彼女――そう、彼女は生まれついての兵士だった。

 生殖という女性を女性たらしめる機能を奪われて、ただ戦うために存在する。
 その手に我が子を抱く事はなく、その手はただ主の敵を殺すためにある。
 彼女に名はない。初めから存在しない。
 今日この日、そのときまで――――彼女は特にその事を考えもしなかったし、それが当然だと理解していた。

 生物にはどうしようもなく、生まれついての差が存在する。
 金持ちの子供は当然のように資産を受け継いでその分の機会を手に入れるし、
 一方で貧乏人の子供はその貧困を脱する手段を持たない。

 彼女もまた例に漏れず、生まれたときからどうしようもない格差を抱かされていた。

 一つだけ利があるとすれば――役目があった事だろうか。
 役目を果たす事しか、彼女の脳裏にはなかった。それが全てだった。
 悩みはなかった――というよりも、悩むという機能自体持ち合わせていなかったのだ。

 生粋の、純然たる兵士。




 兵士。

 彼女は代わりが利くもので、彼女は誰でもあって誰でもない。
 そこに思考は必要ないし、個性などというものは存在しない。
 だからこそ彼女はこの場に召喚された――――誰でもあって誰でもないから、彼女こそ適任だった。

 彼女は多くの仲間の、その汎用たる例の一人だった。

 だが――。


(――――――――)


 だがここで、異物が混じった。
 呼ばれたクラスはバーサーカー。その、狂化が彼女の完璧の歯車に狂いを生じさせた。

 本来なら持ち得ない思考。
 本来なら抱くはずない欲求。
 本来ならあり得ない本能。

 でも、彼女は手にいれた。

 ただの兵士でよかったのに。
 ただの兵士なだけだったのに。
 ただの兵士に過ぎなかったのに。

 彼女は不相応にも――――――兵士以外になりたいと思ってしまった。

 彼女は、初めて、“母”になりたいと思ってしまった。

 どうして、自分は子を為せないのかと考えた。


 子を為すというのは――――――全ての生物の過程にして目標。

 それは、彼女においても変わらない。





 そして彼女は召喚の混乱から覚めやらぬその内に、反射的に宝具を使用した。

 彼女という個体は、彼女という種族全ての写し身であるが故に――――彼女の子としてではなく、種族として呼び出せる繁殖機能。

 その機能を為す生体を、人は“フェイスハガー”と呼んだ。


 彼女を呼び出したそのマスターは、今や呻く事すらできずに下水道の片隅で踞る事しかできない。



 ◇ ◆ ◇


 河のその底で沈み続ける運命を選んだ彼にとって、ここは新たな自由であった。
 自覚なく――少なめの脳みそとか、程度が低い癖っ毛とか、どうしようもないクズだとかのレッテルを張られながらも配管工事人として――。
 或いは彼を嘲笑う人間を下水の中身として捨てながら暮らしていた。

 自由だ――最中には、その事への自覚はなかった。

 やがて聖杯戦争のマスターとして記憶を取り戻したそのとき、彼は後遺症で止まらない涙と鼻水を拭いながら、喜んだ。
 或いは混乱した。

 一切の変化が、満ち引き以外が与えられぬ河の底とは違いすぎる環境。
 涎を拭う自由がある。
 記憶を取り戻したが故に『理解』した圧倒的な自由に目眩を覚えつつ、立ち眩みに苛まれつつ、彼は己が召喚したサーヴァントを見た。

 自由――それが彼のちっぽけな脳みそから、僅かな反射と反抗の機会を損なわせたもの。

 彼は――混乱から覚めやらない彼は――。

 そのサーヴァントのすぐ側に現れた卵胞から飛び出した生物に顔面を覆われ――




(お、オレは……うっ……オレは……)











 ――この日、マジェント・マジェントは『妊娠』した。







 幸いと言うなら、その生まれついての才能――【スタンド】故に体内に寄生した生物が彼にダメージを与える――彼の身体を食い破り外には出てこない事。

 災いと言うなら、一度スタンドを解除してしまえば、彼の肉体はたちまちサーヴァントの産み出した幻想に突き破られてしまう事。

 彼が唯一助かるとすれば、サーヴァントが聖杯を手にしたその時に、己の救助を聖杯に乞い願う事だけ。


 どうにもならない不幸に、ただ己のサーヴァントが勝ち残り聖杯を手にしてくれる事を祈りながら――


(うう、オレは……)


 ――マジェント・マジェントは再び、考える事をやめた。




【クラス】
 バーサーカー
【真名】
 エイリアン@エイリアンシリーズ
【ステータス】
 筋力:B 耐久:C 敏捷:B+ 魔力:E 幸運:C 宝具:B
【属性】
 混沌・狂

【クラススキル】
 狂化:EX
  ランクが高いほど、バーサーカーとして理性は失われる分、肉体面が強化されていく。
  本来EXランクともなれば、まともな思考や意志疎通など到底は不可能だが、そもそもエイリアンは人間とは基本的に意思疏通が不可能な存在である。
  兵隊アリ的な役割を持ち思考や欲望などとは無縁であったエイリアンに狂化を加える事で、願望というものが生まれてしまった。

【保有スキル】
 自己改造:EX
  自身の肉体に別の肉体を付属・融合させる。このスキルのランクが高くなればなるほど、正純の英雄からは遠ざかる。
  後述の宝具の効果が加わる事で、エイリアンは姿を変化させていく。

 捕食者の軛:B
  同ランクの気配遮断、気配感知を併せ持つスキル。閉鎖空間においては攻撃態勢に移行してもランクが低下しない。

【宝具】
「天を埋めよ、我が慈愛(エイリアンズ)」
 ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:1人
  常時発動型宝具。
  このエイリアンはその種族の普遍的な像(イメージ)として召喚された。エイリアンという概念そのものの写し身。
  エイリアンというイメージの代表として現れている為、霊基を分裂させて自分と同じ種族を呼び出す事ができるが、ただしその分霊格は低下する。
  個にして群、群にして個。この場にいるエイリアンは、エイリアンとして霊核を共にする。

「地に満ちよ、我が情愛(エイリアン・エイリアン・エイリアン)」
 ランク:B 種別:迷宮宝具 レンジ:1~99 最大補足:1~100人
  閉鎖空間内に潜み、遭遇した生命体へ虐殺的な捕食を行った彼女(たち)の逸話に由来する宝具。
  エイリアンの存在する建造物、坑道、船舶等ある程度閉鎖された空間を“エイリアンのいる異界”“エイリアンの巣”に変質させる。
  この空間の中でエイリアンは気配遮断と気配感知をワンランク上昇させ、エイリアン以外は全ステータスをワンランクダウンさせる。
  また、下記と上記の宝具にて現界するエイリアンに関するものを自在に配置する事ができる。

「人を覆えよ、我が求愛(エイリアン・リザレクション)」
 ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:1人
  大きな卵胞。近付く事で破裂し、開いた人の両手と女性器を合わせた形状の寄生生物が飛び出す。
  筋力にて対抗判定を行い、判定に失敗した場合“昏倒”“寄生”のステータスが付与される。
  そして一定時間経過後によって、宿主の肉体ダメージと共にエイリアンの幼生(チェストバスター)が場に現れる。
  親となった宿主を材料に身体を構成する為バーサーカー自身の霊格を損なわせる事なく誕生し、また材料とした宿主の性質を一部受け継いでいる。
  そして第一宝具の効果により、受け継いだ性質はバーサーカー自身にフィードバックされる。

  現在、マスターのマジェント・マジェントに寄生して彼の形質を獲得する事で、エイリアンはマジェント・マジェントのスタンドを所持している。

【weapon】
 爪、尻尾、強酸性の体液

【人物背景】
 人類が宇宙へと進出し、恒星間移動を行えるようになった未来――そこで遭遇してしまった生命体である。
 何らかの遺伝子操作を行われた生物体兵器の一種と考えられ、アリやハチのような女王を中心とした血族ピラミッドでの繁殖を行う。
 その兵隊アリに属するのが彼女(この表現が正しいかはさておき)であり、宿主となる対象の捕獲や調達、外敵との戦闘を行う。
 昆虫のような無機質さながらも学習能力や判断能力に優れ、宇宙船内という閉鎖空間で数多の人間を殺害した。
 真空状態の宇宙空間での長期間の生存、液体窒素や火炎放射の被弾などの厳しい環境にもある程度耐久する生命力を持つ。

【聖杯にかける願い】
 自分自身の偽りでない生殖能力。




【マスター】
 マジェント・マジェント@ジョジョの奇妙な冒険 スティール・ボール・ラン

【能力・技能】
 『20th センチュリー・ボーイ』
  【破壊力:なし /��スピード:C / 射程距離:なし / 持続力:A / 精密動作性:D / 成長性:C】
  バッタのような被り物のスタンド。
  発動中は一切の身動きが取れなくなるかわりに、あらゆるダメージを周囲の地面などに受け流す絶対防御を行う。
  スタンドの更に下で本体に密着したダイナマイトの爆発で傷を負わなかったり、川に落とされても発動している限り溺死を免れたり(或いはそこで考える事をやめるぐらい沈み続ける事となっても)と、
  外的によらずダメージや状態変化そのものを受けつけない能力なのかもしれない。

【ロール】
 殺し屋の傍ら排水パイプの交換技師という役割を得ていたが、現在は妊婦である。
 スタンドを発現する事で身体を食い破られる事に耐えていて動けない。

【人物背景】
 聖人の遺体を手に入れたジョニィ・ジョースターとジャイロ・ツェペリに差し向けられた追っ手の一人。
 ウェカピポという鉄球使いと組みジョニィたちを追い詰めるも、敗北。その後、ジョニィらに説得されるウェカピポの裏切りを知り復讐心を抱く。
 重症で辛くも救助された彼は、ウェカピポへの復讐を行わんと再会と共に戦闘を開始する――が、
 ウェカピポに敗れ、身体にワイヤーが絡まった“スタンドを解除しなければワイヤーは外せず”“スタンドを解除すると溺死する”という抜けようがない状態で川底に沈み考える事をやめる。

【聖杯にかける願い】
 産みたくないよなぁ……なぁ、そう思わないか?

【方針】
 スタンドを解除すると体内からエイリアンの幼生が飛び出てしまうため、戦いが終わるまで動かずにおとなしくしている。
 エイリアンが勝ち残る事を祈る。
最終更新:2016年06月22日 18:22