刑事処分の不都合(C)

  • 医師が捜査機関とかかわる場合業務上過失との扱いになることがほとんどですが、業務上過失は、傷害を起こす危険が予見(予見義務)でき、そのような結果を回避すべき義務があるにもかかわらず、その実行において注意を欠く行為により重大な結果を招来すること(注意義務違反)によって成立します。しかし、当初より相当程度に危険が予見でき、回避可能な手段が極めて限られているにも関わらず、実行されることが多い医療行為に対して、過失罪を適用することが本来の過失罪の目的にかなうものかどうか

  • 医療行為は本来的に一定の危険を含んでおり、試行錯誤によるしかないため、結果を保証できないという性質があります。その中で個人の刑事責任を厳しく追及することはミス隠蔽に繋がり、真相究明や再発防止対策にはかえって有害ですから、刑事責任は制限されなければなりません。そこで、医師の治療行為については、「故意や、故意に近い重過失の事案に限って刑事訴追する」こととして、通常の過失なら免責、できれば法律上もそのことを明確に規定するべきであると考えます。もっとも、医師を完全に刑事免責してしまうというやり方は、一般国民の理解が得られないでしょう。有責性のハードルを上げることについて、法律家は一般に例外を設けることを嫌いますが、裁判官の行為の国家賠償責任(民事ですが)については、判例によってお手盛り的に責任を制限しているのですから、人のことを言えた義理ではないと思います。

  • 刑事裁判において事実が明らかにならない最大の原因は、被告が事実を語らないことにありますが、医療過誤事件で医師が黙秘権を行使するということはほとんどないのではないでしょうか。
    被告側にとって不利な点というのは、自分以外の第三者の支配下にある証拠を収集する強制手段を持たない(検察は持っています)という点ですが、医療過誤訴訟における主要な証拠は、医師側も検察側と同程度の証拠を持っていると思われます。そして専門知識の分野では、検察側より医師側のほうが質量ともにはるかに上です。医療過誤刑事訴訟における問題は、事実が明らかになるかならないかではなく、明らかにされた事実の評価が適切妥当なものかどうかだと思います。

  • 件の肺ガン検診訴訟は全文を読みましたが、私から見てもこの判決そのものはおおむね妥当だと思います。ただ、正直なところ、これで訴訟を起こされてはかなわないな・・・と思います。1cmの肺ガン、しかも血管影と重なるようなレベルのものを見落とし無しで100%見つけれる医師はいないと思います。従って、これを裁判で過失とするのはどうか・・・と思います。交通事故と同様、「医賠責」保険のようなもので対応すべき件でしょう。
最終更新:2008年09月20日 15:34