振動で脳が揺れる。土埃で喉からえずく。
拝啓、はつけるのかな。時節の挨拶は必要か? 死に行く老人たちはどうやって遺書を書いていたっけ。
相手に失礼のないように……、いや、こんな状況にあったことぐらい、汲み取ってくれるだろう。下らないことに時間を費やす訳にはいかない、内容に移ろう。
爆音が耳を貫き、耳道を通って三半規管まで。目玉は飛び出すほどに開き、歯は割れそうなほど噛み締める。
私は穴蔵の中にいます、今は敵の攻撃の切れ目です。あなたがこれを読んでいるころには私は……なんか、いやだな。
……奮闘の末に物資弾丸は底をつき、認識票もどこかにいってしまいました。もはや私は、死、限界、次の攻撃では、私は(消さなくては)……尽きましたが、
私の気力のつきるまで、例え尽きようとも立派に戦い続けます。この身体が滅びようとも、私と戦友達の魂は永遠であります。
音が止んで、辺りを静けさが包んで行く。故郷は都会ではなかったけれど、四季は特色で彩られ、声はどこまでも響いていった。
家族へ、血族へ、仲間たちへ。我々は、頑張りました。務めを果たし灯火として命を燃やしました。どうか妹たちにもそう伝えて下さい。
お父さんお母さん、あなた方の産んだ子供は役割を果たし、そうと、努力を重ねました。どうか、誇りに思ってください。
故郷の場所と自分の名前を書こうかと思ったけれど、やめた。仲間たちと分かち合いたかった。風切り音がした。ついで、つんざくような音にかき消えていく。
これを拾ってくれる人がいたら、それよりも嬉しいことはありません。敵の勢力圏に陥りつつあるここが奪回されたということは、相手を押し返したということであり、
我々は勝利しつつある、ということだからです。そして、もし、視界に写る機会があったのならば、我々の存在と闘いを記憶の片隅にでも、
いいえ、できたならば誰かに語り継いでください。私達は戦いました。お願いします。私たちは――
瞬間、轟音。砂塵は高く舞い上がり、爆炎は彼の身体をなめて、覆い尽くした。彼は書いていたものを守るように腹の前に抱え込み、
燃え移った火炎の中で、一瞬の走馬灯ののち、後悔した。身体を動かし、どうにか外に遠ざけようともしたが、どうにも身体が動かない。
覚悟していたことであるけれど、せめて残して行きたかった。失敗してしまった。ばちが当たったのかもしれない。
最後の最後でやった行為は敢闘には値しない行為だったのかもしれない。そもそも、歩兵がカッコつけたり、ものを考えること自体が。
穴蔵を灼く焔のうちに彼の思考は焼かれ、消し潰されていく。彼の身体も、彼が残そうとしたものも。
数刻の後、崩れそうな塹壕に、装備以外に残ったものは焼けた肉と骨と灰。装備は彼を示すものではなく、崩れ落ちては土に埋まっていく。
肉はウジ虫どもに食い散らかされ、灰は旋風に乗って四散し、骨は酸性の土に溶けて。
彼は影すらも残らない。
※ ※ ※
「雪風、ただいま帰還しました!」
「おかえり」
「今日も一日頑張ったわね、今晩御飯作るから、ちょっと待っていてね」
司令部の人間というのは、どういう心持であるのだろうか、どんな資質がいるのだろう?
彼女のサーヴァントたるアーチャーは、世界を守るために戦ってきた兵士である。
よくよくアーチャーは義務として、防衛軍基地からの命令に従って作戦を遂行してきた。
同じ人間ではなく別種の侵略者たちを相手に、それまでの常識が通用しない中でも試行錯誤を繰り返した。
作戦の結果、まんまと死地に追いやられ、気がつけば敵陣に孤立し……仲間たちはどんどんと散って行く。
しかし彼は怒りを抱くことはあったけれど、任務を放棄することは決してない。彼は立派な兵士だった。
雪風は言われずとも手を綺麗に石鹸で洗い流した、良い匂いが辺りに漂うが、うかない顔。
元来天真爛漫で明るい性格の彼女、こんな顔をしているところを見たら彼女の姉妹はみんな狼狽してしまう。
けれども、今は一人っこだ。彼女を撫でる手は存在しないはずの両親のもの、姉妹は皆いなくなってしまった。
「今日のご飯はなんですか?」
「ふふふ、今日わね、エビフライさんよ」
「お、パパも好きなんだよ」
「うわあ、ありがとうございます、しれ、……お母さん!」
彼女の世界もまた異形に侵されていた。深海棲艦と呼称されるもの達への、対抗存在艦娘――。
麗しく凛々しい彼女と仲間たちは日夜戦いを繰り広げる。基本的に勇敢で献身的な艦娘たちの中で、
雪風は、その群をぬく幸運と類稀なる実力からあちこちで活躍。皆からも一目置かれていた。
「ごちそうさま、おいしかったです」
「ありがと、うれしいわ」
彼女を取り囲む世界が変容し始めたのは、やはり司令部からの作戦命令。
一進一退の戦況を打開すべく打ち立てられた敵中枢侵攻作戦、電撃的に精鋭たちを進撃、浸透し、上位指揮系統を撃滅せしめよ。
それは、結果的に立案時の構想から大きく離れ、祖国、大祖国、あるいは――消耗戦の始まりとなり、
人類側防衛圏を大きく揺るがす事態へと発展していく。
「ふぁあああー」
「眠いかな? ……先に歯をみがいてきなさい」
「ふぁい……」
集められた精鋭たちによって、彩られる艦隊。目にした者たちは人類勝利の栄光を疑わなかったという。
事実、初期は群がる深海棲艦たちをそれこそ鎧袖一触し、景気よく暁の方角に向けて進んでいた。
……司令部は見誤った。これまでの経歴からの艦娘たちの被害程度予想、己たちの増大した自信の自覚、
敵陣における戦力の重厚さ、そして――動かないと思い込んでいたこと。
「おやすみなさい、お父さん、お母さん」
「おやすみ、雪風」
泥沼の前線から後方、銃後における敵戦力の急襲は、まるでハイキックを放った格闘家への冷静な対応の如く。
返す刀で急所に突き刺さったダメージ、人類間の内戦における政治的、心理的それとはまったくちがう――、
人外からの本陣侵攻は致命的な破断を人類に与えた。
やがて、侵攻部隊はとんぼ返りし、近海にて活発化した深海棲艦を相手に、
雪風は、先行きの見えない、真綿で首を絞められ続けるような防衛戦を続けているのであった。
「おやすみです。しれぇ」
※ ※ ※
瓦礫の残骸の中に千切れ落ちたエプロンがある。ありふれた主婦の使うエプロン。
踏みしめた狂獣が、人間への怒りを表すかのように咆哮を上げ、黒い瘴気を吹き出しながらがなり立てる。
その姿は人間の恐れの具現化であり、神話の生物が抜け出てきたような畏怖を与える異形の獣だった。
バーサーカー、というのが、この獣に与えられた称号だった。何も知らぬ鈍い召喚主は食い殺されてしまった。
素人がゆえに住宅街にて行われた召喚は、牧場に猛獣を解き放つような状態を作り出す。
狂獣は暴れまわる。閑静な住宅街を血に染めて、平穏を過ごす家庭を数件、獣性に任せて瓦礫に変える。
暴虐の獣に立ち向かう者もいた。家族を守ろうと自分に注意を引き付け、時を稼ぐこともできずに死に行く。
嵐に向かって身を乗り出すような行為だった。圧倒的エネルギーの前には気高さだけでは立ち向かえなかった。
臓物をまき散らして、瓦礫に染み込む赤い染みとしたところで、バーサーカーは、此方を見据える視線を感じた。
姿格好は異なる時代のものだが、いやに現実的な、過去でも幻想でもない――まるで、近未来の兵士だ。
しかし、狂獣に判断能力はない。毛色の異なるものが現れても、侵されている思考回路は変わらない。
愚直な突撃、まっすぐがゆえに規格外の力と速度からなる死の疾風を、間一髪で滑るように横に転ぶ。
バーサーカーは機敏にも次の行動に移る。急制動からの方向転換、先ほどの反応速度では躱せない攻撃を――
兵士は躱す。明らかにステータスが上がっていた。地団駄を踏む猛牛を押さえる闘牛士のように、
繰り返される突撃を、消滅を免れないだろう暴力的な質量を避ける、躱す!
そうして、ついに後ろを取った彼の手に握られていたのは、みれば暴力だとわかる殺意の権化、ショットガン。
人類生存のため、死に瀕する人々の叡智の結晶たるそれは、バーサーカーを被害者たちと同じ有様に変えた。
※ ※ ※
雪風は幸運だった。もはや原型をとどめぬ家において、バーサーカーに突進されることもなく、
瓦礫に押しつぶされることもないところにいた。彼女の身体の損傷と言えば、手の甲に浮かんだ令呪くらいだ。
彼女が見つめているのは、まき散らされた残骸。仮初とはいえ過ごしてきた暖かい家の名残である。
「……わかってました。記憶は、戻ってました」
「でも、どうしても決められませんでした」
「ぐちゃぐちゃで、答えがでないんです。アーチャーさん」
願いを叶える聖杯、散って行った戦友たち、崖っぷちだった戦況、姉妹への親愛、捨てなければならない安らぎ。
「あの人たちはいい人でした。……雪風たちが守る人たちです」
「雪風は艦娘です。海の平和を守ります。敵と戦っていました」
彼女はよくやった。駆逐艦として、艦娘として。果たすべき役割をずっと果たしていた。
けれども敵はずっと強大で、どうしようもならなくなって、仲間もいなくなっていって、
でも、どうにかなる手段が――
「アーチャーさん、雪風は、あたしはどうすればいいんでしょう?」
「しれぇ、雪風は――」
雪風は艦娘である。天真爛漫で明るく、優しい性格の兵士、あるいは兵器である。
彼女には使命があるけれども、命令なしに無辜であろう人々を押しのけてまで、願いを叶えようとは思わない。
彼女は欲求は示すけれど、私欲というものはまったくもって薄かった。彼女は聡く、無垢で、無知だ。
仮初の生活は彼女に、守るべき人々の尊さと焦燥感と罪悪感を植え付けて、それがまた彼女を惑わせて……。
アーチャーは、ストームワンは、彼女の求める答えをもってはいなかった。彼もまた一個の兵士であったから。
彼と彼女の違いは、生まれと、力の差だけ。雪風を戦局を変えられず、ストームワンは一人で敵を滅ぼした。
ストームワンは彼女の求める答えを持たない、けれど。せめて、彼女が答えを出すまで、その答えが形になるまで。
兵士という同胞として、純粋で平穏な、あのときの市民たちのように――。
【クラス】
アーチャー
【真名】
ストーム1@地球防衛軍3
【パラメーター】
筋力C 耐久D 敏捷B 魔力E 幸運A+ 宝具EX
【属性】
秩序・中庸
【クラススキル】
対魔力:E
魔術に対する守り。無効化は出来ず、ダメージ数値を多少削減する。
単独行動:B
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。
【保有スキル】
心眼(偽):B
直感・第六感による危険回避。
異星人の侵略に当たって、彼が生き残ってこれたのは敵の攻撃を体で感知できたからだろう。
勇猛:B
威圧・混乱・幻惑といった精神干渉を無効化する能力。
EDFは敵を恐れない。防衛軍の精神を彼は体現している。
射撃:B
銃器を扱う才能を示すスキル。
あらゆる武器であらゆる戦況に対応しあらゆる敵に対応しなければ、生き残ることはできなかった。
【宝具】
『我ら、地球防衛軍(Earth Defense Force)』
ランク:E~A+++ 種別:- レンジ:- 最大捕捉:-
地球防衛軍の兵士、その象徴としての宝具。
使用してきた武器を魔力を消費することで出現させ、使いこなすことができる。
ただし、一度に呼び出せる武器は二つまでであり、弾は魔力によって補充され、リロードを行う必要がある。
性能が高ければ高いほど消費魔力は上がり、最強のジェノサイドガンに至っては令呪三つの補助を必要とする。
『希望の一と無銘兵士たち』
ランク:EX 種別:- レンジ:- 最大捕捉:-
ストーム1。一人で地球を偽りもなく救った彼は紛れもない地球の希望である。
侵略者たる異形、ロボット、昆虫相手は与えるダメージ量が増大し、希望である彼を信じる者たちは精神汚染を無効化。
さらに、彼がストーム1である限り、全スキルと魔力以外の全ステータスが上昇し続ける。
彼がストーム1である限りは。
ストーム1は、英雄なき近未来においてあまりにも超絶した戦果を残しすぎた。
結果、アーチャーの存在を人々は疑いだしてしまった。ストーム1は非常に脆い幻想となってしまった。
アーチャーがストーム1らしからぬ行動をとった、または取ったと思われたとき、
アーチャーはどんどん無銘の兵士に近づき、全スキル全ステータスが下降、最後には消滅する。
ストーム1は異星人から地球を救った英雄。決して人類間の戦争の英雄ではないのだ。
【weapon】
宝具で呼び出した銃器
【サーヴァントとしての願い】
雪風を守る。
【人物背景】
地球防衛軍3にてプレイヤーが操る兵士。
あらゆる銃器を使いこなし、異星人が操る巨大生物から、ゴジラじみた怪獣、母艦までを殲滅した。
仲間が倒れながらも一人戦い続ける姿は、司令部から戦友たちまでを大いに支えた。
が、後の時代を描いた地球防衛軍4ではプロパガンダの虚像じみた扱いを受けており、
一部を除いて実在を大半が疑っている。
【マスター】
雪風@艦隊これくしょん
【マスターとしての願い】
どうすればいいかわからない。
【weapon】
なし
【能力・技能】
艦娘としての高い実力と豊富な戦闘経験、その上にある幸運。
【人物背景】
ゆきかじぇ。
末期戦的世界線から参戦。
戦い続けた経験と、敵中枢侵攻作戦への艦隊にも選ばれたことから、高い実力と運を持っている。
性格は天真爛漫、明るく、舌ったらずで、陽炎型の姉妹からは可愛がられていた。末期的戦況においてもそれは変わっていないが、
精神的にはダメージを受けていた。そして、聖杯戦争に呼び出されたこと、幸せな家庭の一人娘というロールを与えられたことで、
失ったことで、数々の二律相反に陥って、答えの見えない迷宮に迷い込んでしまった。
【備考】
住宅街でのバーサーカーの暴走による被害はガス爆発が原因ということにされました。
被害者家族の名前が報道されています。
最終更新:2016年05月17日 05:03