―走る。アスファルトの感触をスニーカーが伝え、両足が悲鳴を上げる。
人っ子一人いなくなるような遅い時刻に、カオスヒーローは港の倉庫街を駆け抜けていた。
港には夜の帳が降りている。常夜灯のか細い光が僅かに道路を照らし、濃い暗がりをあちこちに作っていた。
荒い呼吸で喉が乾いていき、疲労と焦燥で灼けるように痛む。身体に熱が籠り、下着が汗で貼りつくのが不快だった。
このあたりの土地勘は無く、逃げ込んだのは日中、貨物の荷役が行われる埠頭だった。
積み下ろされた色とりどりのコンテナが見上げるほど高く積み上がっている。そうしてつくられた迷路の一角を走るカオスヒーローの行く手を、光の矢が通過した。
カオスヒーローは身体から力を抜くと、矢が飛来した方向に身体を向ける。
「よくやった。アーチャー」
こちらに来てから知り合った不良が追い詰められたカオスヒーローを見て、口の端を吊り上げる。
労いの声を受けたアーチャーはマスターに向けて不敵に笑うと、被っているハットをそっと指で突いた。
「いや、記憶を取り戻してびっくりだよ…」
無精髭をつるりと撫でて、厳つい頬ををわずかに揺らし――
「カオスヒーローなんて名前の日本人、いるわけねぇもんなぁ!!」
哄笑が夜の港に響き渡る。隣に控えるアーチャーも噛みしめるように、嗤う。
(ちくしょう……)
腸が煮えくり返る。ここはカオスヒーローが一度、吉祥時で通り過ぎたはずの景色だった。
違和感はあったのだ。一匹狼のチンピラとして喧嘩に明け暮れる毎日――誰かが欠けている。
そして記憶を取り戻した時、カオスヒーローは聖杯に拳を叩き込みたい衝動に駆られた。
――◆◎☆▽
それがカオスヒーローの本名だ。聖杯は如何なる判断からか、「◆◎☆▽」を「カオスヒーロー」と周囲に誤認させる事にしたらしい。
目の前で笑うチンピラは彼に先んじて記憶を取り戻したらしく、夜の街を歩いていたところを襲撃してきた。
訳もわからず逃走を続ける中、カオスヒーローにも聖杯戦争の知識が入り込んできた。その瞬間、手当たり次第に唾を吐き、壊してやりたくなった。
「アーチャー、サーヴァントを呼ばれる前に…」
「あぁ…じゃ、悪いな」
マスターに頷くと、目をスゥッと細める。知らず、鉄パイプを握るカオスヒーローの手に力が籠る。
ここで終わるわけにはいかない。自分をさんざん痛めつけたオザワに落とし前をつけさせるまでは……。
2人を見据えるカオスヒーローは記憶を辿り、力ある言葉を唱えた。
「…ア」
―魔力が身体に流れ込み、血が沸き立つ。
「ギ」
―アーチャーがハットを目深に被り直し。
「ラ」
―魔力が髪の一本一本、指先に至るまで流れ込み、心に掛かった靄が晴れて意識が清澄になる。
「オ」
―アーチャーが弓を掲げ。
「ウあァアッ――!!」
アーチャーのマスターが炎に包まれた。3人のいる一角から上がった火柱が、周囲を昼間のように明るく照らす。
摂氏500℃を上回る高温で炙られた不良は絶叫した後、息を吸い込んだ時点で肺の中を焼き尽くされて呼吸ができなくなり死亡した。
自分の体表が炭化する程の火傷を知覚することなく死ねたのは、彼にとって幸運だったかもしれない。
――魔界魔法。
悪魔が住まう世界の力を現世に引き込み、様々な現象を発生させる魔術体系。これをカオスヒーローは如何なる所以か行使できる。
先ほどは魔界から炎を呼び出し、にやりと笑う不良にぶつけたのだ。
「―ッてめェ!」
思わぬ攻撃に虚を突かれたアーチャーは火に巻かれたマスターを見て構えを解いたが、すぐさまカオスヒーローに矢を射掛けんと弓を引き絞り。
「遅ぇ」
カオスヒーローの視界が黒い外套で覆われた。
…――ザン!!
鈍く、鋭い音が響く。外套の端に鉄塊が舞う。翻った外套が萎む風船のように勢いを失くすと、控えていた大きな背中が現れる。
背中がゆっくりと向きを変え、その精悍な顔立ちがカオスヒーローにも見えた。逞しい体を黒い甲冑で包み込んだ隻眼の偉丈夫。
肩に乗せた剣はビルの壁面かと見紛うばかりの分厚さと大きさを誇る。
右目は閉じられているが、アーチャーの矢尻が可愛く見えるほど鋭い眼光で、剣士はカオスヒーローを油断なく見下ろす。
「移動するか」
掠れた声で剣士は言った。
足元に視線を向けると、首を失ったアーチャーが天を仰いでいる。
突っ立っていると周囲が徐々に騒がしくなってきた。2人は自動車の走行音を背に受けて、オレンジに照らされる埠頭から脱出した。
☆
「助かったぜ。おまえが俺のサーヴァントだな」
「気にすんな…あんたがマスターだな」
カオスヒーローは右手に宿った令呪を剣士に向ける。それを受けた剣士は小さく頷き。
「俺はセイバー…」
「―オレはパックだ!」
セイバーの腰の鞄から小人が飛び出してきた。衣服は纏っておらず、背中から昆虫の様な翅が生えている。
よろしくな、と両者の周囲を踊るように飛び回る。パックが現れた瞬間、セイバーの表情から緊張が抜けた。
「…こいつは気にするな。…んで、あんたは聖杯戦争に乗るのか?」
セイバーが飛び回るパックをひょいと掴み取って鞄に押し込む。パックは不満気に声を上げているが、セイバーは無視してカオスヒーローに視線を向ける。
相変わらず緩んだ表情だが、目つきが厳しい。草原に寝転ぶ肉食獣の様だった。
「乗る…というより、乗らざるを得ない」
セイバーが首を傾げると、カオスヒーローはやるせないような息を一つ吐いた。
「◆◎☆▽。…どう聞こえた?」
強張った表情で名乗ったカオスヒーローに、2人は疑問を抱く。質問の意図が読み取れなかったので正直に答えた。
「…カオスヒーロー」
「変わった名前だよな~」
カオスヒーローは顔を引き攣らせて、もう一度名前を告げる。
顔を出したパックは彼の行動に眉を顰めたが、セイバーは一瞬驚愕に目を見開き、面白くなさそうな表情で静かに答える。
「…唇の動きがおかしい」
「そうだ。ここでは俺の名前がカオスヒーローとして認識されるッ」
大きく頷くと、カオスヒーローは眦を上げて声を震わせる。ただし、眼は二人を見ておらず、ここにいない誰かに怒りを向けていた。
「うひゃあ、難儀だなぁ」
パックは大げさな表情で、気の毒そうにする。セイバーの表情に変化はない。
「…なら、街の探索は―」
「―ダメだ。俺の周囲にマスターがいるなら、名前だけでNPCでないことがわかる」
先ほどの不良も言っていたが、カオスヒーローなどと言う名前の人間がいる筈がない。
自分の生活圏に別の主従が現れた場合、即座にマスターだと悟られる。戦力の分散は避けねばならなかった。
「なら、あんたについてりゃいいのか」
「そうしてくれ。俺たちは寄ってくる敵を迎え撃つ」
敵の方から寄ってくる以上、サーヴァントを探索に出す必要がない。
自身の魔術がどこまで通用するかわからない以上、セイバーを伴って行動する方が安全だろう。
もっともカオスヒーローはサーヴァントに頼らざるを得ないこの状況に忸怩たる思いを抱いていたが。
「お前、名前はなんていうんだ?」
実体化を解いているセイバーは、皮肉っぽい笑みを浮かべた。
「ガッツだ…」
ガッツの姿が消えるとカオスヒーローも、市街の中心部に向かい歩きはじめた。
【クラス】セイバー
【真名】ガッツ
【出典作品】ベルセルク
【ステータス】筋力A+ 耐久B 敏捷B 魔力E 幸運E 宝具C
【属性】混沌・中庸
【クラススキル】
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。
人知を超えた使徒やゴッドハンドと戦い続けるセイバーはこのランク。
騎乗:D
騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み程度に乗りこなせる。
歴戦の兵士としての経験。
【保有スキル】
勇猛:A
威圧・混乱・幻惑といった精神干渉を無効化する能力。また、格闘ダメージを向上させる効果もある。
強大な異形に躊躇なく斬り込み、如何なる死地においても活路を見いだす不屈の魂。
戦闘続行:A+
瀕死の傷でも戦闘を可能とし、霊核が破壊された後でも、最大5ターンは戦闘行為を可能とする。
左腕と右眼を失い、心身ともに耐え難い苦痛を受けながらもセイバーは戦い続ける。
無窮の武練:B
いかなる戦況下にあっても十全の戦闘能力を発揮できる。
「100人斬り」を成し遂げた鷹の団最強の戦士にして、人魔問わずその名が知られる「黒い剣士」。
【宝具】
『嘗ての友、現の仇敵に捧げる(ドラゴン殺し)』ランク:D+ 種別:対人宝具 レンジ:1~6 最大捕捉:5人
セイバーが愛用する両刃の大剣。貴族たちのドラゴンを殺せるような武器と言う注文に、鍛冶屋ゴドーが悪意を込めて作った無二の業物。
鉄板のように幅が広く、斧よりも分厚い刃を持ち、成人男性の背丈を越える長さを誇る無骨な巨大剣。
甲冑を着た人間複数人を一振りで両断し、強力な使徒にも十二分に対抗することができる。武器としてだけでなく、その巨大さと頑丈さを活かし盾としても使用できる。
使徒や悪霊を斬り続けて魔剣に変貌を遂げた逸話から、霊的存在に対してダメージが増加する。
『その声は風に乗って(パック)』ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
盗賊に玩ばれていたところをセイバーに救われ、好奇心から以降の旅に同行した少年型の妖精(エルフ)。セイバーの鞄を住処にしている。
自在に宙を舞い、発光や気配感知を習得しているほか、羽から出る鱗粉で傷を塞ぎ、痛みを和らげることが出来る。
【weapon】
義手砲:セイバーが左腕に装着している大砲内蔵の鋼鉄製義手。外見は通常の義手だが、前腕部を小型大砲の砲身が構成している。砲弾を魔力で補充できる。
連射式ボウガン:義手に装着して使うボウガン。魔力で補充できる。
投げナイフ:投擲用のナイフ。魔力で補充できる。
炸裂弾:小さな爆弾。魔力で補充できる。
生贄の烙印:魔に捧げられたことを示す烙印。魔に感応する性質があり、聖杯戦争においては使い魔やサーヴァントの接近を痛みと出血によって知らせる。
ただし、魔物・魔獣の属性を持つサーヴァントに位置を悟られるデメリットがある。
【人物背景】
ミッドランドにその名を轟かせた「鷹の団」の元切りこみ隊長。
3年の月日の中で、鷹の団に自分の居場所を見いだし、団長グリフィスと深い友情によって結ばれるが、彼と対等な自分でありたいとして、鷹の団を脱退。
その1年後に起きた『蝕』において、団員もろともグリフィスが「ゴッドハンド」へ転生するための生贄に捧げられ、恋人のキャスカと唯二人辛くも生き残るが、グリフィスによって凌辱されたキャスカは精神に深い傷を負った。
自身も昼夜問わず悪霊や魔物に襲われ続けることになったガッツは、ゴッドハンドとなった盟友グリフィスへの復讐を誓い、長い旅に出た。
妖精島までの記憶を持つが、マスターであるカオスヒーローの精神性を反映して仲間達と出会っていない、狂戦士の鎧入手前の姿で召喚されている。
【聖杯にかける願い】
再びグリフィスの前に立つ。
【マスター名】カオスヒーロー(本名は◆◎☆▽)
【出典】真・女神転生
【性別】男
【Weapon】
鉄パイプ。
【能力・技能】
東京で悪魔との戦いを経験しており、一般人を超える身体能力を身につけている。
また、一工程で発動できる魔術を幾つか習得している。概要は以下の通り。
アギ:炎を発生させる。
パトラ:金縛り、睡眠を治療する。
マハラギ:広範囲に炎を発生させる。
ポズムディ:毒を治療する。
シバブー:相手を金縛りにする。
ペトラディ:石化を治療する。
アギラオ:強力な炎を発生させる。
【ロール】
街のチンピラ。
【人物背景】
力を求める渇いた魂と称される、秘めた力を持つ青年。
早くに母親を亡くし、酒浸りの父親に育てられた為に協調性が無く、"力こそすべて"という価値観を持つ。
粗暴な言動と愛想の無さから誤解されやすいが情に厚い男であり、心を開いた相手には優しさを見せる。
悪魔がうろつく様になった199X年の吉祥時で不良達にリンチされていた所を主人公たちに助けられた彼は、不良のリーダー格であるオザワへの復讐を誓い、主人公パーティーに加わる。
悪魔合体以前から参戦。
【備考】
彼の本名は聖杯によって、秘匿されています。文字でも言葉でも「カオスヒーロー」としか、認識されません。
【聖杯にかける願い】
脱出したいが、ステルス性がマイナスに達しているので優勝狙い。
最終更新:2016年05月28日 22:39