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「あぁ~カレーが食べたい……できれば辛口の大盛りで」


そろそろ千里も日頃の恨みを晴らすのに飽きてきた頃。
既に時は午後二時と半分を回っている。
またラウンドが終了する。勿論、負けるのは賽の方だ。
正道派にして直情、冷静にして熱血な賽にもそろそろ苛立ちの色が見える。


「とにかく! とにかく今は時間がないんだ! 早く負けてくれ! お前の使うジョー・ヒガシは強すぎる!」
「ふ、勝負を引き受けたというのにそれを破るおつもりですか?」


そんな応酬も何度目だろうか。
表には出さないが、女将としてはヒヤヒヤものだ。賽の中で何かが弾けようとどうにかする器量はあるつもりだが、ほぼ全面的にこちらに非があるのは確かなのだし。
早く別動隊が食料調達をしてくれることを祈るばかりだ。


「……そこまで言うなら解った」


気を取り直して、コントローラを握りなおす賽。
彼女は正道派にして直情。自らの承諾したことには責任を持つ。持たねばならない。
武士に二言なし。
彼女もまたそうした融通の効かない性格の持ち主なのだ。


故に、また。


「――手段選ばず生死問わず」
「……?」


反復する。
女将は覚えてなかった、女将が言った言葉を唐突に。


「そう言ったな、女将」


最終確認。
何のことか解らない女将の沈黙を肯定と受け取り、一言。


「どうなっても知らんぞ、お前」


              ◆            ◆


どうするつもりだろうか。


欠伸をしながら、千里は自らが所属する勢力の長の口上を見守っていた。
途中までは見当違いのアドバイスを送ってあたふたさせていたのだが、そろそろ空腹がきついし虚しくなってきたのでやめた。
そんな状態の自分としては是非とも声援を送りたいところなのだが、ずっと口を動かしていて疲れていたのでやめた。
そもそも、自分一人の声援如きでやる気を出したり能率に変化があるような人じゃないし。


不意、と状況を見やる。


にしても、心配だ。
順調に、テリー――長の使うキャラクターの名前――側が劣勢。
何ら今までと展開に変わりなし。
少しばかり、長はラウンドを重ねるごとに幾らか操作がマシになってるようななってないような。
だがやはり、展開に大きな違いはない。
口上切ったからには何かしてくれる変な人。自分の中で長はそんな感じだ、が……やっぱり無理だろうか。
いや、マジでそろそろ本気で昼食にありつきたいのだが。


千里がそう思っていたとき、


「ちょっ……何やってるんですかあああああああああ!?」


女将の叫びと共に、画面上に明確な変化が起こった。
突然、女将のキャラが動かなくなったのである。


勘の鋭い人間なら既にお解りだろう。
賽が何を行ったのか、ということが。


「〝俺の目の前に分厚い壁があって、それを突破しなければならないなら、俺は迷わずこの力を使う〟……」


そう、賽は――
女将側のコントローラーを見事なまでにぶっこ抜いていた。


女将の叫びなどお構いなしで、無駄に技の入力コマンドだけは上手く決める賽。
防御など、勿論できよう筈もない。


「食らえ! 灼熱のぉ、ヴォルカニックゲイザアアアアアアアァッ!」
「叫ばないでくださいこんなとこで」
「しかも技名違いますし……」


どうにもこうにも。


呆れ果てるしかなかった。


              ◆            ◆


ぐつぐつ。ぐつぐつ。


「おい、少年。そろそろ火を弱めてくれ」


ぐつぐつ。ぐつぐつ。


「いきなり二人称とか喋り口調変えんでください。混乱しますよ読者」


そう言いながらも、火を弱める少年――もといチサト。もとい千里。


――結局。
あのコントローラぶっこ抜きの勝利は〝厳しい~!〟ながらも認められ、二人は無事昼食にありつくことができた。
事情を知らない賽と千里には及び知らぬことではあるが、丁度別働隊からの食料が届いていたのである。
まあ、別段届いてなくてもあの無茶苦茶な勝利を認めなければ別に構わなかったと言えばそうなのだが、やはりこれは裏の事情。れっくれす一行の知るところではない。
食料を買いに行く割に到着が遅かったのにも理由があるのだが――これもやはり、知ることのない事実として忘れ去られるのではないかと思われる。


鍋というメニューや食材とかその他諸々についての突っ込みは特に無いようだった。
そこらで買ってきた食材の割に女将が高い値段をふっかけたことについては触れないでおく。おそらく、店に来る予定を忘れていたこととそれによって起こったこの一連の事件に対する意趣返しだろう。


「そろそろ食っていいですかね」
「おい、まだだ。まだ早いぞ少年。20秒ほど目を瞑っていろ。そうしたら食ってもいいぞ。鍋はタイミングが命だからな」


誰が少年だ……。
聞こえない声で呟きながらも目を瞑る千里。


「ハートフルな鍋奉行を気取って何が悪い。似合ってるのは自分が一番理解している、だから其れを笑われる謂われは無いぞ」


不満げな顔を察したようだ。
何にしても、逆らうとあんまりいいことが起こらないのは経験則で理解している。


それを確認し。
すかさず箸を疾風の速度で動かす賽。
しかし、賽の手は止まる。その箸はありえないものによって、遮られた。


「チサト……お前器用なやつだな」
「いやいや、長の外道っぷりには負けるって言うか」


目を閉じたまま突き出したにもかかわらず、見事に鍋の真上で組み合う箸と箸。
力が篭もりカタカタと震え始めるが、ここで賽はあっさり手を引く。


「解った、今のは私の負けだ。先に手ェつけていいぞチサト」
「や、今日は比較的優しいですね」
「今日はあれだ、なんだかんだで昼食遅れたしな」


ただただ事実を事実として受け入れ、単純な気遣いを返すのみの返答。
ばつの悪そうな顔なんて彼女はしない。
はにかみ気味に笑うなんてのも、彼女には似合わない。


彼女にはそんな顔が、そんな素っ気無さが、一番しっくり来る。


              ◆            ◆


その頃、一升庵厨房――


「……えーと」


女将はかなり困惑していた。
女将は別の部屋にて――宴会用の大きめな部屋――で、他の一升庵メンバーと一緒に食事をしていたのだが、ふと卵を見たら半熟卵の味が恋しくなって厨房まで出てきたのだ。
そして、女将の目の前には爆発した卵入りの電子レンジが。


別に、安直に卵を電子レンジでチンして破裂させたわけではない。
流石に女将、そこまで馬鹿な真似はしない。
経緯を話せば簡単である――賽から聞いた電子レンジでできる半熟卵の作り方、というのを実践して失敗したのである。
ちなみに、この作り方というのは別にヨタ話でもなんでもない。実際、電子レンジで半熟卵・茹で卵を作るのは可能だ。


そもそも卵が爆発するのは、電子レンジのマイクロ波によって水分を振動させることによる摩擦でものを温めているからだ。卵の内部が急に沸騰し、その圧力の変化によって卵は爆発する。
では爆発させない為にはどうすればいいのか、と言えばアルミホイルで包めばよい。アルミホイルはマイクロ波を通さないからだ。
しかしこうすると、今度は卵を熱することができなくなってしまう。
そこで、何らかの容器に水を入れてその中にアルミホイルで包んだ卵を入れる。
こうすることで、電子レンジによって半熟卵・茹で卵を作ることができるのだ。


それでは何故女将の目の前には爆発卵レンジがあるのだろう。
これについては、電子レンジの中を見てみれば簡単に解る話だ。中を見れば、明らかにやり方を間違えていることが解る。
どこをどう間違えたのか、電子レンジの中にあるのは緩い窪みの皿をアルミホイルで包んだもの、それに水が薄く入っており――その中心で卵が爆発している。おそらく被害から見て、二個か三個くらい。


『うむ、これでよし。あとは電源をいれれば美味しい半熟卵が……できる……はず、だよね?』


できるわけがない、当然。


              ◆            ◆


「美味しいですね」
「そうだな。高級料亭というと高い癖に量が少ないって感じかと思っていたがボリュームは多めだったな。少々割高に感じるがこんなもんか」


ごく普通の食材で作られた鍋に舌鼓を打つれっくれす一行。
なんというか、相当平和な奴等である。
もし芸能人格付けなんてものに出たとしたら、『そっくりさん』『映す価値無し』間違いなしである。


どたどた、どたどた。


破滅の足音っぽいものが聞こえてくる。外から急ぎ足、足音が聞こえる。
大抵誰かが急いで走ってくる足音と言うものはあまりよろしくない場面でよくあることであり、何故か大概朗報ではないことが多い。
趣のある室内での鍋を食べながらほんわかしていたれっくれす一行ではあるが、その気配くらいは察すことができるようで、何となしに心の準備をする。


足音が丁度部屋の前に差し掛かった瞬間、がらがらぴしゃーん! という荒々しい音と共に開かれる障子。その音はさながら雷鳴、さながら咆哮。
そして仁王立ちの女将は開口一番、


「賽! もう我慢なりません……黒服を呼べ! 此奴等を布団部屋に案内しろ!」


と来た。
歴戦のれっくれすも、あまりの突然さにうろたえる。
何せ、原因と思われる賽には心当たりなどある筈も無い。何せ、彼女はちゃんと女将に作り方を教えており、女将が間違えただけなのだから当然だ。


「どーゆーことですかこれ」


一瞬の硬直から立ち直った千里は賽に小声で囁きかける。


「解らん……解らんが、とりあえずエージェントを呼べ。エージェント・スミスだ」
「この場合寧ろネゴシエイター・スミスじゃないですかね」
「誰が上手いことを言えと。まあそれで正しいんだが……どうしたものか。強行突破してもいいんだが後が怖いし何より鍋が残ってる。おばあちゃんが言っていた、食事は粗末に扱うなとな」




【ちょっとアレな用語集 02 一升庵激闘編】


一升庵 / いっしょうあん
言わずと知れた、華悪凛が女将として仕切る高級割烹料理屋にして最強と謳われる勢力。
れっくれす会合指定所の一つで、千里の発言から推測して最低でも一度は来たことがあるようだ。
劇中ではとりあえず料亭としての描写が為されているが公式見解でも『曖昧』なのだとか。そんなわけで今回の劇中では料亭となっている。
が、しかしこの料亭版一升庵はどうやって切り盛りしてるのだろう。従業員がいるというような話も聞かないので、メンバーの皆さんで切り盛りしてるに違いない。と、勝手に思ってみたり……

賽の眼鏡  /  さいのめがね
拡大及び大まかな距離測定、暗視機能を有するハイテク眼鏡。
劇中で語られていた『スカウター機能みたいなの』のついていた眼鏡とは比べ物にならないほど機能は少ない為、賽は玩具程度の感覚で使っている。
その『スカウター機能みたいなの』のついていた眼鏡の出元はとある骨董楽器屋の主人から貰ったものなのだが、それはまた別の話。
『メイド喫茶のあたりで何かに反応してぶっ壊れかけた』については、詳しく語ることは許されないので、お察しに。
“もはやオールスターの様相を呈してきている”。と言う感じにしたかったので勝手に使わせて頂きました。後報告で申し訳ありません。
駄目ーという場合は痕跡を残さない程度に修正致しますっ

プリンセス・華悪凛・タイトネイブ / ぷりんせす・かおりん・たいとねいぶ:
一升庵の名物女将。『じょしょう』、ではなく『おかみ』と読む。
戦闘時は女将軍、と言う意味で『じょしょう』と読み方を変えるのも中々乙なもの。
詳しい設定は劇中から読み取る限り不明だが、賽とは飲み会をする程度の関係。
劇中では、酔っ払った勢いの店自慢で大変なことになってしまう。そのエピソードについてはランドさんの力作、一升庵な日々 ~Welcomeお客様 相談編~にて語られている。
今回、何故かデザートイーグルを向けられたりとコミカルな雰囲気とはかけ離れた出来事に巻き込まれてしまったのだが、もしも賽が間に入ってなかったらきっと何かかっくいい啖呵を切ったに違いない。
最近の悩みはクラッチに足が届かないこと。
名前を見る限りFSS世界と何らかの関係があると思われるが、そのような描写は一切見つかっていない。

デザートイーグル / でざーといーぐる
拳銃。近年最も成功したとされるマグナムオート。
千里の扱うデザートイーグルは劇中でも説明されていた通りゴム弾を発射するものとして改造されている。ベースは357マグナム版。
法的には力任せと屁理屈でこね回した限りなく黒に等しいグレー。無理矢理賽が持たせている節もある。
最高の威力を持つとして知られるデザートイーグルだが、実弾とゴム弾では当然発射機構も全く異なるわけで、別段デザートイーグルであることに大きな利点はないのだがそこは見た目とインパクト重視である。
『何故ならその方がかっこいいから!』。偉大な言葉だ。

黒千里 / くろせんり
千里の裏人格の総称。読みは間違っても『くろちさと』ではない。
カブトに対するダークカブト、登山に対する黒登山、高森朝雄の原作に対するちばてつやのあしたのジョーのようなもの。
二重人格なのかキャラを使い分けてるのかは定かではないが、『動くな』の台詞を言ったときの千里はこれだと推測される。
また、剣技だの銃技を披露するのも基本的に黒千里だと思われる。
賽の性格言動が性格言動なので誤解されやすいところだが、こと生身の戦闘技能に関して

千里>>【超えられない壁】>>賽

であることを忘れてはならない。
また、千里は賽の護衛役として評価されている面もある。

少女祈祷中 / しょうじょきとうちゅう
東方シリーズの『Now Lording』に当たる言葉。
あまり深い意味はない。深読みは禁止。

ジョー・東  /  じょー・ひがし
またの名をジョー・男前・東。出場作品はザ・キング・オブ・ファイターズ等。
劇中では華悪凛が使用していた。ちなみに賽が使用していたのはテリー・ボガート。
ちなみに華悪凛は『料亭には似つかわしくないTVゲーム機やらトランプにUNOまで引っ張り出して時間を凌いでいた』際に初プレイ。飲み込みは早かったらしい。
何故こんな料亭にこんなソフトやゲーム機があるかと言うと、嘗て一升庵に居たとある男が趣味で持ち込んだものらしい。
ちなみに筆者はKOFシリーズについては無知。

ヴォルカニックゲイザー  /  ゔぉるかにっくげいざー
炎熱系魔術。
殴った瞬間に使用し、自らの手を発生点として小さな溶岩噴火を具現するどっかの聖堂騎士っぽい人の得意技。
一般の魔術はそのエフェクトが術者から遠ざかれば遠ざかるほど維持に魔力を消費する為、近接格闘を組み込むことでコスト軽減とほぼ無詠唱にまで到る。
典型的な近接格闘系魔術だが、その使い勝手の良さトップクラス。
曰く、手を拳から掌を開くことで炎を拡散した感じで放つことができるらしい。主に牽制時に使用。
また、地を這う・火球化等インレンジからミドルレンジへのバリエーションも存在するが、大抵ヴォルカニックゲイザーと一まとめの呪文名で使用されている。
なお、地を這うタイプのヴォルカニックゲイザーにアーティファクトにも指定される妖華『骸の花』から得た膨大な黒のマナを使用し、性質変化を加え大魔法化したものはネクロブルームゲイザーと呼称される。
……なんて設定はぜんぜん関係はない。劇中では何故か賽がパワーゲイザーと間違えて叫んでいる。



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最終更新:2006年12月10日 23:38