……暗い。
若い女性が薄暗い城の玉座に腰を掛けている。彼女は角の生えた老人と対面していた。
「…これもすべて世界の均衡のため……そして…父上のため…なのですか」
「その通り。ですな……」
老人が、見る者を不快にさせる皺だらけの笑みを浮かべる。
女にも思うところはあった。部下が具申せずとも老人が腹に一物抱えている事は理解できたが、他に取れる手段も思いつかなかった。
父が永い眠りについたことで崩れた聖と魔、光と闇のバランス…それを戻し、世界を正しい方向に導くために、女は老人の計画に己の身を捧げた。
「ついに…"狼"が誕生した」
女は幾度となく生みの苦しみを味わった後、一人の赤ん坊を出産する。
老人は歓喜を持ってその誕生を祝福したが、この赤ん坊に自由や未来が与えられることはない。
ただ圧倒的な闇の力を受け容れる「器」としての役割だけが求められていた。
いずれ、この世の理を破壊して魔の復権を成し遂げる生物兵器として。
「……どうか…どうか」
「ど…か…死なないで……」
女は涙ながらに嘆願する。
赤ん坊が健やかに育つことはない。赤ん坊に平穏な将来など有り得ない。
生まれながらに大きすぎる宿命を背負い、破滅の未来が約束されていたとしても。
腹を痛めた息子には、ただただ生きて欲しかった。
庭園の花々を陰鬱な表情で眺める女の側に奇妙な男がいた。
「御側役見習いとして本日より城内に。…セオスと申します」
「……」
「…何っ、そ…そんなに見つめられると、こ……困るわ」
「も…申し訳ございません、…お許しください。……つい、見惚れてしまいました」
「アスタルテ様……お噂通り…。…美しい」
これまで対面した男たちとは違った雰囲気の持ち主。
新しく使用人を雇う話など聞かされていなかった女は怪訝に思ったが、真っ直ぐに見つめてくる瞳を前にすると二の句を継げなかった。
瞬く間に仲を深めた二人だったが、セオスは女とは相容れない生まれの持ち主だった。
セオスは陰謀によって女に近づき、赤ん坊を天界へと連れ去った。
女は失敗の責任と老人の腹いせによって、地上に放逐された。
全ての記憶を奪われて、…童女の姿に変えられて。
悪徳を積み、狼を起動させる餌となる日まで彼女は死ぬことが出来ない。
…………
アイリスフィールは無言で目を覚ました。
ぼんやりとした視界が徐々に鮮明になり、周囲が明るい色に支配されているのが見て取れる。
あの冬の古城では有り得るはずもない――ここは?
一人掛けのソファから立ち上がろうとした彼女の前に見慣れない少女が小走りで駆けてきた。
察するに小中学生程度の小柄な体躯。愛らしい顔立ちをしているが、落ち窪んだ瞳の奥に暗黒を湛えている。
頭に被った赤い頭巾から腰まで届く三つ編みを垂らすその姿は、有名な童話の主人公に似ていた。
「あら、目が覚めましたのね」
「……アーチャー」
少女は頷き、開戦の時を告げる。彼女こそ、アイリスフィールに今回宛がわれたサーヴァントであった。
これはアインツベルンが関わっていない全く未知の聖杯戦争。
現状を理解したアイリスフィールが落ち着いて見てみると、この少女は夢の最後に出てきた少女だ。
「貴方は…」
「?」
「……何でもないわ」
言葉を呑み込んだアイリスフィールは、今後の動き方に思考を巡らせる。
現在、夫である衛宮切嗣から彼女は離されている。戦場に出るのは今回が初めてだが魔力は十分。
引き当てたアーチャーは猛将や豪傑ではなさそうだが、発する存在感は底が知れないほど大きい。
宝具の値にEXとある点から並の英霊ではないのだろう。
(ここで聖杯を手に入れれば、切嗣も、イリヤも……)
夫は冷酷非情な「魔術師殺し」に戻ることなく、イリヤスフィールも人として寿命を全うできるかもしれない。さらにアイリスフィール自身も…。
今回の聖杯戦争に勝利すれば、自分達家族が全員生存する道が開けるのだ。
アイリスフィールは最高の結末を夢想し、強い誘惑に駆られる。
その一方、戦いに臨む切嗣の元に一刻も早く帰還するべきでは、と内なる声が囁く。
だが聖杯戦争に挑む事には変わりが無く、また冬木の聖杯戦争では確実に失われるものがある。
ムーンセルの聖杯を手に入れて切嗣の願いを叶える。そしてアインツベルンに戻り、娘を救う。
覚悟を固めたアイリスフィールは、アーチャーに向き直った。
「アーチャー、あなたは……聖杯に何を願うの?…都合がよければ、聞かせてもらえないかしら?」
「聖杯に託す願いはないわ」
薄く笑うとアーチャーは生前の顛末をアイリスフィールに語り聞かせる。
―――「狼計画」
魔界と天界との均衡を元に戻すために魔界の公爵ダンタリアンが編み出した計画。
アーチャーの子宮で生み出された「器」に"悪しき魂"が注がれることで、闇の王に等しい力を持つ者が誕生する。
生まれた子供は魔界の勢力を大きく拡大させる筈だったが、アーチャーの裏切りによって、その子は神の側に渡ってしまった。
裏切りの代償によって記憶を奪われた状態で東京に追放されたアーチャーは人肉屋に籍を置き、犯罪と悪徳に身を染める日々を送る。
何度目かの死と復活を繰り返した後にアーチャーは全ての記憶を取り戻し、息子を拐かした天使に引導を渡した。
そして、再会した息子を己の生命と引き替えに禍々しい運命から救った。
そして今回、アーチャーは自分の宝具によって息子・ルーポもサーヴァントとして召喚されて、会場内のNPCに紛れている事を知った。
ルーポが狼として目覚める前に接触して座に送り還す。その時は自分も一緒に消えるので、そこだけ了承してほしい――と長い話を締め括った。
アーチャーの話を聞き終えたアイリスフィールの表情には沈痛の色が広がっている。
「ねぇ、アーチャー?…その、息子さんと一緒に暮らしたいとは、…思わないの?」
アイリスフィールの問いに、アーチャーは皮肉っぽく笑った。
「意地悪な事を言うのですね…。マスター?」
余計なことを聞いてしまった、とアイリスフィールは後悔する。
如何に通じるものがあろうと自分の家族には代えられないのだ。どんな願いがあったとしてもアーチャーに聖杯を渡すわけにはいかない。
結局は個人の優先順位の問題なのだが……自己嫌悪に浸るアイリスフィールにアーチャーは歩み寄り、手を差し出す。
「…そんな顔しないで。ルーポと再会するまでは、マスターをしっかりと御守り致しますわ」
その瞳に含むものは見受けられない。私がやらねばならぬのだ、と断固とした決意に満ちている。
知り合って間もないが、娘よりやや年上にしか見えない小さな少女がひどく頼もしかった。
「私はアイリスフィール・フォン・アインツベルン。アイリで構わないから。 アーチャー、あなたの真名を聞いてもいいかしら?」
戦略もあったが、それ以上に自分の先を歩いたこの英霊には信頼と礼儀を以て接していたい。
アイリスフィールは口に出して真名を問う事で、それを示した。
「アスタルテ……この姿の時は、赤ずきんと呼んでくださいな」
アイリスフィールは赤ずきんと握手を交わす。そしてソファから立ち上がると、迷いのない足取りでフロントに移動した。
【クラス】アーチャー
【真名】赤ずきん(アスタルテ)
【出典作品】東京赤ずきん
【性別】女
【ステータス】筋力D 耐久C 敏捷B 魔力B 幸運D 宝具EX
【属性】
中立・悪
【クラススキル】
対魔力:A
A以下の魔術は全てキャンセル。 事実上、現代の魔術師ではアーチャーに傷をつけられない。
単独行動:B
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。
【保有スキル】
魔性:A+
魔界の住人であること。高いほど悪魔としての位が高い。アーチャーは魔界の王族である。
戦闘続行:A++
悪魔としての継戦能力。瀕死の傷でも戦闘を可能とし、霊核が完全消滅させられない限りは生き延びる。
変化:A
影や毛髪、液体など不定形に変形することができる。また身体の一部から武器を作り出す事が出来る。
【宝具】
『あるところに、とても可愛らしい女の子がいました(東京赤ずきん)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人(自身)
アーチャーに掛けられた、狼の餌になるまでは死ねないという呪い。
記憶を取り戻している為に効果の殆どが失われている。彼女はこの宝具により、童女の姿をとっている。
『腹を痛めた我が愛し子(ルーポ)』
ランク:A++ 種別:対人宝具 レンジ:会場全域 最大捕捉:1人
アーチャーが召喚された時点で息子・ルーポが会場内のNPCに紛れ込む。通常は少年の姿をとっているが、悪性を注がれる度に身体が獣に変わっていく。
完全に姿が変わった時点でステータスとスキルを魔獣態のものに修正。無差別に破壊活動を繰り返すようになる。
生前の逸話によってルーポはアーチャーを見つけると最優先で突撃、捕食に掛かる。アーチャーを取り込んでほどなくすると、ルーポは消滅。同時にアーチャーも聖杯戦争から退場する。
アーチャーの胎内で生み育てた、光と闇の均衡を取り戻す魔獣「狼」。
狼計画の要である闇の力の器にして、魔の雛形である少年。悪性の魂で満たされることで完成し、この世の理を乱す決戦兵器。
ステータスは以下の通り。
【人間態:筋力E- 耐久E- 敏捷E- 魔力A 幸運E スキル:怯懦:C 正体秘匿:B 単独行動:A+】
【魔獣態:筋力A+ 耐久A+ 敏捷C 魔力A++ 幸運E スキル:怯懦:E 精神汚染:C 怪力:A 自己改造:A 単独行動:A+】
【weapon】
無銘:ハンドガン
無銘:ショットガン
無銘:グルカナイフ
髪の毛から生み出す黒剣
【人物背景】
近未来の東京・蒲田に出没していた不死身の連続殺人鬼。
その正体は魔界の王族の女性。魔界と天界との力の均衡を元に戻す「狼計画」に必要な魔物の「器」を生む母胎に選ばれたが、好意を抱いた天使・セオスによって出産した赤ん坊を奪われる。
失敗の代償によって童女の姿にされ、記憶喪失の状態で地上に放逐された。
加えて殺人や姦淫などの罪を重ねて魂を汚したうえで狼の餌になるまで死ねないという定めを背負っていたが、幾度目かの戦いの後に記憶を取り戻す。
記憶を取り戻した赤ずきんはセオスを抹殺し、器である息子・ルーポと心中することによって母子を苛む因果を清算した。
【備考】
ルーポがNPCの中に紛れ込んでいます。生前の記憶はありません。
【聖杯にかける願い】
なし。自身の宝具によって召喚された息子を連れて英霊の座に帰還する。
【マスター名】アイリスフィール・フォン・アインツベルン
【出典】Fate/Zero
【性別】女
【Weapon】
「針金」
魔力を通すことで即席の使い魔として行使できる。
【能力・技能】
「魔術」
錬金術を修めているほか、錬金術を応用した治癒魔術も使える。
【ロール】
来日中の旅行者。
【人物背景】
アインツベルン家によって第四次聖杯降臨儀式における聖杯の「器」として練成されたホムンクルス。
当初は人形のように無機質だったが、衛宮切嗣を夫として迎えてから徐々に人間性を獲得していった。
後に娘のイリヤスフィールを授かるが、自身と同じ定めを負うであろう我が子の身を案じている。
セイバー召喚前から参戦。
【聖杯にかける願い】
聖杯の奪取。掛ける願いはなく「聖杯の器」としての宿命を自分の代で終わらせるのが望み。
最終更新:2016年06月11日 07:52