果たして何がきっかけだったかを彼――デズモンド・マイルズは覚えていない。
まるで無我の海の中に浮かぶ小島に漂着したかのように、気がついたら彼の意識はそこにあった。
小洒落た、けれど小さな、どんな街にも一軒はあるようなバー。
彼はそこのバーテンダーだ。
だった――はずだ。
少なくとも時代錯誤な甲冑姿の男を引き連れた、ドラッグでもやってそうな少年が飛び込んでくるまでは。
彼を宥めようとしつつ、一切何の躊躇も無くカウンターの下に隠してある拳銃を握りしめた時までは。
そして少年へ向けて何も考えずに引鉄を引いたのと同時に、甲冑男の心臓が弾け飛ぶまでは。
「…………あ?」
赤黒く汚れたバーの中央に、蹲るような小柄な影が、ひとつ。
頭を撃ち抜かれて痙攣する少年の死体と共に、甲冑男の死体が0と1とに分解されて消えていく。
デズモンドがそれを認めた――
「―――――!」
――その瞬間、小さな影が掻き消えた。いや、跳んだ。
およそ常人の視界では捉えられぬほどの高速。文字通りデズモンドの目にも留まらぬほどの。
かつてのデズモンドならば――あるいは思いだす前のデズモンドならば。
今は違う。
彼には、かつて慣れ親しんだ記憶の「流入」の感覚を楽しむ余裕さえあった。
身に宿した「鷹の目」を開き、それを以って迫り来る短剣(ダガー)、その切っ先の煌めきを見る事さえできた。
横っ飛びにその奇襲を回避する動きは訓練、それも尋常でない経験を得たものだけが成し遂げられるもの。
影の攻撃と、なんら遜色のない――いや、ともすれば人間離れした影以上の俊敏さであった。
デズモンドは影の刺突を紙一重の余裕で避け、その腕を取って、まるで舞踏でも踊るかのようにカウンターを飛び越える。
同時に、デズモンドは左の手のひらで「トン」と軽く、その影の項を叩いた。
「――!?」
蜻蛉を切って音もなくバーカウンターの上へ舞い降りた影は、デズモンドの動作に目を見張ったらしい。
動きが僅かに止まる。驚愕による硬直。信じられない様子で首筋に触れている。
意味を理解したか? 迂闊だぞと、デズモンドは笑った。逃す手は無い。
「掟を破るか、我が姉妹よ……!」
「…………!?」
影が弾けた。
カウンターからありえざる機動/軌道を描いて宙を跳び、壁から天井、天井から柱を伝って酒場の片隅へ。
ひらり、舞い降りる。
きいきいと揺れる電灯に照らされた影は、黒い外套であった。
その外套のフードから覗いた瞳がデズモンドを突き刺した。
錆びた金色の――鷹の目。
その視線はデズモンドに、雨に濡れた捨て犬を連想させた。
純粋。敬虔。正義。――狂信。
良く知っている。
だからデズモンドは人差し指を立てて、一言ずつ、言い含めるように告げた。
油断なく距離を保ちながら。深く腰を落として身構えながら。次の瞬間には跳躍できるよう備えながら。
かつての「記憶」の習慣だろう。左腕の武器を起動しようと筋肉を強張らせるのは。今はそこに何もないのだが。
「ひとつ、罪の無い者を傷つけてはいけない」
言葉をなじませようと、デズモンドは生唾を飲み込んだ。
「ふたつ、我らは目立ってはいけない。そして――」
「……みっつ、仲間に危険を及ぼしてはならない」
影がデズモンドの言葉に続き、静かな声で呟いた。
それは凛と張り詰めた鈴のように涼やかな、年頃の少女の声でもある。
少女が身に纏った黒い外套を、少しだけ跳ね上げる。
やはり、と思う。
十代も半ばぐらいの少女――…………。
黒髪の、張り詰めた表情の、まだ幼さを面影に強く残した、少女。
それが『アサシン』の正体だった。
「だが、兄弟よ。我らが神は杯など持たない」
「林檎もな」
デズモンドはバーカウンターへ乱雑に腰を下ろすと、投げやりにそう言った。
蝶ネクタイをむしりとって放り捨てる。シャツの襟元を広げ、大きく息を吸って、吐いた。
全く、訳がわからない。
バーテンダー……バーテンダーだと? この俺が? いや、確かにいつかまではそうだった。
奴らに誘拐されて、被験体17号の番号をつけられて、妙な機械にぶち込まれるまでは。
そして戦って、戦って、最後に、自分は――……。
「くそったれ(ガッデム)」
デズモンドは吐き捨てた。神は死んだ。罰当たりな言葉に、少女がびくりと震えた。
「アブスターゴ社め、くたばりやがれ」
「アブスター……なに?」
「テンプル騎士団の事さ。俺は……」
いや、とデズモンドは首を横に振った。
「俺たちは、そいつらと戦い続けてきた。エデンの果実と聖杯(カリス)を巡って。そうだろ?」
テンプル騎士団。エデンの果実。聖杯(カリス)。
その単語を口にした瞬間、少女の目が大きく見開かれたのを、デズモンドは認めた。
アサシン教団が一〇〇〇年に渡って戦い続けてきた仇敵と、その理由。
効果は覿面であったと言わざるを得ない。
暗殺者の少女は目に見えてデズモンドに対する殺意を緩め、それを異なる方向性へと張り詰めさせていく。
もしここでデズモンドが綱を離せば、まっしぐらにそちらへ向かって駆けて行くだろう。
やはり、犬を連想させる。仔犬だ。喉を鳴らして唸る仔犬。猟犬の仔犬。
「…………では、兄弟よ。あなたはこの儀式に、望んで参加したのではないのか?」
「そこさ、妹よ」
だからデスモンドは、なるべく気軽な風を装って、そう言った。
「自分が必死で守ってきたものよりもデカいブツが空に浮かんでたら、俺はどうすれば良いんだ?
.
◆ ◆ ◆ ◆
「なんてこった……」
「ではつまり、あなた、いや、あなた様はアルタイル様の末裔だというのか!?」
「なんてこった……」
尊敬の念に瞳を煌めかせる少女から目をそむけ、デズモンドは顔を覆って天を振り仰いだ。
おお、神よだ。
彼がテンプル騎士団と世界の行末を争い、人のためにと守り続けてきたエデンの果実。
それはすなわち異星人が地上に残した遺産に他ならなかった。
ところが、だ。
ムーンセル。
この月そのものが――異星人が残した超巨大なコンピューターだと?
馬鹿げている。
なんて馬鹿げているのか。
彼は――いや、彼に連なるアルタイル、エツィオ、コナー、多くのアサシンたちは。
そんな馬鹿げたものから人を守るためだけに、千年以上にも渡って戦い続けてきたというのに。
「デズモンド様!」
「やめてくれ」
デズモンドは苛立たしげに手を振った。様? この自分が? よしてくれ。
そんな尊敬されるような存在ではないことを、彼は重々承知している。
多くの血族の記憶と経験を「流入」によって獲得した彼は、テンプル騎士団との戦いに身を投じた。
「伝説」のアサシンたるアルタイル、「最強」のアサシンたるエツィオ、両者の末裔であるコナー。
三人のアサシンの記憶を引き継いだ彼は、確かに強かった。
しかし、最後の最後……。
人類の大半を滅ぼし、人類を導く新たな預言者となるか。
人類を救うために、命と引き換えに人類を委ねるのか。
二択を迫られた彼は、後者を決断した。決断してしまった。
その後どうなるか、どうなってしまったかを、デズモンドは知らない。
気づいた時には、ここでこうしてバーテンダーをやっていたのだから。
「しかし、貴方はもはやこの時代における唯一のアサシンであるのでしょう? それもアルタイル様の末裔だ」
だが少女の目の輝きは増すばかりだ。
興奮に頬を紅潮させ、惚けたように愛らしい唇も半開き。
バーに据え付けてあったTVに映るアイドルを、ファンたちがそんな風に見ているのをデズモンドは思い出した。
「であるならば、あなたは当代のハサン・サッバーハに他ならない……!」
「まあ、もう、アサシン教団も散り散りになっちまったからなぁ……」
「では、ハサン様と!」
「わかった。わかったよ、あー……アサシン、お前、名前は?」
「私めに名前はありません。アサシンとなる道を選んだ時、既に捨てました」
「じゃあ、とりあえず、アサシン。……様はよせ。命令だ。デズモンドか、そうでなきゃ……」
アルタイルか? エツィオか? それともコナー……。
「では、マスターと」
ああ。そう呟いて、少女は蕩けたような微笑を満面に花咲かせた。
「この響きは、貴方にこそ相応しい」
十代半ばの少女に「ご主人様」と呼ばれる自分の姿を想像して、デズモンドは顔をしかめた。
だが、まあ、デズモンド様とかハサン様よりはマシだろう。たぶん。おそらく。
.
「……まあ、それで良い。で、なんだ、アサシン」
「はい。一刻も早く、異端の魔術師どもとテンプル騎士団を討ち果たすべきかと。ご指示を!」
鉄砲玉、あるいは尻尾を振る仔犬。
行けと言えばまっしぐらに駆けて行って大暴れしそうだということが、鷹の目がなくとも察しがついた。
彼女がハサンを襲名できなかったのは十中八九、この直情型の性格のせいではなかろうか……。
「だが、まあ、方針として間違っていないあたりがなあ……」
「では……!」
「闇雲に突っ込んでいったってダメだ。掟を思い出せ、アサシン」
「はい!」
記憶にあるアルタイルの堂々たる態度、その一端でも引き出せれば良いのだが。
デズモンドは待てというように掌を突き出し、思考を巡らせた。
「ムーンセルの、聖杯戦争か」
与えられた記憶を自分へ馴染ませるのは慣れっこだ。
ムーンセルから流入してくる聖杯戦争の記憶による限り、無駄にNPCを殺すな、という以上の制限は無い。
トーナメント方式ならともかく、ルール無用の戦争ともなれば、それは……。
「…………」
知らず、デズモンドは唇を舐めていた。
上等だ。
敵がどんな強固な城塞を持っていようが、武器を持っていようが、鎧を持っていようが、だ。
そんな物で――そんなもので、アサシンから逃れられるとでも思っているのだろうか。
人類を歪める存在があるならば、これを討つ。それがアサシンだ。それが俺たちだ。
――だいぶ、俺も染まってきたな。
「マスター?」
「決めたぞ、アサシン」
笑っていた口元をデズモンドは引き締めた。
「巻き込まれた者は助け、異端は討ち、聖杯を破壊し、ムーンセルを人の手から遠ざける」
「我が運命をあなたに委ねます、マスター!」
デズモンドは微かに笑って「ただし、隠密にだ」と付け加えることを忘れなかった。
.
◆ ◆ ◆ ◆
それから、ほどなくして。
カウベルを微かに鳴らして、二人の影がバーから姿を現した。
一人は男。一人は少女。
男は白いパーカーを、少女は黒い外套を身に纏う。
二人は微かな笑みを浮かべ、フードを被った。
そしてそのまま、雑踏の中へ溶けるように去って行く。
誰も気にしない。
気にも留めない。
アサシンを恐れよ。彼らはどこにでもいて、どこにもいない。
「ラーシェイア、ワキュン、ムトラクベイル、クルンムーキン」
「これぞ我らが血盟の英知を集約せし言葉」
「闇に生き、光に奉仕する、そは我らなり」
「真実はなく、許されぬことなどない」
「安全と平和を……」
「アサシンに勝利を」
――――俺はデズモンド・マイルズ。
――――これは、俺の物語だ。
.
【クラス】
アサシン
【真名】
無名@Fate/strangefake
【パラメーター】
筋力C 耐久B 敏捷A 魔力C 幸運D 宝具B+
【属性】
秩序・善
【クラススキル】
気配遮断:A-
自身の気配を消す能力。完全に気配を断てばほぼ発見は不可能となるが、攻撃態勢に移るとランクが大きく下がる。
【保有スキル】
狂信:A
特定の何かを周囲の理解を超えるほどに信仰することで、通常ではありえぬ精神力を身につける。
トラウマなどもすぐに克服し、精神操作系の魔術などに強い耐性を得る。
【宝具】
『幻想血統(ザバーニーヤ)』
ランク:E~A
種別:対人・対軍宝具
レンジ:-
最大補足:-
肉体を自在に変質させ、過去に紡がれし18の御業を再現する能力。
実際は過酷な肉体改造なども行われていたが、英霊化にあたり肉体を自在に変質させる形となった。
オリジナルの御業と比べ威力が上か下かはケースバイケースとなる。
・妄想心音(ザバーニーヤ)
背中に移植したシャイターンの腕で相手の心臓を複製、呪殺する業。
・空想電脳(ザバーニーヤ)
接触した敵の頭を爆弾に作り変える業。
・夢想髄液(ザバーニーヤ)
可聴領域を超えた歌声で相手を操る業。オリジナルの業を超えた力を持つ。
大人数を対象とした場合、脳を揺らし魔術回路を暴走させる等の効果を持つ。
一人に対象を限定すれば、並のサーヴァントの膝をつかせ、人間ならば脳をそのもの支配し操る事ができる。
人体発火現象を誘発させることも可能。
・狂想閃影(ザバーニーヤ)
髪の毛を自在に伸縮させて操る業。
・断想体温(ザバーニーヤ)
己の皮膚を『魔境の水晶』の如く硬化させ、銃弾をも弾く護りを得る業。
・妄想毒身(ザバーニーヤ)
あらゆる体液、爪や皮膚、吐息すら含め、己の全てを猛毒とする業。また、自身の耐毒性を高める効果もある。
無差別殺害を避けるべく、毒の濃度はオリジナルより低下してしまっている。自身の血に毒を集中して、一時的に使用する程度に留まる。
・瞑想神経(ザバーニーヤ)
魔力・水・風・電気などのエネルギーの流れを完全知覚する業。
他11種類
【weapon】
ダーク:投擲用短剣。全身いたるところに仕込まれている。
【人物背景】
ハサン・サッバーハになれなかった少女。狂信者。
歴代の長18人の奥義を再現するに至るも、独自の業を編み出せず、また暗殺者に不向きな性格から長となれなかった。
どちらかというと「暗殺者」というよりも「戦士」としての面が強く、状況の打破に正面突破を好む。
【サーヴァントとしての願い】
聖杯の破壊 ムーンセルを人の手から遠ざける
【基本戦術、方針、運用法】
異端の魔術師、聖杯を求める者に対しては問答無用。
ただし巻き込まれた第三者、中立の者へは攻撃せず、改宗を勧める。
狂信者ではあるが、だからこそ「ハサン」であるデズモンドには忠実。忠犬。わんこ状態。
.
【マスター】
デズモンド・マイルズ@アサシンクリード
【マスターとしての願い】
聖杯の破壊 ムーンセルを人の手から遠ざける
【能力・技能】
・気配遮断EX:世界そのものと同化。攻撃する瞬間だけA+になる。
・フリーラン:市街地での高速移動能力。また超高層から飛び降りても負傷しない。
・鷹の目:驚異的な集中力によってもたらされる超感覚。敵味方の識別や、あらゆる物的証拠の察知など。
・マスターアサシン:過去のアサシンたちの持つ破壊工作や暗殺技術の完全継承。当代のハサン・サッバーハ。
【weapon】
アサシンブレード:左腕に着用されるガントレット式の飛出式小剣。アサシンの象徴。一撃必殺の暗器。
アルタイルの剣:伝説のアサシンが好んで用いたとされる長剣と短剣の一式。現代まで存在する宝具。
ダーク:投擲用短剣。全身いたるところに仕込まれている。
クロスボウ:無音狙撃武器。折りたたみ式で携帯でき、毒矢を発射することも可能。
フックガン:鉤縄を射出する武器。主に移動補助だが、銛撃銃の要領で攻撃にも活用できる。
ハンドガン:何の変哲もないオートマチック拳銃。
【人物背景】
アサシン教団の末裔として、テンプル騎士団との戦いに巻き込まれた青年。
先祖である伝説のアサシン、最強のアサシンの経験を「流入」された結果、恐るべき実力を有する。
人類を歪める「エデンの果実」を巡るテンプル騎士団との戦いの末、人類を救うことを決断して死亡した。
当代におけるハサン・サッバーハ。
【方針】
アルタイルの経験による白兵戦および暗殺。
エツィオの経験による爆薬、毒薬、パラシュートやグライダーによる長距離移動。
コナーの記憶によるゲリラ戦、射撃などを活用し、アサシンとして暗躍を続ける。
魔力量は多くないが、アサシンが宝具連発をしたがるので「待て」を多様せざるを得ない模様。
最終更新:2016年05月04日 14:50