光子の減弱

五十鈴「荷電粒子は、ある程度距離があっても働くクーロン力によって電子と相互作用して、否が応でもエネルギーを失うけど…」

五十鈴「光子は電子に直接ぶち当たらないとエネルギー損失がないから、それは確率的な問題になるわ。」

七海「うん…」

五十鈴「疲れた?」

七海「疲れた…相互作用長い…」

五十鈴「まあ、もうちょっとだから我慢して聞いて頂戴。」

五十鈴「じゃあ光子と物質の相互作用の確率である『断面積』ってのを考えてみましょうか。」

七海「光電効果コンプトン効果電子対生成の3つがあるから、断面積はそれぞれにある…?」

五十鈴「そうね。それらの断面積を、順に τσχ と表すことにするわ。」

五十鈴「で、相互作用全体の断面積μはそれら全部を足したものになる、と。」


五十鈴「そこで強度 I0 のエネルギーが全部同じ光子の束、光子束が厚さ x cmの物質に入射すると、通過した光子の強度 I は指数関数的に減弱するの。それを μ を使って表すと…」


五十鈴「この μ だけど、線減弱係数っていう名前がついてて、単位はcm-1。光子のエネルギーや物質の種類によって違う値をとるわ。」

五十鈴「この線減弱係数を使って、遮蔽の計算が出来ます!よく使うのは、半価層。」

七海「半価…半分になるってこと?」

五十鈴「まさしく。光子の強度が半分になる物質の厚さのことよ。簡単な式だから覚えてね!」


七海「簡単だね!」

五十鈴「でしょ?ちなみに10分の1になる厚さ、1/10価層とかいうのも計算できるわ。これ『管理測定技術』の課目でちょくちょく出るから覚えておくといいわよ。」


五十鈴「実は線減弱係数も密度で割ることによって、物質にあまり依存しない値になるわ。質量減弱係数、単位はcm2・g-1。」

七海「飛程や阻止能と似てるね。」

五十鈴「光子はある距離で完全に止まるんじゃなくて、だんだん減って0に近づいていくってところが荷電粒子と違うところね。」

五十鈴「でもねえ、実際そう易々といかないのが世の中で… この式が成り立つのは、光子束が細ーくコリメートされてる時なのよ。」

七海「コリメートって?」

五十鈴「光子がみんな平行になるようにすることよ。こうされていないと、他のところで散乱した光子が測定点に入ってくるビルドアップってのが起こるのよね…」

七海「ほんと、現実は厳しいね…」

五十鈴「世知辛い!」

五十鈴「まあ、これの補正は例の式にビルドアップ係数 B をかけてやればいいわ。」



五十鈴「さて次は、光子のエネルギーのうちどれだけが物質中の電子に与えられるか、について考えましょう。」

七海「そこまで考えるの…?減弱の話があればもうよくない?」

五十鈴「いやいや、ここは似たような言葉が出てきてすごく紛らわしいんだけど、試験ではそこを突いてくるからいやらしいのよほんと…」

五十鈴「だからしっかり理解して欲しいわ。」

七海「はぁい…」

五十鈴「まずは光電効果からね。光電子のエネルギーは、入射光子のエネルギー Eγ と等しくなる?ならない?」

七海「電子の束縛エネルギー分だけ小さくなるから、ならないね。」

五十鈴「はい。電子の束縛エネルギーは、光電子が飛んでった後に出る特性X線の平均エネルギー δ に等しいわ。」

五十鈴「だから、Eγ のうち電子に与えられるエネルギーの割合は…」


五十鈴「次はコンプトン効果。これは単純に、Eγ のうち、電子に与えられたエネルギーはすなわちコンプトン電子のエネルギーだから…」


五十鈴「これがコンプトン効果で電子に与えられる光子エネルギーの割合。」

七海「電子対生成は電子2つ分の質量が生まれるから、その分を差し引いた Eγ-2m0c2 が電子対の運動エネルギーで、これが物質中の電子に与えられ…あれ?」

五十鈴「どしたの?」

七海「陽電子は対消滅するから、その分のエネルギーも与えられるよね?」

五十鈴「いや、ここでは純粋に入射光子のエネルギー転移のみを考えているから、生成した陽電子の対消滅による二次的な光子のことは考えなくていいわ。」

五十鈴「だから電子対生成で、『物質中の』電子に与えられる光子のエネルギーの割合は…」


五十鈴「さあ、以上をまとめて、相互作用全体で考えましょうね。」

五十鈴「それぞれの相互作用ごとに、断面積と、さっきの光子エネルギーのうち電子に移る割合の積を出して、全部足してやる。」


五十鈴「それから、物質1 cm3中の原子数Nをかけてやると、光子束が1 cm進んだときの電子へのエネルギーの転移割合が求められる。」


五十鈴「この μtr を(エネルギー転移係数というわ。」

七海「ふぅ…やっと纏まった…」

五十鈴「しかーーし!!!安心するのはまだ早いッ!!!!!

七海「」(シケた顔)

五十鈴「せっかく移っても、電子からエネルギーが逃げていくことがあるわね?」

七海「…制動放射。」

五十鈴「疲れて機嫌悪くなっちゃったか… もうちょっと!もうちょっとだから!」

五十鈴「その制動放射で逃げるエネルギーの割合を G とすると、実際に物質に吸収されるエネルギーの割合は、1-G ね。」

五十鈴「だから相互作用全体としては…」


五十鈴「μen は、(エネルギー吸収係数っていうわ。」

七海「光子のエネルギーが電子に移るのが転移で、制動放射で逃げなかった分のエネルギーは物質に吸収されたってことね…」

五十鈴「そう。光子のエネルギーが小さければ、それだけ二次電子のエネルギーも小さいから、制動放射で逃げるエネルギーも小さくなる。その場合 μenμtr となるわ。」

五十鈴「それから、μtr も、μen も、物質の密度で割るとそれぞれ質量エネルギー転移係数質量エネルギー吸収係数となって、物質にあまり依存しなくなるからね。」


五十鈴「最後に!これだけ言わせて。」

七海「なあに…?」

五十鈴「線減弱係数、エネルギー転移係数、エネルギー吸収係数の大小関係。ちょっと考えれば分かる話だけど…」

五十鈴「線減弱係数は単純に光子の数の減弱だけを考えているわ。」

五十鈴「エネルギー転移係数は、その減弱した光子のエネルギーのうち電子に与えるエネルギーの割合だから、線減弱係数より小さくなる。」

五十鈴「エネルギー吸収係数は、そこからさらに制動放射で逃げる割合を差し引いているから、エネルギー転移係数よりも小さい。」

五十鈴「結果として、大小関係はこうなる。」


五十鈴「それじゃ、今回はこんなところにしておきましょうか。」

七海「これで光子は終わり…?」

五十鈴「終わり!さすがに主要な相互作用が3つもあるとなると長かったわね!」

七海「やったー!」

五十鈴「コンビニで甘い物でも買ってきましょうか!」

七海「わーい!私ロールケーキ!!」

五十鈴「さあ画面の前のみんなも休憩だ!!!

七海「何言ってんの?」
最終更新:2018年07月03日 21:51