黄昏の大地に雷鳴が轟き、蒼光が交差する

まるでそれは希望の輝きか、それとも終焉の焔か

飛び交う火花に、雷光と蒼光



片方や消えぬ蒼炎を宿す少女―――橘ありす

もう片方や虚妄の軍勢を率いし軍団長―――カピタン・グラツィアーノとその軍勢

この世界はカピタン・グラツィアーノの心象風景、神々より栄誉を賜りし軍団長の理想の軍勢、無限の軍勢
はてさて勝利の女神はどちらに輝くか―――皆様どうぞご覧あれ


※ ※ ※


「やあぁぁぁっ!」

右より迫る騎馬兵数騎の突進を躱す、左から襲いかかる魔導砲兵の砲弾を心意で練り上げた青い炎の盾で防ぐ

上空から降り注ぐ戦乙女の槍の雨は躱しながらも受け流し、近付こうとする重装兵を切り裂いていく


「中々にやるではないか、どうやら二人の方に向かわせた我が盟友もこれでは心配になってくる。やはり貴様はこのカピタン・グラツィアーノの1325人目の宿敵となるに相応しい」

「何が1325人目の宿敵ですか、本当にそんな人数の名有りと戦ったのやら」

「然り、そのうち273人には一度苦汁を嘗められたるも、再戦にて乗り越えたのだ。貴様もその程の強敵であることを期待しているぞ」
「それとだ、いい加減名乗ったらどうだ? 名乗りは戦の礼儀であるぞ」

ありすは思う。何となくだが、紅閻魔さんが彼に対し怒りを覚える理由が
優しい嘘ならともかく、この自動人形は自らを彩り、ただ傲慢に振る舞うためだけの虚妄だ。その傲慢さ、残虐さに怒らない人がいるならこっちが教えて欲しい所

少しばかり苛つきながらも、名乗りの口上を上げる

「私は橘ありす――消えぬ炎の意思を継いだ身として、貴方のような悪魔に負ける気はありません」

少女―――橘ありすの名乗りを聞いて満足した虚妄の騎士もまた名乗る

「では改めてだ橘ありす―――我が名は創造主様最強の剣にして、黄昏を切り裂きし騎士。カピタン・グラツィアーノなり! 橘ありす、貴様も我が伝統を彩る礎の一つとなるが良い!」

「貴方の伝統の一部に組み込まれるほど、今の私はヤワじゃありません!」

その言葉と同時、刹那―――二人の剣は激突した


「浄化(ブリフィカジオーネ)!」

カピタンが上空に剣を掲げ叫ぶ、カピタンの呼びかけに応え雲が集い、雷が意思を持った蛇のごとく少女に向けて迸る

「――!」

ありすは豪雨の如く降り注ぐ雷鳴を間一髪で避けながらもカピタンに狙いを定め向かう。
雷鳴が降り注ぐ中、曲芸騎士団の騎馬兵数騎が自らに向けて襲いかかる。カピタンの雷は騎馬兵のみを避け、今でも執拗に彼女を狙う

「てやぁっ!」

襲いかかる騎馬兵の槍を受け流し、もう一騎の騎馬兵を誘導させ同士討ち、襲いかかってきたさらなるもう一騎はうまく股下へ潜り込んで自分を付け狙う豪雷を騎馬兵を盾にすることで凌ぐ

「《システム・コール》《ジェネレート・サーマル・エレメント》《エンラージ》!」

雷だけではない、上空からその鉤爪を振り下ろそうとする黒竜や、自分を弓矢で付け狙う竜騎士を炎矢諸共膨張させた青い炎で吹き飛ばす
解放の衝撃を利用し一気に加速、そのまま騎士の居場所へと接近する

「やはり我が眼に狂いは無し。貴様はやはり強敵だ―――洗礼(バッティージモ)!」

カピタンは冷静に加速による突進を予測し自らの周りに雷撃の壁を展開

「そう来ると思いましたよ。《システム・コール》《メタリック・エレメント・フォーム・エレメント・ホロウスフィア》《バースト》!」

カピタンの行動を読んでいたのか、雷撃の壁の周りに複数の鋼の球体を空中に設置。それを足場として利用し雷撃の壁への突入を免れる

「何ぃ!?」
「《システム・コール》《エンハンス・アーマメント》!!」

雷撃の壁が消滅したタイミングで《武装完全支配術》を選択。そのままカピタンの顔を真っ二つに撃ち貫こうとする

「ぬぅ!」

だが、カピタンは咄嗟に身を翻すことで間一髪避ける。だが、カピタンの顔には避けきれなかった一閃の傷跡が残る

「おのれ……我が顔に傷を!」
「どうしたんですか、貴方の伝統はその程度ですか」

挑発することも忘れない。この手のプライドの高さは逆にこのような挑発に乗りやすい
だが、油断はできない。相手はまだ時穿ちの剣の技を使ってきていないのだ。アリスからある程度聞いて対策パターンはある程度頭の中で練ってはいるものの、本番で実行できるとはそうそう思っていない
出来ればこのまま相手のペースに持ち込ませずに行きたいが……


だが現実は、そうそう簡単に橘ありすの望む方向へと進んではくれない



「……少し実力を見誤ったか……まさか此処までとはな、だが、我がこのようなことで倒せると思わぬことだな」
「もちろん、その程度で勝てるなんて思っていません、次は一体どんなイカサマをしてくるのですか?」
「我が伝統を相も変わらずイカサマ呼ばわりとは―――だったらお前に面白いものを見せてやる」

少しは苛立っているだろうが、それでも態度もペースも変わらずに喋る虚妄の騎士。そんな騎士が次に行った行動は―――剣をまるで正面に向けて、ビームでも放とうとするような構えだ


「(光線のようなもの……?)」

ありすは思考を張り巡らせながらも次の一手に備える。今の構えは囮で、本命はまだ周りを囲んでいる兵士という可能性もある

「我が伝統は―――この殺し合いの儀式を以ってさらなる進化を遂げた」
「……?」

また自分語り……呆れ果てながらも警戒をやめない

「またその儀式の中で死合った者たちもまた強敵であり、相手の技を模倣しなければ乗り切れぬ危機も何度か経験した」
「故に―――これはそのうちの、いや、今は我に継承されし奥義の、その一つである!」

何をするかは分からないけど―――



「人よ願え! お前たちに不可能は無い!」


―――え?

カピタンの発言にありすの思考は凍りつく。その口上は、そのセリフは


「何故ならば、神々の代行者たる―――このカピタン・グラツィアーノがここにいるのだから!」



凍りついた思考に、煮えたぎったマグマのような衝動が湧き出す

どうしようもない黒い感情がこみ上げる





―――貴方が




―――お前が




―――お前が、あの人の




「私に大切な事を教えてくれた、あの人の言葉を、お前なんかが使うなァァァァァッッ!」





橘ありすは怒りに呑まれた。カピタン・グラツィアーノが放った言葉は
『今の』橘ありすの意思の元となった消えの炎の快男児、ナポレオンの言葉を盛大にパクったものだ
怒りのままにカピタンに向かって突進する
この時の橘ありすの思考力は、ほんの僅か、落ちていた―――その『ほんの少し』が仇となった


「このときを待っていた!」と言わんばかりの邪悪な笑みを浮かべるカピタン

「―――あと、これは『忘れ物』だ」

カピタンの侮蔑に塗れた発言の後、カピタンの隣に舞い降りた『赤い鎧の』竜騎士が、『何か』をありすに向けて投げつける
何を投げつけたのかは知らないが、それごと貫けば―――

「あ……り……す……」

「―――えっ、なん、で」

放り出されたのは、一人の少女。それも無残に血に塗れ、ボロボロの少女
―――アリス・ツーベルクだった

このままでアリスが―――受け止めるために急停止し、受け止めようとする、そしてそれは
何もかもカピタンの狙い通りであり


凱旋を高らかに告げる虹弓(アルク・ドゥ・トリオンフ・ドゥ・レトワール)!」



―――偽りの虹が、二人のアリス(ありす)を呑み込み、彼方へと吹き飛ばした


※ ※ ※


「……ゴボッ、ガ、ガフッ……! はぁ……はぁ……」

全身が痛む、掌には赤くべっとりとしたものがこびり付いている、血だ
なんとか体は動く

「アリス……アリス、は……」

自分とともに吹き飛ばされた友人の姿を探す、だがそれは、すぐに見つかることとになった




「あの程度で我を忘れるとはな―――橘ありす」

「……カピ、タンッ!」

ふと顔をあげると―――カピタン・グラツィアーノの下卑た笑顔が自分を見下ろしている


「ああ、後、お前が心配しているであろう二人だがな―――’もう既に済んだ’」

「……ぇ?」

今、カピタンはなんて言った? ’もう既に済んだ’? いや、そんな―――



「―――その間抜けた顔に拝ませてやろう」

カピタンが顔を向け、部下に指示を下す。少し経った後に幻獣が口に加えた『何か』をこちらの近くに放り投げる

「……あり、す……良かった、無事で……」

「ごめん、でち……ちょっと、油断、ちてちまった、で、ち……」

ありすの目の前に映し出されたのは

―――猛獣の牙とライフルの弾に撃ち貫かれ、その小さな躯体が血で染まった紅の雀

―――あの偽り虹の放流以外にも、激戦での傷が深く残る金髪の女騎士


「アリス…さん、紅閻魔……さん……!」


今この時、橘ありすは、カピタン・グラツィアーノから『絶望』という致命的なロイヤルストレートフラッシュを突きつけられていた

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最終更新:2019年01月19日 22:37