何がおこっているのかわからなかった
あのカリみたいなこわい怪獣が神さまに退治されて
その神さまはあの人たちが言っていた悪い神さまで、私たちに襲いかかってきて
歌のお姉ちゃんが変身して、そのお姉ちゃんが地面に叩きつけられて、代わりにお兄ちゃんが戦って
紫のお姉ちゃんが黒い神さまの仲間と戦っていて
わからないけど、わかったのは、このままだとお姉ちゃん達が死んでしまうかもしれない、ということぐらいで
でも、わたしは何をすれば良いのか分からなくて
ただ――お姉ちゃんたちが死ぬのは絶対に嫌で
……思い出した。置き去りにされたあのお兄ちゃんのバッグの中身を探す。……あった。知っているものが
確か、あの時おとなが練習していたもので、握るだけで矢が飛んでいくやつ
あの時は『あの』お姉ちゃんに止められたけど、このままお姉ちゃん達が死んでしまうぐらいなら
◯ ◯ ◯
「―――」
神はただ振るだけ、その力を。力を振るうだけで、目の前の戦士は容易く吹き飛ばせる。吹き飛ばした戦士はその傷をすぐに再生し、また襲いかかる
時間の無駄にしかならぬ無駄な行為。黒き最後の神の虚無の眼にはそのようにしか映らない
「……ぁ……」
哀れにも神に「些末」断じられ、容易く振り払われた激槍の少女が息を漏らす。そこには絶対的な絶望があった
人が神に敵う道理なし、例え少女に神殺しのチカラがあろうと、あの『神』には通用しない。意味など無い。
神の双眸には、自らが使役する神将以外、ただの『悪』としか映らない
「―――」
拾五――拾六度目だったか、神は激槍の少女に瞳を向ける。動けない。まるで全身が石のように硬かった。
神の掌に力が集う。少女からすれば、それは既に黄金錬成など比にもならない熱量。絶望の光。だが――
「―――?」
神の腕に、矢が刺さった。激槍の少女が驚いた表情のまま矢が飛んできた方向を見た
「……!」
そこには、激槍の少女が守ろうとした一人の少女が、弓を構えていた。おそらくさっきの矢は彼女によるものだったのだろう
「アーシャ……ちゃん?……!?」
戸惑う激槍の少女を尻目に、神の視線は弓の少女に向けられる。弓の少女はただ唖然としていたままで
「――」
光は、少女に向けられ放たれた
「――アーシャちゃ―――!」
激槍の少女が叫ぶもそれは届かぬ願いなりて――
「……」
少女は自らに起こった事の認識すらできず、光の中に飲み込まれた
◯ ◯ ◯
目を覚ますと、そこには家族がいた
母がいた、兄がいた、姉がいた、妹がいた、愛犬がいた、そして――
「やーっと来たか。せっかくの誕生4千日記念だってのに主役が遅れちゃどうすんだ、この間抜けが」
――父がいた
少女は涙ながらに父に抱かれ、歓迎される
祈りは祈りであるだけで届くのだ。正しき輪廻の先、ではなく
永遠の夢に沈んだ少女の、その夢の中で
もう何も思い出せなくなってしまった少女の祈りが、終わりの果てに結実するのを
【アーシャ@Fate/Grand Order 消滅】
最終更新:2019年10月06日 23:30