五十鈴「天然に存在する放射性核種のお話よ。天然放射性核種は一次放射性核種、二次放射性核種、誘導放射性核種の三つがあるの。」
五十鈴「『一次放射性核種』っていうのは、半減期がめちゃくちゃ長いから地球が誕生した頃からずっと存在している核種のことよ。その中でも壊変系列を作るものってのがあるわ。」
五十鈴「まず壊変系列を作るものから説明するけど...壊変図は作るのめんどくさかったから載せないわよ。
11版アイソトープ手帳だと10~13ページに載ってるし、ネットで調べたらすぐ出てくるから自分で調べてね。」
七海「そんな適当な...」
五十鈴「そもそも全部覚える必要がないもの。必要な部分はちゃんと解説するから大丈夫よ。」
五十鈴「系列は4つ存在するの。核種の質量数を4で割ったものの余りによって分類できるのよ。」
七海「なんで4で割るの?」
五十鈴「α壊変で減る質量数が4だからよ。β壊変もするけど、質量数は変化しないから、同じ系列なら4で割ったら余りは全部一緒ってわけ。」
五十鈴「早速見ていきましょうか。」
トリウム系列に属する核種の質量数はすべて4で割り切れる。ゆえに「4n系列」とも。
五十鈴「半減期141億年のトリウム232から始まって、安定な鉛208で終わる系列よ。」
五十鈴「この中にラドン220ってのがあるんだけど、こいつは我々の日常生活において内部被ばく源となる核種の一つよ。半減期は55.6秒、まあ大体1分って覚えておけばいいわ。」
ネプツニウム系列に属する核種の質量数を4で割ると必ず1余る。「4n+1系列」。
五十鈴「この系列はちょっと特殊でね…ネプツニウム237の半減期は約200万年と、地球の歴史約46億年と比べてかなり短いから、もう地球上にはほとんど存在しないわ。」
七海「何で『天然に存在する系列』に含まれてるか疑問だよね。」
五十鈴「あと重要なのは、他の系列と違ってラドンが含まれないこと、系列の終着点がタリウム(205Tl)であることの二つよ。」
ウラン系列に属する核種の質量数を4で割ると必ず2余る。「4n+2系列」。
五十鈴「ウラン238の半減期は約45億年。地球の年齢と同じくらいね。」
五十鈴「ウラン系列には放射線の歴史を語る上では欠かせないラジウム226(半減期1600年)が含まれるわ。こいつが崩壊してできるのは半減期3.8日のラドン222。これも内部被ばく源の一つよ。」
五十鈴「あと一つ、マイナーではあるんだけど、放射性同位体として鉛210(
半減期22年)ってのがあるわ。」
五十鈴「
管理測定技術のところで詳しく話すけど、放射線測定をやるときに試料以外の周りの放射線(バックグラウンド)を遮る目的で鉛を使うことがあるの。」
五十鈴「だけど鉛の中にはこの鉛210がどうしても含まれていて、これによるバックグラウンドが測定に若干影響するわ。」
アクチニウム系列に属する核種の質量数を4で割ると必ず3余る。「4n+3系列」。
五十鈴「この系列は核燃料として使われるウラン235(半減期7億年)から始まるってぐらいで、あとは大して覚えることないわね。」
五十鈴「これらの場合、一次放射性核種はトリウム232とかウラン238みたいに系列の出発点にある核種のこと。で、一次放射性核種が壊変してできたラジウムとかラドンみたいな娘核種のことを『二次放射性核種』と言うわ。」
七海「天然の核種で、他にカリウム40があるよね?これはどういう分類になるの?」
五十鈴「カリウム40は壊変系列を作らないけど、半減期が12.7億年でこれも地球誕生時よりあるから一次放射性核種になるわ。」
七海「カリウム40も人間の被ばく源の一つだよね。」
五十鈴「天然のカリウムの0.012 %がカリウム40。γ線エネルギーは1461 keVで、体重60 ㎏の成人男性の場合、体内に大体3000~4000 Bq含まれるわね。β-壊変とEC壊変をする核種よ。」
五十鈴「他の核種についても半減期とかいちいち紹介してるけど、それだけ大事だってことだからね。」
五十鈴「さて、次は誘導放射性核種についてよ。これは主に宇宙からやって来る放射線と、大気中の物質とが核反応してできるわ。」
七海「大気って、窒素とか酸素のことだね!」
五十鈴「あとはアルゴン(Ar)かしら。空気の組成の約1%を占めるガスよ。」
五十鈴「核反応のパターンはいくつもあるから全部は載せません。とりあえずこういう核種ができるということが分かればいいわ。」
五十鈴「ついでだから覚えておくべき放射線のエネルギーとかも載せておいたわよ。」
別名「三重水素」
半減期:12.3年
純β-核種(β線しか出さず、壊変後もγ線放出はない核種)
β線の最大エネルギー:18.6 keV
生成反応の例:14N(n,3H)12C
五十鈴「『純β-核種』っていう言葉もよく使うから覚えておいてね。」
半減期:53日
EC壊変核種
生成反応の例:12C(p,3p3n)7Be
七海「うわあ、出た…複雑な反応式」
五十鈴「それは核反応のところでやった核破砕反応ね。」
半減期:5700年
純β-核種
β線の最大エネルギー:157 keV
生成反応の例:14N(n,p)14C
半減期:2.6年
β+、EC壊変核種
生成反応:Arの破砕反応
半減期:14.3日
純β-核種
β線の最大エネルギー:1.71 MeV
生成反応:Arの破砕反応
半減期:87.5日
純β-核種
β線の最大エネルギー:167 keV
生成反応:Arの破砕反応
五十鈴「宇宙線で生成する核種としては、他にベリリウム10、ケイ素32、塩素36なんかがあるわ。」
七海「たくさんあって覚えるのが大変だよ…」
五十鈴「まあ、とりあえず大きく取り上げた核種が頭に入ってれば十分よ。特に純β-核種はRIを用いた研究でよく使われたりするから重要ね。」
五十鈴「ちょっと補足にはなるんだけど、誘導放射性核種には、宇宙線で生成するものの他に、放射性鉱物中で核反応によって生成するものなんかもあるわ。」
七海「放射性鉱物って…ウラン鉱石とか?」
五十鈴「そうそう。鉱物中のウランが自発核分裂して出た中性子が、他のウランに当たって生成した核種なんかがあるわ。例えば…」
238U(n,γ)239U →(β-)→ 239Np →(β-)→ 239Pu
五十鈴「プルトニウム(Pu)は人工放射性元素だけれど、自然界でもこういう反応でできると言えばできるわ。微量ってレベルじゃないぐらい少ないけどね。」
七海「この反応って、原子炉の中で起きてる反応だよね?」
五十鈴「よく気付いたわね七海。運転中の原子炉ではウランも中性子もいくらでもあるから、これと同じ反応でプルトニウムが生成するわ。」
五十鈴「この反応を使って、燃料を使う前より増やそうとするのが高速増殖炉よ。まあいずれ原子力の話をする時になったら話すわね。」
五十鈴「こんな話をしていたらもんじゃ焼きが食べたくなってきたわ。今晩食べに行きましょうか。」
七海「お姉ちゃんの頭の中読めた気がするよ…」
最終更新:2018年06月09日 23:00