――あの日から空いた穴は、今も塞がることはない
「私は……英雄になりたかった」
君はどうしたい、君は何を願う?
そう問いかけてきたサーヴァントに最上リョウマは静かに語り始めた。
何度も何度も思い出し夢想したあの夏の日の記憶を。かつて抱いた夢を。
「あの日のタイキさんのようにパートナーと絆を結び、巨大な悪や世界の危機に立ち向かう……そんな英雄になってみたかった」
リョウマは見た。巨大なデジモンと命がけで戦う英雄工藤タイキとそのパートナーシャウトモンの姿を。
続く悪の皇帝バグラモンと英雄率いるクロスハートとの最終決戦を。
英雄たちが世界を救ったその瞬間を――。
「なるほど、英雄になりたい、か。それが君の願いというのなら、私となら叶えられなくはないだろうな」
静かに、されど力強く言ってのけるサーヴァントの姿を、リョウマは傲慢とは思わない。
何故ならサーヴァントとは英霊であり、紛れも無く過去の英雄なのだ。
既に偉業をなし、英雄となった者からすれば、英雄になりたいということほど、容易く叶えられる願いはない。
だけど――
「……不服そうだな。私では君のパートナーとして不満かな?」
「そういうわけではありません。セイバーさんからは紛れも無く力を、かつて私が魅せられた力を感じます」
漆黒の全身鎧を纏い、背中に巨剣を刺したセイバーはまさに英雄と呼ぶに相応しい勇姿だ。
見かけだけではない。こうして対峙しているだけでも存在そのものの大きさ、力強さが伝わってくる。
この大英雄と共に戦えるというのなら、世界を救うことだってできるかもしれない。
でも、違うのだ。
「ごめんなさい、セイバーさん。私のパートナーはあなたではないんです」
リョウマは光栄に思ってしかるべき申し出を断ること、英雄の顔に泥を塗ることに対し、頭を下げた。
普段の自分なら決してしない行為だ。
それでも頭を下げてでも譲れないものはあるのだ。
「……私は君に頭を下げられるようなことをした覚えはないのだがな」
「セイバーさんは何も悪くありません。ただの私の我儘で、未練です」
「未練?」
「はい」
そうだ、これを未練と呼ばずになんという。
リョウマは頭を下げたまま、声を絞り出す。
「私にはかつてパートナーがいました」
デジモンのこと。クロスローダーのこと。デジクオーツのこと。
たくさんのことをリョウマは話した。
頭を下げているせいで、セイバーがどんな顔をしているのかはリョウマには分からない。
ただ、セイバーはリョウマの話に何も口を挟むことはしなかった。
「アスタモンといいます。強くて、かっこ良くて。こいつとなら世界を救える。そう思わせてくれた最高のパートナーでした」
アスタモン――サイケモンが超進化したデジモンはリョウマの持つ最強の戦力だった。
リョウマの指示に従い、いつも望む結果を出してくれた。
交わした言葉は少なかったが、ただ無口なだけで、自分とアスタモンとの間には確かに絆がある。
いつか見たタイキとシャウトモンのような関係なのだと信じていた。
真実を知るまでは――。
「でも、アスタモンは私を裏切った。いいえ、裏切ったのならまだ良かったんです。
もし単に裏切ってくれただけならどれだけよかったか。
それなら私は憎むことも恨むことも悲しむことも怒ることもできた。こんなに悩むことなんて無かった!」
真実は残酷だった。
アスタモンなどというデジモンはいなかった。
いいや、この言い方では語弊があるか。
リョウマがアスタモンだと思っていたデジモンはアスタモンですら無かった。
本来存在したアスタモンというデジモンを取り込み、アスタモンを演じていた悪しき黒幕クオーツモン。
それが、リョウマがパートナーだと思っていたデジモンの正体だった。
「途中からなり変わったとか、化けていたとか、操られていたとかそんなんじゃない。
いなかった、いなかったんです、私のパートナーは、最初から!
なのに私は今も私のパートナーは“アスタモン”だと思っている。
あなたがパートナーであることを受け入れられない。
この世界で記憶を取り戻したのだってアスタモンがいなかったからなんです。
滑稽だ、もういなくなったパートナーがいないことに、いいえ、元からいなかったパートナーがいないことに違和感を感じ記憶を取り戻すなんて!」
もしかしたなら自分は今もクオーツモンに操られているのかもしれないとリョウマは自嘲する。
だっておかしいではないか。最悪の裏切りを成した悪魔に今もなお心乱され囚われているなんて。
きっとクオーツモンは自分の感情を操り、聖杯戦争を勝ち抜かせて復活させようとしているのだ。
「……そうか。君はもう一度パートナーに会いたいのだな」
「……会いたいです。でも私が会いたいアスタモンはどのアスタモンなのか自分でも分からないんです。
アスタモンの元になった私の知らないアスタモンなのか。アスタモンに化けたクオーツモンなのか。
はは、それこそ聖杯の力なら私の理想のアスタモンを、クオーツモンが演じていた偽物を本物として生み出すこともできるかもしれないですね。
そうしたら、そうしたら私はそれで、私は、私はなんて、愚かな考えを……」
会えないのだ。何をしたところで、真実を知ってしまった今、あのアスタモンは本当にどこにもいない。
だからきっとこの溢れ出る涙は、自分の馬鹿さ加減に対してだ。
アスタモンと会えないことへの悲しみなんかじゃ――
「マスター、頭を上げて欲しい」
セイバーにそう言われても、しばらく頭を下げたままのリョウマだったが、どうやらセイバーが自分を待っているらしいと感じ頭をあげる。
すると目に入ってきたのは思いもよらぬ光景だった。
今度はセイバーが、漆黒の英雄が、兜を外し、リョウマに真摯に頭を下げてきたのだ。
「すまなかった。軽はずみに君と、君の仲間の大切な思い出に踏み入ってしまったことを謝罪させて欲しい」
「な、あ、頭を上げてくださいセイバーさん!
確かに問われたのがきっかけですが、私も誰かに聞いて欲しかったから話したんです。
私の方こそあなたに頭を下げてもらう理由はありません」
リョウマは大慌てでセイバーに頭を上げさせようとするも、セイバーは英雄であることが嘘のように慣れた様子で頭を下げたまま動かない。
これは令呪を使ってでも頭を上げてもらうべきか?
そんな若干天然の入った考えを真剣に考えだした所で、ようやくセイバーが頭を上げる。
兜に隠されていた顔立ちは意外にも平凡な年配の男のものだった。
「そうか。ならばおあいこだな。ただこれだけは言わせて欲しい、最上リョウマ。
名も姿も偽りで、たとえそれが演じていただけの存在だったとしても。
君がアスタモンに、君のパートナーに感じていた想いは偽りなどではない。
私のパートナーになれないと言った君の言葉も、当たり前だ。
大切な仲間の代わりなんて現れてたまるものか」
リョウマのことを真摯に見つめ、発した言葉には、力強さだけでなくどこか切ない響きもあった。
文字通りセイバーという英雄の素顔を覗かせるような感情がこもっていた。
だから、リョウマは失礼だとは分かりつつも、思わず反応してしまった。
「……セイバーさんにも、大切な仲間がいたのですか?」
「……いたさ。素晴らしい、仲間たちだった。だから申し訳ないが私も君のパートナーにはなれないんだ」
誇らしく、それでいて寂しそうに顔を歪める英雄にリョウマは何も言えなかった。
そんなリョウマを気遣ってかセイバーは再び兜を被り、英雄としての顔を見せる。
「ただ、冒険者として君を護衛する依頼を受けることならできる。
どうだろうか。しばらく考えてみるというのは。大切な仲間のことなんだ。
すぐに答えを出せという方が無理な話だろ」
提案されたのはひとまず聖杯戦争にはのらないという専守防衛案。
たとえ聖杯に願いを託すと決めるにせよ、最初から派手に暴れて余計な敵を作る必要もない。
リョウマに悩む時間を与えつつも、理にも適っている。
ただしリョウマはよくてもセイバーはどうか。
「いいんですか。セイバーさんだって仲間たちに遭うために聖杯が欲しいんじゃ」
「……そうだな。正直会いたくないといえば嘘になる。
だが、実は気がかりなことがあるんだ」
「気がかりなこと、ですか?」
「ああ。数多の世界、数多の時間から英霊たちを電脳空間に呼び出し、人間たちと組ませて戦わせる。
似ていないか? 君が話してくれたデジモンハントやデジクオーツに」
言われてみればまさにその通りだとリョウマは考える。
クオーツモンはデジタルワールドから様々なデジモンを呼び寄せ、現実を模した空間デジクオーツに引き入れていた。
それは全てデジモンたちの吸収し、自分の力とするためだ。
更にはそんなクオーツモンに対抗して、デジモンハンターや時を超えた歴代の英雄たちまでもが集い大きな戦いとなった。
細部は違うが、確かに聖杯戦争と重なるところがあると言える。
「なんてことだ。本当なら私が気づくべきことだったのに」
「何、君が冷静なら私よりも先に気づけたさ」
セイバーは謙遜するが、その洞察力は流石は英雄と言ってしかるべきだとリョウマは感心する。
それに比べて自分は、クオーツモンの件の当事者にも関わらず考えが至らなかった。
今の自分はセイバーのマスターで、依頼主だが、それでもセイバーに頼りっぱなしというのはプライド的にも許せない。
リョウマはデジモンハンターとしての自分に切り替え、セイバーの考察に続く。
「デジクオーツでの戦いはクオーツモンが集めたデジモンたちや人間界のデータを取り込んで自分自身の身体を作り上げるためにあった。
つまりこの聖杯戦争も誰かが、超常の存在である英霊たちの、もしかしたら私たちを殺しあわせることで魂やデータを集め、
何かを生み出そうとしている? しようとしている?」
「考え過ぎかもしれないがね。君の話を聞いたばかりだったからこそ、思いついた仮説の一つの過ぎなくはある。
だが少なくとも君になんの理もなく聖杯戦争に参加させるような運営だ。
警戒するに越したことはない」
「……そうですね。考える事だらけで頭の痛くなる話では有りますが」
自分の想いも聖杯戦争のことも分からないことだらけで本当に頭が痛くなる。
だが余分なものも沢山ついてきたとはいえ、いつかは向き合わないといけない気持ちだった。
「足掻こう、時間(とき)のサバイバルで」
セイバーに手を差し出す。
「受けよう、その依頼を」
握り返してくれた手はどこまでも大きくて力強くて。
ガントレットに包まれているから固くて。
アスタモンの手袋ごしの感触と全然違ったことがやっぱり少し、寂しかった。
【クラス名】セイバー
【出典】オーバーロード
【性別】男
【真名】モモン
【属性】秩序・善
【パラメータ】筋力A 耐久B 敏捷C 魔力E 幸運A 宝具C
【クラス別スキル】
対魔力:C
魔術詠唱が二節以下のものを無効化する。大魔術・儀礼呪法など、大掛かりな魔術は防げない。
騎乗:A
幻獣・神獣ランクを除く全ての獣、乗り物を自在に操れる。馬だって今やバッチリ!
伝説の魔獣森の賢王を屈服させ、騎乗していたことに由来する。
【固有スキル】
冒険者:EX
人類の切り札、人々の希望、アダマンタイト冒険者。
人類種よりも強力でかつ多彩な能力を持つモンスターたちから人々を守るのが冒険者である。
モンスターやアンデッド、負や魔の属性を持つものへの攻撃に対し多大な補正を得る。
勇猛:B
威圧、混乱、幻惑などの精神攻撃を跳ね除ける。
格闘ダメージを上昇させる効果もある。
カリスマ(偽):C
最高位冒険者に相応しい威厳と迫力だけでなく、律儀さや誠実さ、丁寧さを兼ね備えている。
そのため、敵対していない他人からの信頼を得やすい。
また、福次作用としてモモンの行為は本人が意図してない形で好意的に受け取られることもある。
戦闘続行:B
名称通り戦闘を続行する為の能力。決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の傷を負ってなお戦闘可能。
幾多もの死線をくぐり抜け生還してこその英雄である。
【宝具】
「死を切り裂く双剣(スラッシング・デス)
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:1
常人であれば両手で持つのも困難な大きさの二振りのグレートソード。
本来は、頑強さや切れ味、破壊力はあれどただの剣なのだが、数多のモンスターを討伐したモモンの逸話や人々の祈りにより対魔の宝具となっている。
モンスターやアンデッド、負や魔の属性を持つものへの攻撃に対し、補正が入る。
モモンはこの剣を投げて使うことも多い。
「漆黒の英雄(ザ・ダーク・ウォリアー)」
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:1
希少な金属アダマンタイトをふんだんに使った強固な漆黒の全身鎧。
双剣と並ぶモモンの象徴であり、特別な魔法は込められていないがこちらも宝具となっている。
ギガントバジリスク退治などの逸話から、身体への状態異常を跳ね除ける。
また、関節や目のスリットなどへの攻撃にも鎧の防御力が適応され、弱点とはならない。
「森の賢王(ハムスケ)」
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
森の賢王と称される伝説の魔獣。
どう見ても巨大なジャンガリアンハムスターだが、人や魔を問わず不思議と畏怖を与えていた。
人語を話し、鱗に覆われた異常に長い尾を素早く操り攻撃し、さらには数種の状態異常魔法や武技を使いこなす。
流石に英霊を相手取るのは難しいが、伝説の魔獣は伊達ではない。
【Weapon】
双剣の他にも炎の槍や氷の剣、使い捨てだが強力な魔法が込められた魔封じの水晶などを持ち、魔法が使えない点を補っている。
【人物背景】
上位吸血鬼の討伐、大悪魔を撃退し一国を救うなど数多の伝説を生んだ最高位冒険者。
生きる伝説。不敗の戦士。優しき大英雄。
その強さだけでなく、相手を尊重し誠実に接する器の大きさも名声を高めている。
鎧で隠された素顔は存外普通らしい。あくまでも異邦人であり、他国では目立つ容姿を隠すためとのこと。
相棒の美女がモモンを主のごとく仰いでいることもあり、どこかの国の王族ではないかなどとも噂されている。
【聖杯にかける願い】
あくまでもリョウマからの依頼を引き受けるだけであり、聖杯に興味が無いわけではないが些か懐疑的。
【マスター名】最上リョウマ
【出典】デジモンクロスウォーズ 〜時を駆ける少年ハンターたち〜
【性別】男
【Weapon】
「クロスローダー(緑)」
デジモンに関した様々な機能を持ち、用途は限定的ながら時間と空間の流れにも干渉できる。
ただしリョウマがハントしたはずのデジモンたちは今回は持ち込めていない模様。
【人物背景】
かつて目にした英雄の姿に憧れ、そのために力を求めていた少年でデジモンハンター。
普段は冷静で時に手段を選ばないが、その憧れと熱意は本物であり、ハンターの代表を決める心の強さの戦いでは優勝したほど。
しかしその憧れは利用されており、実は彼のパートナーのアスタモンこそが事件の黒幕クオーツモンであった。
最悪のタイミングでクオーツモンに操られ、英雄たちを裏切ってしまい、真実を知る。
パートナーを失い、夢破れた彼は、ライバルに託し、助け、ライバルが英雄になるのを見届ける。
クオーツモンの消滅に伴い、クオーツモンに吸収された多くの者は帰って来たが、元からいなかった彼のパートナーが帰ってくることはなかった。
【聖杯にかける願い】
アスタモンに会いたい。でも自分が望むアスタモンが分からない
【方針】
自分がどうしたいのか、答えを出すまでは専守防衛。安々と死ぬ気はない。
また聖杯戦争に裏がないか調べる。
●
(ううん、参った。まさかモモンという英雄を作ったことが、こんなことになるなんて)
英雄モモンは途方に暮れていた。
兜に隠れて表情が見えなかっただけで、実は終始困っていた。
リョウマに長々と話させるがままにしていたのも、モモンはモモンで現状把握や考えるための時間が欲しかったからだ。
(よーし、落ち着け。まずは落ち着け、俺ー)
召喚時にムーンセルより知識を与えられているとはいえ噛み砕くのには時間がかかる。
モモンは少しずつ現状を把握していく。
(とりあえず俺はまだ死んだわけじゃないんだな。いやまあ人間としての身体は死んでるかもだけど)
英霊というのは多くの場合、英雄が死後、人々の信仰により祭りあげられた存在だ。
とはいえ時に例外もあり、また電脳空間「SE.RA.PH」での聖杯戦争の場合は、英雄たちのデータを元にサーヴァントを誇張・再現するという。
特に死んでいる必要もないようだし、自分に死んだ記憶はない。
恐らくはSE.RA.PHの様式が、モモンのルーツと相性が良かったため、サーヴァントとして白羽の矢が立ったのだろう。
(それにしてもムーンセルに、デジタルワールドか―。もしかしたらあの世界もデジタルワールドみたいなものなのかもしれないな。
NPCだなんてとっくに思えなくなってたけど、アルベドたちもデジモンだっけ、電子生命体みたいに生まれ変わったってことなのかな)
英雄モモン。かつての名を鈴木悟。平行世界とはいえリョウマ同様日本人で、冴えないサラリーマンだった。
ディストピアへと向かっていく二十二世紀の日本で、幼くして天涯孤独となった鈴木悟は小卒で働くことを余儀なくされた。
底辺のサラリーマンとして灰色の人生を送っていた彼はとあるゲームと出会う。
DMMORPG『ユグドラシル』。
二十二世紀の技術で作られた体感型のオンラインゲームと、そこでの仲間たちとの出会いは鈴木悟にとって遅れてきた青春だった。
しかし青春がいずれ終わるように、MMORPGもいつか終わるもの。
サービスの終了とともに、鈴木悟の日々はまた灰色に逆戻り……するはずだった。
世界は、終わらなかった。姿を変え、続いていった。
鈴木悟は自らが作ったゲームのキャラクターとして異世界へと跳ばされたのだ。
今思えば、あの世界はデジタルワールドのようなものだったのかもしれない。
(まあその辺りはどうでもいっか。俺にとって大事なのはナザリックなんだし。
とはいえこの世界にはナザリックはないんだよなあ。アルベドたちがサーヴァントとして呼ばれてるでもない限り。
……あいつらが呼ばれてもいきなりマスターを殺してそのまま消滅したりとかしてそうだけど。
頼むから令呪で殺されたりとかしてないでくれよ……。
分身みたいなものだからって、お前たちが殺されるとか嫌だからな……)
異世界へと跳ばされていたのは鈴木悟だけではなかった。
本拠地としていたナザリック大墳墓に加え、そこに配置していたNPCたちが自我を持ち着いてきたのだ。
そのため彼は、仲間たちが遺した子どもたちとも言えるNPCたちが仕えるに足る主として振る舞おうと頑張っていたのだが……。
この聖杯戦争では今のところモモンとして一人旅の状態だ。
ナザリックの主として振る舞う必要もない。
英雄たちとの戦いに身を投じ、リョウマのサーヴァントとして戦い抜いても問題ないのだ。
幸い、リョウマはナザリックの敵ではないし、共感できるところもある。
(二度と会えない仲間、か。裏切られたのとそうじゃないの、どっちの方がましなんだろな。
いや、俺の最高の仲間たちとリョウマを騙していた最低の奴を比べるのは仲間たちに失礼か)
鈴木悟にも仲間がいた。
ゲームで出会った最高の仲間たちだ。
たかがゲーム、と思うものも多いだろう。
だが、孤独な人生を送り、ゲームの中でさえ異形種として迫害されていた悟にとって、仲間たちと出会ってからの日々はかけがえのない宝物で。
だけど仲間たちは去っていった。
裏切られたというわけではない。
ただ、みんながみんな、ゲームよりも現実を選んだだけだ。
分かっている、分かっているんだ。
それでも、一人また一人とゲームを辞め、最後の一人になってしまった時、何も思わなかったといえば嘘になる。
裏切られたのならまだ諦めはついたのかもしれない。
でも、裏切られたわけでもなく、ただ選ばれなかっただけなのは、一層辛いのではないだろうか。
(会いたいな、彼らに。会ってまた話をしたい。だけど……)
それは正直、難しいだろうと“モモン”は踏んでいる。
リョウマには悪いが、たとえ彼が聖杯を求めたとしても、モモンが聖杯戦争で優勝できるかは難しいのだ。
いや、正直に言えば優勝できないだろうとさえ、踏んでいる。
モモンはサーヴァントとしては悪く無いステータスだ。
自身がモモンをやっている時よりも、人々の信仰やらムーンセルの解釈やら誇張やらもあってか、単純な強さ自体は上回っているくらいだ。
基本能力としても大悪魔ヤルダバオトことデミウルゴスとの戦いでの戦士化の魔法を使っていた時のものを参照しているのだろう。
いわば普段のLV30モモンに対して、今のモモンはLV100パーフェクトモモンだ。
だが、それでいて尚、モモンでは並み居る英霊たち相手に勝ち抜くのは難しいだろうとモモンは確信している。
何故なら――モモンは彼の真の姿ではなく、モモンでは本来の戦い方ができないからだ。
(あー、それこそこれバレたら、俺も令呪使われかねないよな―。
なんでよりによってマスターのトラウマにピンポイントな俺をサーヴァントにしたんだよ!
聖杯のバカヤロー)
鈴木悟がゲームで使っていたのは人間の剣士“モモン”などというキャラではない。
アンデッドの最上位種オーバーロードの魔法詠唱者“モモンガ”なのだ。
当然異世界でも鈴木悟はモモンガであり、人間ではない骸骨なのだ。
加えて言えばモモンガという名前さえ過去のものだ。
今は仲間たちと作り上げたギルド“アインズ・ウール・ゴウン”を自分の名として名乗っている。
つまりは、鈴木悟がモモンガになり、モモンガがアインズと改名し、アインズが人間に変装したのがモモンなのである。
多段詐称も甚だしく、元鈴木悟としては、こんなサーヴァントを掴まされたらトラウマがなくても怒る、と自分でも思う。
(リョウマはデジモンとパートナーだったくらいだし、異形種だからと差別はしないかもだけど。
それにしたって俺達は悪の集団だし……。
信頼関係を考えれば正体を先に明かしておくのもありだけど、
普通に聖杯戦争に参加するだけなら“アインズ・ウール・ゴウン”の名は明かしたくないんだよなあ)
転移後の世界の人間がこの地にいる場合でもなければ、異世界人にバレてもそれほど問題ではない、と思う。
ただ、これはアインズのプライドの問題だ。
仲間たちとの栄光の名であるアインズ・ウール・ゴウンを泥で汚すわけにはいかない。
アインズ・ウール・ゴウンを名乗ってしまえば、この聖杯戦争が負けられない戦いになってしまう。
そしてアインズはゲーム時代でも強さとしては中の上、よくて上の下、手持ちの全てのアイテムを含めても上の中止まりだった。
これはアインズがロールプレイングを重視していたからなのだが、聖杯戦争では更なる制限が発生している。
あくまでもセイバーとして召喚されたアインズは、モモンとしてではなくアインズとして戦おうにもクラス制限を受けるのだ。
アインズの最適クラスはキャスター、或いはエクストラクラスだ。
セイバーではクラス制限によりほとんどの魔法やワールドアイテムが使用できず、ナザリック大墳墓の召喚や、守護者たちの召喚もできない。
踏んだり蹴ったりである。
正直補正の入ったモモンと、制限著しいセイバーアインズとでは本来ほどの極端な戦力差はないと言えよう。
まだいくらか本来に近い戦い方や強力な宝具が使える分だけマシだが、それで勝てるほど英雄たちの戦いは甘くないと見ている。
(まあ、モモンはモモンで不安要素もあるのだけれど)
ここにいるのはアインズが扮するモモンではない。
モモンという英霊の記録をムーンセルが再現したものだ。
そのため、モモンはアンデッドではなくれっきとした人間として再現されている。
さっきリョウマに対して兜を取ったのは謝罪のためだけでなく、その辺を確認するためでもあった。
結果は予想通り。幻影で作ったまがい物の顔でなく、生身の顔が兜の下にはあった。
そしてそのことこそが最大の不安材料なのだ。
アインズは痛みは感じれども血を流さないアンデッドであり、人間とは違う精神性故の冷静さや冷酷さがあった。
対して生身になってしまったモモンはどうだろうか。
これまで通りに戦えるのだろうか。
一応英雄モモンの再現なだけあり、鈴木悟の頃に比べたら今も冷静に考えれているとは思うが……。
リョウマに対して抱いた共感が、仲間のことと重ねてだけでなく、人間としての情を再び得てしまったからの可能性もある。
また、本当の本当にモモンの上位互換としてのセイバーモモンだとしても、パワーアップしていれば何でもいいわけでない。
ゲーマーなら常識だ。
レベルアップしたことや装備を変えていたことを忘れて、削るつもりが倒してしまったとか、反射ダメージで死んでしまったとか。
そんな初心者時代の苦い思い出があるのだ。
(そのためにもまずはどれだけ戦えるのかも実感しておきたいな)
それがリョウマに様子見を提案した理由の一つでもあった。
他にも万一ナザリックの面子や或いはかつての仲間たちがサーヴァントやマスターとして呼ばれていないかを調べたいというのもある。
無論、リョウマに話した理由も嘘ではない。
この聖杯戦争のリョウマの視点でMMOに例えるなら、強制的に課金必須のイベントに参加させられたようなものだ。
しかも賞品は優勝者にしかでないという。
クソゲーだ。運営死ねと言う他はない。
信じろという方が無理だろう。
そしてもし、この聖杯戦争がクオーツモンのような自分たちを、この“アインズ・ウール・ゴウン”を利用しようとしてのものならば。
制限がかかっていようが、ルーラーなるゲームマスターがいようが関係ない。
(その時は覚悟しろ、クソ運営ども。“アインズ・ウール・ゴウン”を利用しようとした報い、思い知らせてくれる!)
【クラス名】セイバー
【出典】オーバーロード
【性別】男
【真名】アインズ・ウール・ゴウン
【属性】混沌・悪
【パラメータ】筋力A+ 耐久B+ 敏捷C 魔力E 幸運A 宝具C~A++
※パラメータは超位魔法発動時以外常時パーフェクト・ウォリアーを適用済み
【クラス別スキル】
対魔力:A
上位魔法無効化Ⅲ。
Aランク以下の魔術を完全に無効化する。事実上、現代の魔術師では、魔術で傷をつけることは出来ない。
固有スキル魔導王の一側面。
騎乗:A +
幻獣・神獣ランクを除く全ての獣、乗り物を自在に操れる。真祖だって椅子くらいにはできる。
【固有スキル】
パーフェクト・ウォリアー:B
本来はスキルではなく戦士化の魔法。
セイバーとして召喚されたこともあり、今回のアインズは常時パーフェクト・ウォリアー状態である。
戦士職のステータスで戦えることに加え、いかなる武器も装備できる反面、魔法は使用不可能となる。
また常時戦士化による魔力消費と、魔力の回復量が拮抗するため、アインズの魔力が実質自然回復しなくなる。
魔導王:A
アンデッドAのアレンジ複合スキル。
アインズは最高位アンデッドとしての特性に加え、幾つもの耐性を併せ持つ。
ただし格下には通用しても英霊相手には効果が薄いものや、アンデッド故の弱点も含まれ、サーヴァント化により失われたものさえある。
端的に言えば状態異常や刺突・斬撃・闇や電気や冷気などには超強いが、相応の威力の光・炎・打撃などには滅法弱い、といった感じである。
また、感情が高ぶった際、強制的に精神が安定化される。スゥーっとなる。
心眼(真):A
修行・鍛錬・経験によって培った洞察力。
窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、 その場で残された活路を導き出す“戦闘論理”。
逆転の可能性がゼロではないなら、その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。
カリスマ:C++
軍団を指揮する天性の才能。団体戦闘において、自軍の能力を向上させる。 魔や異形種へは更なる補正が入る。
カリスマは稀有な才能で、小国の王としてはCランクで十分と言える。
かつては悪名高き伝説のギルドをまとめ上げ、今は魔を統べる彼だが、実際は支配者として振る舞うことに四苦八苦している。
ただし仲間や配下からの人望は本物であり、組織の長としての行動力や思い切りの良さも持つ。
【宝具】
「絶対支配者、光臨(アインズ・ウール・ゴウン)」
ランク:- 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1
モモンの時にのみ使用可能。
秘された真名、アインズ・ウール・ゴウンを他人に告げることで発動できる。
言うなれば、宝具ではなく英霊としての真名解放。
以降、セイバーのステータス・スキル・宝具はモモンのものからアインズのものへと切り替わる。
今回のモモンはアインズの変装ではなく、あくまでも人々の信仰からなるモモンという人間の英霊として召喚されている。
そのため、この宝具を使わないかぎり、マスターだけでなく、真名看破を持つルーラーたちからも真名やステータスなどはモモンとして認知される。
宝具解放後はモモンとしての召喚からアインズとしての召喚に切り替わる形のため、モモンに戻ることはできない。
当然、モモンの宝具やスキルは使用不可能になる。
「至高の四十一人に敗北はない(“アインズ・ウール・ゴウン”)」
ランク:C~A++ 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
至高の四十一人と称された自身及び仲間たちの装備を媒体を介して召喚し宝具として使用することができる。瞬時に持ち替えることも可能。
元の持ち主には劣るが、彼らを率い、共に戦い抜いたアインズはその全てを存分に使いこなすことができる。
アインズに並び、中には凌駕するものもいた仲間たちの宝具はどれも非常に強力であり、剣、鎧、盾、弓、ガントレットなど多岐にわたる。
防具はアンデッドとしての弱点を補うことができるが、全ての弱点を同時に無効化することはできない。
また、召喚できるのはあくまでも仲間たちの装備に限られるため、ワールドアイテムなどは取り出せない。
「失墜する天空(フォールンダウン)」
ランク:A+ 種別:対軍宝具 レンジ:1~50 最大捕捉:50人
超位魔法。
太陽の如き超高熱源体を地表に顕現させ、効果範囲内の全てを焼きつくす。
本来、セイバーとしてのアインズは魔法を使えないが、この魔法に限っては条件付きで使用可能。
超位魔法使用時に限り、魔力をEXとして換算できる。
ただし超位魔法のデメリットとパーフェクトウォリアーの無効化により筋力、耐久はEランクにまで下降する。
またアイテムの併用で宝具発動までの詠唱時間は0にできるが、発動し切るまでに致命傷を負った場合発動はキャンセルされる。
発動に魔力を使わない代わりに当聖杯戦争では一日に二度しか使えず、連発もできない。
【Weapon】
課金アイテム多数。
【人物背景】
人間鈴木悟がゲームで使っていたアバター“モモンガ”として、異世界へと転移し、ギルド名を自らの名として冠したアンデッド。
普段は温厚な性格であり義理堅く、仲間思いで無益な殺生も好まないが、目的のためなら虐殺さえも厭わない。
これはアンデッドと化したことにより精神性が変化したこと、しかし人としての記憶や人間性の残滓が残っていること、
根底にあるのがかつてのゲーム仲間たちと過ごした日々への常軌を逸するほどの思い入れにあるからである。
そのため、仲間たちと築いた“アインズ・ウール・ゴウン”や仲間たちが遺した子どもたちと言えるナザリックNPCを何よりも優先している。
【聖杯にかける願い】
かつての仲間たちと再会したいという想いはあるが、もしもこの戦いがアインズ・ウール・ゴウンを利用しようというものなら、許さない。
【運用】
最たる注意点だが、サーヴァントセイバーとしてのアインズ・ウール・ゴウンはモモンの上位互換とは言い切れない。
ステータスは上がり、手数も増えるが、アンデッドとの特性により強固な耐性とともに多くの弱点も生じてしまう。
属性・耐性及び弱点・スキル・宝具が様変わりしかなり別物になる上に、性格さえもアンデッド化の影響を受ける。
全く別のサーヴァントと考えよう。
相手の属性に左右されない安定性や、対魔、ハムスケという人手はモモンのままの方が優れているだろう。
何よりも、アインズ・ウール・ゴウンの名を出す以上、敗北は許されない。