たぶん素敵妄想集(爆@ ウィキ
たぶん、それは満月のいたずら
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rm96
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たぶん……たしか、そう…高い塔の中…。
きらびやかな宝石がついていた折れた剣。
服についた乾いた血の臭い。
…体中が痛い。
散々暴れまわってもなすすべもなく、いつしか力も入らなくなった。
いつからここにいるんだっけ…。
服についた乾いた血の臭い。
…体中が痛い。
散々暴れまわってもなすすべもなく、いつしか力も入らなくなった。
いつからここにいるんだっけ…。
冷たいに床に転がって、鉄格子の小さな窓の向こうに見える満月。
闇を余すことなく照らそうと、輝きは疲れたこの体にも降り注ぐ。
最期にこんな綺麗な月を見れたんなら、それもいいか…。
闇を余すことなく照らそうと、輝きは疲れたこの体にも降り注ぐ。
最期にこんな綺麗な月を見れたんなら、それもいいか…。
鉄格子の間をすり抜けた冷たい風が埃を巻き上げる。
ふと、気配を感じた。
見上げるとそこには人影。
蒼い満月を背に、夜空の中に透けるように儚いお姫様が月明かりの中で微笑んでいた。
蒼い満月を背に、夜空の中に透けるように儚いお姫様が月明かりの中で微笑んでいた。
戸惑いのまなざしに彼女が小さくうなずいて、すっと手を差し伸べる。
最後の力を振り絞って起き上がり、その手を取った…。
…………
……
…
「…。……みき……。美貴ちゃん」
「…ん…? あ…」
目を開けると、梨華ちゃんが微笑んでいた。
周りを見回すと事務所の前みたいだ。
「着いたよ。みんなもう降りてるから、行こう?」
肩から手を離して梨華ちゃんが手を差し伸べる。
ふと感じる違和感。
「美貴ちゃん?」
「あ…うん」
手を借りて立ち上がり、荷物を手にすると、そのまま手を繋いで「疲れたねー」ってごまかすように笑ってみた。
……
…
「…。……みき……。美貴ちゃん」
「…ん…? あ…」
目を開けると、梨華ちゃんが微笑んでいた。
周りを見回すと事務所の前みたいだ。
「着いたよ。みんなもう降りてるから、行こう?」
肩から手を離して梨華ちゃんが手を差し伸べる。
ふと感じる違和感。
「美貴ちゃん?」
「あ…うん」
手を借りて立ち上がり、荷物を手にすると、そのまま手を繋いで「疲れたねー」ってごまかすように笑ってみた。
車から降りて空を見上げると、そこには眠らない都会の光の中でも見劣りしない満月。
「綺麗だね…」
刺すような冷たい空気の中にはぁっと白い息をこぼしながら、梨華ちゃんも空を見上げていた。
「綺麗だね…」
刺すような冷たい空気の中にはぁっと白い息をこぼしながら、梨華ちゃんも空を見上げていた。
何度目だろう。最近よく見るあの夢…。
いつもなら、その手に触れそうになるところで目が覚めた。
いつもなら、その手に触れそうになるところで目が覚めた。
でも、今日は…違った。
はっきりと残る彼女の手の感触。
ぎゅっと握り締めて顔を上げた。
ぎゅっと握り締めて顔を上げた。
目の前には螺旋状に続く石造りの階段。窓すらないそこは心もとない蝋燭の明かりで薄暗い。
時折行く手を塞ごうと襲い掛かってくるヤツを手にした剣で切り倒しながら、ただひたすらに階段を駆け上がる。
顔についた返り血を拭いながら、ただ、ただひたすらに…。
顔についた返り血を拭いながら、ただ、ただひたすらに…。
ようやく見えた扉を蹴破ると、鎖に繋がれてそこに彼女はいた。
途中で奪い取った鍵で枷から開放して、やせ細った華奢な体をきつく抱き寄せる。
途中で奪い取った鍵で枷から開放して、やせ細った華奢な体をきつく抱き寄せる。
彼女は剣を持ったままの手を取って口付けるように頬に当て、
『………』
何かを囁いた。
『………』
何かを囁いた。
返事の代わりに、彼女の頬に手を添えた。そして…。
体が小さく揺れて、はっと目を覚ました。
また梨華ちゃんが微笑んでいて、「着いたよ」って。
また梨華ちゃんが微笑んでいて、「着いたよ」って。
よほど疲れてると思ったのか、気遣ってくれた梨華ちゃんが解散した後、「近いから」って誘ってくれたのを思い出した。どうもタクシーの中で眠ってしまっていたらしい。
「大丈夫だから」
笑って見せたけど、それでもまだちょっと不安そうな顔。
梨華ちゃんの家の中に入っても、それはなかなか消えてくれなかった。
「大丈夫だから」
笑って見せたけど、それでもまだちょっと不安そうな顔。
梨華ちゃんの家の中に入っても、それはなかなか消えてくれなかった。
入れてくれた紅茶を一口飲んだら、思わず零れたため息。
「どうしたの?」
「うん…」
「どうしたの?」
「うん…」
美貴はたぶんどこかの国の王子様かなんで、 敵に捕まって塔に閉じ込められていた。
どうしてもそこから逃げなきゃいけなくて、でも、ダメで。
もう死ぬんだろうと思ったとき、月の光の中から現れたお姫様。
どうしてもそこから逃げなきゃいけなくて、でも、ダメで。
もう死ぬんだろうと思ったとき、月の光の中から現れたお姫様。
その手を取ると、景色が変わった。
たぶん、逃げ出せたんだと思う。
たぶん、逃げ出せたんだと思う。
理由はわかんない。
けど、その人を助けなきゃいけなかった。
だから走った。塔の中をひたすら走って、敵を殺して、走った。
けど、その人を助けなきゃいけなかった。
だから走った。塔の中をひたすら走って、敵を殺して、走った。
扉を開けると、そこにはあのお姫様がいた。
助け出して、抱きしめた。
彼女は美貴の手を頬に寄せて、囁いて…。
助け出して、抱きしめた。
彼女は美貴の手を頬に寄せて、囁いて…。
愛しいって…思った…。
お湯につかりながら、ぼんやりと思い返していた。
梨華ちゃんは時々何か考え込むような顔をしながらも、真剣に聞いてくれた。
わからないのは何で美貴だったのか…。
王子様だったら、美貴じゃなくてもよかったはずだから。
わからないのは何で美貴だったのか…。
王子様だったら、美貴じゃなくてもよかったはずだから。
お風呂から上がって、借りたシャツとジャージに着替えて戻ると、火照った体をすーっと冷気が撫でていった。
部屋の電気が消されていて、ガラス戸が開いている。
ベランダにいるらしく、もたれ掛かって空を見上げている後姿。
「梨華ちゃん?」
近づいて声をかけると、ゆっくりと振り返って微笑んだ。
部屋の電気が消されていて、ガラス戸が開いている。
ベランダにいるらしく、もたれ掛かって空を見上げている後姿。
「梨華ちゃん?」
近づいて声をかけると、ゆっくりと振り返って微笑んだ。
『…ぇ…!』
背中越しに蒼い蒼い満月。闇に溶けるような褐色の肌。
そして、差し出された手。
ぐわんと目の前が揺れた。
誘われるようにベランダに出てその手を取ると、ぐっと引き寄せられて抱きしめられた。
息苦しいくらいキツク、強く…。
「りか…ちゃん?」
「こうしてくれた……あの時…。うれしかった…」
息苦しいくらいキツク、強く…。
「りか…ちゃん?」
「こうしてくれた……あの時…。うれしかった…」
頭の中を流れる映像。繋がっていく線。
梨華ちゃんは美貴の手を取ると、口付けるように頬に寄せた。
「そして、私はこう言うの。『ありがとう』って」
「だから、美貴は…」
梨華ちゃんの頬に手を添えて、そして、あの時のように、今梨華ちゃんがそうしているように、きつく抱きしめる。
「そして、私はこう言うの。『ありがとう』って」
「だから、美貴は…」
梨華ちゃんの頬に手を添えて、そして、あの時のように、今梨華ちゃんがそうしているように、きつく抱きしめる。
「そういえば、まだ…だったよね?」
「うん…」
そして唇は重なった。
『美貴でよかったの?』
って聞いたら、
『私でよかった?』
って逆に返された。
って聞いたら、
『私でよかった?』
って逆に返された。
顔を見合ってくすくすと笑いあう。
月だけがそんな二人を見ていた。
月だけがそんな二人を見ていた。
結局、これはトオイキオクなのか、それともただのユメなのか、二人ともわからない。
ただ、たぶん、共有していた世界。
続きがあるのかは、わからないけど…。
(2004.1.16)