太陽が地平に差し掛かり、街をオレンジに染め上げる。
夕餉に取り掛かる家々の内の一軒で、惨劇が繰り広げられていた。
リビングの中央を陣取る食卓には本日のメニューが並べられ、テーブルの周囲を親子4人が囲んでいる。
しかし、親子はバラバラに上半身を倒しており、ぴくりとも動かない。その中央を黒衣の剣士が動き回り、家人の身体で腹を満たしていた。
不思議な事にこの騒ぎは、まだ周囲に漏れていない。
剣士は天を仰ぐ母親の腸に埋めていた顔を上げると、机に突っ伏す弟の腕をちぎり、しゃぶり始める。
その凶行を家の外から、冷たい眼で見つめる学生服の少女がいた。
≪小夜?サーヴァントを捕捉したわ≫
少女は外にいるはずのマスターに、念を飛ばす。
マスター・音無小夜も同時刻、そう離れていない路地に潜伏する不審人物を視界に収めていた。
黒革のコートを着た人物は件の一軒家に視線を向け、その右手に羽を広げた鳥のような刺青が刻まれているのが見て取れる。
≪・・・お願い、ライダー≫
懐に忍ばせたナイフをいつでも取り出せるようにした後、小夜も敵マスターに向かって歩き出す。
二人はほぼ同時に、標的に向かっていった。
≪了解≫
ライダーが実体化して、リビングに踏み込む。
これを察知した剣士は先制される前に、柔らかな腕を捨ててリビングと一体化したキッチンに向かって跳躍する。
二人目の侵入者目がけて繰り出された袈裟斬りには、自動車程度なら容易く切断しうる速度と自信が漲っていた。
ライダーは獣じみた咆哮を聞きながら、太刀を横に払ってこれを易々と捌く――それが開戦の合図となった。
斬り合いは剣士が優勢だったが、太刀によって傷をつけられる度にその勢いが落ちていく。
筋力値においてライダーに勝ってはいたが、彼女が持つ宝具・獅子王には強力な対霊の効果があり、それは実体化したサーヴァントとて例外ではない。
ナイフを入れられたバターのような速度で、太刀が食い込んでいくのを自覚した剣士はライダーから飛びずさる。
――!
剣士が右斜め後方に跳躍、壁を背にして動きを止める。
直後に踏み込んできたライダーに反応、鋭い突きを繰り出すが、先程と比べれば精彩を欠いたもので、彼女を捉える域には達していない。
獅子王の一閃によって身体が二つに分かれ、返す刀で声帯を貫かれた黒衣の剣士は空気の漏れる音を小さく出すと、恨みがましい視線をライダーに浴びせて、聖杯戦争から退場した。
☆
「小夜・・・何があっても、お前の信じる道を行け…」
――お父さん・・・。
「小夜・・・戦って。」
――ハジ・・・。
「あなたは・・・だれ・・・?」
――ディーヴァ・・・!
☆
討伐成功の報告を受けた小夜は小さく息を吐いた。
路地から身を乗りだし、ライダーとの合流地点を目指して移動する中、考えるのは聖杯戦争の事。
過去の英霊と組になって行う、魔術師同士の闘争。
小夜も一般人ではないにせよ、オカルトにはこれまで縁が無く、参加させられても勝ち抜けるかは不明。
幸い引き当てたライダーの実力は十分だし、現状良い関係を築けてもいるが、小夜は魔術師ではない。
ゆえに魔力を捻出する際、相応の体力を支払わねばならないが、小夜には翼手の女王として数十年の眠りが迫っている。
マスター契約と言う前代未聞の事態により、休眠期の到来が早まるのではないか・・・・・・記憶を取り戻してから、それが絶えず気に掛かっていた。
「・・・・・・」
合流地点とした遊歩道が小夜の視界に入った時、ライダーが隣に現れた。
「マスター、平気?」
気遣うように尋ねる彼女に、小夜はこわばった調子で言った。表情は固く、いつか美術室で見た石膏像のようだ、とライダーは思った。
「・・・大丈夫。人殺しは初めてじゃ、ないから・・・」
30年前のベトナムで暴走状態に陥り、無差別に殺戮を行った経験が小夜にはある。
もっとも覚醒させられたショックで間も無く記憶を失ったため、思い出したのは最近だったが。
「・・・・・・」
顔に影が差した小夜にライダーは慰めの言葉を掛けようとするが、小夜は気にした様子もなく遊歩道を外れ、自宅に通じる坂へ向かっていく。
口を開いたライダーであったが、結局掛ける言葉が見つからず、静かに霊体化をして小夜の隣から姿を消した。
☆
(・・・妹か)
聖杯が何を持って彼女のサーヴァントに自分をあてがったのかは、小夜の身の上を聞いた時に理解した。
血の繋がった姉妹とこれから殺し合う小夜、妹同然に思っていた神楽に殺された自分。
生前は退魔師としての人生も個人の幸福も失ったが、ガイアによって現世に戻された際に神楽と再会、無事に和解できた。
全ての戦いが終わった後、みんなで喪われた平穏を取り戻し、二度目の生や願望器の力にも魅力を感じないくらいに満足のゆく日々を過ごした。
(穏便な形で収められないかな・・・・・・)
ディーヴァが小夜から聞いた通りの人物なら、もはや対話の機会など無いのだろう。
しかしそれはディーヴァ自身の罪ではなく、人間がそう教育したことも大いに関係している。
そして実妹の存在を教えられなかった小夜もまた、この戦いに対して責任を負っていない――とも言える。
(・・・それでも、退くことはしない)
小夜の言動はどことなく、家を背負った退魔師・・・特に出会って間もない頃の神楽を思わせる。
聖杯を捧げる事に異存はないが、彼女が生還してディーヴァを倒しても、得られるものは何もあるまい。
ライダーとしては、自分の過去をなぞっているような小夜に手を貸してあげたいのだが、今はまだ掛ける言葉も見つからず、無力感と自嘲めいた心情がただ増していくばかりだった。
小夜がひりつく様な緊張感を漂わせ、余裕の無さがパスを通じて伝えてくる度、生前についても顧みざるを得なくなり、ライダーは単純な悲しみと同族意識によって煩悶を更に深くした。
【クラス】ライダー
【出典】喰霊シリーズ
【性別】女
【真名】諫山黄泉
【パラメータ】筋力C 耐久C 敏捷B 魔力B 幸運D 宝具A+
殺生石解放時 筋力B 耐久B 敏捷A 魔力A 幸運D 宝具A+
【属性】秩序・中庸(混沌・悪)
【クラス別スキル】
対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。 大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。
対策室の主力メンバーとして怨霊調伏の日々を送り、悪霊に堕ちた後も対策室を相手取って戦った彼女はこのランク。
騎乗:A+
騎乗の才能。獣であるのならば幻獣・神獣のものまで乗りこなせる。ただし、竜種は該当しない。
ライダーは後述宝具に宿る霊獣に騎乗し戦う。
【固有スキル】
心眼(真):B
修行・鍛錬によって培った洞察力。窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す“戦闘論理”
逆転の可能性が1%でもあるのなら、その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。
諫山家の次期当主として積み続けた鍛錬と、豊富な戦闘経験の賜物。
無窮の武錬:C
剣の道において神童と呼ばれ、十代から実戦を経験。エージェントを70人以上殺害した実力。いかなる戦況下にあっても十全の戦闘能力を発揮できる。
家族愛:D++
魅了や威圧、狂奔など悪性の精神干渉に対し、毎ターン抵抗判定を発生させる。ランクによって持続時間が変動し、絆を結んだ相手を前にすると効果が倍増する。
『殺生石』に対するカウンターとしても機能し、幸運判定に成功すると、属性が一時的に「秩序・中庸」に戻る。
愛する者を災いから守ろうとする心がスキルに昇華されたもの。
【宝具】
『獅子王(ししおう)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1~2 最大捕捉:1人
諫山家に代々受け継がれていた家宝の太刀。霊体に対してダメージが増加するほか、担い手は巨大な霊獣「鵺」を使役できる。
これを召喚することで多数の敵を単騎で相手取る事が可能。鵺は咆哮と共に光線を撃ち出す「咆哮破」を主力とする。
『打杯28號(だぐらすにじゅうはちごう)』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:1~10 最大捕捉:1
刀匠のマイケル小原が製作した武装であり、打撃によって霊体にダメージを与えられるナックルダスター。霊水をスチームのように噴射できるほか、付属のチェーンの先端に付いた分胴によって離れた敵を攻撃することが可能。
見た目は銀一色のアイロン。獅子王をメンテナンスに出していた時期に使用。消耗品の霊水は魔力で補充できる。
『殺生石(せっしょうせき)』
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1(自身)
ライダーの霊核が破壊された時点で自動発動。ステータスを解放後のものに修正、属性が混沌・悪に変更された状態で復活する。復活は一度きりだが、発動後は殺生石が魔力を生産し続けるため、供給が無くてもAランクの単独行動に匹敵するスタンドアローン力を発揮できる。
陰陽師によって調伏された九尾の魂を封印した妖力の結晶。人体に埋めると無限の妖力を得られるが、代償として肉体と魂が蝕まれ、悪霊と化す。
ライダーを再起不能の重傷から救い、彼女の死を招いた宝具。
【Weapon】
宝具に依存。
【人物背景】
心霊業界で70人以上殺して悪霊となった元超自然災害対策室所属エージェント。土宮家の分家筋にあたる諫山家の頭首、諫山奈落の養女。
メインヒロインの土宮神楽と出会い、姉同然の存在として彼女に大きな影響を与える。
退魔師として戦いの日々を送っていたが、家督争いや影で蠢く陰謀の果てに悪霊へと堕ち、土宮神楽によって殺害される。
【聖杯にかける願い】
なし。
【マスター名】音無 小夜
【出典】BLOOD+
【性別】女
【Weapon】
市販のナイフ。
【能力・技能】
「始祖翼手」
人の血を吸って生きる食物連鎖の頂点。
人間の体内にはない第5の塩基を持ち、擬態能力と驚異的な身体能力、不老の肉体を持つホモサピエンスの近縁種。
そのなかでも小夜は子を産むことが出来る翼手の女王の片割れである。
彼女の血を妹ディーヴァから派生した翼手に投与することで、結晶化させて死に至らしめることが出来る(逆もまた然り)。
【ロール】
女子高生。
【人物背景】
コザ商業高校の生徒で陸上部所属。宮城ジョージの養女で、宮城カイの義妹であり、宮城リクの義姉である。
2~3年の活動期と30年の休眠期を繰り返して翼手と戦い続けてきたが、ベトナム戦争時に強制的に覚醒させられた結果 暴走。
記憶喪失に陥り、本編開始一年前まで眠り続け、覚醒後は自身のシュヴァリエであるハジと再会するまで平凡な女子高生として過ごしていた。
ハジと再会した後、再び翼手との戦いに身を投じることになる。
イギリス編登場前より参戦。休眠期が迫っており、かつ血液を補給していない為に回復力が落ちている。
本来は明るくオテンバ、穏やかな性格の少女。イギリス編後は『赤い盾』崩壊やリク喪失に責任を感じており、冷徹・自罰的な振舞いが目立つようになる。
【聖杯にかける願い】
脱出する。本来の小夜は殺人を良しとする人物ではないが、作中では「サーヴァントを使い、一般人を殺害する人物」だったため、敵マスターを手にかけた。
最終更新:2016年05月24日 18:59