五十鈴「まず放射能という言葉の定義から説明しておくわね。」
五十鈴「放射能は『放射線を出す能力』という意味と『単位時間に壊変する原子核の数』のふたつの意味があるのよね。」
五十鈴「ここでは後者の単位時間当たりの壊変数の意味で話をするわ。放射能の話では、単位時間は1秒(s)とするのが普通よ。」
五十鈴「単位時間が1秒のとき、つまり1秒間当たりの壊変数はベクレル(Bq)という単位で表されるわ。」
五十鈴「あまり使わないけど、"disintegration per second"から"dps"と表すこともできるわ。1分(minute)間あたりの壊変数として"dpm"ってのもあるわね。」
五十鈴「じゃあ半減期の話。半減期は聞いたことあるわよね?」
七海「放射能が半分になるまでの時間のことだよね。」
五十鈴「そうよ。じゃあまず初めから説明するわ。」
五十鈴「ある時点で、半減期が1秒の放射性核種の原子が100個あります。1秒後にこの原子の数は何個になっているでしょうか?」
七海「50個だよね。」
五十鈴「じゃあさらに1秒後、初めから2秒経過すると何個になる?」
七海「50個がまた半分になるから25個だね。」
五十鈴「そうね。最初の1秒間では、50個の原子が壊変しているから、50 Bq。」
五十鈴「次の1秒間では、25 Bq。つまり半減期が1回来ると、原子の個数も、放射能も半分になるわ。」
五十鈴「じゃあそれを式にして考えてみましょう。まず単位時間当たりに減少する原子の数を dN とすると以下の式が成り立つわ。」
七海「N の前についている λ はなに?」
五十鈴「λ は壊変定数ね。」
五十鈴「前にも出てきたけど、ln2≒0.693というのも覚えておかないと実際の計算が出来ないわ。まあ、0.7で覚えてしまってもいいけど。」
七海「半価層の計算で出てきたね。」
五十鈴「で、この微分方程式を解いて、大事な式を導くんだけど…」
七海「難しいの?」
五十鈴「いや、解き方が分かっていればすぐ解けるけど、試験では導出はまずしないわ。」
五十鈴「だから細かい話はナシ!これだけ覚えておけばいいわ。」
五十鈴「まさにそう!放射能も指数関数的に減衰するってことね。」
五十鈴「試験では、分数の入ったほうの式を使って計算することが多いわ。その方が楽だし。」
七海「経過時間 t が半減期 T と同じになったら、原子数や放射能は最初の2分の1だね。」
五十鈴「で、最初 dN/dt=-λN って式が出てきたけど、-(dN/dt)=λN という形にする。」
五十鈴「放射能を A として、-(dN/dt)=A とおくと…」
五十鈴「つまり放射能は原子の個数に比例することが分かるわ。放射性核種をたっくさん集めたら、そりゃ放射能強くなるわよね。」
七海「λ=0.693/T だから、半減期に反比例する、つまり半減期が短いほど放射能が強いともいえるね。」
五十鈴「さらに、N はこうやって求めることが出来る。」
五十鈴「これも絶対覚えて!これができれば与えられた核種の質量から放射能を求めるとか、あるいはその逆もできるわ。」
五十鈴「あっ、そうそう!半減期 T を『秒』に直すのを忘れないようにね!『年』とか『日』のまま代入しちゃうと全然違う値になっちゃうから!」
七海「でも、経過時間 t と半減期 T を両方使う式で、両方とも『年』とか『時間』とか単位が同じだったら、わざわざ『秒』に直す必要もないよね。」
五十鈴「そうね。そこは直さないほうが楽に計算できるわ。」
五十鈴「一応平均寿命についても軽く話しておくわね。」
七海「平均寿命?」
五十鈴「別に難しくないわ。壊変によって原子の数が1/eになるまでの時間を平均寿命というのよ。」
七海「えー、そんなの聞いたことないよ?」
五十鈴「まあ、あんまり使わないからね。平均寿命 τ は単に壊変定数の逆数よ。」
七海「これだけは覚えておくよ。」
五十鈴「あとxが小さいときexp(-x)=1-x っていうのも覚えておけばどこかで使えるかもよ。」
七海「えっ...なんでそんな式出てくるの?」
五十鈴「ただのテーラー展開よ。「解〇入門Ⅰ」みたいな本を読んだら絶対載ってるから、理屈が知りたい人はそっちを読んでね。」
七海「私はいいや...」
五十鈴「この際一緒に部分半減期の話もしちゃうわね。」
七海「部分半減期?」
五十鈴「たとえばカリウム40はβ-壊変とEC壊変が起こりうるわ。」
五十鈴「こういう分岐壊変をする核種は、壊変様式ごとにその半減期を求めることが出来るのよ。」
七海「うーん。なんか難しそう...」
五十鈴「大丈夫、簡単簡単!半減期と壊変定数の関係式使えばできるわ!」
七海「そんなことできるの?」
五十鈴「出来らあ!!」
七海「は?」
五十鈴「同じ式で部分半減期の計算が出来るって言ったんだよ!」
七海「じゃあやってみてよ。」
五十鈴「え!! 同じ式で部分半減期の計算を!?」
七海「いいから早く。」
五十鈴「そこは ステーキのデリシャスマッチだ! って言って欲しかったのに…じゃあ計算していくわね。」
五十鈴「まあ計算といっても大したもんじゃないわ。β-壊変の壊変定数を λ1、EC壊変の壊変定数を λ2 とおくだけよ。」
五十鈴「壊変する割合のことを分岐比と言ったわね。例えばカリウム40のβ-壊変の分岐比は89.1%、EC壊変の分岐比は10.8%だから、それぞれ λ1=0.891λ、λ2=0.108λとなる。」
五十鈴「部分半減期も全半減期と同様の関係から、T1=0.693/λ1、T2=0.693/λ2で、計算してやると…」
五十鈴「…っていう、結局最後は全半減期を分岐比で割るっていうすごい単純な形になっちゃうわ。」
七海「ほんとだ、簡単だね…」
五十鈴「実際部分半減期に関してはそれぐらい覚えておけばいいと思うわよ。」
五十鈴「念の為言っておこうかしら。気づいたと思うけど、全壊変定数 λ は、部分半減期の総和になるわ。」
五十鈴「だから、全半減期と部分半減期の関係は…」
五十鈴「こんな感じ。」
最終更新:2018年07月05日 23:34