魔風が吹く
日向夏咲にとって、今日という日は不幸の連続だった。
こんなデスゲームに巻き込まれたこと。
敵意はないのに銃を向けてしまったこと。
そのせいで怯えてしまった少女がいること。
誤解を現在進行形で解けずにいること。
……そして暗い山中でさ迷い歩いていること。
「はぁ……もう、疲れたよ……」
夏咲は知らぬことだが、同じ景色が連続すると、真っすぐに歩いているつもりでも、自然と進行方向が曲線を描き、ぐるぐると同じ地点を歩き回ってしまっていることがある。
特に山や森などを歩くときに注意が必要であり、今まさに夏咲はそのスパイラルに陥っているわけである。
かれこれもう何時間歩き続けたかもわからず、今はもうどこかでゆっくりと腰を落ち着けたい気分だった。
「でも、誤解は解かなきゃ……」
あの時銃を向けてしまった少女は、きっと今も怯えている。
自分のしでかしたことで、少女の心を傷つけてしまった。
それが夏咲には許せない。自分のことが許せない。
だから歩く。すでに足が痛みで満足に動かなくとも、今すぐ座って休みたくとも。
怯えてしまった少女を助けるために、動き続けなければならない。
だから弱音はさっきのでお終い。
もう吐かない、くじけない。
そう自分に誓う。
「……あれ?」
だがいくら意志が強くとも、身体が追従するとは限らない。
ぐらりと。体が傾き、思わず膝を、そして両手をその場につく。
疲労によるめまい、そして歩行への拒否反応。
夏咲はどこにでもいるような女学生。
長時間の歩行で、体力は限界を迎えていたのだ。
「まずい、なぁ……」
膝をついてしまったことで、一気に疲労が身体に乗っかってくる。
これ、動けないかも。先ほどまでの誓いはどこへ。納得より先に理解をさせられてしまう。
今日は、もう、動いちゃダメ。
ザッ
そんな夏咲の前方から何かを踏み締める足音。
そして置いたランタンが、何かを照らした。
「ロングスカート……違う……袴?」
こんなところで袴?
疲労により思考も回らず、ただ何となく上へと視線を移し……
「恨んでくれ」
視界に映った正体は分からず。
ただなんて泣きそうな声なんだろうと。
そう夏咲は思った。
■
宮沢謙吾にとって、今日という日は不幸の連続だった。
こんなデスゲームに巻き込まれたこと。
自分だけでなく幼馴染まで巻き込まれていること。
一刻も早く2人を救うために動かなければならないこと。
1人仕留めたはいいが、気が動転していて荷物を回収し忘れたこと
……そして暗い山中でさ迷い歩いていること。
「全く……どこだここは」
同じ景色が連続すると、真っすぐに歩いているつもりでも、自然と進行方向が曲線を描き、ぐるぐると同じ地点を歩き回ってしまっていることがある。
謙吾は知識としては知っていたが、今まさにそのスパイラルに陥っているわけである。
かれこれもう何時間歩き続けたかもわからず、今はもうどこかでゆっくりと腰を落ち着けたい気分だった。
「……治療もしなければならないのにな」
あの時貫かれた右肩の痛みは酷くなるばかりだ。
自分のしでかしたことによる自業自得。
もう少し考えて行動すればよかったのに……考えなしに突発的な行動をした自分の責任だ。
だから歩く。すでに足が痛みで満足に動かなくとも、今すぐ座って休みたくとも。
理樹と鈴を助けるために、動き続けなければならない。
だから弱音なんて吐いていられない。
急げ、二人を救うために。
そう自分に言い聞かせる。
「……ん?」
謙吾の目が、灯りを見つける。
暗がりに溶け込むように、謙吾はランタンをつけずに月明りだけで行動していた。
だからこそ相手より先に把握する。
襲うか、或いは逃げるか。
金属バットを握る左手に、自然と力がこもる。
徐々に明らかになっていく相手の全容。
注視し――――ぐらりと相手の体が傾き、膝、そして両手をその場につく。
「まずい、なぁ……」
零された独り言。それが聞こえるくらいの近さ。
見える限りで言えば、目の前に倒れる少女以外には誰も見えない。
間違いなく、好機。
ザッ
ここを逃す手はない。
覚悟を決め、少女の目の前へと姿を現す。
音に気が付いたのか、少し顔を上げようとして、
「ロングスカート……違う……袴?」
呑気なものだ。こんな時に人の服装を気にするなど。
或いは、それほど疲れているのか。
「恨んでくれ」
覚悟は決めている。今更揺るぎはしない。
振りかぶった金属バット。あとはそれを振り下ろす。
ただそれだけだ。
■
結論から言えば。
謙吾の一撃は不発に終わった。
振り下ろそうと力を込めた、その次の瞬間。
金属バットが何かに弾かれた。
そして謙吾の目前に突如現れた黒色の甲冑を身にまっとた何か。
「ストップだ、バーサーカー」
それからどことなく気取ったような声が、別方向から聞こえる。
第三者、いやこの場面で言えば間違いなく少女の味方であろう。
少女を除いて、ほかに2人。
1人かと思ったのだが、どうやらまんまと騙されたのは自分の方だったらしい。
「分かるよね?」
暗がりからもう一人が出てくる。
青みがかかった髪色の、同世代くらいの男。
主語を抜いた言葉には、圧倒的優位からなる不遜と傲慢が存分に含まれている。
「……ああ」
だが従うしかないのが現状だ。
暴れたところで、ここにいる面々は誰1人仕留められそうにないだろう。
疲労、そして怪我による自分の体調を鑑みて、冷静に謙吾はそう判断する。
……いや、それだけじゃない。
すぐそばにいる、黒色の甲冑を纏った人物。
たとえ自身が万全の体調であっても、まず間違いなく殺される。
武道に携わっているからこそわかる、圧倒的な彼我の実力差。
リトルバスターズの面々全員で襲い掛かっても、相手にもならないだろう。
「へぇ? 話が早いやつは嫌いじゃないよ」
一方で。謙吾の態度に気をよくしたのか、青髪の少年――間桐慎二は笑顔を見せた。
「ほらよ」
ひゅん。投げられた何か。反射的にそれを受け取る。
「お前が殺したやつのバックだよ」
どうやら殺したことも知られているらしい。ということは仇討ちか。
自業自得とはいえ、突発的に行動した結果に、謙吾の内心でひどく心臓が跳ねた。
だがその次の慎二の言葉は、謙吾の予想もしていなかったものだった。
「持って行けよ。アンタの戦利品だ」
「……は?」
「あ? 聞こえなかったのか?」
「いや、違う……俺が持って行っていいのか?」
「そう言ってんだろ」
いや、意味が分からない。謙吾はそう思った。なぜ渡されたのかが全く理解できなかった。
「アンタ、乗ってんだろ。僕と同じでさ」
乗っている。ようやくそこで、謙吾の中で線がつながる。
その言葉が表すことは一つ。
「あぁ。このゲームに乗っている」
要は、人を殺す。殺して優勝を狙うということ。
「だろ? じゃあ途中までは目的はおんなじなわけだ」
「……あぁ、なるほど。そういうことか」
つまりは手を組もう。そういうことを言いたいのだろう。そう謙吾は当たりをつけた。
「1人でやるには対象が多すぎる。そういうことだな」
「いいね、アンタとの会話はストレスがなくて助かるよ」
みなまではいわない。そこまで口にするのは反吐が出る。
そう考えて、謙吾は内心で己を罵った。自分も相手と同じただの下種なのに、反吐が出るとは何事か。
「お互いいい関係でいるということだな。……賛成だ」
「そ。てなわけで、よろしくね、えーと……」
「あぁ、宮沢健吾だ。よろしく頼む」
「宮沢ね。僕は間桐慎二だ」
間桐慎二。
厭味ったらしい笑顔とともに、その名前を謙吾は脳裏に刻んだ。
悪魔に魂を売り渡した方がまだ清々しいと。
そう思えるようなひどい気分だった。
【一日目/4時00分頃/D-3】
【宮沢謙吾@リトルバスターズ!】
[状態] 右肩に刺し傷、疲労(大)
[装備] 金属バット
[所持品]基本支給品×2、ランダムアイテム
[思考・行動]
基本:理樹、もしくは鈴を優勝させる
1:理樹、鈴以外は殺す
2:リトルバスターズの面々には会いたくない
3:間桐慎二は信用ならない
【備考】
最終更新:2024年09月11日 17:21