――やってやる。
 やってやる、やってやる、やってやる!
 ひひ、ひひ、と空気音のような笑い声を漏らしながら、長沢勇治少年は大いに高揚していた。

「いいねいいねえ! なかなかイカしたこと考えるじゃんあのジジイ!!」

 帝愛グループの名は長沢も知っていた。
 胡散臭い金貸し屋。金を借りなきゃ生きていけないような社会のゴミが駆け込む場所。
 こんな所に縋るようになったら人間おしまいだなと、哀れな債務者達の切羽詰まった顔を想像してパソコンの前で嘲笑していたのを覚えている。
 だが、帝愛はただの金貸しではなかった。もっと恐ろしく、長沢に言わせれば「イカした」会社だったのだ。

 兵藤和尊。あの不気味な老人が殺人ゲームの開催を宣言した時、長沢はその両目を少年らしく輝かせた。
 泣き叫ぶ少女の首が吹き飛んで、切断面から噴き出した血の飛沫が手に掛かった時は興奮のあまり下腹部を盛り上げてしまった。
 ――夢じゃない。下らないドッキリでもない。これは本物の……正真正銘のデスゲームだ!

「ルールなんだからしっかり殺さないとなぁ! 殺さないと死んじゃうんだし、仕方ない仕方ない!」

 長沢の顔は喜悦に染まっていた。
 それもその筈だ。この少年はずっと、人を殺したい欲望を抱えながら生きてきたのだから。
 思うように行かない学校生活を疎んで部屋に引きこもり、毎日叶いもしない欲ばかり膨れていく鬱屈とした日々。
 ようやく長沢はそこから解き放たれた。法律だの警察だの親だの下らないことを気にせず、好きに人を殺せる夢の舞台。それが、この沖木島なのだ。

 長沢にとってこの島はどんなテーマパークにも勝る楽園だった。
 楽しもう。好きに殺そう。優勝したら大金持ちにもなれるだろうし、乗らない理由がない。
 倫理観というものの極端に薄いこの少年は特に葛藤もなく、あっさりと殺し合いに乗ることを決める。

「スッゲ……これベレッタかよ! いいもん引けたなあ!」

 デイパックから取り出した銃は、ネットゲームで慣れ親しんだベレッタM92。
 玩具を買い与えられた子供のようにそのあちこちを触りながら、構えてまた笑みを深くする。
 もちろん実際に撃ったことはないが、知識として撃ち方は知っている。
 これでなら、大勢の人間を殺せそうだ。逃げ惑う参加者の背中に弾丸を撃ち込む想像をするだけで心が激しく躍った。

 狙うのは優勝、それだけだ。
 兵藤も言っていただろう。ベタな手しか打てぬ凡愚(クズ)は死に、強運と確かな目を持つ強者(ギャンブラー)だけが生き残ると。
 その点、長沢は間違いなく後者。ギャンブラーであった。
 実戦経験のない中学生が実銃片手に皆殺しへ挑む。これをギャンブルと言わずして何とするのか。
 兵藤に言わせればゲームを盛り上げる競走馬。運営にしてみれば決して駄馬ではないのが、この長沢少年なのだ。

 ――さて、最初は何処に行こうか。
 どうせなら人の多そうな場所がいい。
 ベレッタ一丁で大量殺戮というのは難しいかもしれないが、それでも一人二人は殺せるだろう。

 胸を高鳴らせながら長沢は山道を進む。
 と、その時だった。足を止め、息を殺して目を凝らす。
 視線の先を、一人の男が歩いていた。
 表情は険しく、両腕には派手な刺青。
 年齢は少なく見積もっても長沢より十歳は上に見える。

 ――早速来やがったな、獲物が。

 獰猛に口角を吊り上げながら、長沢はベレッタの銃口を男へ向けた。
 躊躇いはない。ゲームの中で散々繰り返した操作をなぞるように、視界の中のシルエット目掛けて引き金を引いた。




「なあああッ!?」

 鬱蒼とした森林の中に鋭い破裂音が鳴り響いた。
 それから一瞬遅れて、驚愕の声。
 声をあげたのはしかし、撃たれた側ではなく。
 銃弾を不意討ちで撃ち込んでやった筈の、長沢の方であった。

 何が起きたのかは単純明快。
 弾が外れたのだ。撃った瞬間に男が飛び退いて、結果弾は掠めもしなかった。
 この場合、迷わず第二射を撃つのが最善手であるが、不意を突いての攻撃を容易く躱されたという予想外の事態に長沢は一瞬思考を空白にしてしまう。
 ……古今東西あらゆる戦いにおいて、その一瞬はこう呼ばれるものだ。"隙"、と。

 夜闇の中を男が跳んだ。
 長沢は此処でようやく二度目の発砲を行うが、動く的に当てるというのは存外に難しい。
 木々が視覚的にも物理的にも弾を遮る森の中では尚更だ。
 ベレッタが再び火を噴く前に、長沢の頭をえらく硬い物体が殴打した。

「どうした? いきなりご挨拶じゃねェーか!?」

 鈍い悲鳴をあげながら地面を転がる長沢の腕を踏み付けるのは、言うまでもなく狙われた側の男。
 その右手には金属バットが握られていて、顔には怒りの形相が貼り付いている。
 人を躊躇なく撃ち殺そうとした長沢は確かに異常だが、この男も同じ穴の狢と言えるだろう。
 他人の、それも一回り以上年下の少年の頭に、殺されかけたとはいえ微塵の容赦もなくバットを振るってのけたのだから。

「お゛っ、おま゛え゛っ、なんでっ」
「あ!? 気付いてたからに決まってンだろ?
 てめェーがあんまりでかい声で喋ってるからよ、大声で騒いでちゃ危ないぞって教えに来てやったンだよ」

 無論、嘘だ。
 要するにこの男もまた、長沢を殺すつもりだったのである。
 殺すつもりで近付き、端から撃ってくることも勘案して動いた。
 リスキーな行動ではあるが、リスクに見合った旨味はある。
 金属バットとベレッタ銃のどちらが殺し合いにおいて使えるか、という話だ。

 長沢は何とかベレッタを取ろうとするが、腕は硬く踏み付けられて動かない。
 その上で少年の顔面に、男の爪先が飛んだ。
 鼻がべきりと小枝をへし折るような音を立てて折れ曲がる。

「ッがああああああああ!!?」
「俺今メチャクチャ虫の居所が悪いンだわ。正当防衛だし、殺す前にストレス解消に使っちゃってもイイよな!?」

 金属バットを二度、三度と今度は胴に向けて振り下ろす。
 殺すのなら最初のように頭を狙えばいい、なのにそれをしない。
 明らかに甚振っていた。言葉通り、ストレス発散の道具として長沢を使っているのだ。
 完全に優位を奪われた長沢は、頭を庇うようにしながら暴力に耐えるしかない。

 そんな彼の姿を見て、はっ、と男が鼻で笑う。
 馬鹿にされた。長沢の短気な脳が怒りにかっと熱くなるが、次に男が発した言葉に一瞬動きが止まる。

「なあオイ。命だけは助けてやろうか?」

 このまま行けば自分は間違いなく殺される。
 というより、男に遊びがなければとっくに殺されていてもおかしくない状況だ。
 そこでこの提案。これを素直に信じるほど長沢は馬鹿ではなかったが、しかし縋れるものが他にないのも事実。
 よって長沢は男の次の言葉を待つしかなかった。今にも怒りで脳の血管が切れそうな彼に、男は平然と言う。

「――てめェーの耳を引き千切ってみろよ。
 躾のなってねェガキには特別に肉刺しならぬ耳刺しで食わせてやる!」
「……は?」

 最初、長沢には男が何を言っているのかさっぱり理解出来なかった。
 遅れて、段々とその意味が伝わってくる。
 要するにこの男はこう言っているのだ。
 自分の耳を引き千切れ。そして、自分でそれを食え――と。

 長沢は知らないことだが、これは彼が喧嘩を売った男……獅子谷にとっては常套手段であった。
 人の心を折る制裁。失敗した人間を、刃向かう人間を徹底的に痛め付け、恐怖させて自分に服従させる洗脳と表裏一体の暴力。
 獅子谷鉄也は容赦しない。彼は鬼であり悪魔だ。相手が子供であろうが大人であろうが、同じように痛め付けて同じように屈服させる。

「どうした? 出来ねえってことは死にたいってことか?」
「ふっ、ざけん、な! そんなこと、出来るか!」
「あ!? お前、自分の立場分かってンの?」

 髪の毛を鷲掴みにし、長沢の顔を覗き込むように獅子谷は屈み込む。
 その一方で長沢のベレッタを拾い、自分の側へと引き寄せた。
 これでもう長沢の詰みは、百パーセント確定になった訳だ。

「そうか、まだまだ反抗したい年頃なンだな!?
 でも俺は優しいからお前のこと助けてやるよ。特別に俺が千切ってやる!」
「ひっ!? な、やめろ! 痛い、痛い痛い痛い痛い!!」

 サディスティックに笑いながら長沢の耳を引っ張る。
 本当に引き千切れるまで、獅子谷は止めないだろう。
 重ねて言うが、そういう人間なのだ、彼は。
 暴力が飛び交い、暴力を持つ者が上に立てる闇の世界の住人だからやることなすことすべてに加減がない。

 長沢もまた確信していた。
 殺られる。此処でもし耳を犠牲に生かされたとしても、自分はいつかこの男に殺される!

 その瞳に確かな恐怖と涙が浮かび始め――そこで、新たな参加者の声が毅然と響いた。


「――やめなさい!」

 女の声だ。
 怪訝な顔をして獅子谷が手を止める。
 長沢も声の方に顔を向ける。

「……何があったのかは分からないけれど、明らかにやり過ぎよ。それ以上の暴力は見過ごせないわ」

 リボルバー拳銃を構えて荒い息を吐いている、見るからに利口そうな女性だ。
 獅子谷はその立ち姿から、無理をしているなと瞬時に見抜いた。
 この状況で動揺しない人間などいない。裏の人間でも、即座に対応出来る人間がどれだけいるか。
 暴力とは無縁な世界に生きている一般人が、無謀と分かっていながら正義感に突き動かされて声をあげた。大方、そんなところだろう。

 だが獅子谷にとって彼女が無視出来ない存在であるのもまた事実。
 もしもその手に銃が握られていなければ、獅子谷はその存在を一顧だにしなかった筈だ。
 しかしこの距離ならば素人でも当てられる。認めたくはないが、一転不利に立たされる形となった。

「……あんた誰?」
「教師よ。ゲームには乗っていない」
「だったら心配ねェーぞ。俺も"今ンとこは"乗らないつもりだからよ。
 ところであんた、ちゃんと状況分かって物言ってるか? この中坊は乗ってるぞ、殺し合いに」

 撃たれたからな、と付け足す獅子谷。
 嘘は言っていない。ゲームに乗るつもりは今のところないというところも含めてだ。
 襲ってきたのは長沢の方だし、獅子谷はある理由からゲームに乗れずにいる。

「……それでも目の前で行われる殺人を見過ごすことは出来ないわ。撃たれたくないのなら、その子から離れなさい」
「殺人じゃねェーっての。やんちゃなガキに折檻してやってるだけだ」
「私刑(リンチ)という言葉を知らないのかしら。……もう一度言うわよ、離れなさい。それ以上続けると、撃つわ」

 撃てるのか? あんたに。
 嘲笑を浮かべながらも、獅子谷はしかしこの場は矛を収めることにした。
 万一があっては不味いし、ベレッタは既に奪取済みだ。
 だがタダでは退かない。スジ者と互角に張り合う胆力は、銃を向けられている現状でも獅子谷に冷静な態度を保たせる。

「仕方ねェな、いいよ先生。あんたの教師魂に惚れた。このガキの処遇はあんたに任せてやる」
「……」
「ただ、あんたには俺と一緒に行動してもらうぞ」
「……どういうことかしら」

 訝しむように目を細める女教師に、獅子谷は続ける。

「あんた、そいつがいきなり暴れ出したら押さえ込めンのか?
 ガキとはいえ男と女だぞ? 場合によっちゃあんたがそのガキを撃ち殺すことにもなりかねねェ」
「それは――」
「それに、もしあんたが殺されてそのガキが野放しになりでもしてみろ。
 百パーセント俺が狙われるだろ? キチガイに付け狙われるのは御免なンだよ」

 獅子谷鉄也という男は、特別腕っ節が立つという訳ではない。
 自分より腕の立つ男なら幾らでも居る。少しはやれる自信はあるが、それまでだ。
 誰もが当たり前に銃を持っているこの"ゲーム"では、それこそこの長沢のような子供にあっさり殺されることもあり得るのだ。

 だからこそ、獅子谷は人が欲しかった。
 思うように動かせ、いざとなれば弾除けにも使える人手が――
 自分の経営していた金融会社、"シシック"の連中のような小間使いを早急に確保したかった。

 長沢を殺さないと言ったのもその為だ。
 徹底的に痛め付け、恐怖を刷り込んで服従させる。
 その為に獅子谷はあんなまどろっこしく、しかしとびきり痛ましい拷問を行おうとしていたのだ。

「あんたが断るなら俺は自衛の為にこのままガキの頭をブチ抜く。
 それであんたが俺を撃つンなら、次はあんたを撃つだけだ。
 知ってるか? この距離でも、ズブの素人が使ったら簡単に外すよ。チャカってのはそういう武器だ」

 女教師はぎり、と歯を軋ませた。
 銃を撃った経験などある筈もない。
 そして相手の男の手にも、一応は拳銃がある。
 もし自分が外せば、次はこの堅気とは思えない男が攻撃する手番だ。
 生き延びられるとは、とても思えない。

 或いは少年を見捨てて逃げるという手もあったが――これは教師としてのプライドが許さなかった。
 生徒を冷たく突き放したこともあるし、事実自分のことを嫌っている生徒は相当数居るだろうと自負している。
 それでも、目の前で子供が壮絶な暴力に晒されるのを見過ごせるほど"終わってしまった"つもりはない。
 故に逃げる選択肢はそもそもなく。女は男の持ちかけてきた取引に、こう答えるしかなかった。

「……分かったわ。けれど勘違いしないように。私はあなたのイエスマンになるつもりはない」

 教師――桐須真冬は既に気付いている。
 自分が今銃を向けている相手が、筋金入りの悪人だということに。
 可能なら、絶対に関わり合いにならないようにするのが賢明な手合いだということに。

 長沢勇治を助けるには彼の話を呑むしかない。
 ただし、彼の都合のいい駒になるつもりはない。
 桐須もまた、間近で男を監視する。決して、好き放題にはさせない。

「そう怖い顔すンなよ、先生! 俺感動したぜ? あんたの教師魂に。
 そら、約束だ。このクソガキへの制裁はこのくらいにしてやる。手当てするなり好きにしな」

 最後に一度、わざとらしく頭を踏み付けて。
 獅子谷は愉快そうに笑いながら、長沢へと背を向けた。
 桐須は急いで書け寄り、デイパックの中から包帯やガーゼ、消毒液を取り出して彼の傷の手当てを始める。
 打ちのめされた長沢の哀れな姿を見ていると、ふつふつと獅子谷への嫌悪感が噴き上がってくるのを感じた。

(……もう二度と、私の目の届く範囲で犠牲は出させない)

 桐須の脳裏に去来するのは、兵藤の"見せしめ"となった少女の最期だ。
 武元うるか。あの快活でよく笑う少女の最期は、泣き叫びながら首を吹き飛ばされる悲惨なものに終わった。
 ……どうしてこんなことに。そう後ろ向きな想いにもなったが、桐須はそれを怒りで上塗りすることで活力へと変えた。
 これ以上は死なせない。武元うるかの二の舞にはさせない。それが――今、自分が"教師"として成すべき一番の仕事だ。

 桐須真冬は決意を胸に生きる。
 自分の手当てしている少年が、屈辱と憎悪に胸を焦がしていることなど露知らぬまま。
 どうしようもないほど鬱屈した精神性を持つ長沢にとっては、"教師としての行い"など、過敏になった神経を逆撫でする偽善にしか感じられないなどとは思いもしないまま。

(ふざけやがって――ふざけやがってぇぇぇええ!!)

 長沢は心中で絶叫していた。
 ふざけるなふざけるなふざけるな!
 こんなこと認められるか! なんで気持ちよく人殺しが出来るゲームで、こんな惨めで痛い目に遭わなくちゃいけないんだ!

 全部あの刺青男が悪い。
 絶対に殺す、銃を奪って後ろから撃ってやる!
 すぐには殺さない。急所を外して散々甚振って、耳と切り取って食わせて、頭を踏み付けて。
 とにかくあらん限りのことをして復讐する。復讐してやる!

 腹立つのはこの女もだ。
 先公だがなんだか知らないが、偽善者が偉そうに!
 お前も後で殺してやる。なんで、助けてあげたのにどうしてと泣き叫ぶザマを想像すると顔がニヤけそうだ。
 このままで終わるもんか。絶対に、絶対に絶対に絶対に、俺をコケにしたこいつらをぶっ殺す!

 しかし――

 長沢は、気付いていない。
 自分の中に、既に獅子谷という男への恐怖の念が生まれていること。
 バットで打ちのめされ、拷問されかけ、頭を踏み躙られた時。
 長沢の心には小さいが、決定的な折れ目が付いてしまったのだ。

 されど、気付けないのは彼にとって幸いに違いあるまい。
 もしそれを理解してしまえば、その時こそ長沢勇治が駄馬に堕ちる時だ。
 獅子谷を殺すという激しい憎悪が、恐怖の強さに負けたなら。
 "シシック"の社員のような、獅子谷にとって都合のいい駒が一つ出来上がる。
 暴力で服従させられる人間。好きに使い捨てられる、まさしく駒のような人材が。

「……丑嶋、柄崎。それに、甲児か」

 一方獅子谷は、夜空を見上げながら述懐していた。
 彼もまた、蘇った死者の一人だ。
 獅子谷は部下として雇っていた丑嶋馨と柄崎貴明らの反乱に遭い、その末に命を落とした。
 無様な死に様は晒さなかったが、殺されたのは確かだ。にも関わらず、今はこうして生きている。

 ……にわかには信じがたいが――兵藤和尊の言う"死者蘇生"の技術とやらは、信用に値するものであるらしい。

(甲児が居る以上、全員殺して優勝って訳にはいかねェーな。
 万一甲児が殺られたら優勝狙いに転向して、兵藤のジジイに甲児を蘇生させるか)

 獅子谷ほどの悪人が殺し合いに乗らない理由。
 それはひとえに、実弟――獅子谷甲児の存在であった。
 獅子谷は誰に対しても残虐で冷酷な男だが、弟のみはその例外だ。

 陳腐な言い方をすれば、兄弟愛、というやつである。
 獅子谷鉄也は獅子谷甲児を殺そうとは思わないし、その感情は決して一方通行ではない。
 事実彼の死後、甲児は十年以上にも渡り執拗に復讐を続け、遂には彼の死の遠因となった丑嶋達を追い詰めるまでに至った。
 仮に甲児が殺されたなら、鉄也はその時容赦なく全員を殺す殺人者にあっさりと変転するだろう。
 彼にとって"乗らない"理由とは、弟が居るからという、ただそれだけなのだから。

(まあ、そうじゃなくても……お前らは別だがな。丑嶋、柄崎)

 それはそれとして、自分を陥れてくれた丑嶋と柄崎の二人は許さない。
 奴らは殺す。どんな手段を使ってでも、確実に"礼"をしてやらねば気が済まない。
 この場では最も強い発言力を持つ獅子谷鉄也ですらも、一皮剥けば、そんな俗な感情を隠し持っているのだった。

 三者三様、全く別な想いを抱えながら。
 悪人と、善人と、悪童が夜を生きる。


【一日目/深夜/F-5・森林部】

【獅子谷鉄也@闇金ウシジマくん】
【状態:健康】
【道具:ベレッタM92、金属バット、不明支給品×2】
【スタンス:危険対主催】

【桐須真冬@ぼくたちは勉強ができない】
【状態:健康】
【道具:S&W M19、不明支給品×2】
【スタンス:対主催】

【長沢勇治@キラークイーン】
【状態:額から出血(止血済)、鼻骨折、胴体に複数打撲、激しい怒りと獅子谷への恐怖】
【道具:不明支給品×2(いずれも武器ではない)】
【スタンス:優勝狙い】

001:邂逅の時間 時系列順で読む 003:[[]]
001:邂逅の時間 投下順で読む 003:[[]]
桐須真冬 :[[]]
獅子谷鉄也 :[[]]
長沢勇治 :[[]]

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最終更新:2018年05月06日 04:15