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第七話 タイトル未定

デュエル終了まで待ってくれという校長先生の言葉を守りつつ、俺は部屋をぐるっと見回してみる。

壁に備え付けられた立派な棚には、遊戯王のプロ大会の入賞者にのみ贈られるトロフィーが所狭しと並べられていた。
職員室の近くに飾らないあたり、謙虚というべきか…。
空先生の言葉になぞるなら、アース校長はあそこに飾った人とは一味違うのだろう。

その近くには、額に飾られた写真の数々。
教職員全員が写った写真(何故か伊吹先生だけ幽霊の様に右上に合成されている)や、
二年前の全国大会の記念写真(サーヴィとケロたん先生の姿も見えた)、
姉ちゃんが盗賊王のコスプレをしている一枚、
……女装した変な男の写真は見なかったことにしよう。

ふと、目に留まったのは賞状のような立派な一枚の羊皮紙。
プロA級ライセンスの証明書だった。
いわゆるトッププロにのみ贈られる、プロを目指す人間なら誰もが憧れる肩書き。

あまりプロリーグについて興味を持っていない俺でも、このアースという人の凄さは言葉を失うほどに理解できた。

けど。
俺は首を傾げる。何故そんな人が、学園の校長に甘んじているのか…。

考えた所で、答えは出ない。
姉ちゃんの手伝いでもしようか…と考えた所で。


「ハングドマンの効果でラクエルを破壊…私の勝ちね、だいちゃん」

テーブルではデュエルの終了が宣言されていた。

私の勝ち…と、少女が言ったということは。
…校長が、負けた?

卓上へ目を向ける。
確かに、リバースリボーンの効果によって逆位置の効果を得たハングドマンが、ラクエルを屠り攻撃力分のダメージを与えている様が見受けられた。

プロを倒すとは、この少女は一体何者なんだろう。

…しかし、本人の表情に勝利の笑みは浮かんでいなかった。
寧ろ、不満と言った感じ。
少女は言う。

「…どうして本気を出さないの?」

…本気?
どういう意味だろうか。
言葉を向けられた校長は肩を竦める。

「俺は本気でやったぞ?手を抜いた覚えは無いんだけどな」

「そう…」

ガタン、といきなり少女が立ち上がった。

腕を振るう。
何を思ったか、校長先生のエクストラデッキを掴み机の上にばらまいたのだった。

「これのどこが本気なの?」

少女の言わんとしていることがわからない。
俺は広がったカードの種類を確認する。

白枠のカードに対し、紫枠のカードの比率が普通のデッキより僅かに多いのは剣闘獣の特徴ではある。
…が、俺はあることに気付いた。

何かが足りない。
というより、重要なものが入っていない。
剣闘獣の強さを支えている、あのカードが。

(もしかしてこの子はそのことを言ってるのか…?)

「おいおい、カードは大切に扱わなきゃダメじゃないか」

自分のカードをぞんざいに扱われたことに対し怒りのかけらも見せず、器用にデッキを片付ける校長。

そんな彼に厳しい視線を向ける少女。

そして、二人のやり取りを黙って見ているしかない俺。

重い空気が校長室を包んでいた。

(姉ちゃん…早く来てくれ…)

「呼んだ?」

「おわっ!?」

背後から聞こえてきたのは空気を読まないことで有名な姉ちゃん。

「だーれが空気を読まないってー?」

ただし人の心は読めるらしい。
あ?と笑顔の裏には般若の顔が浮かんでいることだろう。

「ま、いいや。だいちゃんお茶入ったよー」

両手に支えられたお盆の上には湯呑みとソーサーが付随したティーカップ。
テーブルの両者も姉ちゃんの介入に空気を壊されたようで、休戦の様相を見せていた。

「おー、姐さんありがとう。…と、君が件の転入生かな?」

校長がこちらに気づき話を振ってくる。
俺は背筋を伸ばし挨拶をするす。

べぇずです。今日からお世話になります」

「そう畏まらなくてもいいぞ。俺はアース、ここの校長をしている。よろしくなべぇず」

差し出された右手に、握手を返す。
厚い手には熟練のデュエリストとしての風格が漂っていた。
強者のオーラ。
初めてサーヴィと相対した時に感じたものが、俺の中に走った。

傍らに聞こえたいざこざ。

「…おばさん、この紅茶少ししょっぱいのだけれど」

「あらごめんなさい、私ったら醤油とソースを間違えてしまったみたいで」

…どんな次元での間違いだよ、それ。

立ち話もなんだから、というアース校長の案に遵い、俺は姉ちゃんと言い争っている少女の隣に腰を下ろさせてもらった。
ちら、と一瞥。
朝に二回見掛けた少女に相違なかった。
明らかに年下風に見えることから、下級生なのかと俺は類推する。

「まぁまぁ、姐さんもレミィもそれくらいにしないか」

「「…ふん」」

校長の一声で矛を納める二人。
姉ちゃんをおばさん呼ばわりするなんて、度胸が据わっている。

「だいちゃん、この子なんなの?」

入れ直した紅茶を片手に、姉ちゃんが不満を隠さず言う。
…朝轢きそうになった少女だとは夢にも思うまい。

「その子はレミリアと言ってね…ちょいと訳があって俺が身元を引き取ることになったんだ」

さっきここに着いたんだよ、と校長。
…あれ?

「…朝会わなかったっけ?」

「……会ってないわ」

目を逸らすレミリア。
事故に遭いそうになったのに、忘れるはずはないと思うのだけれど。

「なんだレミィ、朝に着いてたのか?」

「え、ええ。ちょっと散歩してただけよ」

それはきっと散歩という名の迷子に違いない。

「それはいいとして…実は姐さんに頼み事があるんだ」

「なーに?だいちゃんのお願いならなんでも聞いちゃうよー?」

「レミィを姐さんの家に住まわせて欲しいんだ」

「断る」

僅か0.5秒。

「…なんでも聞くって言ったじゃないか」

「聞けることと聞けないこと聞けないことがあるくらいわかるでしょ」

「姐さんにしか頼めないんだ」

「はるちんに引き取ってもらえばいいじゃない」

「通学させるのが大変だろう」

「タタリさんかぶんめいは?」

「年頃の女の子を男に預けさせるってのかい?…というより、今朝またいぶっちの車に突っ込んだって聞いたけど」

「アーアーキコエナーイ……けーちゃんはどうなるんですか」

「いい経験になると思うけど。転入生、しかも同じクラス同士仲良くなれると思うし」

「私のクラスに転入してくるの!?」

これには俺も驚いた。
話によると、学業が非常に優秀なようで、特例で飛び級として編入するそうだ。
俺としては拒む理由も特に無かったのだが。

「けーちゃんとのハーレムが…けーちゃんとのハーレムが……」

姉ちゃんがまた妄想の世界へ突入していた。
こうなってしまうと手が付けられない。
らちがあかないな…と思っていると、レミリアが席を立った。
姉ちゃんの前に立ち、一言。

「ふつつか者ですがよろしくお願いします、お姉様」

………俺は忘れていた。
姉ちゃんが、極度の年下フェチであるということを。


返事は、鼻からほとばしる血液が物語っていた。










放課後の静かな校舎に、俺達三人の足音が響き渡る。

影は二つ。何故ならば、

「お姉様…そろそろ離してくれないかしら…」

「お姉様じゃなくておねぇちゃんって呼んでよレミィ~」

姉ちゃんがレミィ(と呼ぶように彼女は言った)にべったりと抱き着いていたからだった。
…何故だろう、女の子同士なのに…女の子同士なのに嫉妬心が沸き上がってくる。

姉ちゃんが取られる、とか。

ズキ、と心に突き刺さる。

(………ないよな、そんなこと)

ネガティブな思考に染まりそうになったので、頭を振る。


しばらく歩いていると、前からこちらに近づいてくる人影を見付けた。

あれは、確か…。
姉ちゃんも気配に気付いたようで、その人影の名前を呼ぶ。

「お、空くんおつかれー」

「ああ先生お疲れ様…………!!」

なにやら驚いたようにこちらを見ている。
視線の先には…レミィ?
気付いた時には空先生が俺達の目の前に着いていた。
…早過ぎないか、いくらなんでも…。

「…ど、どうしたの空くん」

「せ、先生…娘さんを俺にください!」

「…はぁ?」

「俺、絶対しあわせにしてみせます!だからっ!」

「もしもーし?空くーん?この子私の娘じゃないよー?」


「……………う?違うんですか?てっきりべぇずとの間の子かとたわばっ!?」

姉ちゃんの綺麗な足が跳ねた。
…なんというか、ド突かれ慣れてるような気がしたのは俺だけだろうか。

廊下にのびている空先生に心の中で詫びを入れつつ、俺達は校舎を後にした。
バイクが壊れたので明日から電車通勤になると聞いて、少しほっとした。

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最終更新:2010年01月10日 03:09
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