時は明治、『天剣』と謳われた一人の少年が居た。
幕末の亡霊の懐刀として修羅さながらに人を斬ったその少年は、
やがて、動乱の終息と共に姿を消した――――
◆
ぱしん。
もう幾度目になるか分からぬ小気味いい音が、広い空間に響き渡る。
音の主は、面をつけ重そうな胴を纏い、竹刀を手に正面に居る相手としのぎを削る多くの剣道部員達。
若いながらも勇猛で、普通ならば興味の余りない者でも魅入る光景。
しかし、少年にとってそれは余りにも退屈な景色だった。
事実、少年ならば一人でこの場に居る全員を相手取っても十秒と掛からず勝利できる。
自分に生きるための力を与えてくれた恩人にして、今は地獄で国盗りにでも挑んでいるであろうあの人に、この光景を見せたらどう思うだろうか。
―――剣道場炎上どころか、学園大火でもやってくれるかもしれないな。
仄かに苦笑する。
と、そこで隣にいた自分より背の低い剣道部所属の女の子が此方の様子を伺っている事に気付いた。
いつもの自分のニコニコ笑みを向けると、僅かに女の子の頬が緊張に染まり、その事を隠すように女の子は口を開く。
「あ、あの!どうかな。練習は結構大変だけど、宗次郎く…いや瀬田君ならきっと」
「うーん、残念だけど、“こう言うの”はちょーっと僕には向いてないかなァ」
「そ、そう」
しゅん、と小型犬の様に俯く少女の様子に再び少年、宗次郎は苦笑する。
気の毒ではあるが、こういう所で気を使っても仕方がない。
かといってこのまま帰るのも不憫か。
そう思った彼は、その代りとして少女に良い物を披露すると少女に告げた。
首を傾げる少女に向き直り、静かにとん、とんと右足のつま先を床に打ち据える。
少年の纏う空気が変わった。
それを感じ取った少女はごくりと生唾を飲み込み、ほんの時間にして刹那瞬きのために目を閉じる。
―――彼の姿が、消えていた。
「!?!?」
慌てて辺りを見渡すが既に影も形も宗次郎の姿は見えない。
数秒前まで閉じられていた、道場から廊下に繋がる扉が開いていた事だけが、彼がここから立ち去った事の証明だった。
それはまさに妖術さながら
彼は一体……。少女はそう思ったが、いくら考えれど彼女が答えを出せる事は決してない。
彼女はNPC。再現されたキャラクターなのだから。
NPCが名探偵になれるはずがない。
少女は同じ剣道部の仲間が声をかけるまで、今しがた起きた怪現象に、ただただ呆然と立ち尽くすほかなかったのである。
◆
「驚いてくれたかなァ」
いたずらっぽい笑みを浮かべながら、宗次郎は帰路についていた。
極意は殺生。剣術とは殺人術の明治の世に生を受けた身としては、彼らのやっている『剣道』は活心流などを収めたことのない彼にとって、聊か刺激に欠けたる物ではあったが、嫌いではなかった。
かつて彼を破った不殺の流浪人ならば、間違いなく是とするだろう。
あの男が目指した世とは、こう言う剣術が隆盛の世界だったのかもしれない。
始めは厄介な事に巻き込まれたと思ったが、こういう事なら、悪く無いと思った。
虐待を受け、寺子屋にすら通えなかった彼にとって、学生と言う身分を演じるのはかなり苦労したが、
最近はなんとか誤魔化せているのではないかと思う。
そして、ここの生活に慣れてきた、と言う事はそろそろ身の振り方を考えなければならない。
【少年(マスター)】
そんな宗次郎の心境を汲んだのか定かではないが、背後からしわがれた声をかけられた。
宗次郎は鍛え抜かれた明治の剣客としての超感覚を使い、周囲を索敵したのち声の方向に振り返る。
【何ですか?アサシンさん】
【与えられた役割(ロール)を謳歌し、踊り続けることは結構だが…そろそろ、開幕だぞ】
予想通りの言葉に、宗次郎の表情がほんの…ほんの少しだけ強張った。
笑みだけは、崩すことなく浮かべていたが。
【それで……マスター】
【はい?】
【君は何のために戦う。この命がかかった大舞台で、何故儚く弱い人間が、そうやって笑える】
そうやって枯れ木の様な風体のサーヴァント、シルベストリは問いかける。
目の前の主が凄惨な殺しあいを目前として何故笑うのか、彼はそれを知りたかった。
しかし、そんなシルベストリの知的欲求を裏切るように、まるで彼自身も分かっていないように宗次郎も腕を組んで考え始める。
…たっぷり三分はたった後、彼は静かに言葉を綴った。
【すみません、今の僕には貴方が満足するような答えは出せないと思います。……これは、生まれつきの様なものですから】
【………そうかね】
人の痛みを知っていたかつての優しい少年にとって、笑顔とは生きるための手段であり、諦観だった。
『天剣』の頃は武器であり、彼にとって欠落の象徴だった。
そして今の瀬田宗次郎は、無力だが心優しい少年でも、『天剣』でも、無い。
それなのに何故笑い続けるのか、余りにも長い間笑い続けたため染みついてしまったのか、彼にも分からない。
それでも尚、
【でも、答えを与えられなくても、一緒に答えを探すことはできると思うんです】
【何?】
【僕もね、これから始まる戦いの中で、答えを探してるんですよ。
かつて僕に道を示してくれた二人の男が、一体どちらが正しかったのか】
【―――そのために、君は戦うのか】
少年は迷うことなくはい、と答えた。
そして、冷たい機械人形を前にして一歩も臆することなく言葉を紡いでいく。
【その答えが出せた時―――”僕たち”はきっと、心の底から笑える気がするんです】
その時の自分ならきっと貴方が満足する答えを用意できるはずだと、たどり着いた答えによっては聖杯を獲る意思もあるという旨も宗次郎はハッキリと宣言した。
その答えを受けたシルベストリは顎に手をやり、しばし黙考した後。
【いいだろう。答えが出るその時まで、私は君の剣となろう
―――実のある答えが出ることを期待する】
そう少年に伝えた。
期待していた言葉とは乖離し、わずか程も落胆の念がないわけではなかったが、最終的に答えを得られるならば、今はこの答えでも悪くはない。
弱く小さな人と肩を並べて戦う事も、人が寄り添い生きる意味を得られるとするのならば、あるいは。
この瞬間、彼の胸に大事にしまわれたスズランの花がさわ、と揺れ。
一人の剣客と、一体の人形が織りなす幻想譚の開幕を、静かに告げていた―――
【クラス】
アサシン
【真名】
シルベストリ@からくりサーカス
【パラメーター】
筋力B 耐久D 敏捷B++ 魔力E 幸運C 宝具E
【属性】
秩序・悪
【クラススキル】
気配遮断:C
サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。
完全に気配を断てば発見する事は難しい。
【保有スキル】
自動人形:A
誰にも頼らず、舞台上で災禍を振りまき続ける呪われた人形たち。
Aランク相当の単独行動とEランク相当の対魔力と同等の効果を得るが、
人形ゆえに創造主には逆らうことができない。
戦闘続行:A+
自動人形は身体を壊されようとも、最後まで戦い続ける。
シルベストリは答えを得るまでは止まれない。
心眼(真):B
自動人形でありながらも得ている戦闘論理。窮地において活路を導きだす。
また、視覚に頼らずとも空間の把握がある程度は可能となる。
【宝具】
『刹那のからくりサーカス』
ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
『最古の四人』すら二人同時に切り伏せる正に刹那の超絶剣技とそれを支える体内に内蔵された数多の剣。
『哲学する自動人形(オートマータ)』
ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1
シルベストリは同じ自動人形をして謳われる程常に答えを求め、問い続ける、『哲学する自動人形』である。
それ故に彼は戦いのさなかにあっても彼は相手に問を投げる。
そして、戦いの果てに、答えを得たとき、彼の全ステータスはワンランクアップし、彼は心の底から笑うことができるだろう。
この宝具は常時発動しているが、真に答えを出すまでは効果を発揮しない。
【weapon】
左手及び、身体に内蔵された剣。
【人物背景】
老人の姿をした自動人形。居合を得意とし、自動人形の中では伝説となる程の剣の使い手。
その美麗なる剣技は最古の四人の内の二人を一瞬で切り伏せるほど。
また、彼は自動人形達の間で哲学するオートマータとして有名であり、此度の戦いでも
その逸話が再現された形で現界している。
彼は常に答えを求めている。人間とは、笑顔とは、寄り添い生きる意味とは。
答えを得るために、老練なる人形は剣を取る。
【サーヴァントの願い】
宗次郎と共に答えを探す
【マスター】
瀬田宗次郎@るろうに剣心-明治剣客浪漫譚-
【能力・技能】
『天剣』
幕末の悪鬼、志々雄真実が認めた天賦の剣才。
『縮地』
幼少期の虐待じみた生活により培われた人を遥かに超えた脚力。
初速から一気に最高速度まで駆け、目にも止まらぬ、のその先、目にも映らぬの境地まで到達する超神速の移動術。
室内ならば全方位攻撃も可能。
『瞬天殺』
縮地から天剣に繋げる神速の抜刀術。彼が唯一名を付けた絶技。
この技が決まれば相手を自らを死んだと認識させぬまま殺害できるが、
今の彼は感情欠落という三本の矢の内の一本を失っているため、先読みが可能になってしまっている。
【weapon】
無名の刀。
【人物背景】
昔は人の痛みを知っていた優しい少年。
かつては幕末の亡霊に魅入られ、あの内務卿の大久保利通すら一刀のもとに切り伏せた『天剣』
そして今は…『天剣』でも『流浪人』でもない、ただ一人の剣客。
【マスターとしての願い】
答えを探す。答えによっては聖杯を獲るのも吝かではない。
最終更新:2016年05月07日 02:56