自分の願いを思い出す。自分の思いを取り戻す。そして少女――――美樹さやかは剣を抜いた。
「がはっ!」
肺を貫かれたのだろう口から噴き出るのは鮮やかな紅(あか)。
戦う前から理解していた、勝てないと。
それでもさやかは退かない、激痛を堪え、瞳に更なる闘志を宿し、眼前の敵を睨みつける。
「存外に良い獲物を得たな」
さやかと対峙する西洋鎧の剣士の後ろで、厭らしい笑みを浮かべている中年男は、このサーヴァントのマスターだろう。苦しむさやかを見る目には、昏い愉悦と欲情があった。
――――こんな処で死ねない!死にたくない!
――――帰らないと、恭介が!まどかが!
「なるべく長く持たせるんだ、泣き喚いた末に、私の靴を舐めて命乞いをするのが見たい」
悪趣味極まりない台詞にウンザリしたように頷くと、セイバーはさやかの右手首を切り飛ばした。
あまりにも速く滑らかに切り飛ばされた手首は、血も流れず、痛みも感じない。
呆けたように断面図を見つめるさやか、その傷口にやがて血が浮かび、勢い良く鮮血が迸った。
「う…う…が…あ……ぎゃあああああああああ!!!」
獣のような叫びを上げてのたうち回るさやかに、セイバーが剣を振り上げる。狙いは左手首。
硬いものが断たれる音がした。
「な…なな…なあああああああ!!!」
セイバーのマスターの間の抜けた叫びが夜の空気を震わせる。眼前で尻を突き上げ地面に突っ伏しているのは、自身のサーヴァント、セイバーだ。周囲には誰もおらず、さやかは激痛と出血により気絶している。
セイバーの首筋には木の葉の様な形状の刃が突き立っていた。おそらくは頸骨を一撃で断ったのだろう。
「ひ…ひぅぃぃぃ!!!」
消えていくセイバーに目もくれず、踵を返して走り出す。セイバーを斃した武器と、斃された状況から、相手はおそらくはアサシンのサーヴァント。
隠れて不意を衝くしかない暗殺者とてサーヴァントはサーヴァント、彼には太刀打ちできる相手では無い。
必死という言葉を体現して走る男の逃走劇は、十歩も行かずに終わりを告げた。
「うぎゃあ!!」
唐突に転倒し、顔を強かに打ち付ける。痛みを意に介する暇も無く立ち上がろうとして、また転んだ。
喚きながら身を起こそうとして気付く。
――――左足が軽い。
恐る恐る視線を向けると、人の足の膝から下転がっていた。
「あ…あ…あ…ああ…あああ…ああああああああああっっっっ!!!!!」
断末魔の如き悲鳴を上げる男の前に、ゆらりと闇から滲み出る様に人影が表れた。
分厚いフード付きの外套に身を包み、両腕の肘から先を獣毛で編んだ黒い籠手で覆っている。
右手を覆う籠手の上に精緻な細工が目を引く黄金の腕輪嵌められていた。
上背はそれなりに有るが、肩幅は狭く、骨格も華奢であった。女性かと思われるフォルムの主は、しかし――――
「つまらんな、呆気なさ過ぎる」
静かな低い声は男のそれであった。
「我が君への供物とするには不測。しかもマスターの治療もしなければならん」
そうして男は右手を振り上げる。そに手にはいつの間にか長さ90cmを超える曲刀が握られていた。
「時間をかける訳にはいかんな」
そうして男はゆっくりとセイバーのマスターの左肩に刃を食い込ませ、心臓目掛けて緩やかに、確実に刃を滑らせていった。
凄まじい苦痛の中、セイバーのマスターは視線を感じていた。
今自分を殺そうとしている男のものでは無い、もっと別の視線を。
激痛と恐怖のにのたうち回るセイバーのマスターは最後の瞬間その視線の主を目撃した。
「う…ぐああ…ああああああああああああああああ!!!!」
その瞬間セイバーのマスターは魂の底から搾り出すような恐怖の絶叫を上げた。
一時間後。数キロ程離れた公園でで意識を取り戻したさやかは、ベンチに座って魔法で傷の手当てをして。自身のサーヴァントと向かい合った。
「遅れてしまい、まことに申し訳ありません。サーヴァント、キャスター。此処に馳せ参じました」
跪いて挨拶をするキャスターのフードに覆われた頭を見ながら、さやかはあの主従がどうなったのかを尋ねてみた。
「私の力量では貴女を抱えて逃げるのが精一杯でして、あの主従は未だに健在です。ですがあの様な輩共は見過ごせてはおれません。何としてでも打ち倒さねば」
「キャスター。私はこの聖杯戦争というのが許せない。いきなり人を連れて来て殺し合わせるなんて、許されることじゃ無い。だから聖杯は破壊する。主催者も倒す。けど貴方は?何か叶えたい願いが有るから此処にいるんでしょう?」
「私の願い…願いという程でもございませんが、私の神に正しく信徒として振る舞うことでしょうか。私はその為に此処に居ます。そに為には聖杯等は不要です」
「じゃあ…」
「貴女に賛同します。この地に貴女の掲げる正義と、我が神の教えを顕しましょう」
そう言ってフードを取るキャスター。その下の顔は長い銀髪に白い顔…そして。
「エルフ?」
長く伸びた先の尖った耳。まさしくアニメや漫画に出てくるエルフ。
「エルフであっても人と分かち合えるものは御座いますサーヴァント、キャスター、ラゼィル・ラファルガー。貴女と共にあらん事を」
「有難う。キャスター」
キャスターに微笑むさやか、同じく微笑むラゼィル。しかしさやかは気づかない。
ラゼィルの右手に嵌められた腕輪。その中央に有る猫目石が、さやかを嘲る様に、忌まわしく悍ましい輝きを放っていることを。
【クラス】
キャスター
【真名】
ラゼィル・ラファルガー@白貌の伝道師
【ステータス】
筋力:C 耐久:D 敏捷:B 幸運:B 魔力:B 宝具:A++
【属性】
混沌・悪
【クラススキル】
陣地作成:C
自らに有利な陣地を作り上げる技術。“神楽”を行う“狩場”を作り出せる。
“狩場”の中ではキャスターとその同胞は全ステータスに+が付き、敵対者は逃亡に対してマイナス判定がかかる。
道具作成:B
骸から武器や道具を作成したり、感情と記憶と自我を取り除いた操躯兵の作成が可能。
【保有スキル】
信仰の加護:EX
一つの宗教観に殉じた者のみが持つスキル。
限りなく敬虔で純粋な信心から生まれる、自己の精神・肉体の絶対性を備える。
神我一如の域にある狂信はおよそあらゆる精神干渉、それに付随するバッドステータスを完全に無効化する。
同じ信仰に準ずるものに対し、Cランク相当のカリスマを発揮する。
千里眼:C
視力の良さ。遠方の標的の捕捉、動体視力の向上。闇夜でも遠隔の遮蔽物に身を隠した標的を精確に捉えられる
魔術:B
影の中に武器を収納したり、武具に対するエンチャント、死骸に魔力を充填して動かす外法に精通している。
計略:B
集団に対する内部分裂、離間工作、他勢力への取り入り、暗殺といった行為に有利な判定を齎す。
単独行動:B
神への信仰を貫くためにキャスターは故郷を捨て、1人地上を征く。
混沌の英雄:A++
生前“光”に属する種族を殺戮し、伝説となったキャスターの生涯から得られたスキル。
秩序や善に属する者と対峙した際、ステータスが宝具を除き1ランクアップしA+相当の戦闘続行スキルを得る。
また、聖性や神性を帯びた魔術や武具のランクを一つ下げる。
【宝具】
龍骸装
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ 1~20 最大補足:15人
ラゼィルが仕留めた白銀龍の骸から自作した武具。
曲刀『凍月』短槍『群鮫』鎖分銅『凶蛟』無数の手裏剣。籠手と胴着からなる。
手裏剣と鎖分銅は籠手をつけていなければ己の手を切り裂く。
ラゼィルが擬似生命体として加工している為、自己修復機能を持つ。
この武器で殺された者の魂は異なる宇宙に存在する邪神グルガイアの贄となる。
我が麗しき神楽の舞い手(バイラリナ)
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ 1~30 最大補足:10人
ハーフエルフの少女、アルシアの骸を素体とした操躯兵。
アルシアの身体が隠れる程の祭器『嘆きの鉈』を生前習得した戦闘技術を駆使し機械じみた精密さで振るう。
筋力:B 耐久:D 敏捷:B+ 幸運:E 魔力:E 宝具:ーのステータスのサーヴァントとして扱われる。
Cランク相当の怪力スキルとBランク相当の戦闘続行スキルとDランク相当の単独行動スキルを持つ。
更に精神が無い為如何なる精神干渉を受け付けない
『嘆きの鉈』はCランク相当の宝具に匹敵し、この鉈で殺された者の魂は異なる宇宙に存在する、邪神グルガイアの贄となる。
龍骸装・凄煉
ランク:A++ 種別:対城宝具 レンジ:1~99 最大捕捉:1000人
龍骸装の中でも最強の一品
白銀龍の肺胞を加工した武装であり、いかなる生物であろうとも耐えること敵わぬ鏖殺の一撃「竜の吐気(ドラゴンブレス)」を発動する。瘴気と灼熱の息吹は例え直撃せずとも、血と骨を瞬時に腐敗させ、金属すら容易く融解させる。
ただし、吸気して炎を吐くまでに100秒かかる。
白貌(ホワイトフェイス)
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ ー 最大補足:自分自身
エルフの遺灰と骨粉から作った白粉。
自身の属性を秩序・善と誤認させる。
水に濡れても平気だがエルフの血には弱い。
神の眼
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:ー 最大捕捉:ー
ラゼィルがグルガイアの神像から抉り取った宝玉。文字通りの神の眼であり、この隻眼を通じ、異なる位相の宇宙から、邪神グルガイアは信徒達の神楽を、地上の生命の苦しみや怒りや嘆きを観る
【weapon】
無し
【人物背景】
小説、白貌の伝道師の主人公。
地下に住むダークエルフで在りながら白貌を付け、地上を1人旅する男。
その目的は、地上に不和を播き、騒乱を起こして、地上の命全てををグルガイアの贄とすること。
その為にラゼィルは追って来た兄すら殺し、地上を征く。
【方針】
優勝狙い。マスターを騙しつつ神楽の舞台を整える。
宝具“白貌”は絶対に外さない。
【聖杯にかける願い】
グルガイアを現世に帰還させる。
【マスター】
美樹さやか@魔法少女まどか⭐︎マギカ
【能力・技能】
魔法少女としての人間を超えた身体能力。特に速度に優れる。
成り立て技術面では拙いが高い回復能力を持つ。
ゾンビ戦法にはまだ開眼していない。
【weapon】
剣を作成できる。複数作って投擲したりもする。
【ロール】
女子中学生
【人物背景】
明るく活発で元気な娘。作中ではやることなすこと裏目に出た。幸運値は限りなく低い。サーヴァントがアレなのも多分このせい。
まどか曰く「思い込みが激しくて喧嘩もよくしちゃうけど、優しくて勇気があって困っている子がいれば一生懸命……」。
入院中のバイオリニストの上条恭介という幼馴染みに想いを寄せており、しょっちゅうお見舞いに行っては、彼を少しでも元気づけようとクラシックのCDをプレゼントしている。
魔法少女の先輩である巴マミに対してはまどか同様強い憧れを抱いており、後に自らも「人を助ける為」に魔法少女になった為、暁美ほむらに対しては冷たい態度や行動を快く思っておらず毛嫌いしている。
一方で佐倉杏子に対しても、当初は弱肉強食を肯定する言動に激怒して対立していたが、後に杏子の過去を聞いた後は自己中心的な人間だと誤解した事を謝っている。
【令呪の形・位置】
右手の甲に瞳の形をしたものが有る
【聖杯にかける願い】
無い。あえて言うなら帰還。
【方針】
主催許はゆるさない。聖杯を破壊して二度とこんな事が出来ない様にする
【参戦時期】
テレビ版4話終了後
【運用】
魔力消費を抑えないと魔女化という悲劇。しかしさやかは知らない。