校門へ入ってほんの少し歩いたところにそれはある。
部員はおれ一人と言う廃部寸前のクラブ、園芸部の小さなトマト畑だ。
蛇口を捻り、ホースに透明色が流れていくのをのを眺める。
少しずつ、しかし確実に速さを増す水流は、やがてその勢いを衰えさせることがないまま、出口から放たれた。
早朝、校内にはまばらにしか人影は確認できない。
無差別にH2Oをばらまいているホースを左右に振りつつ、今日一日を学舎で過ごす生徒や教師達と挨拶を交わしていく。
新鮮な空気が体に満ちていくのを感じる。
- と、目の前の駐車スペースに車が止められた。買ったばかりなのだろう、磨きあげられたRX-78。
中から出てきたのは赤色のジャージに身を包んだ男性で。
「う」
「う。今日も水やりがんばってるなぁ」
人なつっこい笑みを浮かべながら歩いてくるのは伊吹副校長。
重い肩書きにも関わらず20代後半と若く、皆からいぶっちと言う愛称で親しまれている気苦労の耐えなさそうな人だ。
「おれのかわいいトマトたちですから、水はしっかり与えないと」
「逆に与えすぎてふやふやにならないように気を付けろよ」
ハハッと冗談めかして笑ういぶっち。
まるで生徒と話しているかのような錯覚に陥ってしまう。
実際、敬語を使わずに会話する生徒も多いらしい。
「先生の顔のしわみたいにふやふやにする気はさらさらありませんー」
「おまっ、何気に侮辱しやがって。折角感心してたのに」
「感心するくらいなら単位くださいよ。このままいくと中間は悲惨なことになりそうなんですって」
「あややだけじゃなくてオシリス組は全員がヤバそうだからなぁ…。
くーら先生にはもう少しまともに授業をしてほしいね」
じゃ、と手を振って職員室へと歩いていくいぶっち。だが、何かを思い出したのか数歩ほど進んだところで足を止め、そういえば、と口を開いた。
「今日、オシリス組に転校生がくるらしいぞ」
最終更新:2009年12月20日 17:57