おかえり聖杯戦争◆wd6lXpjSKY


 夜の街を駆け抜ける二つの影。
 夜科アゲハは奥歯を噛み締め、月に照らされながら北を目指していた。
 靴裏とアスファルトの擦れる音が耳に残る中、彼は自分の記憶に振り回される。

「呑気に寝ている場合じゃねえ……!」

 起床時には学園の崩壊という一報に驚き、覚醒せぬ頭では思考が回らなかった。
 異形の化物の襲来により、考えるよりも先に身体が動いていた。
 戦場へ向かう真っ最中であるが、火蓋が切って落とされるのは数刻先である。故に脳に安らぎの一時が生まれていた。
 夜科アゲハの記憶に差し込まれるは主催者――天戯弥勒の声だった。
 時計の針が十二と重なりし瞬間、彼の声が聖杯戦争の参加者に届いていたが、肝心の夜科アゲハは瞳を閉じ、寝てしまった。

「アサシンの脱落――人吉のとは別のサーヴァントが落ちた。
 変な化物が動いていることを考えれば、昼よりも他の奴らが活発になっているのは明らかじゃねえか……っ!」

 目覚めと同時に記憶に混在する天戯弥勒の声はやけに透明だった。
 聞いていない言葉は間違いなく不純物である。他人に記憶を改竄されたような、一種のトランスに陥ったとも捉えられる。
 しかし、感じぬ違和感が夜科アゲハの心を静かに侵食する。まるで聖杯戦争の記憶を自然と理解していた始まりと同じ感覚である。

「学園がぶっ壊れたってのはフェイクの可能性もあるが……テレビでやってんならマジだよな。
 巨人がいたのも多分……今更俺らより馬鹿デケえ奴がいたって、ロボットが出ても不思議だなんてことはありえない」

 太陽が昇っている間に通っていた学園の崩壊は、偽りの学び舎ながら夜科アゲハの興味を惹くには十分過ぎる情報だった。
 複数の聖杯戦争参加者が集う規格外の火薬庫が弾け飛んだ。そう考えれば理解し難い話ではあるまい。
 問題は戦闘が行われていたことである。彼は全てのマスターやサーヴァントと出会った訳ではない。
 未だ見えぬ脅威、或いは仲間になり得る存在かもしれないが、何よりも圧倒的な情報不足である。
 寝ていた自分を殴りたい気持ちに駆られ、過去に飛べるならば睡眠を妨害していただろう。

 そして極めつけは――


「俺は――落ちる前に全てを片付けてやる」


 夜空を見上げれば満月が世界を嘲笑っていた。
 天戯弥勒の言葉の幕切れは比喩でも無ければ、詩的に表した訳でも無かったのだ。
 偽りないその意味は月が世界の崩壊を物語っていた。彼曰く聖杯戦争のリミットである。

 世界の終わりが見えたこと。
 聖杯戦争に新たな脱落者が現れたこと。
 アッシュフォード学園が崩壊してしまったこと。
 謎の巨人が現れたこと。
 地震や津波の類が発生していること。
 異形の化物が現れたこと。

 ――金のキャスターの手先が接触してきたこと。

 眠気を吹き飛ばすには充分だろう。
 脳に叩き込まれた多くの情報が夜科アゲハの脳を刺激し、彼の意識を覚醒させる。
 次に自分が行うべき行動は何か。場所は、敵は、味方は、天戯弥勒は――人吉善吉は。

 大地を蹴り上げる足に自然と力が籠もる。
 肌で風を切り、ちらほらと視界に入り込む通行人を避け、着実に北へ向かう。

 金のキャスターによって操られた人間が怯えていたのは何故なのか。
 幾つかのパターンが考えられるが、夜科アゲハの思考は唯一つの答えを最速で弾き出していた。
 不敵な笑みを浮かべ、少々ではあるがこんな答えに満足してしまう自分に恥ずかしさをも覚えてしまう。


「辿り着けば、全てがわかるんだよ……!」


 などと、思考を放棄出来ればどれだけ楽だっただろうか。
 言葉では簡単に吐き捨てるが、彼の脳内は未だに出口の見えない迷路を彷徨っている。
 情報の処理と理解を締め付けるは寝ていた自分への愚かさである。
 少しでも動いていれば――状況は全てが変わっていたかも知れない。
 彼は全てを知らず、未来の海賊王が固有結界を発動したことも、とある世界の頂点と天使と悪魔の世界に踏み入った二番手の決戦も。
 世界の壁を超越した対立も、全てに出遅れている。彼がその事実に辿り着くことは無いが、取り残される感覚だけが心を埋め尽くす。

 故に少しでも前へ。
 北上すれば人吉善吉や金のキャスターとの接触する可能性が高い。
 月が世界に迫ろうが、夜科アゲハの行動は変わらず、彼は己の為すべきことを――天戯弥勒の元へ辿り着け。


「そこら辺から盗ん……拝借してきたぜっ! 早く後ろに乗りな!」


 考え事に夢中になっていたのか、夜科アゲハはバイクが並走するまでエンジン音にすら気付かなかったようだ。
 横目を流せば相棒であるセイバー纏流子がヘルメットも被らずに、じゃじゃ馬に跨っていた。
 窃盗に注意する筈もなく、夜科アゲハは右足を振り上げ宙へ跳び、纏流子が待ってましたと言わんばかりに軽くブレーキを握り締めた。
 彼らは所謂、不良の類。窃盗の一つや二つ、違法走行程度に口を挟む人種とは掛け離れた存在である。


「飛ばしてくれ! 俺達の出遅れた分を一気に回収してくれ!」


「言われなくても飛ばしてやるさ、舌を噛むなよ手を離すなよ? そんじゃあ――飛ばすぜぇ!!」


 夜科アゲハが後ろに跨った瞬間、バイクは唸りを上げ一瞬でフルスロットルへ。
 アスファルトに焦げ付くは彼らの思いか、溢れ出る熱を表現するかのようだった。

「昼も大概だったけどよ、夜になると一層暴れてやがる」

「なあ纏、アサシンが脱落したって話だけど、他に何体のサーヴァントが落ちたと思う」

「あー……知らねえな。エスパーじゃねえし。でも、確実に他の奴もくたばってるさ」

「一応聞くけど、根拠はあるのか?」

「――しっかり捕まってろ、ちょいとこっちも暴れるぜ」

 マスターの問を中断し、サーヴァントたる纏流子はハンドルを傾ける。
 身体を襲う衝撃に夜科アゲハは顔を歪め、文句の一つでも言い放とうとした瞬間だった。

 先程まで走っていた地点に何かが降って来た。

 ハンドルから離れた纏流子の右腕が掴むは紅き鋏の片割れ――片太刀バサミ。
 その刀身はハサミの冠に似合わず刀と同義かそれ以上。月夜を反射し紅に纏流子の鋭い瞳が浮かび上がる。

「ん~、誰だお前?」

 不気味な襲来者を夜科アゲハは壊れた人形のような存在だと感じ取る。
 人間を型どってはいるが、疎らに歪な造形、見た者を不安にさせるような表情や挙動。
 寝起きの襲撃者はどこかファンタジーやメルヘンらしさを匂わせていたが、今回は違う。
 生理的な恐怖や悪寒を引き立たせる存在は、奥に製作者の顔を覗かせているようにも感じてしまう。

「お前が誰だって話じゃねえかぁ!!」

 空から降って来た人形が地面に着地する寸前の出来事である。
 纏流子は片手運転で器用に体勢を整えたまま接近すると、空いた右腕を空へ伸ばす。
 握られた片太刀バサミが振り下ろされ、人形はあっという間に一刀両断。
 バイクが道路を走り抜け、からんころんと飛び散った部品が大地を転がる音だけが人形の結末を演出する。

「……なんなんだよ、あいつ」

「さあな。どうやら人違いっぽいから誰かを狙ってたみたいだったけどな」

「喋る服に戦国武将に悪魔に人形か……なんでもありだよな」

「わけが分からねえのがサーヴァントみたいなところあるからな」

 あの人形はサーヴァントじゃないからな。
 そう付け加えた纏流子は一切振り向かずにバイクを走らせる。
 襲撃者は確実に誰かを狙っていた。それは恐らく創造主に命令されていたのだろう。
 推測ではあるが魔力に反応しこちらを襲って来たのだろうか。
 真実を包む闇を晴らすのは現状じゃ不可能だ。だが、下っ端を使役し暗躍している存在は認識した。

 人形を使役するサーヴァント――話に聞いていたキャスターであろう。
 金のキャスターとは異なる存在に纏流子は遭遇しておらず、ランサーである前田慶次らからの又聞きでしか把握していない。
 しかし、碌でもない人物であることは確かであり、キャスターの英霊は揃いも揃って悪趣味な連中なのだろうか。

 ふと夜空を見上げれば月。
 生前の纏流子は大気圏を突破し宇宙へ到達したことを思い出す。
 最悪の結末を迎える前に自分が正面から破壊することも視野に入れるべきだろうか。
 などと考えていると、必要以上に黙るマスターに気を取られてしまいため息を零す。

「睡眠も大切だって」

「……うるせえ」

「出遅れた感じはあるけどよ、目的はドンパチすることか? 見境なしに喧嘩をふっかけることか? 違うよな」

いつまでもくよくよすんな、らしくない。
 そう言葉を投げ、纏流子の笑いが風に流れて後方へ。

「絶対に姉キのところへ帰るんだろ? だったら止まらねえで、やることがあんだろ」

 振り向いた彼女の口から歯が覗き、無邪気な笑顔を見れば夜科アゲハは考えることが馬鹿らしくなっていた。
 最も自分のやるべきことを見失ってもいなければ、落ち込んでいた訳にも非ず。ただ、ケジメが必要だった。
 睡眠の選択は戦局を長い目で見据えれば悪い訳ではなく、体力温存の面から考えれば最善の可能性すらある。
 結果的に人吉善吉の捜索を打ち切ったこと。言い換えればダチを見捨てたことが、夜科アゲハの心を静かに苦しめていたのかもしれない。

「そうだな……あぁ、そうだよな。
 さっさと行こうぜ。俺にはやらなくちゃいけないことがまだまだあるんだ……こんなところじゃ止まれねえ」

「全くだ。これまで散々寝てた分を取り返してやろうぜ! 盛り上がっているところに悪いが、まだあたし達がいるんだよ」

 人知れず輪から取り残された彼らがバイクに跨がり夜を駆け抜ける。
 舞台を照らす灯りが増え、カーテンの切れ間から覗く役者も舞台に躍り出た。
 だが、彼らが残っている。参加者にして唯一、主催者たる天戯弥勒を知る彼が残っているのだ。

 之より戦場に帰還するは一人の男。
 夜科アゲハ――沈黙を破り、再び舞台の上で踊り狂う。


【B-4/二日目・未明】


夜科アゲハ@PSYREN-サイレン-】
[状態]魔力(PSI)消費(小)
[装備]なし
[道具]グリーフシード×1
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争を勝ち抜く中で天戯弥勒の元へ辿り着く。
1.北上し、地震の原因と金のキャスター、人吉を探す。
2.地震が人為的なものでなく、危険を感じたら避難する。
[備考]
※ランサー(前田慶次)陣営と一時的に同盟を結びました
※セイバー(リンク)、ランサー(前田慶次)、キャスター(食蜂)、アーチャー(モリガン)、ライダー(ルフィ)を確認しました。
※ランサー(レミリア)を確認しました。
※キャスター(フェイスレス)の情報を断片的に入手しました
※『とある科学の心理掌握(メンタルアウト)』により、食蜂のマスターはタダノだと誤認させられていました。
※アーチャー(モリガン)と交戦しました。宝具の情報を一部得ています
※グリーフシードを地球外由来のもの、イルミナに近い存在と推察しています。


【セイバー(纒流子)@キルラキル】
[状態]魔力消費(中)疲労(小)
[装備]バイク@現地調達
[道具]
[思考・状況]
基本行動方針:アゲハと一緒に天戯弥勒の元へ辿り着く。
1.北上し、地震の原因と金のキャスター、人吉を探す。
2.地震が人為的なものでなく、危険を感じたら避難する。
3.キャスターと、何かされたアゲハが気がかり
4.アーチャー(モリガン)はいつかぶっ倒す
[備考]
※セイバー(リンク)、ランサー(前田慶次)、キャスター(食蜂)、アーチャー(モリガン)、ライダー(ルフィ)を確認しました。
間桐雁夜と会話をしましたが彼がマスターだと気付いていません。
※キャスター(フェイスレス)の情報を断片的に入手しました
※アゲハにはキャスター(食蜂)が何かしたと考えています。
※アーチャー(モリガン)と交戦しました。宝具の情報を一部得ています




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最終更新:2018年12月24日 23:53