「まさか……」
まさか。
少女、橘ありすは呟いてみる。
まさか。
もう一度口にしてみる。ふと頭に、床に落としたタブレットの液晶が気になったが、それよりも。
まさか。
見開いた目を何度しばたたかせて見せても現実は変わらない。後頭部の大きなリボンが揺れる。
まさか。
四回言ってみた――――しかし現実が揺らぐ筈なく――――
「まさか、サンタさんに会えるなんて」
その視線の先――徐に暖炉から顔を覗かせた女性。
その服装は暗く、暗黒の聖夜を思わせた。
その瞳は淡く、夜に浮かぶ満月を思わせた。
その髪は儚く、月光に反射する雪を思わせた。
そして、何よりも――――
「そうだ、私がサンタだ。よくぞ見破った。流石はトナカイだな」
――その手に携えられたのは、子供の夢のように真っ白で大きな袋だった。
「そして煙突からこんにちは、それともこんばんは。ともかくよろしく」
「……あ、よろしくお願いします。私は――」
「いい、皆まで言うな。確かにお前はトナカイだが、今日の私は気分がいいのでプレゼントをやろう」
「えっ」
ありすは、壁のカレンダーを見た。
本日はクリスマスだったか――――そもこの場所は彼女が暮らす生家ではなく、見知らぬ家だ。
正しくは、見知らぬ家ではない。
だが、元来の住居ではない。同じだけ、季節というのも曖昧の仮面を被る。
しかし彼女に構わず、差し出された右手。
「よろこべ。これは、さる家族を繋ぐ思い出の一品だ」
「これは……」
「トンプソン・コンテンダー。
色々あって家族になった男と女。
色々あってそれが二人の本当の子供でない人間が暮らす家の土蔵に押し込まれたのか判らないが、ともかく行方不明の一品だ。
仕方ないな。そもそも後から出て先になった話なのだから――いや、この話はいい。よろこべトナカイ。
なお実の娘は両親の愛を知らずに育ったそうだが、どこかではきっと一家幸せな世界線もあるだろう。多分」
「…………………………」
絶妙に嬉しくない――というより、正しくは全く嬉しくない。そして、ありすの心を絶妙に抉る。
両親の愛を知らずに育った娘――ありすは無論の事そこまで凄惨な過去を持たぬが、しかし、あまりに一般的な家庭に比べたら両親は家を明けがちだった。
親と居たいときにいられない寂しさというのは、彼女にも覚えがあった。そして――その少女は一体、ありすの何倍の辛さを持っていたのか。
かぶりを振って、想像してしまったその少女の痛みを掻き消す。
サンタに会えた。その事は実に刺激的で、貴重な経験だ。
若干思い描いていたものと違い、そして毎年くれるプレゼントと違って今回はありすの趣味ではないが――まぁいい。
「トンプソン、コンテンダー」
右手に持ち上げて明かりに透かしてみる。深い鋼色のブラックバレルに顔が映る。
なんだかいけない事をしているようで、心が若干の昂りとざわめきを起こした。
大人は遠ざけるが、子供は欲しがる禁忌(タブー)めいた輝きと形が、このプレゼントにはある。
しかし……それにしても重いが、よくできたレプリカなのだろうか。
実はミステリーにて多用される銃というものに、ホンの少し興味を感じていたありすはそれを構えてみて――
「おっとトナカイ、引き金を引くな。その姿勢では手首が折れる」
「え」
――投げ捨てた。
プレゼントが悲しそうに床で空転する。
というか、悲しみたいのはありすの方だった。
「なんでこんなもの、私に渡すんですか!」
整った瞳をキッと強めるも、しかし対する漆黒のサンタクロースはどこ吹く風。
顎に手を当てて、それから僅かに口角を吊り上げた。
「これからの血まみれのサンタクロース活動――――いや、血のクリスマスに必要なものだからな。せめてもの心付けだ」
「血はクリスマスではなくバレンタインです」
「博識だな。流石は私のトナカイだ。近頃の高学歴社会はブルーワーカー(トナカイ)すらも大卒にしたか」
「……私は小学生です。というより、それより――」
「ふむ」とサンタクロース。
揺らぐありすの視線も、それすらも折り込み済みと言いたげに俄に首肯。
「聖杯戦争――――ここから先はお子様お断りの血みどろマッドマックスパーティーだ。血袋の用意は必要ない。トナカイ、お前も判っているだろう?」
「それは……」
判っていた。判っていて、ありすは部屋に一人で佇んでいた。
両親と――両親と食事にいく約束をしていた。
いつも必ず、ありすとの対話の場を設ける為に帰宅してくれる両親。
彼女を何よりも大事にして、彼女をどれよりも大切にして、彼女を全てから守って愛してくれる両親。いつも側に居てくれる二人。
――そんな、偽りの、どこか食い違いがある記憶。
その違和感を理解したその時に、彼女は本来の記憶と共に己の置かれた状況への知識を得た。
この場に集められた、その意味。
思い出して再び震えと共に床を見やんとしたそこで、
「だがそれがいい。というかそれはいい」
「え」
「ここは聖杯戦争。さて、トナカイ。我々のやる事は?」
言わば、陸の孤島。逃げ場のない監獄。
聖杯という、餌。置き換えるとしたら大金や、或いは何らかの技術。
そこに集められた人々――金が欲しい人もいれば、ただその孤島から逃げ出したい人もいる。しかし、あまりに状況は強固。
彼女が好むジャンルではないが、それが物語を為すなら構造というのは決まっている。
大人の好むミステリーではなく、中学生が好むような話題性だけの悪趣味なバイオレンスとして――
「……殺し合い、ですか?」
彼女は幼い。
聡明と言うにはあまりに視野が狭く、老獪と表すには背伸びが過ぎる。
賢人と称するにはあまりに稚拙、深謀と呼ぶにはあまりに純粋。
それでも、普通の子供よりは幾分か回転の早い思考が導きだしたのはそんな結論――
「何を言っているトナカイ。車掌(サンタ)は私で、列車(トナカイ)は君だ」
だったの、だが……。
「そこでやる事と言ったら――」
「……まさか」
「そう、プレゼントだ。我々の手でこの血まみれの荒野に明日というプレゼントを配るんだ。
まずは手始めに、その銃の練習をするといい。最悪、望んだプレゼントでないと言う相手にはクーリングオフ不能の鉛弾のプレゼントだ」
「…………………………」
まず、プレゼントを配るのはトナカイではなくサンタだ。
次に、鉛弾をプレゼントするのはサンタではなくマフィアだ。
それから、そもそも、小学生に拳銃が使えるとでも?
「安心しろ。中東では十に満たない子供がライフルを振り回して大人を撃ち殺す。全ては鍛練だ。偉い人も術でなく拳に頼れと言っている」
これは、拳銃であって拳に非ず。言うのも野暮か。野暮なのか。
To be continued
「魔術師に打ち込めば一撃で再起不能。次回に続く必要のない起源弾はサービスだ」
この日――――橘ありすには、知りたくもない知識が一つ加わった。
◇ ◆ ◇
(そう、これでいい)
与えられた情報に脳が許容限界を迎えたのか、黙々と拳銃を構えるありすを見ながら、“キャスター”は考える。
奇天烈な姿、傾いた言動をしているが……その瞳は鋭い。
そう、彼女こそはまさに黒い聖剣を持つ、サンタの皮を被ったブリテン王――――
(――ありす【あたし/あのこ】と同じ名前を持つ、ありす【あなた】を守る為にはこれでいいの)
――――――“ではない”。
その真名はナーサリーライム。その象形は読み手【ドクシャ】の心。その願望は子供の味方。
姿を持たぬサーヴァントであり、人々が、かつて、その子供の心に抱いた無垢の残滓。
橘ありすは、大人びているように見えて背伸びしたがりの小さな子供。
冷めた瞳で現実を見ても、その心にあるのは夢と歌。愛と願い。暖かさと柔らかさ。
ナーサリーライムを好む年頃ではないとしても、ナーサリーライムにとっては守るべき読み手【ドクシャ】。
ナーサリーライムは姿を持たない。ナーサリーライムは形を決めない。ナーサリーライムは読み手と共に。
ナーサリーライムは考えた。
さてさて困ったどうしよう。またもや月のお茶会だ。ご招待にお呼ばれしたわ。あらあら困ったどうしよう。
ナーサリーライムは考えた。
いよいよ困ったどうしよう。またもや月のお誘いだ。ご相伴に預からなくちゃ。はてさて困ったどうしよう。
ナーサリーライムは考えた。
おやおや困ったどうしよう。またもや月の戦いだ。ご同伴を務めなきゃ。やれやれ困ったどうしよう。
ナーサリーライムは考えた。
いやはらそれならこうしよう。またもや今度は守らなきゃ。今度ばかりは本当に、困ってなんかいられない。
(こう考えられるのもこれで最後。あたし【アリス】はあたし【ありす】の為に、あたしの事を忘れるわ――)
ナーサリーライムは選んだの。
この子が選ぶのサンタの像。それなら決めなきゃサンタの像。一番強いサンタの像。
サンタなら、子供を守ってくれると知っているから――――。
【マスター】
橘ありす@アイドルマスターシンデレラガールズ
【weapon】
携帯型タブレット。
母親が買い与えてくれた品。
色々検索したりと役立てている。
トンプソン・コンテンダー&起源弾@Fate/Zero
装弾数1発。中折れ式リロード。バレルをカスタムする事で様々な口径に対応が可能であり、現在は大口径ライフル弾に対応。
また、使用される弾丸はすり潰した本来の使用者の肋骨を込められており、その人物の持つ“起源”を内包する。
結果として端的に言うなら、撃ち込んだ傷が即座に塞がり古傷と化すなど、不可逆の変質と破壊をもたらす。
魔術などに撃ち込んだ場合、その大本に辿り使用者の魔術回路を切断して、そして本来とは違う形で接合する事で、魔術師として再起不能とする。
異なる論理、異なる世界の人間に通じるかはまた別の話。
【人物背景】
「ありす」という、日本人離れした名前(及び子供っぽい事)にコンプレックスを抱く。それ故、心を許すまでは下の名前で呼ばせる事はない。
年の割に頭の回転が速く、言動も落ち着いているが、子供扱いされる事が不本意であったり、或いは大人の女性に憧れたりとまだまだ背伸びしがちな子供。
両親は仕事に忙しく家を空けがちであり、食事も一人で取っている、ちゃんとしたクリスマスを送った事がないと寂しい思いをしている。
なお、サンタクロースを信じている12歳。小学六年生。
【令呪の形・位置】
右手。イチゴと、その蔕の形に。
【聖杯への願い】
持たない。今のところは。
【クラス】
キャスター
【真名】
ナーサリーライム@Fate/EXTRA及びFate/Grand Order
【ステータス】
筋力:A 耐久:C 敏捷:D 魔力:B 幸運:A 宝具:A++
【属性】
秩序・善
【クラススキル】
陣地作成:A
魔術師として自らに有利な陣地な陣地「工房」を作成可能。
Aランクともなると「工房」を上回る「神殿」が作成可能。
しかしサンタクロースに姿を変化させてしまったナーサリーライムにこのスキルは具体的に使用できないが、
今回は、空飛ぶソリがそれにあたる。
対魔力:A
魔術に対する抵抗力。一定ランクまでの魔術は無効化し、それ以上のランクのものは効果を削減する。
Aランクでは、Aランク以下の魔術を完全に無効化する。事実上、現代の魔術師では、魔術で傷をつけることは出来ない。
騎乗:A
乗り物を乗りこなす能力。「乗り物」という概念に対して発揮されるスキルであるため、生物・非生物を問わない。
Aランクならば幻獣・神獣ランク以外を乗りこなす事が出来る。
【保有スキル】
自己改造:A
自身の肉体に別の肉体を付属・融合させる。このスキルのランクが高くなればなるほど、正純の英雄からは遠ざかる。
下記のスキルと合わせる事により、ナーサリーライムはありすの持つサンタクロースのイメージに異なるサンタクロースを融合させた。
変化:A+
文字通り「変身」する。
ナーサリーライムはサンタクロースに変身した上で、上記のスキルの効果と合わせて現在の姿となった。
一方その頃:A
ページをめくれば童話が場面を変えるように、ナーサリーライム自身の状態を転換させる。
[仕切り直し]にほど近いスキルであるが、物語は同じ場所へと戻らずに必ず話が進む。
戦闘から離脱する能力。また、不利になった戦闘を初期状態へと戻すのみならず、戦闘を踏まえた上で若干の魔力増幅を与える。
聖者の贈り物:EX
プレゼントを贈り、心を潤す。しかしどのプレゼントも対象者が求めるものとは微妙にデザインが違うため、効果はそこまで期待できない。
直感:A
戦闘時、つねに自身にとって最適な展開を「感じ取る」能力。
Aランクの第六感はもはや未来予知に等しい。また、視覚・聴覚への妨害を半減させる効果を持つ。
子供の為のサンタクロースというイメージにより凶暴性を失い、直感も十全に働く。
魔力放出:A-
武器・自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出する事によって能力を向上させるスキル。
ジェット噴射の如く使用して能力を大幅に向上させるが、反面、魔力の消費は桁違いになる。
【宝具】
「誰かの為の物語(ナーサリー・ライム)」
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:1人
ナーサリーライムという存在そのものが、固有結界である。
マスターの心を反映して、マスターの夢見た形の疑似サーヴァントとして現れる。
この度に限っては、サンタクロースという存在を未だ信じる橘ありすからサンタクロースのイメージを得て、
そして、そのイメージに対して「ナーサリーライム」自身が持つ、
最も強いサンタクロースの姿を被せる事で「サンタクロースの姿を取ったアルトリアの姿を借りたナーサリーライム」というややこしい形で現れた。
その為、クラススキル・保有スキルが混在しており、宝具もまた借り物のそちらに準拠する。
すべては、かつてのマスターと、己を思ってくれたマスターと同じ“ありす”という名前の少女を守りたいが為に――。
「約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)」
ランク:A++ 種別:対城宝具 レンジ:1~99 最大補足:1000人
人々の「こうであって欲しい」という想念が星の内部で結晶・精製された神造兵装。聖剣というカテゴリーの中において頂点に立つ最強の聖剣。
神霊レベルの魔術行使を可能とし、所有者の魔力を光に変換、集束・加速させることで運動量を増大させる性質を持つのだが、
魔力が汚染され黒化したセイバーが使用するため、この聖剣の魔力はそのまま光を飲み込む闇の波動の斬撃として放たれる。
【weapon】
カバのようだと称される、ラムレイ二号という名前の空を飛ぶソリ。
魔力を燃料に飛ぶのだが、キャスターとしてこれ自身が神殿となっており、今回は特に燃料は必要ない。
サンタの袋。プレゼントが入っている。
【人物背景】
ナーサリーライム。英語の「わらべうた」。実在の人物を英霊としたものではなく、絵本のジャンルのことである。
子供たちに深く愛され、多くの子供たちの夢を受け止めていったこのジャンルは、一つの概念として成立、「子供たちの英雄」としてサーヴァントとなった。
サーヴァントが固有結界を作るのではなく、固有結界そのものがサーヴァント。
「物語」であるため本来決まったカタチはなく、マスターの心を映し、マスターが夢見たカタチの擬似サーヴァントを作り上げる。
当然のことながら、そんな由来が故にナーサリーライムは特定の自我・特定の姿を持たない存在であるのだが、
かつて行われた月の聖杯戦争で彼女を召喚したありすという少女と、お互いを思い合うという奇跡的な絆の果てに、ある一つのナーサリーライムの形を持つ。
そして、そんなナーサリーライムは、かつてのマスターと同じ名前の少女を守るという自我が故に、己の姿を組み直した。
その自我を捨てる形になったとしても。
【聖杯にかける願い】
なし。
子供を守る。子供たちを守る。ありすを守る。ありす【あたし】の気持ちを守る。
【運用】
ソリに乗った移動。ライダー(キャスター)らしからぬ、剣技。そしてライダー(キャスター)らしからぬ、多彩なスキル。 高火力の聖剣の真名解放。
本来ならカタチを持たないサーヴァントであるため、固有の自我は持たない。
これ以後キャスターの言動は、サンタオルタ@Fate/Grand Orderとなる。
最終更新:2016年05月04日 14:32