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(聖杯戦争…)

巻菜が記憶を取り戻した刹那、左手に痛みが走る。
記憶を取り戻す直前、巻菜は某ファストフード店に簡単な昼食を摂るために入っていた。

幼い頃に幽霊を見て、"悪魔憑き"として扱われた自分だが、こんな出鱈目な現象に巻き込まれるとは夢にも思わなかった。
陣取った2階の一角から改めて街並みを眺めてみるが、支倉市のそれとはやはり雰囲気が違う。
仮想空間らしいが腰かけた椅子の感触も、口に運んだバーガーの味も現実味に溢れていた。これらが全てデータの集合とは恐れ入る。

巻菜はそこまで考えて、ふと寄る辺ない気持ちになった。
居心地の悪さが瞬く間に存在感を増していき、店内に屯する客や店員から後ろ指を差されている様な錯覚に陥る。
巻菜は弾かれたように立ち上がると、所持品を収めたデイパックだけは忘れず持ってトイレを目指した。


―まずい!まずい!

記憶を取り戻した拍子に仮面が外れてしまっている。早く顔を着け直さなければ。
「私」が私のままだと破滅してしまう。
トイレに急いで向かう途中、こちらに歩いてきた男性客に危うくぶつかりそうになった。


「ッ!?あっぶねぇな…!」

「あぁっ!?」と男は叫ぶと巻菜をキッと睨みつけた。まもなく遠ざかる巻菜から視線を外し、ぶつぶつと何事か小声で呟きながら客席に歩いて行く。
床を踏みしめる足音には走り去った女性客への怒りが籠っていたが、追いかける気はないらしい。

男の罵声を受けた巻菜の胸中に重苦しい物が広がる。鼻に辛いようなツンとした感覚が立ち昇り、視界が潤んだ。
やはり「久織巻菜」のままでは駄目だ。この程度の距離を移動することすら上手く出来ない。
トイレに辿り着くと巻菜は音を立てて扉を開け、中に入り込んだ。

鍵をかけた女性用トイレの個室内で身を屈めると、「久織巻菜」から蓄積しておいた"顔"に切り替える。
支倉で"悪魔憑き"の能力を磨いていたのが幸いした。ふぅ、と一息ついた巻菜の脳裏に、張りのある男の声が響く。

≪記憶を取り戻したようだな、小娘≫

(誰…?)

怪訝に思った巻菜だったが、記憶を手繰るうちに答えにぶつかった。

――サーヴァント

自分がまきこまれた聖杯戦争において、手を組む相手。
巻菜から魔力を吸い上げる事で敵と戦い、左手に宿った「令呪」によって、3回だけどんな命令でも実行させられる存在。
戦力の確認はしておきたいが、ここで実体化させるのは不味い。
万が一敵マスターが近くにいたら狙い撃ちにされるかもしれないし、何より男性らしいサーヴァントと個室で二人きりになるのは遠慮したかった。

巻菜はサーヴァントに霊体化したままついてくるよう促すと、トイレから退出。
荷物を背負い直すと先刻まで座っていた席に向かい、テーブルに鎮座する食べかけのハンバーガーセットを素早く処理して店を出た。




繁華街から河川敷に場所を移し、巻菜は川を横切る架橋下に身を隠す。
それなりに時間が経過し、日が少し傾いている。周囲に人気が無いことを確認すると、巻菜は従者に実体化するよう念話を飛ばす。
間も無くするとサーヴァントの姿が露わになった。

座り込んだ巻菜の隣に現れたのは、青とグレーの迷彩柄の戦闘服に身を包んだ大男。
さらに晒した顔や両腕にペイントが塗られている。薄い色の肌を青いラインが幾つも横切っている様は人型の虎のようだ。


「えーっと、アサシン?…でいいですか?」

一つ頷き、青の偉丈夫はつまらなそうに巻菜を見下ろす。
厳つい顔は人形のように左右対称であり、短く刈った髪は青く、瞳も同様だった。

「真名はテレンス・E・ベックという。覚えておけ」

堂々とした名乗りを受けた巻菜も頷き返す。
ただし、彼のような男には「まだ」化ける事は出来ないので、頭の片隅に留めておくだけにしておいた。
巻菜は腕を組んで立つアサシンに目を注ぐ。

「なんだ?」

男の険しい目つきに怪訝の色が浮かぶ。

「青いペイントは珍しいなぁ…と思って。軍人さんですよね?」

巻菜はにっこりと微笑んで、アサシンに問いかける。
着用しているベストにはポーチがいくつも取り付けられ、ボディスーツも色は派手だが巻菜が見る限りでは丈夫な生地で作られているらしいのが見て取れた。
そしてアサシンは腕を組んだまま、機械のように巻菜の一挙手一投足を観察している。警戒心が眼の中にありありと浮かんでおり、不審な動きを見せれば即座に対応するつもりだろう。
それらの要素から推察した巻菜だったが確証は得ておらず、あくまで見たままの印象を口にしただけに過ぎない。

「…これは迷彩ではない。トライブカラーのマーキングだ」

厳つい顔のまま、アサシンは返す。言い終わったアサシンは極僅かに目を見開いた。

「トライブ?」

巻菜は首を傾げた。知っている限りなら、部族…一族といった意味のはずだ。
カラーギャングやスポーツチームなど、ある種の集団がグループの個性を表現する色を身につける事は珍しくない。

トライブを集団を指す単語と仮定すると、アサシンが一集団に属していた事が推測できる。
彼の堂々とした立ち姿は暗殺者として闇に紛れるより、部下に指示を飛ばしている方が似つかわしい。
生前は一集団のリーダーか、それに近い立場だったのかもしれない――巻菜は見当をつけた。

「暇が出来たら話してやる」

「そうですか…まぁ、今後の事について話すのは、もう少し落ち着いてからでいいと思いますし……まずは泊まれる場所を探しましょう」

巻菜は大儀そうに立ち上がると先程まで抱えていたデイパックを背負い、アサシンを見上げた。

「いいだろう」

アサシンはデイパックにちらと視線を向けると、巻菜に背を向けて実体化を解き始める。
彼は霊体化が完了するまでの短い時間、頭上に差し渡された橋によって小さくなった青い空をしみじみと見上げていた。
アサシンの霊体化を見届けた巻菜は架橋の陰から日光の下に歩み出る。周囲には依然として人影はない。

二日三日はホテル泊で問題あるまい。その間に旅行者の様な顔で街を探索して、適当な"誰か"か"何処か"を見つければいい。
決まった役割を割り当てられていないので時間だけは十分ある。
思案しながら歩を進める巻菜の一日は、頭上を流れる雲のように緩やかに過ぎていった。




【クラス】アサシン

【真名】バロン・オメガ(テレンス・E・ベック)

【出典作品】DIGITAL DEVIL SAGA アバタール・チューナー

【性別】男

【ステータス】筋力C 耐久C 敏捷C 魔力D 幸運E 宝具A

ラーヴァナ(紫) 筋力B 耐久B 敏捷B 魔力B 幸運E 宝具A

ラーヴァナ(白) 筋力B 耐久A 敏捷B 魔力A 幸運E 宝具A

【属性】
混沌・中庸

【クラススキル】
気配遮断:B
サーヴァントとしての気配を絶つ。完全に気配を絶てば発見することは非常に難しい。
ただし、自らが攻撃態勢に移ると気配遮断のランクは大きく落ちる。
後述の宝具を展開することで、この欠点を解消できる。

【保有スキル】
カリスマ:D
軍団を指揮する天性の才能。団体戦闘において、自軍の能力を向上させる。
カリスマは稀有な才能で、一軍のリーダーとしては破格の人望である。

心眼(真):B
 修行・鍛錬によって培った洞察力。
 窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す“戦闘論理”
 逆転の可能性が1%でもあるのなら、その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。

魔術:-(A)
 通常は使用できない。
 宝具を発動することで魔術を行使できる様になる。アサシンは強烈な攻撃魔法を一工程で発動させる。

喰奴:A
 「悪魔化ウィルス」を照射された事でアートマが発現した者のこと。身体の何処かにアザが刻まれるのが特徴。
 魂喰いを含む捕食行為によって、魔力を回復することができる。
 保有者に高い身体能力を保証するが、覚醒中は常に飢餓感に苛まれるデメリットがある。

 飢餓感は魔力を消耗するほど強くなっていき、NPCやサーヴァントを喰らって消耗を補わない場合、肥大化した飢餓感によって同ランクの狂化に匹敵する精神の変質を一時的に起こす。
 暴走したアサシンは飢えを満たそうと敵味方問わず襲い掛かる。満足した時点で暴走は解除される。


【宝具】
『煉獄に吹け、烈の如く(タービュランス)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人(自身)
 左肩に刻まれた印に意識を集中させる事で"ラーヴァナ"に変身する。
 ステータスを専用のものに修正、魔術スキルを解禁する。発動にかかる魔力は少ないが、ステータスの向上や魔術スキルの使用が可能になった事で飢餓感が増大しやすくなっている。

 くわえてラーヴァナは自分の姿を完全に消す能力を持っている。この透明化は人間態でも行う事が出来る。
 透明化しているアサシンはBランク以上の千里眼や気配感知といった知覚系スキルを持っていない限り、捕捉することは出来ない。
 また姿を消している最中にダメージを負った場合、透明化の解除などペナルティが課せられる。

 平時は紫色の体表と6本の手足を持つ異形だが、腰に展開した外皮を着込むことで2腕2足の白い巨人に変形する。
 この形態になると透明化が使用できなくなる代わりに、敵を暴走させる波動を照射できるほか、吹き荒ぶ暴風を発生させて周囲を薙ぎ払う事が可能になる。


【weapon】
無銘:ハンドガン

【人物背景】
「アスラプロジェクト」を推進した軍属の男性。
神から情報を引き出すテクノシャーマンの力に感嘆した彼は、兵士を強化する戦闘用AI「アスラAI」を作り出そうと試みる。

しかしプロジェクトの最中にテクノシャーマンの主治医であるサーフ・シェフィールドの暴挙が原因で神が狂ってしまう。
偶然、その現場に立ち会ってしまった彼は悪魔に変化したサーフに喰い散らかされて死亡。

その情報(魂)は神の元に帰ることなくジャンクヤードに流れ着き、彼はアスラAI「バロン・オメガ」として第二の生を得た。
トライブ"ブルーティッシュ"のリーダーとして戦いの日々を送っていたが、ジャンクヤード中に降り注いだ謎の光に貫かれてアートマを獲得する。
そして、自分を食い殺した男と瓜二つのアスラAI「サーフ」と対面した瞬間、前世を思い出した。

ジャンクヤードにて死亡した直後から参戦。


【聖杯にかける願い】
AI"バロン"ではなく人間"ベック"として受肉した後、地上に帰る。




【マスター名】久織巻菜(ひさおり まきな)

【出典】DDD

【性別】女

【Weapon】
なし。 数十万円の現金、保険証・印鑑など個人証明、数着の着替え、転出届などをデイパックに詰めて所持。

【能力・技能】
「A異常症」
特殊な精神病。正確にはアゴニスト異常症という。通称"悪魔憑き"。
軽度の場合は感情がコントロールできなくなり、重度になるとトラウマを克服する身体機能「新部」が形成される。
患者は常人には持ち得ない能力を発揮できるようになるが、その分通常組織に負荷を掛けてしまう。

巻菜は顔の皮膚・筋繊維が変質しており、表情を自由に作る事が出来る。
入院時より成長したことで女性限定なら3人まで"顔"の切り替えを蓄積でき、体型を変える事すら可能になった。
ただし、依存性の強さと主体性の薄さから他人の真似をしないと生きていけない為、常に"誰か"を装う生活を続けなければならない。


「人間観察」
ずば抜けた解析力と学習力。
対象となる他人をじっくりと観察し、生活習慣、成績、趣味嗜好、口調、運動レベル、雰囲気を模倣することで対象に成り切る。


【ロール】
市外から流れ着いた失踪人。

【備考】
巻菜は会場内に拠点を持っていません。
住居を持つ場合は然るべき手続きを踏むか、他人のパーソナリティを奪わなければなりません。
以降、他人と接触する際はよほどの事情が無い限り、別の名前を名乗ります。


【人物背景】
オリガ記念病院の元患者。
神童と讃えられたほどの天才児だが癇癪持ちであり、物の加減を知らない。一度やると決めたら納得いくまで続ける。
際限なく教材を買い集め、覚えたら燃やして処分するという学習法を続けた結果、家計を圧迫。

ある日、家族と何気ないやり取りをきっかけに自分が疎まれていることに気付く。
家族との仲を修復することは結局叶わず、彼女は間も無くパーソナリティを喪失。自発的に何かをする事が出来なくなった。
母の何気ない一言で弟・伸也の「全て」を真似て、伸也の立ち位置を乗っ取った巻菜は巧妙に計算した上で、伸也を使って両親を殺害。
仕上げに自分も身を投げる事で弟に罪を擦り付けたが、A異常症の診断を受けてオリガに収容された。


【聖杯にかける願い】
永遠に使える「顔」を手に入れる。
最終更新:2016年06月22日 17:53