「(聖杯戦争……)」
神代ユウが全てを思い出したのは二人組の不良(ヤンキー)に追い回されていた時であった。
授業後にクラスの友人たちと遊びに行った帰り道。一人になったところを絡まれ、如何にか逃げ出すも、二人組は追跡をやめなかったのだ。
―――そもそも、僕が学校にいる事自体がおかしなことだったんだ。
ユウはクラスで耐え難いいじめにあい、不登校となり、家に引きこもっていた。
だが家族からも憐憫を持って見つめられた彼にとって、自宅も安息所ではなかった。
そこまで考えていた時、手の甲に強い熱が走り、炎をイメージさせる刺青の様な何かが描かれる。
そして…
「いい加減、止まれってんだよォ!」
二人組だ。
脇目も振らず逃走したのが癇に障ったのか、ここまで追ってきた。
あてもなく逃げ続けるのも難しい。繁華街から外れた通りにあった人気のない駐車場に走りこんで、背後を振り向く。
「おっ、話聞く気になった?」
「意外と体力あるね~ww」
赤いデニムジャケットを着た金髪の男と髪を逆立てた顎髭の男が走るのを止めて、こちらに歩いてくる。
答える義務もないので、相手の出方をじっと見る。
無言でこちらを見据えるユウの態度が癇に障ったのか、先に近づいてきた顎髭の方が拳を振りかぶってきた。
右ストレート。フットワークで顎髭の拳を回避して右拳を頭部に向けて打ちこむ。
幾人もの不良を地に沈めた彼の右ストレートを完璧にもらった顎髭は、まもなく意識を失った。
倒れこんだ顎髭をみて、赤デニムにも戦慄が走る。しかし彼は逃げるでなく、戦う道を選択をしたようだ。
「(ナイフか…)」
喧嘩の場におけるナイフの示威効果については説明するまでもないだろう。
しかし日常的に刃物を使った戦闘を行っているならまだしも、素人がナイフをちらつかせた程度では大した脅威にはならない。
武器に意識が向くため動きが読みやすくなり、両手両足に注意を向けなければならない徒手の相手よりも対処が簡単になったといえる。
この赤デニムも、ユウが素早く浴びせたローキックに動きを止めた直後に、ナイフをもった方の腕を掴まれ、勢いのまま肩を外される。
とどめに膝蹴りを顔面に浴びせられ、赤デニムもまた地面にその身を横たえた。最早この場に用はない。ユウは家路を急いだ。
「不良(ヤンキー)狩りボクサー」。ユウが聖杯戦争の場に放り込まれる前に得た、新しい居場所(しょうごう)である。
帰宅したユウはNPCの両親の小言をもらったのち、自室に引き下がる。
――でもここは僕の居場所じゃない。
たとえ学校でいじめられないとしても、家族が自分を憐れむことがないとしても。
ここにはシンちゃんも、ショウゴくんも、マサキさんも、誰もいない。
――!
自室に見知らぬ人物がいる!それも全身血まみれの異様な人物。
着ているのはパーティードレスのようだが、暴力的な赤によって塗りつぶされている。ただ両の眼だけが白く、まるで眼球が光を放っているような印象を受ける。
何者なのかは既に分かっているので、家族に見られないように扉を閉めて、血まみれの人物と向き合う。
「あなたが、僕のサーヴァント…ですね」
「求めに応じて参じました。キャスターと呼んでください。マスター。」
異様な姿に面食らったが、声音は若い、と思う。
「その血は、その…怪我とか…」
「心配なく。これは生前に由来する物です。」
それだけ言って視線を下に向ける。あまり口にしたくないのかもしれない。
それ以上の詮索は避けて、今後について彼女と話し合う事にした。
進んで人殺しをする気はない。当面は脱出の手段を探す事を優先したい。
胸を張って、僕の聖地に帰るために。
◇ ◆ ◇
「(ごめんなさい……)」
キャスターはユウと話し合っている最中、別の部分に意識を向けていた。
――TK能力
キャスターは、プロムに誘った友人スーザンに自分を破滅させる意図がなかったことを記憶を読み取る事で理解し、意識を繋いだまま、その短い生涯を終えた。
その経歴がスキルに反映されたらしく、彼女は意識を繋いだ相手の記憶を読み取る事が出来る。
駐車場で二人組の不良を倒すところを見ていたキャスターは、パスによって繋がれたユウの記憶を読むことが出来た。
彼が自分と同じく学校にも家庭にも拠り所が無く、暴力によって自らの意思を示したことを。そして彼は居場所をつくり、自分は歴史に名を刻んだ。
過去を消す気はない。あの一夜は徹頭徹尾自分の意思によるものだったし、方法は間違いだったとしても嬲り者にされた自分の運命に、思うさま決着をつけた結果だ。
ただ自分の人生が忘れ去られ怪物として語り継がれたことが、聖杯により『舞踏会の夜』の自分として再現されたことがどうにも悲しいのだ。
もう自分の事はそっとしておいてほしい。だから聖杯の招きを受けた時点で、座から自分の記録を消すことを決めた。
マスターは必ず生還させる。似た人生を送っていたのだとしても、彼には帰れる場所があるのだから。
【クラス名】キャスター
【出典】キャリー(小説)
【性別】女
【真名】キャリー(キャリエッタ・ホワイト)
【属性】中立・中庸
【パラメータ】筋力E 耐久E 敏捷E 魔力A+ 幸運E 宝具C+
【クラス別スキル】
陣地作成:E-
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。部屋の模様替えが出来る程度。
道具作成:E+
魔術的な道具を作成する技能。
道具作成の技能は持っていないが、母親が狂信的なキリスト教信者であった逸話により、十字架などを作成する際に僅かに魔力を帯びさせることが出来る。
【保有スキル】
精神汚染:C-
精神が錯乱している為、他の精神干渉系魔術を完全にシャットアウトする。「舞踏会の夜」の精神状態で再現されているが、一度死を迎えサーヴァントとなった身の上から平時はランクが落ちている。
…ただし他者の嘲笑や罵倒にさらされるたびにキャスターの精神は荒廃の一途をたどり、事件当夜の状態に近づいていく。
TK能力:A+
念じるだけで物体を動かす事が出来る力。思念だけで自動車を動かし、オイルタンクを爆発させ、敵の心臓の鼓動を止めることができるが、このスキルは対魔力スキルの影響を受ける。
全てに絶望した彼女は念力を振るって街を破壊し尽くし、クラスメイトを殺戮し、世間にTK能力(超能力)の存在を示唆することになった。
……隠された効果として、意識がつながった相手の記憶を読み取る事が出来る。聖杯戦争においてはパスで繋がったマスターの記憶を読み取る事ができる。
単独行動:D
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。ランクDならば、マスターを失っても半日間は現界可能。
家庭にも学校にも寄る辺が無かった逸話、舞踏会の夜は一人で行動していた逸話に由来してこのランクとなっている。
異形:C
全身が豚の血にまみれている。キャスターと対峙した相手は精神判定に失敗すると、敏捷がワンランクダウンする。
【宝具】
『滅び去れ、忌まわしき思い出と共に(トゥ・リップオフ・ア・キャリー)』
ランク:C+ 種別:対軍宝具 レンジ:1~99 最大捕捉:410人
チェンバレンに破滅をもたらした「舞踏会の夜」を再現する宝具。レンジ内に存在する物体を念動力によってD~Cランク宝具として扱い、自由自在に操る。
また街の大半が大火によって焼けた逸話から、レンジ内に存在する炎に念力を込める事で強化することが可能。
精神状態に依存している宝具なので、キャスターの心の安定と引き換えに宝具としての質が格段に上がる。
当然だが視界にとらえていないと命中精度が著しく低下するほか、サーヴァントとなったことで対魔力スキルの影響を受けるようになった。
【weapon】
宝具やスキルに依存。
【人物背景】
チェンバレンに甚大な被害をもたらしたキャリエッタ・ホワイト事件の犯人となった超能力者の少女。
家庭では狂信的な母親に抑圧され、クラスでは暗い性格からいじめっ子たちの標的にされていた。萎縮し続ける生活のストレスから念動力に覚醒。
高校生活を彩るプロム(ダンスパーティー)にて笑いものにされたことから精神が限界に達し、故郷チェンバレンに甚大な被害をもたらす。
ささやかな幸せを夢見た、スクールカーストの犠牲者の成れの果て。
【聖杯にかける願い】
ただ英霊となって自分の名が災厄の記号として人類史に記録された事、サーヴァントとなって『舞踏会の夜』の自分が全盛期であったと思い知らされたのがどうにも悲しいのだ。
今回はマスターへの深い共感から召喚に応じた。
【マスター】神代ユウ
【出典】ホーリーランド
【性別】男
【能力・技能】
独学のボクシングを基礎に、数多くの戦闘や訓練から蹴りやタックルを使いこなす打撃系の総合格闘家のようなファイトスタイルをとる。
喧嘩においては類まれな集中力と判断力により、格上の相手でも勝利を収めることが出来る。
【weapon】
なし
【ロール】
高校生。元の世界では不登校だった。
【人物背景】
いじめや偏見によりひきこもりになった少年。居場所を求めて彷徨っていた夜の街で、絡んできた不良を教本で学んだボクシングで撃退していくうちに「不良狩り」として知られる。
多くの強敵たちとの喧嘩の果てに、友人や仲間が生まれ、夜の街に自分の居場所を見出だしていく。普段は内向的で優しい性格だが、激昂すると別人のように好戦的になる。
【令呪の形・位置】
炎のような形をしている。
【聖杯にかける願い】
生き残り、夜の街に帰る。聖杯についてはキャスターに譲渡してもかまわない。
【方針】
とりあえず情報を収集する。積極的には戦わない。
【参戦時期】
世田谷商業のタカ戦後。