術と科学の共存により魔術を行使すると魔術回路に多大な被害が発生します。
【バーサーカー(一方通行)@とある魔術の禁書目録】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:■■■■───
1.───(狂化により自我の消失)
2.マスターを休息させる
[備考]
※バーサーカーとして現界したため、聖杯に託す願いは不明です。
※アポリオンを認識し、破壊しました。少なくとも現在一方通行の周囲にはいませんが、美樹さやかの周囲などに残っている可能性はあります。
最終更新:2015年12月31日 23:38