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第八話 タイトル未定

「…」

とあるマンションの一室のリビング。
姉ちゃんが不動産屋さんとごく平和的な交渉で勝ち取ったというここは、レミィという新たな入居者を迎えても有り余るほどの広さを誇っていた。
部屋の片隅に置かれた、夕方に展開され綺麗に畳まれた段ボールは、明日の朝には資源ゴミとして出されることだろう。

「…」

ペンを右手の上で一回転。
「自室での勉強を禁ずる」という家長の命により、俺はリビングの中央に置かれたテーブルの上でペパ先生に課された数学の宿題とにらめっこを続けていた。
流石に文武遊三道を売り物にしてるだけあってレベルは高い。
夕飯のカレーの残り香に惑わされつつも、俺は何度も集中を試みた。

「…、……」

しつこいようだがここはリビングである。
全ての部屋はリビングに続くだかどうだか。逆に言えば、他の部屋で起こることはたいていリビングへと聞こえるものだ。

そういえば、二人の同居人が何処に居るかを言ってなかった。
姉様と(義)妹様は食後の沐浴をお楽しみ中だ。俺の居るリビングまで、その仲睦まじき様子がステレオで聞こえてくる。

「…」

自分で言うのもなんだけど、俺は健全な思春期真っ盛りの男の子だ。
「お姉様の…おっきい…」だの「あ、あんましじろじろ見ないでよ…」だの聞かされたら、思うことは一つしかない。


「覗きてぇ……」


俺の思考は完全に数学からそっちの方へシフトしていた。
一ターン目に不死武士を墓地に落とせる確率なんてどうでもいい。この状況下に於いて除こうとしない男子はゲイか賢者、いや賢神ぐらいのものだろう
激しく、二人の桃源郷へとスネーク、若しくはルパンダイブしたかった。

「…」

ふと、賢神の頭になって考える。
よしんば覗けた所でどうなるだろうか。

「…まぁ、死ぬよな…」

姉ちゃんを見ようとしたなら未だしも、レミィを見ようとしたということに姉ちゃんはプッツンするに違いない。
生物的にも、社会的にも俺は数瞬の内に抹殺されるだろう。
流石の俺も命は惜しいし、二人に嫌われるなんて絶対にしたくない。

されど。

「っ…お姉様…そんなに…強くっ…」

「んもぅ、おねぇちゃんって呼んでって言ってるのにぃ…」

…まずい、このままリビングで耐え忍ぶには限界がある。
そう思った俺は、自室から財布を掴み玄関へと走った。
二人がお風呂から上がるであろう時まで、外で時間を潰そうという算段だ。
ちょうど甘いものが食べたい所だったし、コンビニなどが行き先として妥当なところだろう。

玄関で靴を履き変えていると、物音に気付いたらしい姉ちゃんの声が届いた。

「けーちゃんどっか行くのー?」

「うん、ちょっとコンビニまでー」

「あ、じゃあついでに三ツ矢サイダー買ってきてー」

「はいよー。レミィはなんか要るかー?」

「…コーヒーゼリー買ってきてくれるかしら?」

チョイスが渋いな、おい。
そんなツッコミを心に仕舞いつつ、俺は鍵をしっかりとかけ住まいを後にした。
さらば、俺の非想天。





目的のコンビニは、マンションを出て商店街の方へ歩き、ものの二三分といった所にあった。
緑を貴重とした外装と入店時のBGMが特徴的なチェーン店。

自動ドアの敷居を跨ぐと、聞こえてきたのは「テーテーン」という電子音。
ファ○マミーマ○ァミマミ○ーじゃないのか…。

「えあろすみ~す」

間の抜けた店員の声が聞こえてきた。
見ると、レジカウンターの向こうに同い年っぽい男がDSを片手に立っていた。
…それって勤務態度としてどうなんだ…?

肩透かしを喰らった気分にもなりながら、俺はカゴを片手に飲み物コーナーへと移動する。

まずは重たい扉を開き、三ツ矢サイダーを確保。
デザートコーナーの前へ移り、軽く品定め。
コーヒーゼリーを確保し、好物であるプリンの吟味を始める俺。
まぁ、自分の分だし何個買うかは自由だろう。
明日の朝の分を含めた二つのプリンをカゴに入れ、俺はレジへと向かった。
途中遊戯王のパックが目に映ったが、今更買うこともないだろう。

俺が目と鼻の先に立とうとも、相変わらずその店員はDSから注目を離そうとしない。
こちらから牽制してみる。

「あの、会計お願いします」

その彼は画面から顔を動かさず、解答。

「あー今努力値ふってるんでちょっと待っててもらえますか?」

努力値って…もしかして廃人プレーヤーなのか…?
レジを堂々と放棄するその男に呆れの視線を送る。

…ん?
この顔どっかで見たような…?
そう、朝の挨拶で「おめでとう」って返していた…。

「…もしかして、紅蓮?」

「そういう君はジョナサン・ジョースター」

返しが人間を辞めた英国紳士っぽい。
お待たせしました、と業務スマイルを見せレジ打ちを開始するイケメンは、間違いなくクラスメイトの紅蓮だった。

「ああ、お前は…確か転入生のべぇぇずだっけ?」

「ぇが一個多いから」

「悪い、噛んじまった」

どう噛んだらそうなるのか。
慣れた手つきでバーコードにリーダーをあてていく紅蓮。

「こんな時間に姉御のパシリとは大変だに」

「パシリってわけじゃ…紅蓮はバイト?…あ、勝手に呼び捨てにしてごめん…」

「構わんぜよ。ちょっと欲しいものがあるから資金捻出の為にな」

ふと、頭をよぎるのは大和学園の校則の一文。
確か生徒のアルバイトは原則禁止されているはずだけど…?
その旨を伝えると、

「姉御が校長に話を通してくれたらしくてさー。まぁ近くに住んでるし特別に許可してもらったわけなのだよ」

と返してくれた。
まぁあのフランクさなら有り得る話だ。

そのあと紅蓮と俺は様々な会話を交わした。
丁度彼もポケモンをするほど暇だったようで、いくらか学校に関する話をしてもらうことが出来た。
…話の中に出て来た紅蓮ダークなるデッキもまた、俺の興味をくすぐらせた。

レジ袋に商品をシュゥゥゥーッしていた紅蓮が、コーヒーゼリーを手に取り俺に問う。

「これべぇずが食べるのか?」

「なにゆえそんなことを聞くのさ?」

「いや、姉御はコーヒーの類を買ってくことが滅多に無いからさ」

そうなのか、と姉ちゃんの嗜好を知った俺は、素直にそれはまた別の同居人の所望品であることを告げる。
いずれ明日わかることだし、包み隠さずその同居人の説明をしてみるのもいいかもしれない。

「レミリアっていう俺達よりも年下の女の子でさ、飛び級で編入してくるんだって」

「……女の子…だと…」

「うん」

「べぇず…なんて羨ましい…」

「…へ?」

「なんでもねぇ。せいぜい背中に気をつけるこったな」

何か不穏なことを言われた気がする。

来客を告げる電子音。新しいお客様が来たようだ。
邪魔になるといけないので、話もそこそこに俺はコンビニを去ることにした。

また明日学校でな、という紅蓮の言葉に会釈で返し、外へ。

夜風に当たりながら、明日という言葉が少なくとも昔とは違う、好感のニュアンスに変わっていたことに一人気付く。

これからもっともっと、「何」から「何」まで変わっていくに違いない。

されど、前向きに。

そう思いつつ、俺は買い物袋を揺らし、駆け足で俺達の家へと戻っていった。

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最終更新:2010年01月10日 03:12
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