――世界は、変わらなかった。変えることが、できなかった
スメラギ・李・ノリエガが取り戻したのは、数週間も前の事だった。
死んだはずの恋人が愛を囁き、逝ってしまったはずの仲間たちが笑顔で自分たちを祝福してくれている。
そんな偽りの日常に、酒に逃げるようには溺れきることができなかったのだ。
これが単に病気や事故で死んでしまった大切な人たちがそこにいるだけならよかった。
けれど、彼らが死んだのはどこかの誰かのせいでもなければ、誰のせいでもない不幸によるものでもない。
他ならぬ、彼女、スメラギ・李・ノリエガ自身の判断ミスのせいだった。
自分が、死に至らしめてしまった人たちに囲まれて幸せに過ごせるほど、彼女は厚顔無恥でもなければ図太い人間でもなかったのだ。
スメラギはむしろ、繊細な人間だった。
自らが成してしまったこと、その責任とトラウマにどこまでも追いかけられてきた人間だった。
だからこそ、記憶を取り戻し、聖杯戦争の知識を得た時、彼女は、聖杯を望んだ。
被害を最小限に抑え、人命を救う。今度こそ、今度こそ……。
粉々に砕かれたかつての夢を、二度に渡り犯してしまった失敗からの逃避を。彼女は望んだ。
にも関わらず、サーヴァントは彼女の前に姿を現すことはなかった。
令呪すらも、その身に現れることはなかった。
ただ、彼女が記憶を取り戻した自室に備え付けられていたパソコンや情報端末のモニターが輝き、謎のアプリがダウンロードされただけだった。
アプリの名はjungle。
それは彼女のサーヴァントを名乗る者の仕業であり、ソレスタルビーイング時代以来の新たなる“ミッション”の始まりだった。
それから彼女は着々とミッションをこなしていった。
焦りや苛立ちがなかったと言えば嘘になる。
しかしこのミッションを送ってきているのが彼女のサーヴァントと思わしき存在である以上、無視するわけにはいかなかった。
驚くほどに高性能なアプリjungleは、利用者にミッションを発令し、こなせばこなすほどポイントが貯まり、ランクが上がる仕様になっていた。
ミッションの内容はどこそこに何かを運べといった簡単なものから、他のマスターやサーヴァントに関わるような命を危険に晒すものまであった。
ミッションの参加選択権は利用者に委ねられているが、難易度が高ければ高いほど、クリア時のポイント加算も高い方式だ。
またランクを上げさえすれば他の利用者――なんとjungleは一般的に配布されているのだ――にミッションを発令する権限も得られる。
スメラギは時間と点数、危険度などを秤にかけ、時に大胆に、時に繊細に、ミッションをこなしていきランクを上げていった。
異能の力を得られるとされるgランカーに達した時、スメラギの手に令呪が一画輝いた。
この令呪を使ってしまえば、今すぐサーヴァントを呼び寄せられるのではないか。
何度かそう考えたこともあったが、その度に、安易な案を理性で抑えこんだ。
聖杯から与えられるはずの令呪を自身で管理し、マスターに与えることのできるサーヴァントだ。
まっとうに令呪が効くとも思えない。
それにこの頃には、自身のサーヴァントがどうしてこんな回りくどい真似をするのか、スメラギには薄々見えてきていた。
少なくとも、サーヴァントが令呪をマスターへと渡す=マスターに従う意思があると確認できた以上、今はそれで十分だ。
スメラギはランクとともに増した権限を使い、jungleユーザーのNPCも巻き込んでますますミッションに励んでいった。
ニ画、三画と令呪を増やし、jungleの運営に会えると噂されるjランカーへと到達した時。
遂にスメラギのもとに、サーヴァントから迎えがやってきた。
そして、今に至る。
サーヴァントからよこされた使い魔、緑のオウムに案内されてやってきたのはいかにも悪の秘密基地を思わせる地下空間だった。
これがサーヴァントの“工房”なのだろう。
今はまだ作りかけのようだが、異彩を放つお茶の間とちゃぶ台には何の意味があるのだろうか。
甚だ疑問だがスメラギは意識を切り替える。
今は訳の分からないちゃぶ台を気にかけている暇はない。
何よりも重要なのは彼女を迎え入れた己がサーヴァントだった。
「驚愕です。予想以上です。新記録です。
スクナがいれば、悔しがり、張り合ったはずなのですが、残念です」
彼女を迎え入れたサーヴァント、キャスターは見るからに変わった男性だった。
拘束具を着こみ、自らを拘束し、その上で特殊なデザインの車いすに鎮座している。
一般人からすれば関り合いになりたくない容姿である。
だが、スメラギは一切動じることはなかった。
「ああ、挨拶が遅れてしまいました。謝罪です。
直接にははじめまして、マスター。元ソレスタルビーイングの戦術予報士、スメラギ・李・ノリエガ。
俺はサーヴァント、キャスター。真名は……ご存知のはずです」
何故なら彼女は彼の真名を知っていたから。
「ええ、知ってるわ。緑の王、比水流(ひすい ながれ)。
最強クラスの“王”が私のサーヴァントだなんて光栄ね。
それで? 私の新記録はあなたのお気に召したかしら」
他ならぬ彼が発令したミッションにて、彼の情報マトリクスを集めさせられたからだ。
「あなたほどのプレイヤーなら歓迎です。
ですがお気に召したかは俺の質問でもあります。
――あなたは、俺と一緒に夢を、見てくれますか?」
不健康な外見に似合わぬ、力を帯びた緑の瞳に飲み込まれそうになる。
それは英霊の持つ風格に加えて、王としてのカリスマがなせるわざだろう。
比水流。
このサーヴァントがわざわざ情報マトリクスを集めさせたのは、主従として“絆”を結べるか、その大切さを知っているからだろう。
自分の手で調べさせられただけあり、スメラギは、キャスターの生い立ちや性格、理念についてかなり理解が深まっていた。
共に戦っていけるかどうか、それを判断できるくらいには。
言うなればjungleによるミッションは、スメラギのマスター適性を測るテストであると同時に、スメラギが比水流を測る材料にもなっていたのだ。
「そうね、正直言えばあなたの目指した世界は、私たちが目指した世界とは大きく異なっているわ。
人類の“変革”……。誰もがあなたたち、英霊のような力を持ち、己の責任で、己の欲望を成し遂げる自由な世界。
きっとそれは混沌に満ちた世界なのでしょうね」
比水流が理想としたのは、武力を始めとした力を与えられた人々による混沌に満ちた自由な世界。
武力による戦争の根絶を目指したソレスタルビーイングの理念とは相反する世界だ。
けれども、今ここにいるスメラギ・李・ノリエガは最早ソレスタルビーイングの戦術予報士ではない。
自らが聖杯戦争という、戦争を行う側に立ってでも、願いを叶えようとする一人の人間だ。
「……でも、一人ひとりが力を持てば、襲い来る理不尽な死をも振り払い生きていけるというあなたの意思、その一点には理解を示せる。
他ならぬ被害者であり、犠牲者であるあなたの言葉は、誰よりも重い」
ソレスタルビーイングの同僚であり、自らが守れなかった人間の一人、リヒティを思い出す。
彼は幼少期に戦争で生身を失い、身体をサイボーグ化していた。
生きているのか、死んでいるのか分からない。
死に際にそう漏らした彼と、緑の王の生い立ちは似ていた。
否、比べていいものでもないが、身体を半分失ったリヒティですら、比水流と並べることはできない。
何故なら比水流は英霊となる前の生前、世界を変えようとしていた時にはもう死んでいたのだから――。
「確かに俺は聖遺物に全てを奪われた人間です。ですが同時に新たな全てを得ました。
人は己を守り道を切り開く力を持つべきです。聖杯はそれを与えてくれます」
比水流が自らの拘束を解き、二本の足で大地を歩む。
はだけられた上半身、その服の下には、本来あるはずのもの、心臓がなかった。
ぽっかりと空いた穴に、緑の雷だけが迸っていた。
「これがドレスデン石版由来の王の力……。
同じ聖遺物由来の力かつ、あなたと相性のいい電脳空間なら自身の令呪を操作できたのも納得ね。
でも、マトリクスでは知っていたけど、これじゃまるでフランケンシュタインの……ごめんなさい、酷いことを言ったわね」
「構いません。俺は生きています。俺自身がそう思っています」
この雷こそが緑の王の力。“変革”“改変”を司る異能。
“死んでいる”状態を“生きている”状態に改変し続けることで比水流は現界しているのだ。
「ただ、俺が無理やり生きながらえているのは事実です。
全力で戦える時間は限られています」
「把握しているわ。あなたは言ってしまえば“トランザムでしか”戦闘を行えない。
粒子――魔力があるうちは圧倒的だけど、魔力が切れると大幅に能力が低下し、消滅の危機に瀕してしまう。
しかもトランザムをあまりし過ぎるとあなたはダモクレスダウン――自爆してしまう」
「だからこそのjungleです。使い方はここまでのミッションで分かっているはずです」
「おかげさまで。jungleも聖杯戦争もチュートリアルはばっちりよ」
jungleにてNPCを、時には他のマスターやサーヴァントさえ利用して、間接的に参加者を減らしていく。
直接戦うのは此処ぞという時だけだ。
それがこのキャスターの勝ち筋であり、スメラギに課された戦術プラン作成の前提条件だ。
幸い、ここまでのミッションでjungleの使い方や、聖杯戦争そのものがどれだけ熾烈なものかは体験済みだ。
後は今度こそ、絶対に失敗しない戦術を組み上げなければならない。
「心強いです。では改めて契約成立です、マスター。俺と一緒に遊びましょう」
スメラギの心中を知ってか知らずか、流は笑みを浮かべ軽い言葉で手を差し出してくる。
「よろしくね、キャスター」
戦争をゲームと言うキャスターに思うこともあるが、スメラギはぐっとこらえその手を握り、刹那――
「最後に一つだけ。
マスター、もしもあなたが天上人として世界を変えるよりも、人間としてちゃぶ台を囲むことを望むのなら。
俺はそれを止めるつもりはありません。
自由です。立派な欲望です。尊い夢です」
緑の王は、囁いた。
どこか遠くを見つめて。
今までになく穏やかな声で。
「何のことかしら」
「ただのひとりごとです」
【クラス】キャスター
【真名】比水流@K RETURN OF KINGS他
【属性】混沌・悪
【ステータス】
筋力:C+ 耐久:E 敏捷:A+ 魔力:A 幸運:E 宝具:B
【クラススキル】
陣地作成:B+
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
“工房”の形成が可能。
また現実にだけでなくネット上に陣地を形成し、大規模な術を使うこともできる。
道具作成:B
魔力を帯びた器具を作成可能。
流は情報端末やアプリなどの情報機器関係に特化しているが、魔力を帯びない道具ならクランズマンを利用して作らせることが可能。
【保有スキル】
王権者:A
大いなる力を持ち、この世の理を体現した存在。
緑の王である流は第五王権者であり、「変革」「改変」を司る。
同ランクの魔力放出(雷)、対魔力を内包し、クランの生成やクランズマンへの能力授与も可能にする複合スキル。
このスキルが機能すればするほど、ヴァイスマン偏差は臨界に近づいていく。
破壊工作:C+
戦闘を行う前、準備段階で相手の戦力をそぎ落とす才能。
クランズマンによる物理面と自身による情報面の両方から、直接的・間接的に被害を与えることが可能。
ただし、このスキルが高ければ高いほど、英雄としての霊格は低下していく。
カリスマ:C
軍団を指揮する天性の才能。団体戦闘において、自軍の能力を向上させる。
カリスマは稀有な才能で、小国の王としてはCランクで十分と言える。
潜伏技能:B+
緑の根はどこにでも密かに伸びゆく……。
サーヴァントとしての気配を断つ潜伏技能。
体術的な気配遮断ではなく、王としての力を抑制した上での暗躍能力であり、潜伏時や大衆に紛れた時に見つかりづらくなる。
情報社会と相性のいい緑の王の力によるハッキングや情報痕跡抹消能力やjungleの特性も加わり潜伏力はかなりのもの。
ただし、自らが攻撃態勢に移ると効果が切れるだけでなく、ダモクレスの剣の出現により、居場所が大々的にバレてしまう。
【宝具】
『ダモクレスの剣 (ソード・オブ・ダモクレス)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-
ヴァイスマン偏差と呼ばれる王の異能による因果律の歪みの度合いが一定数を超えるとその頭上に顕現する剣の形をしたエネルギー結晶体。
王の状態も表しており、限界状態だと剣も崩壊していく。王が死ぬと消滅する。
流は英霊になる前から、既に死した人間であり、死んでいる状態を、生きている状態へと改変して生きながらえていた。
それはサーヴァントになってからも変わらず、普段は自らの生命維持にのみ力を割いている。
この宝具の使用により、戦闘モードに移行した流は自身の身体能力を操作し、雷や制限なしに変革の力を振るえる反面、加速度的に魔力を消耗してしまう。
そのため、魔力が切れると生命維持が不可能になる流は短時間しか直接戦闘することができない。
この宝具が機能すればするほど、ヴァイスマン偏差は臨界に近づいていく。
『王権暴発(ダモクレスダウン)』
ランク:A+ 種別:対王宝具 レンジ:999 最大補足:700000
王の力が暴走したり、力を出し切る、王を殺すなど、ヴァイスマン偏差の臨界に達すると発動する現象。
サーヴァント殺しには王殺しに近い負荷がかかり、2・3人殺すとまず発動してしまう。
ダモクレスの剣が落下し、大爆発を引き起こす。
かつて別の王の暴発は関東南部を中心に半径数十㎞を壊滅させ、王自身を含めて70万人以上の犠牲を出した。
ある逸話から破壊不能とされる物も壊すことができるため、真っ当な手段で防ぐことは不可能。
剣が落ち切る前に王を殺すことで現象を回避できる。
『星をも呑み込む緑の大樹(jungle)』
ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:1~99 最大補足:1000
緑のクラン。
王権者は自らの臣に異能の力を与えることができるが、緑のクランは端末とアプリを通じて不特定多数の人間からなる特殊な形態である。
利用者に様々なミッションを課し、クリアした者にポイントを与え、上からj・u・n・g・l・eの各ランク分けされる。
知らぬ間にゲーム感覚で犯罪に加担させることや、トカゲの尻尾きりも容易で、足がつきにくい。
流の展開する広域結界サンクトゥムでクランズマンは更なる力を引き出すこともできる。
今回、もっぱらの対象となるNPCでは異能の力をぎりぎり与えられるgランカーかよくてnランカーになるのが関の山であり、戦力としては微妙である。
この宝具に強制力はなく、あくまでも自発的にミッションを受けてもらう形である。
また、他のマスターやサーヴァントでも、jungleのユーザーにはなれる。
『伝令なりし我が同胞(コトサカ)』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-
緑のクランズマン。
オウムだが、jungle最古参は伊達でなく、緑の力を使い電撃による戦闘が可能。
流の媒介役としての役割も担っている。
【weapon】
なし。戦闘は雷や力場を纏っての徒手空拳や縦横無尽の疾走で行う
【人物背景】
第五王権者「緑の王」。
聖遺物に全てを奪われ、新たなる全てを得た者。
王たちの間を暗躍し、灰色の王や仲間たちと世界変革にあと一歩まで迫るも、白の王、青の王、赤の王に阻まれる。
敗れはするも満足して死者へと戻った。
彼にもまた、絆を結んだ者たちと囲んだちゃぶ台があった。
【サーヴァントの願い】
世界を変革し、全ての人間が自分の力と責任で、己の欲望を成し遂げる自由なゲームの世界にしたい。
【基本戦術、方針、運用法】
耐久は低いながらも、「改変」が可能な間は死なないためほぼ負けることがないサーヴァント。
緑の力の特性上、即死や状態異常といった押し付けも実質無効化できる。
身体能力も操れるため、近接戦も得意。結果、キャスターでありながら正面からの力押しが可能。最強クラスの王は伊達ではない。
ただし魔力切れ=死亡なため短時間しか戦えず、下手にサーヴァント相手に無双してもダモクレスダウンが起こってしまう。
そのため、マスターを狙ったり、情報やjungleを駆使して間接的に他の主従を倒すことが求められる扱いの難しいサーヴァントである。
相手の異能を封じるタイプも要注意。原作的にある程度までなら効かないが、万一「改変」や不死性を封じられた場合即死である。
【マスター】スメラギ・李・ノリエガ @機動戦士ガンダムOO(1stシーズン終了後から2ndシーズン開始前の間)
【マスターとしての願い】 聖杯を手に入れて願いを叶える。
【能力・技能】
『戦術予報士』
国連が認める国際的な民間技師資格の一つ。
統計学や戦術史等の様々な分野を基にして過去の事例から戦術を立案・予測する。
スメラギの戦術は大胆さと繊細さを併せ持つ。
【人物背景】
作戦ミスにより、味方同士を同士討ちさせてしまい、恋人も失った過去を持つ。
その傷を払拭しようと参加した紛争根絶を目指すソレスタルビーイングも壊滅。
大切な仲間を守ることができず、世界も変えられなかった彼女は、いつしか電脳空間に溺れていた。
【方針】
jungleによるNPC導入や、情報戦も活かし、キャスターの制限時間やダモクレスダウンに注意しながら勝ち抜く。
最終更新:2016年06月22日 18:31