アナウンス音声が到着を告げる、エレベーターの扉が開く

過去に見捨てられ、未来に裏切られ、現在に全てを奪われた。その地獄がようやく終わる

俺のやることは唯一つ、装置の前まで歩き、ボタンを押す。それだけで全てが終わる、この醜く汚い世界は終りを迎える
思い出すのはあの家族のことだ。そう言えばあの時と似た展開だ。だが決定的な違いがあるとすれば、あの家族はもういない、そしてあのような奇跡が起こることは二度と無い、ただそれだけだ

一歩、一歩と歩く。一歩ごとに過去を思い出す。途中からはろくな思い出しか浮かばなかった。ある意味感慨深いとも言うべきか


「……本当にここまで来るとはな、あのガキと同じく」
「………!………!」

足に重みを感じ下を向いた。ボロボロの少女が俺の足を必死で掴んでいた。せっかく仕入れたズボンに血痕が就いていた。だがどうせ全て終わるのだから気にする必要もなかった

「……ッ……ッ……ッ……」

いとも容易く少女を振り払い、歩く。少女は追いかけるもその足元は覚束ない、まともに歩くことすら出来ない。すぐに倒れた。全ては手遅れだ、お前たちの頑張りは無駄に終わった。奇跡はもう起こらない

「………!?」

――起こるはずなんて、なかったはずだ、なのに、何故


《ERROR 起動不可 モーメント停止》


「何故、だ……何故だぁ!!!!」

またしても『奇跡』に阻まれた事実を前に、怒りのままにスイッチを叩き壊し、俺の怒りの慟哭が室内に響き渡る

「何故こうまでして俺たちは……!!! 何故だ、何故だ何故だ何故だぁ!!」
「……」
「平成は俺達から未来を奪った、やっと生まれた大切な命すら容赦なく奪い去った! そんな未来に何の価値がある、何の意味がある、あの時あの家族が止めなければ、あいつらが俺たちを裏切っていなければ!!!」

叫ぶ、吠える、叫ぶ。この憎悪と悲嘆を容赦なく、そしてどうしようもなく泣きそうになる。何故だ、何故だ何故だ何故だ、何故未来も過去も現在も俺たちから……

「わたし、には……」
「……!」

ボロボロの少女が息を絶え絶えながらも言葉を発している

「生まれて、から……3年前、までの、記憶がなくて……あなたの、言っている、過去が、素晴らしいとか、何が、あった、とか、わたしには、わからない、けど……」

「たとえ、何度。忘れても……たとえ、何度、壊れても……それでも、私は、わたしの、未来を……何度でも……1から、積み上げて」

「忘れ、ちゃった、過去の分も、悲劇しか……なかった過去の分、も……幸せだった過去の分も、今の、私が、目を逸らさずに、生きていく、べきなんだって……」

「泣いたり、笑ったり、喜んだり……そんなありふれた……未来を、生きて、生きたい。どんなことがあっても、ネロや、エリーや、コーデリアや、小衣ちゃんやアンリエット会長……そして、先生と、もっと一緒に、生きて……いたい、から」

「あと……ちゃんとした、オトナに、なって………先、生、――――と」

最後の言葉に至ってはよく聞こえなかった。だがこの言葉のせいで思い出してしまったことがある


『オラ、とうちゃんとかぁちゃんと
 ひまわりとシロと、
 もっと一緒にいたいから……』

『怒っても、頭にくることがあっても、
 みんなと一緒がいいから……』

『あと……』

『オラ、オトナになりたいから!!』

『オトナになって、
 おねいさんみたいなキレイなおねいさんと
 いっぱいおつきあいしたいからっ!!!』

――本当にくだらない、嫌な思い出だ。あのガキのせいで俺は踏みとどまってしまった、そしてここまで生きてしまった。こいつも結局、『未来を生きたい』だけ、か


「―――シャロ!!」
「……シャロさん!」
「シャロ、無事!?」


轟音と共にドアが突き破られ、同じくボロボロの少女3人が、3人以上にボロボロなピンクの少女の元に駆け寄る

「……え、へへ。やった、よ、みんな……」

ピンクの少女は笑顔をただ三人の少女に向ける、満身創痍であるが、それでも元気であるという証拠であった


「……抵抗するのなら、容赦はしません」
水色の少女が俺に警戒するが、もうその必要などない、俺は――



「……抵抗はしないさ。――ガキども、お前たちの未来、返すぞ」

――世界を滅ぼす気なんぞ、ついさっき無くしたからだ





【計画破綻(20世紀の終わり)】

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最終更新:2019年09月23日 22:42